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指輪

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 ヴィルヘルム王国では、王族に子供が生まれたその日、男児には金、女児には銀の王家の紋章入りの指輪が贈られる。そしてその子の7歳の誕生日には新たに紋章が定められ、王子にはそれを刻んだ対となる銀の指輪が贈られる習わしだ。王族は16歳になる頃にはその指輪を常に身に着けるようになり、銀の指輪は王子の婚姻式でただ一人の妃の指にはめられることになる。
 王家の金の指輪の存在は王国国民ならば誰もが知っていた。しかしの存在はなかなか一般には広まっていない。
 ジークフリートは初夏の陽射しを受けて銀色に煌めく指輪を差し出したまま、セシリアを熱く見上げている。
 セシリアは混乱していた。目の前に跪く麗しい姿の王太子殿下と、その手に光る銀の指輪──。
「──殿下の…対の銀の指輪」
「そうだよ、リア。──私の、妃の指輪だ。」
 ──やはりリアは知っていたか。ジークフリートは逸る心を抑えると、セシリアの手を取り、そっと銀の指輪をのせるとそのまま自らの両手で包み込んだ。
「あの…私…」
 何か言わなければという思いだけで口を開くも、その先に続けるべき言葉がみつからない。
 学園を辞めて王宮から離れよう…領地へ籠ろうと先ほどまではそういう話をしていたはず。それがステーリアへの留学の話へと変わり、挙句の果てに”愛している”と妃の指輪を握らされるだなんて…。
 いつの間にか立ち上がっていたジークフリートは、セシリアの手を握ったまま、もう一度その瞳を覗き込んだ。
「…あの茶会の日から、ずっと貴方のことばかり頭の中で考えてきた。リア、愛しているんだ。貴方を何処にも行かせたくない、誰かに渡したりしない。」
 ジークフリートは片手でセシリアの肩を引き寄せると、そっと口付けた。唇を離すと、セシリアが完全に固まっていることに気が付き、甘く笑うともう一度今度は少し長く口付けた。
 顔を伏せてこちらを見ようともしないセシリアに、思わず笑みがこぼれる。
「ねぇ、リア。知っていた?この庭は私の執務室からとてもよく見えるんだ。今日も姉上と貴方がお茶をしているのが見えたからレジーと降りてきたんだ。──姉上の部屋も、父の執務室も庭向きに大きな窓があるよね。」
 ジークフリートは目線で国王の執務室の方を示すと、そのままセシリアを抱き寄せた。
「で、殿下!」
 首まで真っ赤に染めて恥ずかしそうにしているセシリアだが嫌がる様子はない。赤く、少し潤んだ目でこちらを可愛らしく睨んでくるセシリアを見て、ジークフリートは思わず息をのんだ。
 ──リア。私にとって貴方のその顔は媚薬と同じなんだよ?
 思わず零れそうになった言葉をぐっと飲み込む。ここでこれ以上セシリアと一緒にいるのは、さすがに限界だ…。
 ジークフリートはその大きな手でセシリアの頭をポンポンと撫でると、小さな子供をあやすかのように優しく微笑みかけた。
「そんな顔しないで、ね?」
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