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「ユベール、ビオレタ、レコ!ただいま!」

 私は久々に会うビオレタに駆け寄り抱きついた。

「おかえりなさいませ、マーロアお嬢様、ファルス。王都の生活はどうでしたか?」

 ユベール達は温かく私達を迎え入れてくれた。二人を見ていると帰ってきたのだなぁと実感する。どうやらレコとテラはボアと遊んでいるらしい。

 私達は荷物を部屋に置いてからテラの様子を見にいく事にした。テラは涙ぐみながらボアに追われているわ。頭にリボンを付けてもらっているボアは、私達が村を出る頃、立派な大きさだったけれど、また成長してキングボア位の大きさになっていた。

村の人達から相当可愛がられているのね。ここまでボアが大きくなるのは珍しいし、この大きさになると周辺の魔獣はボアに驚いて逃げてしまうわよね。

立派な番犬ならぬ番ボアを務めているに違いないわ。

「レコ!テラ!ボア!」

私達は大声で呼ぶと、ボアは喜んで走り寄ってきた。

「マーロア姉様!」

テラも気づいて寄ってきた。

「元気だったかしら?」

「はいっ!姉様に僕、謝りたくて……」

テラがほっとしたのか涙を浮かべている。

「どうしたの?」

「僕、何にも分かっていなかった。王都で貴族はこうあるべきだってずっとマナーや貴族としての考え方ばかり教えられて平民がどんな暮らしをしているのか知らなかったんだ。自分は偉い、選ばれた人間だとさえ思っていた。

けれどね、村に来て、レコの修行に励むようになって自分がどれだけ小さくて何にも出来ない存在だったか知ったんだ。村は魔力があっても無くてもみんな助け合って生きているんだ。魔力があるのを鼻にかけていた自分が恥ずかしくて。ずっと姉様に謝りたかった」

私はそっとテラを抱きしめて頭を撫でた。

「テラはえらい子ね。自分でそうやって気づけたじゃない。それにレコの修行を逃げずに頑張っていると聞いているわ。とてもえらいわ」

「レコ、テラ様。家に帰りましょう。母が美味しい晩御飯を作って待っていますよ」

「わかった!!」

 テラは私とファルスの間に挟まれるようにギュッと手をつないで家まで帰った。きっとこの一年寂しかったのだろうと思う。そして晩御飯はビオレタの料理に私達の心も満たされた。母の愛情を感じ、子供のように甘えてしまう。

 ファルスだっていつもはしっかりしていて母親に甘える事なんてなかったのに離れるとやはり母の大切さを実感するのか母の手伝いを率先してやっている。そして久々にみんなで食卓を囲んだ。ワイワイ言いながらお肉を頬張る。王都では出来ない事よね。

 テラも私やファルスの食べ方を見て驚いていたけれど、真似して頬張っていた。そして驚きの事実が公表されたの!なんと、ビオレタに子供が出来たと。

これには私もファルスもびっくりしたわ。ファルスは照れくさそうにおめでとうと言っていたわ。半年後には生まれるらしい。

ビオレタもこの歳になって子供が出来た事に驚いていたけれど、ユベールと二人とても幸せそうで良かったわ。そうしてこの日は早々にベッドに潜った。流石に長旅で疲れたわ。



 翌朝、私とファルスはいつものように朝の鍛錬を行う。走り込みはボアと一緒にしたわ。やはりボアは大きくなっても可愛い。その後、ファルスと打ち合いをして家に戻ると、テラが起きてきたようで驚いていた。

「マーロア姉様、どこへ行っていたのですか?」

「私達は朝の鍛錬していたわよ?剣の練習を欠かす事は出来ないからね」

「僕、姉様とファルスの剣の練習を見てみたいです」

「いいわよ。ユベール、いいかしら?」

「テラ様、午前中はマーロア様達と鍛錬に取り組んで午後から領地の勉強をしっかりとやりますよ」

「わかった!!」

 ユベールの言葉にテラは目を輝かせた。なんだかんだでテラはまだ子供ね。朝食後にレコとテラを連れて庭にやってきた。レコは相変わらず飄々としているわ。

「ねぇ、レコ。私達も強くなったわ。剣の相手をしてもらってもいいかしら」

「えー俺、疲れる事好きじゃないんですがね。お嬢様のお手伝いなら仕方がないですね」

 私とレコは木刀を持ち、テラの声援の下、打ち合いを始める。この一年半、魔獣退治で鍛えてきたというのにレコに軽く躱されてしまう。悔しいけれどまだまだレコとは実力差があるのを感じる。

