この罰は永遠に

豆狸

文字の大きさ
3 / 6

しおりを挟む
「王太子殿下、少し落ち着いてください」
「そんなに男爵令嬢に入れ込んで、愛妾にでもなさるおつもりですか?」
「王家と言えども公爵家に逆らうのは無謀だと思いますがね」

 婚約者であるオードリーを放置してポエナと行動するクロードに、周囲は注意を促した。
 古代の禁忌である魅了で心を操られているのでは? と言われたこともある。
 けれどもクロードはバルビエ王家に伝わる精神魔術耐性の効果がある護符を身に着けていた。ほかの取り巻き達も高位貴族なのだから護符の装着は当然のことだ。

 自分達が正しいのに周囲から非難されていると感じた彼らは、ますますポエナに執着していった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 ──そして魔術学園の卒業パーティ。

 クロードは婚約者であるオードリーにドレスもアクセサリーも贈らず、王都の公爵邸までエスコートに向かうこともなく、ポエナと出席した。
 彼女に栄えある卒業パーティのパートナーとして選ばれたことが誇らしかった。
 バルビエ王国では十八歳で飲酒が許される。パーティで酒を飲んで酩酊したクロードは、心配するオードリーを突き飛ばして婚約破棄を宣言した。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 クロードが魔術学園を卒業して、半年が過ぎた。
 ポエナは国家動乱罪で処刑されている。
 彼女は男爵領で発掘された古代の魔道具で取り巻き達を惑わしていたのだ。その古代魔道具が対象者に与えるのは『魅了』ではなく『酩酊』だった。

 魔術学においては『酩酊』も状態異常の一種とされている。
 だが『酩酊』を防ぐ護符はなかった。
 『酩酊』は『魅了』よりも威力が弱いし自然に回復する。なによりそれがなければ酒宴がつまらなくなる。古代魔道具の制作者は、体調不良が原因で医師に禁酒を命じられた自分のためにこれを作ったらしい。

 クロード達は『酩酊』──ほろ酔い気分でポエナと接して舞い上がったのだ。酒場で気が大きくなって、全財産はたいてほかの客に奢るようなものである。
 彼女自身に悪意はなく、チヤホヤされるのが楽しかっただけだろう。
 しかし、王太子であるクロードのみならず、取り巻きの高位貴族のほとんどが卒業パーティで婚約者達に破棄を告げていた。ポエナの歓心を買うためにクロードを真似たのだ。

 貴族子女の婚約は政略的なものだ。
 一方的に破られたのでは戦争になってもおかしくはない。ポエナの罪は重かった。
 むしろ彼女の裏に伝説の魔王や周辺国の陰謀がなかったことで、バルビエ王国の上層部は胸を撫で下ろしていた。

 ちなみに『泥酔』、いわゆる二日酔いを伴うような悪酔いを防ぐ護符はある。

「……オードリー……」

 そして今、クロードは公爵邸の前に立っていた。
 オードリーは卒業パーティでの婚約破棄による衝撃で記憶を失ったと聞いている。
 彼だけでなく、自分に関わったすべての人間のことを忘れてしまったのだと。

(本当だろうか。いや、本当でも嘘でも悪いのは私だ)

 魔術学園を卒業して公務や私事での飲酒が日常化して、クロードと取り巻き達はポエナと一緒にいるときの感覚が酩酊しているときと同じだと気づいた。
 ポエナといるときの一時的な高揚よりも、元の婚約者と過ごすときの穏やかで優しい時間のほうが自分に必要なのだと気づいた。
 元婚約者が別の人間と婚約、結婚するなどして手遅れになっていた人間もいた。

 けれど、オードリーは違った。

 国王夫妻に散々叱責され、床に額を擦り付けるようにして公爵に謝罪して、今日クロードは公爵邸にやって来た。
 手には小さな花束を持っている。
 以前オードリーにもらった種を育てたものだ。

(オードリーは許してくれるだろうか。……許してくれなくてもいい。今は一目だけでも顔が見たい)

 黒い髪に灰色の瞳の公爵令嬢。
 彼女は光を浴びて輝くクロードの金髪が好きだと言ったが、クロードは自分を見つめる彼女の瞳が好きだった。
 暗い灰色の中には、すべての色が内包されて揺らめいていた。

 クロードは公爵邸の玄関を開けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

行ってらっしゃい旦那様、たくさんの幸せをもらった私は今度はあなたの幸せを願います

木蓮
恋愛
サティアは夫ルースと家族として穏やかに愛を育んでいたが彼は事故にあい行方不明になる。半年後帰って来たルースはすべての記憶を失っていた。 サティアは新しい記憶を得て変わったルースに愛する家族がいることを知り、愛しい夫との大切な思い出を抱えて彼を送り出す。 記憶を失くしたことで生きる道が変わった夫婦の別れと旅立ちのお話。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

この雪のように溶けていけ

豆狸
恋愛
第三王子との婚約を破棄され、冤罪で国外追放されたソーンツェは、隣国の獣人国で静かに暮らしていた。 しかし、そこにかつての許婚が── なろう様でも公開中です。

そこまで幼馴染が好きというなら、どうぞ幼馴染だけ愛してください

睡蓮
恋愛
リューグ伯爵はソフィーとの婚約関係を結んでいながら、仕事だと言って屋敷をあけ、その度に自身の幼馴染であるマイアとの関係を深めていた。その関係は次第に熱いものとなっていき、ついにリューグ伯爵はソフィーに婚約破棄を告げてしまう。しかしその言葉こそ、伯爵が奈落の底に転落していく最初の第一歩となるのであった。

処理中です...