転生錬金術師・葉菜花の魔石ごはん~食いしん坊王子様のお気に入り~

豆狸

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冒険者始めました編

12・薬草採取に行こう!

「いただきます」

 受付のお姉さんはフォークを持ってきて、四つのケーキをそれぞれ四等分にした。
 モンブランにフォークを刺して、口に運ぶ。

「んんー♪ 美味しい!」

 ……良かった。
 息を殺して見つめていたわたしは、お姉さんの笑顔で胸を撫で下ろした。

「わふふ」

 ラケルはドヤ顔をしている。
 まあわたしも前世で、ラケルが褒められてたらドヤ顔してたけど。

「モンブランはまろやかで、ガトーショコラは濃厚で、チーズケーキは爽やかで、苺のムースは甘酸っぱくて……どれも美味しかったわ」

 あれ? いつの間にか四種類全部食べてる!

「あなたのスキルは『魔石料理変成錬金術』でいい?」

 残りのケーキが載ったお皿を脇に避け、お姉さんが受付の机の上にミスリル銀紙を出す。

「……」
「わふ?」
「えっと『魔石ごはん変成錬金術』でお願いします」
「わふ!」

 せっかくラケルがつけてくれた名前なんだから活用しなくちゃね。
 本当は『異世界料理再現錬金術』だけど、異世界のことは言わないようにってシオン君達にも釘を刺されてる。

「それではここに署名をお願いね」
「代筆してください。葉菜花と言います」
「わかったわ、葉菜花さんね。でもゆくゆくは文字も覚えたほうがいいわよ」
「はい……」

 わたしの『異世界言語理解』はレベルMAXだ。
 この世界の言葉ならどこの国のどの時代、どんな文字でも自動的に日本語に翻訳される。

 でもその代わり、この世界本来の文字が認識できない。
 自分の努力でレベルが上がったスキルならレベルを落として活用することもできるらしいが、女神様にもらったものだからそれができないのだ。
 ……どうしたらこの世界の文字を認識できるようになるのかなあ。

 お姉さんはてきぱきと話を進め、わたしの年齢と出身地を記入してくれた。

 もちろん出身地は『異世界』ではない。
 シオン君が管理している、ラトニー王国辺境にある村の名前を言った。
 年齢は十五歳でいいよね? あの前世からすぐに再現転生されたのだとしても、ひと月以内に誕生日なんだけど。

 冒険者ギルドの決まりについての説明のあと、お姉さんはナイフを取り出してわたしに差し出してきた。

「次にこのナイフで指先を切って、ここの水晶に注いでちょうだい」
「はい」
「わふう?」

 心配そうに見つめるラケルの前で指先を切り、ミスリル銀紙に埋め込まれた水晶に滴る血を注ぐ。

「『小回復』」

 冒険者ギルドの魔道具で指の傷を治してもらったあと、お姉さんはミスリル銀紙から水晶を外して銀の鎖をつけた。
 ペンダントになった水晶を揺らして聞いてくる。

「葉菜花さん、あなたは人を殺したことがありますか?」
「あ、ありません」

 疚しいことなんかないのにどもっちゃった。
 殺人を犯した人間は冒険者にはなれないことになっている。
 水晶が淡く白い光を放って、お姉さんが微笑んだ。

「こういうのって疚しいところのない人のほうが緊張するらしいわよ」
「そうなんですか。……えっと……」
「大丈夫。葉菜花さんの発言は真実だと証明されました。これからはこの水晶があなたを冒険者だと証明するわ。なくさないようにね」

 ペンダントを渡されて、首にかける。

「私はスサナ。なにか困ったことがあったら相談してちょうだい」
「は、はい! よろしくお願いします」

 水晶が埋め込まれていたミスリル銀紙には『刻印』錬金術師が刻んだ魔術式があった。
 それでわたしが嘘をついたかどうかが判断されたのだ。
 これからどこかで冒険者だと確認するときにも術式が作用する。