そして打ち合いをしている中、ファルスはレコの背後に回り、不意をついてレコに木刀で斬りかかったけれど、難なく蹴り飛ばされてしまったわ。

「もうっ。ファルス、レコにばれていたじゃない」

「絶対ばれないと思っていたんだけどな」

「二人とも卑怯ですね。ですが、まだまだですよ」

そう言った瞬間に私の木刀を弾き飛ばして首元で木刀を止める。

完敗だわ。

「レコ凄いや!!」

 テラは大喜びでレコの下に駆け寄った。そこからは私とファルスの反省会が始まった。あーだこーだと話をして午前中は終わってしまったわ。午後からテラは勉強を始めたので私とファルスは森に入り、魔獣の討伐を行う。

 討伐といいながら本当の所は食糧のための狩り。あまり放置すると魔獣は増えて被害が出るので村人達は定期的に狩っている。私達はよく狩っていたけれど、今はレコが偶に狩って肉を卸しているらしい。

王都で散財したから村でコツコツと小遣い稼ぎをしているのだとか。レコは相変わらずレコだった。

 私とファルスは見知った森を難なく進んでいくと、オークの群れを発見した。群れは二十頭程で構成されているようだ。この辺であの数のオークは多いわ。一気に村に下がってきたらレコがいるとしても被害は免れないと思う。

私とファルスは頷き合い、オークの殲滅をすることにしたの。

 二人とも剣を抜いてファルスは右側から私は左側から斬りかかっていく。オークは不意を突かれた形となって動けない間に攻撃されている。動けるようになった時には既に半数以上が倒れており、逃げ出すしか無かったようだ。

「ファルス、オークが逃げていくわ」

「深追いしない方がいいんじゃないか?あれだけ数を減らせば当分は大丈夫だろ。それにしても相変わらずの切れ味だな。一刀両断だ」

「本当に。感謝しかないわよね。さて、さっさと血抜きをしてリュックにしまうわよ?」

「あぁ、そうだな。匂いで他のやつが来そうだしな」

 私とファルスは風魔法でオークを片っ端から持ち上げて木にぶら下げて血抜きをする。もちろん魔石は抜き取ったわ。私達も小遣い稼ぎをしなければね。地面に付着している血は土に埋めて匂いを減らし、血抜きの終えたオークをリュックに仕舞いこむ。リュックはここでも大活躍だわ。といっても私のリュックもファルスのリュックも一体が限度だけどね。

 身体強化してお互い二体のオークを持って帰る事にした。他のオークは氷漬けにして村人達に取りに来て貰うしかないわ。

私達は食糧を無事調達出来た。この量を狩れば当分は食糧に困らなくていいわ。村に帰ってからオークの肉を捌き、必要な所を取ってから肉屋に渡しに行く。

 今日は久々の肉祭りだわ。その晩、私もファルスも山盛りの肉を焼いてもらいお腹いっぱい食べた。テラは私達の食べる量に驚きながらもオーク肉を食べていたわ。

「テラ、魔物の肉は食べられるようになったの?王都に住んでいる貴族は食べないと聞いたわ」

「姉上、確かに王都では食べられていませんが、僕はこの肉好きですよ。美味しいです」

「口に合って良かったわ」

 テラは今日勉強した事や私達の打ち合いの話を嬉しそうに話してくれた。自分も最低限自分の身を守れる位強くなりたいとも言っていた。

それから私達は長期休みをギリギリまで村で過ごして王都に帰った。

テラは寂しそうにしていたけれど、彼の中で目標が定まったらしく笑って見送ってくれた。次会う時は頼もしい次期領主の顔をしていそうだ。ビオレタの子供も楽しみだわ。
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