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第二話 恋は空回り
3・沼の河童に気をつけろ!
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忍野くんBL説に突っ込まなかったわたしに溜息をついて、茜ちゃんが言葉を続ける。
「あんた、本当に忍野への関心薄いのね。よく十三年もつき合ってこれたもんだわ」
「わたしはただの俳優忍野薫クラスタですから」
「はいはい。……で、夏合宿の女子生徒の争いは、忍野とジュリエット先輩を引き離すためのストーカー部長の陰謀ではないかと、あたしは推理するわけ。一見真面目でウソつかなそうなストーカー部長に、忍野は君に気があるみたいだよ、なんて言われたら真に受けちゃうでしょ」
彼女の推理に、わたしは素直に感心した。
ありそうな話だ。
忍野くんは軽い感じのチャラ男だったから、最初からだれにでも愛想は良かったし。
そのくせ女の子が踏み込むと冷たい一面を見せる。
大人気だったそのギャップが、俳優忍野薫の演技力につながっているのかも。
「はー……そんな裏が」
「あくまで推理、あたしの想像。とはいえジュリエット先輩が駆け落ちした後も忍野を恨んでたから、三年に上がっても受験勉強に専念せずに部長やってたんじゃない、あの人。忍野にハムレット役当てるなんて絶対嫌がらせだと思ったわ」
「なんで? 俳優忍野薫はどんな役でもできるよ」
「同級生忍野と役者忍野への信頼の差が激し過ぎる件」
茜ちゃんは今、眉間に皺を寄せてるんだろうなあ。
「実際はユニークな解釈で大成功だったけど、チャラ男で通ってた忍野に悩めるハムレットなんて普通無理だと思うでしょ?」
「……」
「沙英?」
聞いているうちに当時の記憶が蘇ってきた。
なんだかイヤな予感がする。
わたしは恐る恐る言葉を絞り出した。
「えっと……忍野くん、最初は悩めるハムレットの練習してたのね。もちろんそれも上手だったんだけど、わたしがネットの舞台中継映像で観た陽気なハムレットの話をして」
そこまで言って言葉に詰まる。
文化祭公演で観たハムレットは、練習のときとは違う解釈になっていた。
もちろんすっごく面白かった。でも……
「……演劇部のみんなに賛同を得て解釈を変えて公演したんだと思ってた……」
「当日に忍野が解釈違いの演技をして、無理矢理周りを巻き込んだんだったりして」
「俳優忍野薫ならできるかも」
とは言うものの、わたしの言葉のせいだったとしたら、俳優忍野薫にも演劇部のみんなに対しても悪かったな。
劇全体の解釈や世界観は統一してないとダメだよねえ。
電話の向こうで茜ちゃんが笑う。
「ホント役者忍野の評価高いわね、沙英は。もしそうだとしたら、観客に絶賛されたんでストーカー部長も文句言えなかったのかも。あたしたちもスタンディングオベーションしたし。悲劇だと思って観てたら、テンポもいいしハムレットはちょっと毒のあるお調子者だしで面白かった」
「シェイクスピアは元々大衆演劇だからね」
ここぞとばかりにわたしは語り始めた。
高校一年のとき、忍野くんがロミオの練習をするのを目撃してからの底の浅いシェイクスピアファンにだって、いろいろと思うところがあるのだ。
「ハムレットって最後にいっぱい人が死ぬから悲劇にされてるけど、はい死んだー、次も死んだーのノリでちょっとモンティパイソンに通じるところもある気がする」
「でもロミジュリもハムレットも忍野の恋愛の演技は全然だったよね。ロミオなんか純粋なジュリエットを騙してるスケベ男にしか見えなくて、最後も恋に準じたふたりっていうより、ジュリエットは死を以てロミオを手に入れたのです、みたいな感じだった」
「そうそう、そうなのよ!」
はい来ましたー!
俳優忍野薫クラスタの血が燃え上がる。
いや、ファンでもオタクでもいいんだけど……河童でもいいな。
わたしは俳優忍野薫沼に棲む裏川沙英河童。
いつでも仲間を増やそうと狙っているよ?
