オオカミさんといっしょ!

豆狸

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第四話 オオカミさんを守りたい。

※18・冷たい石の神殿の中で(星のラクテ視点⑤)

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 ──ひとり眠っていた僕は、不意に目を覚ました。

 石造りの神殿の入り口の扉を叩く音が、いつの間にかやんでいる。
 村長が口汚く罵る声も聞こえてこない。
 みんなしてミーヌ村を出たか、闇バチの餌食になったのだろう。
 元々避難所としての役割もあるため、神殿の戸締りは万全だ。
 重い石の扉を閉じたなら、モンスターも入れない。
 まだ夜は明けていないはずだ。
 闇の底の重い感触がある。
 目を覚ましてしまったのは、僕が緊張しているからかもしれない。
 これまでの殺人とは違う、村ひとつ、いや、村ふたつを消してしまう計画が実行中だった。

 闇バチは役に立つ。
 ヤツら自身の毒を使って誘き寄せられるし、攻撃力が強くて魔法も使える。
 エサにしたモンスターからさまざまな魔法を奪っているけれど、女王モンスターから受け継いだ本来の魔法は魔法力吸収だ。
 そのためどんなに強いモンスターも魔法力を吸収されて、持っている魔法での反撃ができないまま、無数に攻撃されて死んでいく。
 獲物を殺した後もそつがない。
 なにもかも跡形なくボロボロにして、肉団子へと作り変える。
 人間も馬も区別はない。
 すべての住人が闇バチの餌食になったり村から逃げたりしてミーヌ村が無人になったら、神殿の入り口の扉を開けておこう。
 適当に血痕や肉片を転がしておけば、僕も闇バチの被害に遭ったと思うはずだ。
 僕が無事逃げ延びたなんてわかるはずがない。
 このクソゲーの世界には、前世と違ってDNA鑑定なんかないからね。
 そうして、エスクロ男爵の息子である星の神殿の司祭ラクテは消え去るんだ。
 後は修行をして、都で武闘大会が開催されるのを待つ。
 これまではバグみたいなものだったんだ。
 ゲームの主人公としての僕の本当の人生は、これから始まる。
 集めた魔法を存分に使って、チート冒険者として名を馳せよう。

 名を──

 僕の名前は、亡くなった母上がつけてくれたものだった。
 ラクテ。
 古い言葉、というか前世の言葉で星を意味する。
 キラキラと輝く僕の銀髪が、星の輝きのようだったからだと聞かせてくれた。
 前世での名前は覚えてない。
 母上は、生きている間ずっと僕に優しかった。
 たとえ前世の記憶が戻っても、母上がお元気なら、僕は……
 僕は大きく頭を振った。
 くだらないことを考えていても仕方がない。
 どうせゲームの世界だからと思うまま行動してきたけれど、姉上はこの世界の住人でこの世界で生きていく。連続殺人犯の弟なんか必要ない。

 姉上、エスクロ男爵家のレネット令嬢は、ゲームのNPCだった。
 そう気づいたのは、ごく最近のこと。
 この村の村長の息子であるレオンが仲間になるNPCだったと気づいたときだ。
 トマとかいう地味なモブ顔の村人もそうだったかな?
 ゲームの中には僕がいないせいか、いても今年の八月から出現するアバターだからか、父上とミーヌ村の村長が行っていたモンスター密売は、もっと早くに暴かれていた。
 エスクロ男爵家は取り潰しになり、ゲーム中の姉上は元貴族令嬢の冒険者として登場した。姉上も仲間になるNPCだ。
 レオンのほうも冒険者として、武闘大会で活躍していた。
 ふたりが結婚するなんて話はなかった。

 僕は、これまでの生き方を後悔なんてしていない。
 覚えのないNPCたち、僕と同じ『転生者』かもしれないヤツらを殺したことも。
 だけど父上と違って、姉上のことだけはNPCだからと割り切ることはできなかった。
 姉上は僕に優しかった。
 自分も子どもだからなにもできなかっただけで、僕を生け贄にして後妻の嫌がらせから逃げていたわけではない、はずだ。
 母上や姉上に対する父上の言動は、すべて僕が狼の獣化魔法を持って生まれてきたせいだなんて、心の中で責めていたりしなかった、と思う。
 いや、そうなんだ!
 ここはゲームの世界だもの。
 転生して実体があったって作りものの世界だ。
 過去は変えられないにしても、主人公になる僕のために用意された世界なんだ。
 NPCの姉上の心だって、僕が思っている通りに違いない。
 いや、そもそも姉上だけは、NPCだなんて思えない。

 ……姉上は姉上なんだから……
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