王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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呼び出し

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 雲行きの怪しかった空から雨が降り出したのはそれから間もなくのことだった。フェルナンドとの突然すぎる対面に呆然自失のセシリアのもとに、夕食後国王の執務室に来るようにと知らせが届いた。
 王宮で過ごすようになってから何度かジークフリードに伴われ国王の執務室に行ったことはあったが、直々に呼び出されるのは初めてのことだ。先ほどのフェルナンドの様子を思い出し、一層不安な気持ちになってしまう。
 一人で食事をとるもののやはり喉を通って行かない。早々に食事を終えたセシリアは、ふと昼の庭園で薔薇の花びらをハンカチに挟んだままだったことを思い出した。
「あ…」
 昼に見たときは傷ひとつなく白く滑らかだった花弁は、ハンカチの中で痛んで茶色く変色しはじめていた。傷つけないようにそっとハンカチでくるんでいたのに──セシリアは花弁をハンカチごと机の上に置くと、しばらく見つめていた。花から落ちた花びらは、どんなにがんばっても元には戻れない。たとえ丁寧に拾い上げハンカチにくるんでいても傷つき、色褪せ、やがては枯れ、そして捨てられてしまう。
 ──次に庭師に会った時に何か別の方法がないか聞いてみよう。

 嫌な予感は的中するもので、国王の執務室にはフェルナンドの姿もあった。セシリアが部屋に入るとフェルナンドは立ち上がり、当然のようにセシリアを自らの隣に座らせた。どうやらリーナ王女とジークフリートは呼ばれていないようだ。
「セシリア嬢、フェルナンド殿下とは庭園で既に顔を合わせたと聞いている。このような時間に呼び出してすまなかった。まぁ楽にしてほしい。」
 国王に隣国の王太子という甚だおかしな顔ぶれを前に楽にできる訳がない。しかしセシリアは国王の言葉に小さく頷いて見せた。
 国王はそれに優しく微笑むと、フェルナンドを促す。
「実は私…いえ、僕が君に話したいことがあって呼び出してもらったんだ。二人でというのは外聞が悪いからね。」
 フェルナンドは回廊で初対面の女性の髪に口付けたことは忘れたかのように爽やかに話しかけてくる。
「僕は君をステーリアにと思っている。…君を迎えに来たんだよ。」
 フェルナンドの話すヴィルヘルム語は正確な発音で、聞き間違えではなかった。ではなくと敢えて言っているようだ。
「ジークフリード殿下からは留学の話が上がっていると伺っておりましたが…」
「あぁ、確かに陛下への手紙ではそう伝えた。だが…君ももう気付いているだろう?僕と君はなんだよ。」
 フェルナンドは目を細めると、自らの髪をひと筋つかんだ。
「この髪の色、瞳の色、巧みなステーリア語。…君は間違いなく受け継いでいる。…つまりは、正統なステーリアの血を…だよ、従妹殿。」
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