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第四話 オオカミさんを守りたい。
17・熱い炎の中で
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懐かしい村が燃えていた。
赤い建物に囲まれた道を通って広場へと進む。
「……ノワ? ノワかい?」
石造りの噴水のほとりに、お隣のアメリーおばさんがいた。
ほかにもたくさんの村人が集まっている。
アメリーおばさんは、わたしを見つけて駆け寄ってきた。
「まあ、まあ、まあ! 無事で良かった。ああ、もう無事で良かった。あの日夕飯をお裾分けしようと思って行ったら、家が無人になっていて肝を冷やしたよ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいんだよ。どうせあのガマガエル村長が、あんたが疲れてるのにつけこんで口車に乗せたんだろう。若い娘が身ひとつで家を出て行くなんて……本当に無事で良かった。ノワ、帰ったところで悪いんだけど」
「はい、大変みたいですね。怪我人はどこですか」
村人を見回すと、わたしに気づいたのか声が上がった。
「ノワだって?」
「ノワが帰ってきたのか?」
「頼む、助けてくれ! 家族が毒にやられたんだ」
「今は何度も回復魔法を使えるから、慌てなくても大丈夫ですよ。傷が重い人、毒を受けてから長い人がいたら、近くの人が手を挙げてください」
「ノワ、あの……」
「アメリーおばさん?……あ、おじさんっ?」
噴水の横に、お隣のおじさんが横たわっていた。
アメリーおばさんの旦那さんだ。
闇バチの毒で発熱しているらしい。
汗ばんだ体を小刻みに痙攣させていた。
わたしが呼んでも反応はない。瞼を開ける力さえ残っていないようだ。
「あたしを闇バチから庇ってくれたんだよ。酔っぱらってたくせに無理をして……」
「ノワ」
オオカミさんがわたしを呼んだ。
黒い毛皮の狼獣化族が羊泥棒として目撃されているということで、今彼は獣化を解呪している。すぐに獣化してしまうかもしれないが、最初から混乱させるよりもいいだろうと考えてのことだ。
ルナール司祭さまは、普通に赤い毛皮の狐の獣化族として歩き回っている。
「解毒剤は持って来ている。毒を受けていても傷の軽い人間は俺が対処しよう。そちらの男性は毒を受けてから長いようだ。君の回復魔法を使ってあげてくれ」
「はい!」
わたしは右腕に意識を集中させた。
手の甲にある魔法紋章の輝きが強くなる。
煌めく文字と記号が腕を昇って、降りていく。
右手から放たれた回復魔法が、お隣のおじさんへと浸透していった。
うっすらと目を開けて、おじさんが言う。
「……ん? アメリー?」
「あんたっ!」
アメリーおばさんに抱きつかれて、おじさんは不思議そうな顔をしている。
しばらく考えて、おじさんは言った。
「俺、酒の飲み過ぎかもしれないな。お前を襲おうとしてたハチが、ものすごく大きく見えた。人間の子どもくらいあったぞ」
「バカだね、大きかったんだよ。闇バチだったんだから」
「闇バチだって。モンスターじゃないか!……ん、ノワ?」
「おじさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ノワが回復魔法を使ってくれたのか。どうやら酔っ払いも状態異常らしいな。頭がすっきりしてる」
「あんたはあたしを助けて闇バチに刺されたんだよ。……助かって良かった」
「じゃあほかの人の治療に行きますね」
「ノワ!」
「アメリーおばさん?」
おばさんに手招きされて、わたしは近寄った。
耳元でおばさんが言う。
「……あの黄金色の瞳の色男、もしかしてノワのいい人かい?」
「は、はい。あの……あの人、ルー司祭さまは狼の獣化族なんです。しばらくしたら黒い毛皮に戻ってしまうと思うんですが、えっと、羊泥棒ではありません。おばさんの言う通りいい人、すごくいい人です。あ、それとキャピテンヌは信頼できる人たちに預けているので安心してください」
「狼の獣化族だって?……ちょっと怖い気もするけど、ノワが信じてる人ならあたしも信用するよ」
「ありがとうございます」
「ノワ!」
少し離れたところで、レオンが声を上げた。
彼もオオカミさんに解毒剤を渡されて、村人の治療に当たっている。
「お前火傷も治せたよな?」
「うん、行くね!」
「無理しないようにね、ノワ。……レオンもバカだねえ。都へ行くときに告白しておけば良かったのに」
