溺愛ハッピーエンドが欲しくて頑張ったのに、なぜか彼氏はヤンデレ化した

ChaCha

文字の大きさ
59 / 69

夏の香りとピクニック

しおりを挟む
夏の気配が、はっきりと輪郭を持ち始めた朝だった。

木々の葉は瑞々しく、風はまだ柔らかい。

芝生の向こうに広がる空は、どこまでも高い。



カレンは両手でバスケットを抱え、少しだけ胸を張った。



中身は、ふたり分。

手作りのサンドイッチに、小さなお菓子。

飲み物と、カトラリー。

シートも、きちんと二人用。



(……完璧)



そう思った瞬間、胸の奥がふわっと浮く。

今日は、ちゃんと“デート”だ。



「準備、随分気合いが入ってるな」



隣でベルンハルトが、穏やかに笑った。

ローブのない私服姿。

陽の下では、その存在感がいつもより近い。



「だって……初めてだし」



言いながら、視線を逸らす。

自分でも分かるくらい、声が弾んでいた。



芝生にシートを広げ、並んで腰を下ろす。

距離は、自然と近くなる。



風が吹く。

草の匂いと、彼の気配が混ざる。



「……気持ちいいな」



ベルンハルトがそう呟いた。

その声は低く、静かで、どこか油断している。



(今だ)



カレンは、ほんの少しだけ勇気を出した。



「ね、ベルンハルト」



「ん?」



「……膝、貸してあげる」



一瞬、間があった。

それから、彼は小さく息を吸って、何も言わずに応じる。



ゆっくりと、彼の頭がカレンの膝に預けられる。

思ったより重くて、思ったより近い。



(……近い)



指先に伝わる体温。

呼吸のリズム。

髪が、風に揺れる。



カレンは、無意識に背筋を伸ばした。

緊張と、嬉しさが入り混じる。



「……落ち着くな」



低い声が、すぐ近くで響く。

それだけで、胸がぎゅっとなる。



カレンは、そっと身を屈めた。

彼の耳元へ、声を落とす。



「……大好きだよ」



それは、囁きに近い音だった。

けれど、確かに届く距離。



そして…

そっと顳かみに口付けを落とした。



ベルンハルトの呼吸が、わずかに乱れる。



「……ずるいな」



そう言って、彼は笑った。

でも、その笑みは隠しきれていない。



カレンは、耐えきれず、両手で顔を覆った。



「~~~~っ」



「はは……」



木陰に揺れる影が、重なって、ほどけていく。



夏の風が、二人の間を通り抜けた。



(……この時間が、続けばいいな)



そう思った瞬間、

胸の奥が、じんわりと温かくなった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

処理中です...