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第二話 恋は空回り
2・裏川、裏を知る②
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「裏?」
わたしは茜ちゃんの言葉を繰り返した。
演劇部の夏合宿で忍野くんを巡って女子部員が対決したことに、どんな裏があるんだろう。
耳に当てたスマホから、茜ちゃんの声が聞こえてくる。
スピーカーにして使うのには、どうにも慣れない。
「またしても兄情報。ロミジュリのときの演劇部の部長って、中学時代ジュリエット先輩のストーカーだったらしいの」
茜ちゃんのお兄さんは、なんでも知っているなあ。でも……
「ジュリエット先輩ってだれだっけ?」
「沙英あんた……文化祭公演のとき忍野以外見てなかったの? ジュリエット役やった当時三年生の先輩でしょ。文化祭の前後から、みんなそう呼んでたじゃない」
呆れ返った声で言われて、わたしは高校時代の記憶を探った。
ジュリエット先輩、ジュリエット先輩……聞いたことがあるようなないような。
「えっと、卒業後に駆け落ちしたって有名になった人か。……い、一応言っておくけど、わたし、役と役者さんは分けることにしてるから」
「いいけど。それで、ストーカー部長は町の名家の出だったから、ジュリエット先輩も強く言えなかったみたいよ。というか、警察に言っても相手にされなかったんだって」
「事件が起こらないと動かないからねえ」
イヤなことだけど、よく聞く話でもある。
特に田舎だと、そういう話にはいとまがない。
「……ところでその話、忍野くん関係ある? 文化祭公演のロミジュリで共演しただけだよね」
「あんた、忍野とジュリエット先輩がつき合ってるって噂知らなかったの?」
「へー、そうなんだ。あれ? でもジュリエット先輩の駆け落ち相手って、同学年の男子生徒じゃなかった?」
「もうちょっと忍野に興味持ってあげたら、沙英」
俳優忍野薫のこれからの活動については興味津々なんだけど、忍野くんにはあまり興味が持てない、なんて正直に答えたらまた呆れられてしまうと思い、わたしは言葉を濁した。
「春のキャットファイトの印象が強過ぎて……」
ふふっと、茜ちゃんが笑う声がした。
「わからないこともないわ。確かにジュリエット先輩の本命はほかの男子だったんだけど、忍野がつき合ってる振りをすることでカモフラージュしてたんじゃない?」
「なんで忍野くんが? ジュリエット先輩のことが好きだったとか?」
「そこまではわからないし、ここからはあたしの想像なんだけど、ほら、忍野って目立ってたでしょ? だからストーカー部長がジュリエット先輩のことで嫌がらせをしようとしても、忍野相手だと周りに気づかれて止められる。でも本命の先輩だと周囲が気づかないように嫌がらせされてしまう。それでかな、って」
「ジュリエット先輩の本命をかばったってこと? 忍野くんにそんな男気あるかなあ?」
「忍野の評価低いのね。そりゃわかんないわ。ジュリエット先輩の本命を知らないまま操られてたのかもしれないし、案外本命の男子生徒のほうが好きだったのかもしれない」
茜ちゃんはミステリー好きで、ちょっと腐女子が入っている。
ミステリーは一度ヒットすると息が長いから、探偵でも助手でもいいから俳優忍野薫の当たり役が出ないかな。
そうしたら茜ちゃんも俳優忍野薫の話につき合ってくれそう。
まあ昔から、わたしの俳優忍野薫語りを苦笑しながら聞いてくれてはいるんだけどね。
わたしも茜ちゃんが読んだミステリーの話してくれるの聞くの楽しいし。
思いながら、わたしは頷いた。
「なるほどー」
はーあ、と大きな溜息が聞こえてくる。
「ここは突っ込むところでしょ」
わたしは茜ちゃんの言葉を繰り返した。
演劇部の夏合宿で忍野くんを巡って女子部員が対決したことに、どんな裏があるんだろう。
耳に当てたスマホから、茜ちゃんの声が聞こえてくる。
スピーカーにして使うのには、どうにも慣れない。
「またしても兄情報。ロミジュリのときの演劇部の部長って、中学時代ジュリエット先輩のストーカーだったらしいの」
茜ちゃんのお兄さんは、なんでも知っているなあ。でも……
「ジュリエット先輩ってだれだっけ?」
「沙英あんた……文化祭公演のとき忍野以外見てなかったの? ジュリエット役やった当時三年生の先輩でしょ。文化祭の前後から、みんなそう呼んでたじゃない」
呆れ返った声で言われて、わたしは高校時代の記憶を探った。
ジュリエット先輩、ジュリエット先輩……聞いたことがあるようなないような。
「えっと、卒業後に駆け落ちしたって有名になった人か。……い、一応言っておくけど、わたし、役と役者さんは分けることにしてるから」
「いいけど。それで、ストーカー部長は町の名家の出だったから、ジュリエット先輩も強く言えなかったみたいよ。というか、警察に言っても相手にされなかったんだって」
「事件が起こらないと動かないからねえ」
イヤなことだけど、よく聞く話でもある。
特に田舎だと、そういう話にはいとまがない。
「……ところでその話、忍野くん関係ある? 文化祭公演のロミジュリで共演しただけだよね」
「あんた、忍野とジュリエット先輩がつき合ってるって噂知らなかったの?」
「へー、そうなんだ。あれ? でもジュリエット先輩の駆け落ち相手って、同学年の男子生徒じゃなかった?」
「もうちょっと忍野に興味持ってあげたら、沙英」
俳優忍野薫のこれからの活動については興味津々なんだけど、忍野くんにはあまり興味が持てない、なんて正直に答えたらまた呆れられてしまうと思い、わたしは言葉を濁した。
「春のキャットファイトの印象が強過ぎて……」
ふふっと、茜ちゃんが笑う声がした。
「わからないこともないわ。確かにジュリエット先輩の本命はほかの男子だったんだけど、忍野がつき合ってる振りをすることでカモフラージュしてたんじゃない?」
「なんで忍野くんが? ジュリエット先輩のことが好きだったとか?」
「そこまではわからないし、ここからはあたしの想像なんだけど、ほら、忍野って目立ってたでしょ? だからストーカー部長がジュリエット先輩のことで嫌がらせをしようとしても、忍野相手だと周りに気づかれて止められる。でも本命の先輩だと周囲が気づかないように嫌がらせされてしまう。それでかな、って」
「ジュリエット先輩の本命をかばったってこと? 忍野くんにそんな男気あるかなあ?」
「忍野の評価低いのね。そりゃわかんないわ。ジュリエット先輩の本命を知らないまま操られてたのかもしれないし、案外本命の男子生徒のほうが好きだったのかもしれない」
茜ちゃんはミステリー好きで、ちょっと腐女子が入っている。
ミステリーは一度ヒットすると息が長いから、探偵でも助手でもいいから俳優忍野薫の当たり役が出ないかな。
そうしたら茜ちゃんも俳優忍野薫の話につき合ってくれそう。
まあ昔から、わたしの俳優忍野薫語りを苦笑しながら聞いてくれてはいるんだけどね。
わたしも茜ちゃんが読んだミステリーの話してくれるの聞くの楽しいし。
思いながら、わたしは頷いた。
「なるほどー」
はーあ、と大きな溜息が聞こえてくる。
「ここは突っ込むところでしょ」
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