婚約破棄されても賞金稼ぎなので大丈夫ですわ!

豆狸

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最終話 一件落着ですわ!

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 私はにっこり笑って、彼に婚約破棄の書類を渡しました。
 先ほど出したのは破られましたので新しいものです。
 この方達と離れることで私の武器正当な跡取りであることは力を持ちますので、機会を逃さぬよう何枚も持ち歩いていたのですわ。書類を見て一瞬顔色を変えたものの、イリスィオ様は署名をしてくださいました。私との婚約を破棄しても、実家の侯爵家に見放されなければまだ未来はあると考えたのでしょう。

「メ、メリサ。私にも先ほどの絶縁届に署名しろというのか?」
「そのほうがすっきりしますけれど、どちらにしても同じですわ、お父様。今絶縁するのも、取り調べが終わって一ヶ月ほど先に戻ってきて絶縁されるのも」

 イリスィオ様がおっしゃった通り、私達は後一ヶ月でこの国の貴族子女が通う学園を卒業いたします。
 貴族社会における成人です。
 そうしたら、ウリャフト伯爵家の正式な当主となった私のほうから父を絶縁することも可能なのです。

「とりあえず詰所へいらしてください。もしかしたら一ヶ月もかからずに、こちらへ戻れるかもしれませんよ」

 婚約破棄の書類に署名したイリスィオ様は騎士様の手が離れた途端ご自宅へ逃げ帰り、父は微笑むトゥリホマス様に連れられて行ってしまいました。
 もちろん賞金首の男も愛人親娘もいなくなりました。
 私は使用人達にお願いして、遅い夕食の準備をしてもらったのです。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「……そういえば」
「んー、なになに、メリサちゃん?」
「我が家にお母様を殺した賞金首を連れて来てくださったとき、一刻を争うような事態だったのですか?」

 あれから一ヶ月が過ぎました。
 私は学園を卒業してウリャフト伯爵家の当主となり、取り調べが終わって解放された父と正式に絶縁いたしました。
 賞金首の男と愛人親娘は罪に応じた罰を受け、青百足会の元補佐は貧民街に右腕が転がっていたとか。青百足会のおさが裏切り者に対する見せしめとして、少しずつ体を刻んでいっているのかもしれませんね。

 父はやっぱりメイド長と関係を持っていたようです。
 というか彼女の横領は父のためだったらしいです。
 当時のお母様は父とも離縁しようと思っていらっしゃったのかもしれませんね。父は殺人に関与していませんでしたし、今となってはお母様の気持ちもわかりませんけれど。

 伯爵家の財政は、かなりあの四人に食い荒らされていました。
 イリスィオ様のご実家には賠償金を要求していますし、頼りになる執事と一緒に運営を改善したりしていますので、直に立て直せることでしょう。
 とはいえ仕事ばかりでは疲れてしまうので、今日は久しぶりに賞金首の通報に来ました。しばらく見ないとすぐ増えますね。あ、賞金稼ぎもお仕事でした。

 トゥリホマス様は私の質問に、どこか歯切れ悪くお答えになります。

「うーん。彼が捕まったことが知れ渡ったら、君の家の愛人親娘やメイド長が逃げてたかもしれないしー、君の父親や元婚約者も関与してたのかもしれないしー」
「そうですか」

 捜査のときの慣用句のようなものだったのかと考えて、話を切り上げようとしたのですけれど、トゥリホマス様はなぜか少し照れたようなお顔で言葉を続けました。

「あー。……実際のところは、君にカッコいいところ見せたかったからかもしれないー」
「私に?」
「うん。メリサちゃんが初めてこの詰所に来たとき、賞金首の通報はしてくれたけど、元婚約者と愛人の娘に置いて行かれた衝撃で半泣きだったじゃん」
「……昔のことですわ」

 学園に入学してすぐのころでした。
 お母様を亡くした悲しみからも立ち直り切れていなかった私は、そこここに気配を感じるならず者達の前で弱みを見せないようにするだけで精いっぱいでした。
 王国騎士団の詰所に入った途端に涙がこぼれてしまったのですよね。泣きながらも賞金首の情報はお伝えしました。トゥリホマス様は私が泣き止むまで、頭を撫でてくださいましたっけ。

「そのメリサちゃんがいつの間にか成長して、裏社会の情報まで教えてくれるから、なんか焦っちゃって。普段のだらけた俺だけじゃなくてー、仕事中の俺も見てもらいたかったわけ」
「そうだったんですか」
「もしかしたら俺、メリサちゃんのこと本気で好きなんだったりしてー」
「あら、そうだったら嬉しいですわ。私はトゥリホマス様のことが大好きですので」
「へ?」

 イリスィオ様と婚約しているころは必死で抑えていましたが、先ほどトゥリホマス様がおっしゃったようなことがあったのですよ?
 泣いているときに優しくされてしまったら、心惹かれずにはいられないじゃありませんか。浮気されているからって浮気し返すのは美しいおこないではないと思って、本当に必死で心を押し殺していたのですがね。
 トゥリホマス様は少し照れていたお顔を真っ赤になさって、

「そ、そうなんだー」

 今のところ王太子殿下の専属近衛騎士に戻る予定はなさそうですし、私はウリャフト伯爵家の当主であると同時に賞金稼ぎでもあるので、この騎士団の詰所へ来る理由には事欠きません。
 伯爵家当主の仕事も賞金稼ぎも、もちろん恋も頑張りますので応援してくださいませね、天国のお母様。
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