王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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戸惑い

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「母が…ステーリア王家の血を受け継いで居ると仰るのですか?」
 セシリアがフェルナンドに問うと、国王がそれに答えた。
「それは少しだけ違う。君の母君と現ステーリア王妃は姉妹なのだよ。そのことに関しては、わが王家も君の父上であるビューロー侯爵も承知している事だ。」
 母同士が姉妹であるならば、確かにステーリア王太子とセシリアはいとこの関係にあたる。しかし、セシリアは今まで自分の母親がステーリアの出身であることすら知らされぬまま過ごしてきた。
「父は…私に何も教えてくれませんでした。」
 国王は大きく頷くと遠い目をした。
「母君に関することどころか、君たち父子は今まで何も話して来なかった…そうであろう?」
 決して咎めるような話し方ではなかったが、セシリアには国王のその言葉が重くのしかかってきた。
 父親が、領地にある祖父母の邸に自分を迎えに来てくれたあの日まで…。幼い自分は希望に満ち溢れた王都での生活を夢に見ていた。しかし現実はそううまくはいかなかった。王都の邸にはセシリアを歓迎する者など1人も居なかったのだ。いや、一人だけ…。かつてセシリアの乳母であったマリーはセシリアの身を案じ、王都の邸にまでついて来てくれた。マリーはセシリアの母親に代わりたっぷりの愛情を注いでくれたし、いつでも味方であってくれた。しかしセシリアが7歳になった頃、何処かに嫁ぐことになり辞めていったのだったか──。
 丁度セシリアがマリーの優しい面影を思い出していると、フェルナンドの口からその人の名前が出てきた。
「小さいころ、侯爵家にいたマリーという者を覚えているか?」
「はい、よく覚えております──」
「今マリーはステーリアで伯爵夫人になっているが、その縁のものがヴィルヘルム王宮に勤めているのを知っていたか?」
「…それは、いいえ。知りません…。」
 領地で祖父母やマリーと過ごした日々の記憶は朧気であったし、王都での優しい記憶を思い出すと余計に今が辛くなってしまう。そうしていつしかセシリアはマリーのことを思い出さないよう、記憶の中から消してしまっていた。
「マリーの遠縁にあたるその者が君の事も、ビューロー侯爵家のことも調べて私と母に教えてくれていたんだよ。」
 フェルナンドは傍らの国王をチラッと見ると、セシリアの手を握った。
「この国で君は辛い思いばかりしてきた…そうだろう?しかし我が国では違う。」
 ヴィルヘルム王国で辛い思いばかりしてきた、それを認めるという事は、自分の過ごしてきたこれ迄の人生そのものを否定することの様で…。
 セシリアはフェルナンドの手をそっと離すと、きっぱりと言い切った。
「例えこの国で辛い思いをしたとしても、私は…ヴィルヘルムの国民です。逃げる場所などここよりほか何処にもありません。」
「君は…」
 フェルナンドは改めてセシリアの瞳を覗き込み、その意志の強さに心を打たれ、続く言葉を飲み込んだ。今自分が何を語ろうと、セシリアの心に届くことはないだろう。
「──さて、話はついたようだね?セシリア嬢、今日の所はもう下がってくれていい。」
 国王は何処か嬉しそうにそう言うと、自ら立ち上がりセシリアの肩にポンと手を置いた。
 まだ何か続きを言いたそうなフェルナンドがこちらを見ているが、セシリアは気にせずに二人に礼をすると退散した。
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