「うちの息子みたいに好きな女も連れて行けばもっと良かったのにな」
後ろからアメリーおばさんとおじさんの会話が聞こえてきた。
レオンの気持ちに気づいていなかったのは、どうやらわたしだけだったようだ。
赤い建物に囲まれた道を通って広場へと進む。
「……ノワ? ノワかい?」
石造りの噴水のほとりに、お隣のアメリーおばさんがいた。
ほかにもたくさんの村人が集まっている。
アメリーおばさんは、わたしを見つけて駆け寄ってきた。
「まあ、まあ、まあ! 無事で良かった。ああ、もう無事で良かった。あの日夕飯をお裾分けしようと思って行ったら、家が無人になっていて肝を冷やしたよ」
「心配かけてごめんなさい」
「いいんだよ。どうせあのガマガエル村長が、あんたが疲れてるのにつけこんで口車に乗せたんだろう。若い娘が身ひとつで家を出て行くなんて……本当に無事で良かった。ノワ、帰ったところで悪いんだけど」
「はい、大変みたいですね。怪我人はどこですか」
村人を見回すと、わたしに気づいたのか声が上がった。
「ノワだって?」
「ノワが帰ってきたのか?」
「頼む、助けてくれ! 家族が毒にやられたんだ」
「今は何度も回復魔法を使えるから、慌てなくても大丈夫ですよ。傷が重い人、毒を受けてから長い人がいたら、近くの人が手を挙げてください」
「ノワ、あの……」
「アメリーおばさん?……あ、おじさんっ?」
噴水の横に、お隣のおじさんが横たわっていた。
アメリーおばさんの旦那さんだ。
闇バチの毒で発熱しているらしい。
汗ばんだ体を小刻みに痙攣させていた。
わたしが呼んでも反応はない。瞼を開ける力さえ残っていないようだ。
「あたしを闇バチから庇ってくれたんだよ。酔っぱらってたくせに無理をして……」
「ノワ」
オオカミさんがわたしを呼んだ。
黒い毛皮の狼獣化族が羊泥棒として目撃されているということで、今彼は獣化を解呪している。すぐに獣化してしまうかもしれないが、最初から混乱させるよりもいいだろうと考えてのことだ。
ルナール司祭さまは、普通に赤い毛皮の狐の獣化族として歩き回っている。
「解毒剤は持って来ている。毒を受けていても傷の軽い人間は俺が対処しよう。そちらの男性は毒を受けてから長いようだ。君の回復魔法を使ってあげてくれ」
「はい!」
わたしは右腕に意識を集中させた。
手の甲にある魔法紋章の輝きが強くなる。
煌めく文字と記号が腕を昇って、降りていく。
右手から放たれた回復魔法が、お隣のおじさんへと浸透していった。
うっすらと目を開けて、おじさんが言う。
「……ん? アメリー?」
「あんたっ!」
アメリーおばさんに抱きつかれて、おじさんは不思議そうな顔をしている。
しばらく考えて、おじさんは言った。
「俺、酒の飲み過ぎかもしれないな。お前を襲おうとしてたハチが、ものすごく大きく見えた。人間の子どもくらいあったぞ」
「バカだね、大きかったんだよ。闇バチだったんだから」
「闇バチだって。モンスターじゃないか!……ん、ノワ?」
「おじさん、大丈夫ですか?」
「ああ、ノワが回復魔法を使ってくれたのか。どうやら酔っ払いも状態異常らしいな。頭がすっきりしてる」
「あんたはあたしを助けて闇バチに刺されたんだよ。……助かって良かった」
「じゃあほかの人の治療に行きますね」
「ノワ!」
「アメリーおばさん?」
おばさんに手招きされて、わたしは近寄った。
耳元でおばさんが言う。
「……あの黄金色の瞳の色男、もしかしてノワのいい人かい?」
「は、はい。あの……あの人、ルー司祭さまは狼の獣化族なんです。しばらくしたら黒い毛皮に戻ってしまうと思うんですが、えっと、羊泥棒ではありません。おばさんの言う通りいい人、すごくいい人です。あ、それとキャピテンヌは信頼できる人たちに預けているので安心してください」
「狼の獣化族だって?……ちょっと怖い気もするけど、ノワが信じてる人ならあたしも信用するよ」
「ありがとうございます」
「ノワ!」
少し離れたところで、レオンが声を上げた。
彼もオオカミさんに解毒剤を渡されて、村人の治療に当たっている。
「お前火傷も治せたよな?」
「うん、行くね!」
「無理しないようにね、ノワ。……レオンもバカだねえ。都へ行くときに告白しておけば良かったのに」
「うちの息子みたいに好きな女も連れて行けばもっと良かったのにな」
後ろからアメリーおばさんとおじさんの会話が聞こえてきた。
レオンの気持ちに気づいていなかったのは、どうやらわたしだけだったようだ。
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