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第三話 オオカミさんとキスをして
7・星の司祭への疑惑
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怒っていないと言いながら、オオカミさんは軽く息を吸って呼吸を整えた。
黄金色の瞳がレオンを映す。
「……俺は月の女神に仕える司祭で、神獣も授かっている。日が沈むまで待ってもらえたら村人を集めて神獣に真偽を問わせよう。この村に盗人がいないことは、それでわかってもらえるはずだ」
「あんた、真面目だな」
眉間に皺を寄せていたレオンが、困ったように笑う。
「神獣を呼び出す必要はないぜ。俺は狼の獣化族が羊を盗んだとは思っていない。食い詰めた獣化族なら、オングル村の神殿へ行って食事の配給をもらえばいいんだ。野獣の狼が飢えて羊を盗むのなら冬が終わる前だろう。俺だったら人間の反撃より猛毒ウサギと戦うほうを選ぶ」
「七日前の夜に来た星の司祭ラクテは、村長がモンスター密売で組んでいるエスクロ男爵の息子だしね。レオンが帰ってくる前日に事件が起こったのも怪しいところなんだよな」
星の司祭ラクテ……街道でのことを思い出して、心臓がざわめいた。
「あ、あの……その星の司祭さまって、銀髪に白い肌で青い瞳で、女の子みたいに綺麗な少年で、それから、えっと……銀の耳飾りをつけてる?」
突然首を突っ込んだわたしに、レオンとトマが目を丸くする。
「知ってるのか?」
尋ねられて、わたしはオオカミさんに視線を向けた。
オオカミさんが無言で頷く。
わたしは口を開いた。どうしても声が震えてしまう。
「七日前に街道で会って……殺されかけたの。み、見た目が似ているだけで別人かもしれないけど」
「殺されかけた?」
「ミーヌ村の場所を聞かれて、教えようと村の方向を向いたら後ろから星球武器で殴られて、回復魔法が宿った右腕も潰されて……オオカミさんが来てくれなかったら、乗っていた白馬で踏み潰されていたと思う」
わたしの手を握って、最後まで話す勇気をくれたオオカミさんが首を横に振る。
「なんとか君を助けることはできたが、俺は遅かった。もっと早く駆けつけていれば犯人を捕らえることができたかもしれないのに……この姿を見られたくなくて、血の匂いを感じてから街道へ向かうまで時間がかかってしまったんだ」
「白馬に騎乗した星の司祭の美少年、か。銀髪に白い肌、青い瞳……ミーヌ村に来たラクテと同一人物と考えて間違いなさそうだな」
「別人だとしたら、ノワを襲ったほうはどこへ行ったんだって話になるもんね」
「レオン、トマ……わたしを信じてくれるの?」
「ノワがウソをつくとは思わないよ」
「それに俺らもあの司祭を疑っているからな」
「ふたりとも、ありがとう」
「わん!」
椅子の下にいたはずのキャピテンヌが、いつの間にか外に出ていた。
わたしの膝に前足を乗せて元気に吠えた後で、ぺろりと頬を舐められる。
彼もわたしの言葉を信じてくれているのだろう。
「「あ」」
なぜかオオカミさんとレオンの不機嫌そうな声が重なって聞こえ、トマが吹き出すのを我慢している顔をしていた。
トマは昔から笑い上戸なので、なにがきっかけで笑い出すのか、未だによくわからない。
オオカミさんが口に拳を当てて、こほん、と咳払いをする。
「あーレオンくん」
「レオンでいいぜ、ルー司祭さま」
「俺も、さま付けでなくてかまわない。君たちがその司祭を疑っている理由を聞かせてもらえないか。いや、そもそもなんについて疑ってるんだ? ガマガエル村長と手を組んでいる貴族の息子だということは知っていると言っていたよな?……あ、すまない」
「村長有名人だな、レオン」
