オオカミさんといっしょ!

豆狸

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第二話 オオカミさんと暮らしてみれば

5・わたしの知らない、わたしの魔法

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「「ノワー!」」
「はーい」

 ジョゼくんとジュールくんに声を揃えて呼ばれて、わたしは慌ててふたりに駆け寄った。
 ふたりが見つけてわたしに教えてくれたのは、道の横の草むらに生えていた一本の草だった。
 先端に咲いた小さな黄色い花が風に揺れている。
 周りがジョゼくんの鼻先くらいまである背の高い草ばかりなので、小さなジュールくんでなかったら見つけられなかった。
 わたしもしゃがむと草むらに埋もれてしまう。
 よく見ると周りの草の先端にも小さな蕾がついていた。
 ミーヌ村でも見たことがある。
 いずれ無数に伸びた茎の先にも蕾がついて花が咲き、辺り一面が花の色に染まるのだ。
 でもミーヌ村に茂ったこの草の花は、黄色でなく赤色なのだけど。
 ふたりが嬉しげに振る尻尾の起こす風で、草むらに波が立つ。

「お花、見つけた!」
「綺麗ねー」
「摘んでやろうか?」
「ありがとう。でもこのままでいいよ」

 極北ほどではないものの、この辺りは大陸でも北になる。
 遅く短い春の最初の一輪を独り占めしてはいけない気がした。

「そうなの?」
「なの?」
「うん。きっともうちょっと待ってたら、この草むらがお花でいっぱいになるよ」
「あ! そういえばそうだった気がする!」
「なの?」

 去年のジュールくんはまだ、ひとりで外に出られない赤ちゃんだったのかもしれない。
 ジョゼくんたちと話していたら、近くの草むらが揺れていた。
 灰色子狼の尻尾風は届かない位置だ。
 気の早い蝶か蜂だろうか。

 ──ぶぅーん、ぶーん。

 羽音を響かせて草むらから現れたのは、鮮やかな黄色と黒の蜂だった。
 ただし大きさはジュールくんと変わらない。

 闇バチだ!

「ジョゼくん、ジュールくんっ!」
「ノワ?」
「ぶんぶん」

 こんなところに闇バチが現れるだなんて!
 ふたりを引き寄せたまでは良かったが、驚きと恐怖で尻もちをついてしまう。

「ノワさん!」
「ノワッ!」

 道の方向からオオカミさんたちの叫び声が聞こえる。
 早く立ち上がって逃げなくてはいけないのに体が動かない。
 わたしはふたりに覆いかぶさった。
 闇バチは、子どものころに遭遇したときと同じで一匹だけだ。
 狩場に行く途中で群れからはぐれた迷子だろうか。
 毒を受けてもわたしの魔法で解毒できるけれど、小さい子どもの場合衝撃で命を失う可能性もある。
 なんとしてもジョゼくんとジュールくんを守らなくてはいけない。
 闇バチの羽ばたきの起こす風のせいか、髪が舞い上がる。
 理由はわからないが額が熱くなっていく。
 針で刺されたの? でも痛くはないし……

「ノワ、すげー」
「ぶんぶん、ない」
「え?」

 気がつくと、闇バチの羽音が消えていた。
 立ち上がって見てみれば、草むらに黄色く黒い体が転がっている。
 ピクリとも動かない。
 もう命を失っているようだ。……どうして?

「大丈夫か、ノワ」

 オオカミさんが走ってきて、わたしの肩に手を置いた。
 振り向いて尋ねる。

「オオカミさんが、魔法で退治してくれたんですか?」
「違うよ!」

 答えてくれたのはジョゼくんだった。

「ノワが魔法で退治したんじゃん」
「マホー」
「魔法? わたしが使えるのは回復魔法だけで……なに、これ」

 わたしの飴色の髪は、肩にかからない長さで切り揃えている。
 その髪の左右にひと房ずつ、黒い髪が垂れていた。
 本来の髪よりも長くて肩についている。
 よく見るとその髪は黒ではなく、濃い紫色だった。
 ジョゼくんが熱く語り出す。

「俺ね、ノワの額が光ってるのに気づいてね、あれって思って見てみたら、髪が伸びて蜂にビシって突き刺さったんだよ」
「ぶんぶんぶん……」
「ダ、ダメよ」

 わたしは好奇心満開で闇バチの死体に近づこうとするジュールくんを抱き上げた。
 さっき足の間に隠していた尻尾が、またぶんぶんと風を起こしている。
 ちょっとだけ不満げな顔をした後で、ジュールくんはわたしの紫色の髪を引っ張った。

「そ、そっちもダメ!」
「ノワが魔法を発動させなければ大丈夫だろう。さっき食べた毒ウサギの持つ毒針の魔法を習得していたんだな」
「そんな……魔法って相性のいい同じ属性のものしか習得できないんですよね? わたしが生まれたときから使ってる回復魔法は大地の属性だって、おばあちゃんが。お肉の煮込みを食べたとき、毒針の魔法は闇属性の紫色の魔光を放ってたと思うんですけど」
「回復魔法の紋章があるのは右手だったな。見せてもらってもいいか?」

 ジュールくんを地面に降ろして、わたしはオオカミさんに右手を差し出した。
 黒い毛に覆われた大きな手が、わたしの手を取る。
 オオカミさんの顔が近づくと吐息を感じた。
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