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すれ違う想い
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レジナルドがジークフリートから午後の茶の誘いを受けたのは朝の事だった。わざわざ言われなくても毎日のように二人で、時にはセシリアも呼んで茶を楽しんでいるので何かがおかしいと感じた。
約束の時間が近付くと侍女たちがいそいそと菓子を運び茶の用意を始める。レジナルドはいつもよりも多めに用意されたその菓子に注目した。チョコレートタルトがある…ということは?
「ジーク…」
レジナルドがジークフリートを呼ぶのとほぼ同時に執務室の扉が開き、リーナが部屋に入ってきた。その顔には隠しきれないほどの緊張感が漂っている。
──何かが始まろうとしている。
レジナルドは結局何も聞けないまま座り直し、大人しく説明を待つことにした。
ジークフリートが最後に席に着くと、真っ直ぐにレジナルドに向かって話し始める。
「レジー、何となく察していたとは思うが。今日は姉上と話をして欲しくてわざわざ声を掛けた。」
「リーナ様と…俺が?」
チラッと視線をリーナに向けるがその表情はまだ硬いままだった。
「あぁ。姉上、私は退席した方がいいでしょう?」
リーナはジークフリートのその言葉にはっと顔を上げると、顔を大きく横に振った。
「…ジーク、お願い、ここにいて頂戴。ただ座っているだけでいいから…。」
ジークフリートはその言葉を聞くと静かに頷き、ソファーから立ち上がると少し離れた執務机の方へ移動していく。しばらくその様子を目で追いかけていたリーナはまだ何か迷っているようだ。
レジナルドは紅茶を一口飲むと、少しだけ首元を緩めた。リーナの緊張がこちらまでうつってしまったようで妙に落ち着かない。
「リーナ様、そんなに緊張しないでください。俺まで緊張がうつっちゃう…。」
リーナは目線を上げてレジナルドの方を少しだけ見たがすぐに逸らすと紅茶を見つめたまま話し出した。
「レジー。ずっと…考えていたの。私の今後の事、どうしたいのか…。」
「今後の事と言うと?」
「婚約が整って私がステーリアに行くことになったら──レジーもステーリアに一緒に行かない?」
「俺が?」
「えぇ、そうよ。少しの間だけでも…ジーク達から離れる方がいいと思うの。」
執務机にいるジークフリートを見るが話に入ってくるつもりは無いのだろう。腕を組んで目を閉じたまま身動きひとつしていない。
「俺はジークの傍を離れるつもりはありません。」
「でも、それではいつまで経っても──貴方の気持ちの整理が…」
リーナは口にするのを戸惑っているが、どうやらレジナルドのセシリアに対する想いに気が付いているようだった。こうなったら全てを白状するしかないだろう…。
「リーナ様、俺は…今はまだ確かに少しだけ未練が残っています。けれどそれでも二人の傍に居ると自ら決めたんです。」
そこで一旦言葉を切って再びジークフリートの方に視線を向ける。ジークフリートは相変わらず目を閉じたままだ。
「──これはまだジークにも言ったことが無いんですが…。俺、リア様に──ここから俺が連れ出すから何処でも好きな所に一緒に逃げようって言ったことがあるんです…。」
リーナは俯いて聞いていたが堪えきれない声を抑えるかのように口元を手で覆った。
「リア様にはハッキリと断られました。」
リーナが長い間待ち望んでいてそれでも決して言って貰えなかった言葉…。
「リーナ様。貴方がずっとその言葉を待っていたことには気が付いていました。でも、色々な言い訳を考えて…俺は結局言えなかった。」
「私、私はずっと…その言葉を待っていたわ…。」
「それでもいつも俺が何かを言おうとすると逃げて行った…。」
「聞くのが怖かったのよ…。それに私が強く求めたら貴方は意にそぐわないことでもしようとした、そうでしょう?」
「リーナ様…」
もはやリーナは嗚咽を堪える余裕などなかった。
「ずっと…ずっとレジーが好きだった。私は…貴方が自分の意志で私を望んでくれることをずっと待っていた…。」
レジナルドは幼い頃からリーナが自分に好意を抱いていることに気付いていた。そしていずれ自分はリーナと結婚することになるのだろうという漠然とした思いを抱いていた。言われてみれば、それは義務や忠誠心からくるものであったのかもしれない。自ら手を差し出すことをしなかったのもそのせいだ。セシリアには悩むことなく差し出せたこの手を…。
レジナルドは泣き崩れるリーナをただ見ていることしか出来なかった。今の自分が手を差し出しても謝っても──それは違うような気がした。
「リーナ王女殿下、私は…ステーリアに付いて行くことは出来ません。貴方を連れて逃げることも…できません。」
気付けばジークフリートも目を開けてこちらを見ていたが、やはり何も言わなかった。執務室にはただリーナの泣き声だけが響く。
約束の時間が近付くと侍女たちがいそいそと菓子を運び茶の用意を始める。レジナルドはいつもよりも多めに用意されたその菓子に注目した。チョコレートタルトがある…ということは?
