最後の魔法は、ひとを待つための魔法だった

まるねこ

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新章 切掛

45 中和薬にとりかかる

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「これで全員?」
「はい、今日はここにいる者たちで全員です。みんな、少し手を止めてくれ。話がある」

 フィルさんが大きな声で話すと魔術師たちは一斉に顔を上げた。

「今日はここにいる彼女をみんなに紹介する。彼女はいにしえの魔女クロエ様だ。この度、我々の願いを聞き入れて下さり、魔法について教授いただくことになった。

 クロエ様は幼く見えて先の戦争よりも前、魔法使いが存在している頃からおられる存在だ。決して粗相のないように。クロエ様、どうぞ」

 フィルさんはそう言って一歩後ろに下がった。

 背の低い私ではみんなもよく見えないと思い、ふわりと浮かぶ。

 懐かしい感じ。
 少しこの感覚に嬉しさを感じてしまう。

 あの時は私に敵意を持つ魔法使いが何人もいたっけ。今は不審な顔で見ている人はいるけれど、敵意は感じない。

「フィルさんから紹介のあったクロエです。当分の間、魔術師顧問として就任することになったのでよろしくね。私が顧問になったからにはみんなの技術や知識の向上に全力投球するからね!」

 そう言って詠唱を始めると、その場にいた人たちの左手首にふわりと魔法円が浮かび上がりぴたりと張り付いた。

「これはお近づきの印ね! みんなの手首に付いたと思うんだけど、これは魔力の扱いを向上させるためのものなんだ。

 速く解かないとだんだん手が重くなってくるから気を付けてね! これから課題を少しずつ出していく予定だから。 じゃ、みんな頑張るように。以上!」

 ざわざわと室内がざわめき始める。

 昔の魔法使い科の学生程度なら解けるものにしたんだけど、どうかな。難しいかもしれないけど、彼らには頑張ってもらいたい。

 もし、過去の王宮魔法使い達がいたら『またやっているんですか?』って呆れられそう。

 でも、少しずつ課題を出して成長していってほしいんだもん。

 魔術師たちは会話をしながら各々魔力を通しはじめている。パズルを解く感覚なのかな? とても楽しそうに見える。みんな前向きでよかった。

 フィルさんと一旦部屋に戻って今後の話をしていく。

「フィルさん突然で色々言ってごめんね。急がないといけなくて」
「急ぐ理由、ですか?」
「うん。何もなければ来年には王子が生まれる。大罪の水が影響しているのであれば王子にも影響が出るからね」

「たしかに。でも、今更といえば今更では?」
「それはそうなんだけど。これは私が人を待つために必要なことだから。今は私しか解決できる人もいないの」
「そうでしたか」

 フィルさんはそれ以上、聞いてくることはなかった。

「今から薬を作ってくるから。終わったらまたくるね。課題が終わったころには翻訳された教科書はみんなの手元に届くかな?」
「そうですね。順次手元に届くと思います」
「そう。じゃあ、またね!」

 私は転移魔法で家まで帰ってきた。



 扉を背にして力を無くしたように座り込む。

 ……師匠が転生する。

 やっと。
 やっと。
 長かった。
 あと少し。

 涙が止めどなく出てくる。

 一人静かな夜に心が折れそうになる日もあった。

 私を殺そうとする人たちだっていた。

 それもあと少し。

 生まれ変わる師匠のために私ができることは……。

 止めどなく溢れてくる涙を何度も拭い、私は窯の前に立った。

 サーデル様の時は確か大罪の水の元となる物を取り除くことで解決させたと師匠は聞いていた。

 その後、師匠は大罪の水を再現していたっけ。
 そこから解除薬を作ろうとしていた。

 完成はしていなかったけれど、長期で服用すれば徐々に魔力が戻っていく薬は作っていた。

 私だってこの五百年間なにもしなかったわけじゃない。

 全ての資料の魔法円を読み解き、研究し、様々な薬の開発もしてきた。なんなら師匠の倍は生きてるからね。解除が無理なら中和して力を抑える方向にもっていこうと考えたの。

 百年前に実際に作ったわけではないけれど、理論上は中和剤や治療薬は完成していた。

 私は部屋の奥底から資料を引っ張り出し、薬を作っていく。

 気合を入れて私は様々な薬草を調合し窯に入れていく。

 ほんのわずかな火で数日を掛けてゆっくりと材料を窯に入れていく。入手困難な薬草もいくつかあり、自分でも採りにいった。

 大変だったことを思い出しながらゆっくり、ゆっくりと魔力を流し込み液体を作っていく。

 大罪の水の元になるヒャビクは元々身体に猛毒を持っていて他の生き物から狙われることはない。

 その毒はどこから来たのかも調べた。そしてその毒消しに使われる草も特定したし、その植物を食べるジッグという毒性の強い動物も見つけた。

 繁殖期になるとヒャビクはジッグを捕食していたの。それからジッグの持つ毒を調べて中和薬に光が射した。

 大罪の水が禁忌だったから、当時でも作り方はもちろん材料もほとんどの人が知らなかった。

 そこがこの薬を作るのに苦労した点だったのだと思う。これが禁忌でなければとっくに見つかっていたはずだ。

 三日三晩窯の中身に魔力を注ぎ、かき回してようやく完成させた。

「できた! 中和薬。あとは飲み薬も作らないと……。でも眠い」

 私は眠気と戦いながら固形の中和薬をテーブルの上に置いてそのままベッドへ雪崩れ込み、泥のような眠りに落ちた。
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