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第四話 解毒剤
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私の言葉に、パトリツィオ様が頷きます。
「ああ、そうだね。婚約関係でなくなったのなら、そこまでは出来ないだろう」
「父にもお願いしたのですが、パトリツィオ様のほうからもブルーノ伯爵家にお勧めしていただけないでしょうか」
薬には使用期限というものがあります。
年月によって薬効が劣化して、効き目が無くなってしまうのです。
私は使用期限が切れる前に新しいものを注文して、ブルーノ伯爵家に届けていただいていました。
もちろん養蜂業が盛んな国なので、貴族家にも学園にも解毒剤は常備されています。
でもそういったものは使用期限が長い分、薬効が弱いのです。
パトリツィオ様の研究で創り出された新しい解毒剤は、使用期限が短い代わりに薬効が強いものでした。学園に入学してサーラ様と出会い、パトリツィオ様の研究についてお聞きしてからは我がビアンキ伯爵家も研究への支援をさせていただいています。
パトリツィオ様が優しい微笑みを浮かべて首肯してくださいます。
「わかった。私のほうからブルーノ伯爵家に話をしてみよう」
「お兄様に商品の売り込みなんか出来るのかしら? スザンナと知り合って蜂毒の恐ろしさを教えてもらわなかったら私、今でもお兄様は毒の研究に明け暮れる変わり者だと思っていたわよ。なにもおっしゃってくださらなかったのだもの!」
コスタ侯爵夫人はサーラ様達が幼かったころに、蜂毒で亡くなっています。
その際、サーラ様も蜂に刺されたのだそうです。
コスタ侯爵は養蜂業から手を引き、サーラ様を危険と思われる場所に行かせないことで守っていらっしゃいました。ですがパトリツィオ様は、蜂毒の解毒剤を研究することでお母様の無念を晴らし、サーラ様を守ろうとなさっていたのです。
……無口な方なので、全然伝わっていませんでしたが。
学園に入学して騎士科の授業を見学して、これまで以上にカストロ様が心配になった私がサーラ様を通じてパトリツィオ様に蜂毒の解毒剤を注文したことで、おふたりの仲にも変化が起きました。
パトリツィオ様とお話になったサーラ様が、彼の気持ちを知ったからです。
今のサーラ様とパトリツィオ様は、仲の良いご兄妹です。
「それよりスザンナ」
「なんですか、サーラ様」
「新しい婚約者に、うちのお兄様はいかが? せっかく顔が良いのに無口でなにを考えているのかわからない兄だけど、貴女ならお兄様の良さをわかってくださるでしょう?」
「……サーラ」
サーラ様の言葉に私が目を白黒させていると、パトリツィオ様が彼女の名前を呼んで窘めてくださいました。
「ふふっ。でも悪い話ではないと思うわよ? 私、スザンナが妹になったら嬉しいわ」
「その場合、私のほうが姉になるのではないでしょうか?」
「あら、私が姉よ。私のクリスティアンはお兄様より年上だもの」
クリスティアン様はサーラ様の婚約者でコスタ侯爵家の家臣の方です。
今はコスタ侯爵家の領地のほうで、次期当主の婚約者として鍛えられていると聞いています。
サーラ様は子どものころから彼が好きだったのだそうです。跡取り娘になったおかげで彼を婿に出来るようになったのだと、嬉しそうにおっしゃっていました。
パトリツィオ様が当主の座を妹のサーラ様に譲ったのは、研究に没頭したいからだけではなかったのかもしれません。
……余計なことだったかもしれませんが、パトリツィオ様の解毒剤があれば、これからのカストロ様も安心でしょう。
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。
だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。
「ああ、そうだね。婚約関係でなくなったのなら、そこまでは出来ないだろう」
「父にもお願いしたのですが、パトリツィオ様のほうからもブルーノ伯爵家にお勧めしていただけないでしょうか」
薬には使用期限というものがあります。
年月によって薬効が劣化して、効き目が無くなってしまうのです。
私は使用期限が切れる前に新しいものを注文して、ブルーノ伯爵家に届けていただいていました。
もちろん養蜂業が盛んな国なので、貴族家にも学園にも解毒剤は常備されています。
でもそういったものは使用期限が長い分、薬効が弱いのです。
パトリツィオ様の研究で創り出された新しい解毒剤は、使用期限が短い代わりに薬効が強いものでした。学園に入学してサーラ様と出会い、パトリツィオ様の研究についてお聞きしてからは我がビアンキ伯爵家も研究への支援をさせていただいています。
パトリツィオ様が優しい微笑みを浮かべて首肯してくださいます。
「わかった。私のほうからブルーノ伯爵家に話をしてみよう」
「お兄様に商品の売り込みなんか出来るのかしら? スザンナと知り合って蜂毒の恐ろしさを教えてもらわなかったら私、今でもお兄様は毒の研究に明け暮れる変わり者だと思っていたわよ。なにもおっしゃってくださらなかったのだもの!」
コスタ侯爵夫人はサーラ様達が幼かったころに、蜂毒で亡くなっています。
その際、サーラ様も蜂に刺されたのだそうです。
コスタ侯爵は養蜂業から手を引き、サーラ様を危険と思われる場所に行かせないことで守っていらっしゃいました。ですがパトリツィオ様は、蜂毒の解毒剤を研究することでお母様の無念を晴らし、サーラ様を守ろうとなさっていたのです。
……無口な方なので、全然伝わっていませんでしたが。
学園に入学して騎士科の授業を見学して、これまで以上にカストロ様が心配になった私がサーラ様を通じてパトリツィオ様に蜂毒の解毒剤を注文したことで、おふたりの仲にも変化が起きました。
パトリツィオ様とお話になったサーラ様が、彼の気持ちを知ったからです。
今のサーラ様とパトリツィオ様は、仲の良いご兄妹です。
「それよりスザンナ」
「なんですか、サーラ様」
「新しい婚約者に、うちのお兄様はいかが? せっかく顔が良いのに無口でなにを考えているのかわからない兄だけど、貴女ならお兄様の良さをわかってくださるでしょう?」
「……サーラ」
サーラ様の言葉に私が目を白黒させていると、パトリツィオ様が彼女の名前を呼んで窘めてくださいました。
「ふふっ。でも悪い話ではないと思うわよ? 私、スザンナが妹になったら嬉しいわ」
「その場合、私のほうが姉になるのではないでしょうか?」
「あら、私が姉よ。私のクリスティアンはお兄様より年上だもの」
クリスティアン様はサーラ様の婚約者でコスタ侯爵家の家臣の方です。
今はコスタ侯爵家の領地のほうで、次期当主の婚約者として鍛えられていると聞いています。
サーラ様は子どものころから彼が好きだったのだそうです。跡取り娘になったおかげで彼を婿に出来るようになったのだと、嬉しそうにおっしゃっていました。
パトリツィオ様が当主の座を妹のサーラ様に譲ったのは、研究に没頭したいからだけではなかったのかもしれません。
……余計なことだったかもしれませんが、パトリツィオ様の解毒剤があれば、これからのカストロ様も安心でしょう。
こうして、いつまでも心配と称して執着していてはいけないとわかっています。
だけど私の心には今でも、襲い来る蜂から私を守ってくれた幼い騎士の姿が輝いているのです。
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