王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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 穏やかな午後の陽射しを避け、ガゼボに座る二人に心地よい風が吹いてくる。
「──ところで、先ほどの姉上の話なのだが…」
 やはり来たかとセシリアは覚悟を決めた。いずれは話さねばならないことなのだ。
「はい。私がリーナ様に申しあげたのです。リーナ様の婚約が調った暁には、学園を辞めて領地に戻りたいと。」
 ジークフリートは組んだ脚の上でそっと両手を握った。冷静に──落ち着いて話を進めなければならない。
「学園を辞めるとは?」
「王都の邸から通うことはできませんし、もちろん領地からも遠すぎます。学園の寮に入れるよう父に口利きを頼むよりは辞めてしまおうかと…。」
「…どうして?侯爵ほどの方ならばそんなこと簡単だろうに。侯爵とは会って話をしたんだろう?まだわだかまりがあるのか?」
 ──わだかまり、なのだろうか?レジナルドに連れられ訪れた騎士団で父と話し、今までの謝罪をされた。しかしその後はセシリアの方からも侯爵の方からも一切連絡を取っていない。セシリアには連絡を取るつもりもない。
「この感情が何なのかは、私にもよくわかりません。ですが父に頼ることは考えられないのです。」
「そうか…。」
 本人がよくわからないものをこれ以上聞いてもしょうがないだろう。ジークフリートはセシリアに学園を辞めさせる気はない。もちろん王宮を去らせるつもりもないのだが…。
「学園を辞めたとして、その後どうするんだい?何か考えが?」
「──まずは領地で祖父から領地経営を学ぼうと考えています。」
「領地経営?」
 この国では女領主は認められていない。ジークフリートは首を傾げた。
「はい。侯爵家には私と妹しかおりません。妹は義母に嫁ぎ先を見つけてもらって何れは居なくなるでしょう。」
「嫁いで居なくなるのは貴方だってそうだろう?…それとも、婿でも迎えるの?」
「…そうなってもいいように、祖父から学ぼうと。」
 侯爵ではなく老侯爵から学ぶというところに、やはり何かを感じるのだが──。
「リア、大事なことを教えてあげるよ。」
「はい?」
「学園を途中で辞めたら婿候補の数は一気に減る、わかるね?」
 ──それに、王太子である自分は侯爵家の婿にはなれない。
 セシリアは黙り込んでしまった。もちろんそんなことは承知の上だったのだろう。祖父に領地経営を学ぶなど、ただの口実にすぎない。
「ところで、姉上からステーリアの話を何か聞いた?」
「ステーリアの話、ですか?いいえ…。」
 急な話題の転換に、どこかほっとした様子でセシリアは首を傾げた。
「ステーリアの王太子が、貴方を留学させないかと言ってきている。」
「私が、留学…?」
「そうだ。ヴィルヘルムの侯爵家の、ステーリア語をみごとに操るを…姉上の輿入れより。」
 セシリアの見開かれた目がジークフリートを見上げた。
「リーナ様の輿入れについて行くという話では?」
 ジークフリートは組んでいた脚をほどくと、隣に座るセシリアの手を両手で包み、否定するように顔を横に振った。
「一度あちらへ行けば…ヴィルヘルムに戻ることはもう叶わないだろう。」
 リーナ王女はステーリア王太子に手紙を書くとき、以前は当たり障りのない社交辞令の範囲で納めていた。しかしセシリアが傍につくようになってから、それでは余りにもひどいのではないかという事になりその内容を改めたのだ。もちろん手紙の内容はリーナ自身が決めていた。しかしその装飾というべき言葉を施したのがセシリアであった。ステーリアの王家は代々武より文を得意としていた。その為かステーリア語の文章は他国と比べて比喩や言い回しに装飾的な言葉が多く使われる。その辺りが学べば学ぶほど奥が深く、リーナが苦手な所でもあった。侯爵家で本ばかり読んでいたセシリアは、古い文献を多く目にしていたためかその知識量は目を見張るものがあり、書く文章はどことなく古めかしい、よく言えば格調高い言葉を選ぶようになっていた。ステーリア王太子は自国の高位貴族の令嬢でも知らないような言葉を巧みに操り、格調高い手紙をしたためたのが王女ではなくセシリアだと気付いてしまったのだろう。
 ジークフリートは放心状態のセシリアの手を取ったまま椅子を降り、その場で跪いた。
「リア、貴方にはまだ他にも道がある。」
 そう言うと胸ポケットから取り出したものをセシリアに見えるように差し出した。
「…この指輪を貴方の手に嵌めてほしい。──愛している、セシリア。」
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