「……本物のガマガエルのほうが、毒が採れるだけマシだ」
トマに肘でつつかれて唇を尖らせたレオンは、イネスさんと気が合うかもしれない。
黄金色の瞳がレオンを映す。
「……俺は月の女神に仕える司祭で、神獣も授かっている。日が沈むまで待ってもらえたら村人を集めて神獣に真偽を問わせよう。この村に盗人がいないことは、それでわかってもらえるはずだ」
「あんた、真面目だな」
眉間に皺を寄せていたレオンが、困ったように笑う。
「神獣を呼び出す必要はないぜ。俺は狼の獣化族が羊を盗んだとは思っていない。食い詰めた獣化族なら、オングル村の神殿へ行って食事の配給をもらえばいいんだ。野獣の狼が飢えて羊を盗むのなら冬が終わる前だろう。俺だったら人間の反撃より猛毒ウサギと戦うほうを選ぶ」
「七日前の夜に来た星の司祭ラクテは、村長がモンスター密売で組んでいるエスクロ男爵の息子だしね。レオンが帰ってくる前日に事件が起こったのも怪しいところなんだよな」
星の司祭ラクテ……街道でのことを思い出して、心臓がざわめいた。
「あ、あの……その星の司祭さまって、銀髪に白い肌で青い瞳で、女の子みたいに綺麗な少年で、それから、えっと……銀の耳飾りをつけてる?」
突然首を突っ込んだわたしに、レオンとトマが目を丸くする。
「知ってるのか?」
尋ねられて、わたしはオオカミさんに視線を向けた。
オオカミさんが無言で頷く。
わたしは口を開いた。どうしても声が震えてしまう。
「七日前に街道で会って……殺されかけたの。み、見た目が似ているだけで別人かもしれないけど」
「殺されかけた?」
「ミーヌ村の場所を聞かれて、教えようと村の方向を向いたら後ろから星球武器で殴られて、回復魔法が宿った右腕も潰されて……オオカミさんが来てくれなかったら、乗っていた白馬で踏み潰されていたと思う」
わたしの手を握って、最後まで話す勇気をくれたオオカミさんが首を横に振る。
「なんとか君を助けることはできたが、俺は遅かった。もっと早く駆けつけていれば犯人を捕らえることができたかもしれないのに……この姿を見られたくなくて、血の匂いを感じてから街道へ向かうまで時間がかかってしまったんだ」
「白馬に騎乗した星の司祭の美少年、か。銀髪に白い肌、青い瞳……ミーヌ村に来たラクテと同一人物と考えて間違いなさそうだな」
「別人だとしたら、ノワを襲ったほうはどこへ行ったんだって話になるもんね」
「レオン、トマ……わたしを信じてくれるの?」
「ノワがウソをつくとは思わないよ」
「それに俺らもあの司祭を疑っているからな」
「ふたりとも、ありがとう」
「わん!」
椅子の下にいたはずのキャピテンヌが、いつの間にか外に出ていた。
わたしの膝に前足を乗せて元気に吠えた後で、ぺろりと頬を舐められる。
彼もわたしの言葉を信じてくれているのだろう。
「「あ」」
なぜかオオカミさんとレオンの不機嫌そうな声が重なって聞こえ、トマが吹き出すのを我慢している顔をしていた。
トマは昔から笑い上戸なので、なにがきっかけで笑い出すのか、未だによくわからない。
オオカミさんが口に拳を当てて、こほん、と咳払いをする。
「あーレオンくん」
「レオンでいいぜ、ルー司祭さま」
「俺も、さま付けでなくてかまわない。君たちがその司祭を疑っている理由を聞かせてもらえないか。いや、そもそもなんについて疑ってるんだ? ガマガエル村長と手を組んでいる貴族の息子だということは知っていると言っていたよな?……あ、すまない」
「村長有名人だな、レオン」
「……本物のガマガエルのほうが、毒が採れるだけマシだ」
トマに肘でつつかれて唇を尖らせたレオンは、イネスさんと気が合うかもしれない。
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