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「お父様、ただいま戻りました」
 父はオットーとお茶を飲んでいたようだ。オットーが一緒に座って飲む姿を初めて見たかもしれない。オットーはすぐに立ち上がり、私をソファに座るように促し、お茶を淹れてくれる。

今日はどことなく父もオットーもリラックスしているような雰囲気だわ。

「お父様、無事私もファルスも卒業試験合格致しました」

「マーロアもファルスもおめでとう。今までよく頑張ったな。二人とも四年間特待生のまま卒業出来るなんて凄い事だ。誇りに思う。つい先ほど学院からも連絡が来た。ユベールとビオレタにも卒業試験合格の連絡はしておいた。テオの再教育も順調のようだ。二人には改めて特別報酬を出す予定だ」

「旦那様、有難うございます。義父も母も喜ぶと思います」

ファルスが礼を言うと、オットーが何処からか制服一式を私とファルスに渡してくれた。よく見ると、白の公式な場で着る騎士服、普段用に着る草色の騎士服。そして私には赤い小さな魔石の付いたイヤーカフがあった。

「お父様、これは」

「明日からの制服だ。今朝、王宮から届いた。マーロアはイヤーカフを受け取り次第着用するようにと指示があった。常に付けていろとの指示だ」

 私はイヤーカフをすぐに身につけると、飾りの魔石に魔力が馴染むような感覚が少しあった。これはもしかして魔法鳥のような通信が行えるような代物なのかしら。明日、団長に聞いてみよう。そして明日から着ていく制服はファルスと同じように見えてバッヂが違うらしい。

 私達は貰った制服を見て明日からの期待に胸を膨らませた。私達の事はもちろんこの場に居る4人しか詳しい事を知らない。特に私の情報はなるべく秘匿するようにとの通達がされているらしい。制服を着たらばれるのではと思うかも知れないが、私は一般兵、冒険者見習いの扱いになっているらしい。

 王都では冒険者見習いの人は希望すれば王宮の騎士団員直々に魔獣討伐の講習を受けられる制度があるらしく、講習中は一般兵と同じように制服を借りて王宮騎士団の訓練場に行くのだとか。見る人が見ればイヤーカフで零師団だと分かるのかもしれないが。


 そして父に報告をした後、私とファルスは部屋に戻り、明日からの準備に取り掛かる。と、言っても私は特にする事もないけれど、ファルスは引っ越しがあるので少しだけだが手伝いをする。

「ずっとファルスと過ごして来たから、何だか寂しいわ」

「……そうだな。俺達生まれた時から一緒だったもんな。まぁ、俺が一杯お金貯めて騎士団長になった時、マーロアが貧乏冒険者だったなら俺が養ってやるよ」

「ふふっ。養ってくれるの?楽しみに待っているわ。でも反対に私がドラゴンスレイヤーとして名を馳せて優雅に暮らしているかもしれないわよ?」

「違いない」

 私達は笑い合いながら引っ越し作業を進めていった。因みに零師団の給料は貰えるらしいけれど、スカウト担当&補助と言う事で給料は薄給らしい。レヴァイン先生はそこそこ貰っていてギルドの依頼もこなすので金持ちだと思う。



 翌日、私は父とファルスと三人で城に向かった。三人で通勤するのは初めてだし、ファルスとはこれで最後なの。馬車の中では今までにない雰囲気だった。当面は父と一緒に通勤する事になる。少し緊張するわ。

門を通り、父とファルスに『いってらっしゃい、いってきます』と別れを告げて私は零師団の部屋に向かった。

「おはようございます」

 扉を開けて挨拶すると、ジェニース団長とマルコ副団長が執務をこなしていた。どうやら今日は皆外に出ている様子。

「マーロア、おはよう。早速だが今日はマルコに剣術を見てもらってくれ」

「承知致しました」

団長は顔を上げる事無くそう指示を出した。机に積み上げられた書類の山が凄い事になっている。鬼気迫る表情の団長は少し怖いわ。反対にマルコ副団長は涼しい顔で書類を捌いている。けれど、身体強化を使っているのかしら、手の動きが見えないほど素早い。

そして副団長は涼しい顔のまま手を止めて私と訓練場へと向かった。

「マーロア、これから学院の卒業式まではここの零騎士団へ勤務となるが、卒業式が終わったら君はレヴァインの元へ向かう事になる。そこまでは理解しているな?」

「はい。ですが、何故学院の卒業式が関係するのでしょうか?」

「それは団長の配慮だろう。生涯に一度きりの卒業式だ。冒険者としてレヴァインの元に付けばしばらくは王都に戻ってこられないと思って居た方がいい」

「なるほど」

私は納得し頷く。確かにそうよね。

「現在我々はマーロアと呼んでいるが、これからは冒険者としての活動を表にするのだからロアと呼ぶ事になる。普段はレヴァインの指示に従ってもらうが、緊急の呼び出しがある場合は君の付けているイヤーカフが反応し、通信する事が出来る」

「どのように使うのですか?」

「魔石に触れてから魔力を流せばいい。団員達の声が届く」

 マルコ副団長は試しにとイヤーカフの魔石に触れながら話し始めた。すると、私の耳元で声がクリアに聞こえてくる。

「これは団員全員に声が届くのですか?」

「あぁそうだ。魔法鳥や魔法便と違って瞬時に声が届くが、イヤーカフ装着者全員に声が届くので使い勝手は悪い。今後の改良次第で望んだ相手と話せるようになるかもしれんな」

なるほど、何十人に声が届くとしたら色々と大変そうね。

「さて、ロア。君の剣がどれだけ使えるか見ておきたい。剣を構えてくれ」

 マルコ副団長はそう言うと、帯剣していた剣を鞘から引き抜いた。先ほどとは打って変わり、マルコ副団長からは威圧を感じる。手を抜いてかかれば直ぐに返り討ちにあう。私はマルコ副団長の間合いから出るように後ろへ下がりながら剣を抜く。

少しの睨み合いが続いた後、マルコ副団長がフッと勢いよく私の間合いに入ってきて斬りかかる。私は躱しながら反撃に出た。しかし、その攻撃も上手く躱される。そして今度は私から斬りかかり、マルコ副団長が受け止める。何度か繰り返した後、私が攻撃し、彼が剣で受け止めた時、私はそのまま素早く足払いをするが避けられた。けれど、その瞬間に片手で隠していたダガーを投げる。

「ふむ、終了だ。君は投擲もするのか。腕は良いが、ダガーは変えた方がいい。さぁ、部屋に戻るか」

マルコ副団長は剣を鞘に戻し、私を待つ。私は突然の終了に少し拍子抜けしながらも剣を収めてから壁に刺さっているダガーを引き抜いて装備しなおす。投擲にダガーは向いていないのかしら?まぁ、このダガーは対魔物用なのでナイフ部分が他の投擲部分より大きいのかもしれないし初心者用の物だしね。そろそろ買い替えてもいいように思う。

部屋に戻った時、私の机が用意されている事に気づいた。
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