60 / 69
夕暮れの帰り道
しおりを挟む
ピクニックの帰り道は、行きよりも静かだった。
夕暮れの空気はやわらかく、風が草の匂いを連れてくる。
カレンは歩きながら、何度も思い返しては照れていた。
(……膝枕……)
思い出すたび、顔が熱くなる。
思わず両手で頬を覆い、すぐに我に返ってベルンハルトをちらりと見る。
彼は前を向いたまま、歩幅を自然に合わせてくれている。
(……見られてないよね)
そう思った瞬間、また思い出す。
耳元に近づいたときの自分の声。
言葉にした「大好き」。
顳かみに触れた、あの一瞬の温度。
「~~~っ……」
小さく声が漏れ、慌てて口を押さえる。
今度は肩まで熱くなってきた。
◇
そんな様子を、ベルンハルトは見ていた。
横目で、しかし露骨にならないように。
(……忙しいな)
くす、と笑いそうになるのを堪える。
彼女は感情が表に出やすい。
隠しているつもりでも、仕草も、歩調も、すべてが語ってしまう。
歩く距離が、いつの間にか近くなっていた。
肩と肩が、ほんの少し触れるか触れないか。
避ける理由はない。
だから、そのままにする。
◇
カレンはまた思い出して、今度は首元まで赤くなる。
視線を泳がせてから、意を決したようにベルンハルトを見上げた。
「……さっきの、変じゃなかった?」
不安と期待が混じった声。
ベルンハルトは足を止めないまま、穏やかに答える。
「変じゃない」
即答だった。
「……可愛かった」
たったそれだけ。
けれど、カレンの思考は一瞬で停止する。
「――――っ!!」
完全に言葉を失い、また顔を覆う。
歩きながら、もはや忙しすぎる。
◇
ベルンハルトはそんな彼女を見て、優しく目を細めた。
支配でも、誇示でもない。
ただ、彼女が隣にいることが、当たり前になっていく感覚。
(……近いな)
そう思うのに、離れたいとは思わない。
むしろ、この距離が自然だと感じている自分に気づいて、胸の奥が静かに満たされる。
「……帰ったら、ゆっくり休め」
「う、うん……ベルンも……」
愛称で呼ばれるたび、胸が軽く鳴る。
それを顔に出さないようにしながら、歩調をほんの少しだけ落とした。
夕暮れの道に、ふたりの影が並んで伸びる。
触れなくても、近い。
言葉がなくても、伝わる。
余韻は、まだ消えそうになかった。
夕暮れの空気はやわらかく、風が草の匂いを連れてくる。
カレンは歩きながら、何度も思い返しては照れていた。
(……膝枕……)
思い出すたび、顔が熱くなる。
思わず両手で頬を覆い、すぐに我に返ってベルンハルトをちらりと見る。
彼は前を向いたまま、歩幅を自然に合わせてくれている。
(……見られてないよね)
そう思った瞬間、また思い出す。
耳元に近づいたときの自分の声。
言葉にした「大好き」。
顳かみに触れた、あの一瞬の温度。
「~~~っ……」
小さく声が漏れ、慌てて口を押さえる。
今度は肩まで熱くなってきた。
◇
そんな様子を、ベルンハルトは見ていた。
横目で、しかし露骨にならないように。
(……忙しいな)
くす、と笑いそうになるのを堪える。
彼女は感情が表に出やすい。
隠しているつもりでも、仕草も、歩調も、すべてが語ってしまう。
歩く距離が、いつの間にか近くなっていた。
肩と肩が、ほんの少し触れるか触れないか。
避ける理由はない。
だから、そのままにする。
◇
カレンはまた思い出して、今度は首元まで赤くなる。
視線を泳がせてから、意を決したようにベルンハルトを見上げた。
「……さっきの、変じゃなかった?」
不安と期待が混じった声。
ベルンハルトは足を止めないまま、穏やかに答える。
「変じゃない」
即答だった。
「……可愛かった」
たったそれだけ。
けれど、カレンの思考は一瞬で停止する。
「――――っ!!」
完全に言葉を失い、また顔を覆う。
歩きながら、もはや忙しすぎる。
◇
ベルンハルトはそんな彼女を見て、優しく目を細めた。
支配でも、誇示でもない。
ただ、彼女が隣にいることが、当たり前になっていく感覚。
(……近いな)
そう思うのに、離れたいとは思わない。
むしろ、この距離が自然だと感じている自分に気づいて、胸の奥が静かに満たされる。
「……帰ったら、ゆっくり休め」
「う、うん……ベルンも……」
愛称で呼ばれるたび、胸が軽く鳴る。
それを顔に出さないようにしながら、歩調をほんの少しだけ落とした。
夕暮れの道に、ふたりの影が並んで伸びる。
触れなくても、近い。
言葉がなくても、伝わる。
余韻は、まだ消えそうになかった。
0
あなたにおすすめの小説
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。
さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった!
しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って?
いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる