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第四話 オオカミさんを守りたい。
8・想いは、なし崩しに伝わってしまいました。
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……オオォォォ、ウゥオォォ。
遠くからオオカミさんの咆哮が聞こえてくる。
魔法を載せているから、というのもあるのだろうが、わたしが死にかけていたときに聞いた遠吠えよりも雄々しくて力強く感じた。
「終わったみたいだね」
イネスさんの言葉に頷いて、わたしたちはオオカミさんの帰りを待った。
たぶん闇バチが残っていないのか探していたのだろう。
オオカミさんたちが戻ってきたのは、かなり時間が経ってからだった。
「……ただいま」
玄関の扉を開けたオオカミさんが、前に立っていたわたしに驚いた後、黄金色の瞳を細めて微笑む。
「お帰りなさい。みなさん、大丈夫でしたか?」
「ルー兄ちゃん!」
わたしの隣にいたジョゼくんが、叫びながらオオカミさんに飛びつく。
「どうした、ジョゼ。怖かったのか?」
「ノワのこと振って!」
「ジョゼ?」
「ノワはルー兄ちゃんのこと好きなんだって! だからルー兄ちゃんノワのこと振って! そしたら俺が慰めて、お嫁にするから!」
「ジョ、ジョゼくん!」
いきなりまくし立てられて、オオカミさんが困惑した表情でわたしから視線を逸らす。
「ぷーっ」
「ト、トマ?」
「ゴメン、つい」
「良かったじゃねぇか、ルー」
「ノワ、本当なのか?」
「え、えっと……うん。ゴメンね、レオン。気持ちは嬉しいけどあなたの求婚はお断りします」
こんな状況で言うのも悪いと思うものの、わたしの気持ちが知れ渡ってしまったのだから仕方がない。
イネスさんがやって来て、ジョゼくんをオオカミさんから引き離した。
「疲れただろう? とりあえず中にお入りよ。お茶でも淹れようかね」
「あ、そうですね。わたしも手伝います」
「いや、イネスおばさん、お茶は後にしよう。ノワ、まずはクロ村に落ちているだろう闇バチの毒を解毒してくれ。気のせいかもしれないが極北の空に黒い塊が見えた気がする。狩りに出ていた闇バチが戻ってきたのかもしれない」
「わかりました!」
「……そうだな。今度は俺がノワを護衛するから、ふたりだけでいいだろう。イネスおばさん、さっきの言葉は撤回だ。みんなにお茶を出してやってくれ」
「あいよ」
「俺はノワと行く」
「おえも行くじょ」
「ダメだ」
ギーさんが左右の脇にジョゼくんとジュールくんを抱え上げた。
「お、俺もノワを……」
「やめときなよ、レオン」
レオンの肩に手を置いて、トマが頭を左右に振る。
「……ノワ」
「レオン?」
「俺も、だ」
「え?」
「お前がルー司祭に振られたら、改めて俺もお前に求婚する」
「俺の真似!」
「にーちゃんの真似?」
「はいはい、お前らは静かにしてろ。お嬢さんに魔法をかけてもらわないと、いつまで経ってもジャンヌを呼びに行けないぞ」
「あ、イネスさん。俺もお茶淹れるの手伝いまーす」
「……変な子だねえ」
みんなの声を背中で聞きながら、わたしとオオカミさんは家を出た。
草むらへと道を歩く。
……そういえば、わたしの魔法は状態異常も解除しちゃうんだけど、闇バチにかかってる氷結は大丈夫かな。
オオカミさんとイネスさんの家から離れ、道の両端に広がる草むらを見る。
激しい戦いのせいか、ジョゼくんの鼻先ほどの高さの草が倒れていた。
これではもう、花冠は作ってもらえなさそうだ。
「ノワ」
「は、はい!」
ぴょこんと跳び上がりそうになったのは、オオカミさんの低い声がとても甘く聞こえたからだ。
「なんですか?……オオカミ、さん」
「どうした?」
ずっと隣を歩いていたのに、照れくさくて見られずにいたオオカミさんの顔は、黒い毛皮のないロークンと同じ顔になっていた。
毛皮ではなく黒い髪を持つ青年の顔だ。
ううん、二回夢に見ただけのロークンの顔なんかじゃない。
黄金色の瞳の、わたしの大好きなオオカミさんの顔だ。
この状況で獣化が解けてるっていうのは、どういうことなのかな。
少しだけ、期待してもいいの?