 ……のだと思う。魔術式を見たのは初めてだけど。
 魔道具の術式は内部の核に刻まれてるから、外からは見えないんだよね。
 神獣ダンジョンの転移陣はゴーレムと同じ古代文明の遺物だそうで、ミスリル銀紙の魔術式とは根本的に違う感じだ。

「スサナさん、依頼を受けるには壁の依頼書を受付に持ってきたのでいいですか?」
「ええ。今日から活動するの?」
「実はわたし友達に宿代を出してもらってて……その友達が、とりあえず今日中にひとつは依頼を受けて完了しろって言うもので」
「そうなの。このギルドの裏にある『銅のシャドウウルフ亭』なら冒険者水晶で身分を証明すれば一泊朝食付きで銅貨十枚よ」

 ……ごめんなさい、スサナさん。
 わたし、向かいの『黄金のケルベロス亭』に泊まってるんです。

 ついでにいうと冒険者ギルドの隣には『白銀のダークウルフ亭』が建っている。
 一泊朝食付きで銀貨一枚(一万円くらい)だそうです。

 この冒険者ギルドが食べ物や飲み物を出していないのは、裏にある『銅のシャドウウルフ亭』のお客を奪わないためとのこと。
 冒険者の宿賃を下げてもらう代わりに、はぐれモンスターの肉を安く卸すなどして便宜を図ってるんだって。
 朝食付きで一泊銅貨十枚って前世で言えば千円くらいだもん。格安です。

 考えてみます、と答えて、わたしは依頼書の張られた壁に向かった。

「おおっ!」
「わふ?」

 異世界転生もののお約束、薬草採取の依頼があった。
 シオン君にこれを受けろと言われてたからあって当然なんだけど、実際に目にすると、なんだかちょっと感動してしまう。

 店番や引っ越しのお手伝いなんて依頼もある。
 でも……わたし、この世界の常識知らないからなあ。
 捕獲依頼は少ししかなかった。それもモンスターのものではなく、お肉が欲しいからウサギや鹿を獲って来て欲しいというもの。

 さっきスサナさんが説明してくれていた。
 問題のあるはぐれモンスター(危険性が高く人里近くに姿を現したもの)を退治しないといけないときは、ギルドが優秀な冒険者に直接依頼するのだと。
 あと、ダンジョンに潜るときは基本的にパーティじゃないといけないとか、いろいろあるみたい。強い冒険者ならソロでも許されるみたいだけど。

 ミスリル銀紙だった薬草採取の依頼書を剥がして──これって高価そうだから再利用してるのかな?──受付へ戻る。
 スサナさんは机の下から図鑑を出して、依頼の薬草について教えてくれた。

「薬草一本で銅貨一枚、引き取り本数に制限はないわ。地味だけど大切なお仕事よ。数日で再生するから根っこまでは抜かないで。柔らかいから傷めないよう気をつけてね」
「はい」
「あ、ケーキのお皿はどうしましょう? べつのお皿にケーキだけ移しましょうか?」

 お皿にはまだ、四等分したケーキの残りが載っていた。
 スサナさん以外の人でお昼休みにでも食べてくださいと告げている。
 四等分して味見したのだから、スサナさんも最初からそのつもりだったのだろう。
 今は前世でわたしが死んだときと同じ早春らしいので、すぐには痛まないと思うし。

「お皿は依頼完了の報告に来たときに引き取ります」
「わかったわ。辺りが暗くなるとダンジョン帰りの冒険者が魔石を売りに来てギルドが混雑するから、明るいうちに帰って来なさいね」

 ダンジョンアントの問題はあるものの、冒険者の花道はダンジョン探索だ。
 王都周辺のダンジョンは神獣ダンジョンの影響もあってレベルが高いという。
 戦闘力がないわたしには関係のない話だけどね。

 ……ラケル? うちの可愛いわんこをモンスターと戦わせるわけにはいきません!

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