「実はね茜ちゃん、俳優忍野薫は恋愛の演技を克服しました。現在公開中の映画『キラーナイト』をご覧ください。なんならチケット送ろうか? 今疲れてるだろうから気分転換にちょうどいいと思うよ」
「あんた、本当に忍野への関心薄いのね。よく十三年もつき合ってこれたもんだわ」
「わたしはただの俳優忍野薫クラスタですから」
「はいはい。……で、夏合宿の女子生徒の争いは、忍野とジュリエット先輩を引き離すためのストーカー部長の陰謀ではないかと、あたしは推理するわけ。一見真面目でウソつかなそうなストーカー部長に、忍野は君に気があるみたいだよ、なんて言われたら真に受けちゃうでしょ」
彼女の推理に、わたしは素直に感心した。
ありそうな話だ。
忍野くんは軽い感じのチャラ男だったから、最初からだれにでも愛想は良かったし。
そのくせ女の子が踏み込むと冷たい一面を見せる。
大人気だったそのギャップが、俳優忍野薫の演技力につながっているのかも。
「はー……そんな裏が」
「あくまで推理、あたしの想像。とはいえジュリエット先輩が駆け落ちした後も忍野を恨んでたから、三年に上がっても受験勉強に専念せずに部長やってたんじゃない、あの人。忍野にハムレット役当てるなんて絶対嫌がらせだと思ったわ」
「なんで? 俳優忍野薫はどんな役でもできるよ」
「同級生忍野と役者忍野への信頼の差が激し過ぎる件」
茜ちゃんは今、眉間に皺を寄せてるんだろうなあ。
「実際はユニークな解釈で大成功だったけど、チャラ男で通ってた忍野に悩めるハムレットなんて普通無理だと思うでしょ?」
「……」
「沙英?」
聞いているうちに当時の記憶が蘇ってきた。
なんだかイヤな予感がする。
わたしは恐る恐る言葉を絞り出した。
「えっと……忍野くん、最初は悩めるハムレットの練習してたのね。もちろんそれも上手だったんだけど、わたしがネットの舞台中継映像で観た陽気なハムレットの話をして」
そこまで言って言葉に詰まる。
文化祭公演で観たハムレットは、練習のときとは違う解釈になっていた。
もちろんすっごく面白かった。でも……
「……演劇部のみんなに賛同を得て解釈を変えて公演したんだと思ってた……」
「当日に忍野が解釈違いの演技をして、無理矢理周りを巻き込んだんだったりして」
「俳優忍野薫ならできるかも」
とは言うものの、わたしの言葉のせいだったとしたら、俳優忍野薫にも演劇部のみんなに対しても悪かったな。
劇全体の解釈や世界観は統一してないとダメだよねえ。
電話の向こうで茜ちゃんが笑う。
「ホント役者忍野の評価高いわね、沙英は。もしそうだとしたら、観客に絶賛されたんでストーカー部長も文句言えなかったのかも。あたしたちもスタンディングオベーションしたし。悲劇だと思って観てたら、テンポもいいしハムレットはちょっと毒のあるお調子者だしで面白かった」
「シェイクスピアは元々大衆演劇だからね」
ここぞとばかりにわたしは語り始めた。
高校一年のとき、忍野くんがロミオの練習をするのを目撃してからの底の浅いシェイクスピアファンにだって、いろいろと思うところがあるのだ。
「ハムレットって最後にいっぱい人が死ぬから悲劇にされてるけど、はい死んだー、次も死んだーのノリでちょっとモンティパイソンに通じるところもある気がする」
「でもロミジュリもハムレットも忍野の恋愛の演技は全然だったよね。ロミオなんか純粋なジュリエットを騙してるスケベ男にしか見えなくて、最後も恋に準じたふたりっていうより、ジュリエットは死を以てロミオを手に入れたのです、みたいな感じだった」
「そうそう、そうなのよ!」
はい来ましたー!
俳優忍野薫クラスタの血が燃え上がる。
いや、ファンでもオタクでもいいんだけど……河童でもいいな。
わたしは俳優忍野薫沼に棲む裏川沙英河童。
いつでも仲間を増やそうと狙っているよ?
「実はね茜ちゃん、俳優忍野薫は恋愛の演技を克服しました。現在公開中の映画『キラーナイト』をご覧ください。なんならチケット送ろうか? 今疲れてるだろうから気分転換にちょうどいいと思うよ」
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