遠くからオオカミさんの咆哮が聞こえてくる。
魔法を載せているから、というのもあるのだろうが、わたしが死にかけていたときに聞いた遠吠えよりも雄々しくて力強く感じた。
「終わったみたいだね」
イネスさんの言葉に頷いて、わたしたちはオオカミさんの帰りを待った。
たぶん闇バチが残っていないのか探していたのだろう。
オオカミさんたちが戻ってきたのは、かなり時間が経ってからだった。
「……ただいま」
玄関の扉を開けたオオカミさんが、前に立っていたわたしに驚いた後、黄金色の瞳を細めて微笑む。
「お帰りなさい。みなさん、大丈夫でしたか?」
「ルー兄ちゃん!」
わたしの隣にいたジョゼくんが、叫びながらオオカミさんに飛びつく。
「どうした、ジョゼ。怖かったのか?」
「ノワのこと振って!」
「ジョゼ?」
「ノワはルー兄ちゃんのこと好きなんだって! だからルー兄ちゃんノワのこと振って! そしたら俺が慰めて、お嫁にするから!」
「ジョ、ジョゼくん!」
いきなりまくし立てられて、オオカミさんが困惑した表情でわたしから視線を逸らす。
「ぷーっ」
「ト、トマ?」
「ゴメン、つい」
「良かったじゃねぇか、ルー」
「ノワ、本当なのか?」
「え、えっと……うん。ゴメンね、レオン。気持ちは嬉しいけどあなたの求婚はお断りします」
こんな状況で言うのも悪いと思うものの、わたしの気持ちが知れ渡ってしまったのだから仕方がない。
イネスさんがやって来て、ジョゼくんをオオカミさんから引き離した。
「疲れただろう? とりあえず中にお入りよ。お茶でも淹れようかね」
「あ、そうですね。わたしも手伝います」
「いや、イネスおばさん、お茶は後にしよう。ノワ、まずはクロ村に落ちているだろう闇バチの毒を解毒してくれ。気のせいかもしれないが極北の空に黒い塊が見えた気がする。狩りに出ていた闇バチが戻ってきたのかもしれない」
「わかりました!」
「……そうだな。今度は俺がノワを護衛するから、ふたりだけでいいだろう。イネスおばさん、さっきの言葉は撤回だ。みんなにお茶を出してやってくれ」
「あいよ」
「俺はノワと行く」
「おえも行くじょ」
「ダメだ」
ギーさんが左右の脇にジョゼくんとジュールくんを抱え上げた。
「お、俺もノワを……」
「やめときなよ、レオン」
レオンの肩に手を置いて、トマが頭を左右に振る。
「……ノワ」
「レオン?」
「俺も、だ」
「え?」
「お前がルー司祭に振られたら、改めて俺もお前に求婚する」
「俺の真似!」
「にーちゃんの真似?」
「はいはい、お前らは静かにしてろ。お嬢さんに魔法をかけてもらわないと、いつまで経ってもジャンヌを呼びに行けないぞ」
「あ、イネスさん。俺もお茶淹れるの手伝いまーす」
「……変な子だねえ」
みんなの声を背中で聞きながら、わたしとオオカミさんは家を出た。
草むらへと道を歩く。
……そういえば、わたしの魔法は状態異常も解除しちゃうんだけど、闇バチにかかってる氷結は大丈夫かな。
オオカミさんとイネスさんの家から離れ、道の両端に広がる草むらを見る。
激しい戦いのせいか、ジョゼくんの鼻先ほどの高さの草が倒れていた。
これではもう、花冠は作ってもらえなさそうだ。
「ノワ」
「は、はい!」
ぴょこんと跳び上がりそうになったのは、オオカミさんの低い声がとても甘く聞こえたからだ。
「なんですか?……オオカミ、さん」
「どうした?」
ずっと隣を歩いていたのに、照れくさくて見られずにいたオオカミさんの顔は、黒い毛皮のないロークンと同じ顔になっていた。
毛皮ではなく黒い髪を持つ青年の顔だ。
ううん、二回夢に見ただけのロークンの顔なんかじゃない。
黄金色の瞳の、わたしの大好きなオオカミさんの顔だ。
この状況で獣化が解けてるっていうのは、どういうことなのかな。
少しだけ、期待してもいいの?
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