「ジーク…」
レジナルドがジークフリートを呼ぶのとほぼ同時に執務室の扉が開き、リーナが部屋に入ってきた。その顔には隠しきれないほどの緊張感が漂っている。
──何かが始まろうとしている。
レジナルドは結局何も聞けないまま座り直し、大人しく説明を待つことにした。
ジークフリートが最後に席に着くと、真っ直ぐにレジナルドに向かって話し始める。
「レジー、何となく察していたとは思うが。今日は姉上と話をして欲しくてわざわざ声を掛けた。」
「リーナ様と…俺が?」
チラッと視線をリーナに向けるがその表情はまだ硬いままだった。
「あぁ。姉上、私は退席した方がいいでしょう?」
リーナはジークフリートのその言葉にはっと顔を上げると、顔を大きく横に振った。
「…ジーク、お願い、ここにいて頂戴。ただ座っているだけでいいから…。」
ジークフリートはその言葉を聞くと静かに頷き、ソファーから立ち上がると少し離れた執務机の方へ移動していく。しばらくその様子を目で追いかけていたリーナはまだ何か迷っているようだ。
レジナルドは紅茶を一口飲むと、少しだけ首元を緩めた。リーナの緊張がこちらまでうつってしまったようで妙に落ち着かない。
「リーナ様、そんなに緊張しないでください。俺まで緊張がうつっちゃう…。」
リーナは目線を上げてレジナルドの方を少しだけ見たがすぐに逸らすと紅茶を見つめたまま話し出した。
「レジー。ずっと…考えていたの。私の今後の事、どうしたいのか…。」
「今後の事と言うと?」
「婚約が整って私がステーリアに行くことになったら──レジーもステーリアに一緒に行かない?」
「俺が?」
「えぇ、そうよ。少しの間だけでも…ジーク達から離れる方がいいと思うの。」
執務机にいるジークフリートを見るが話に入ってくるつもりは無いのだろう。腕を組んで目を閉じたまま身動きひとつしていない。
「俺はジークの傍を離れるつもりはありません。」
「でも、それではいつまで経っても──貴方の気持ちの整理が…」
リーナは口にするのを戸惑っているが、どうやらレジナルドのセシリアに対する想いに気が付いているようだった。こうなったら全てを白状するしかないだろう…。
「リーナ様、俺は…今はまだ確かに少しだけ未練が残っています。けれどそれでも二人の傍に居ると自ら決めたんです。」
そこで一旦言葉を切って再びジークフリートの方に視線を向ける。ジークフリートは相変わらず目を閉じたままだ。
「──これはまだジークにも言ったことが無いんですが…。俺、リア様に──ここから俺が連れ出すから何処でも好きな所に一緒に逃げようって言ったことがあるんです…。」
リーナは俯いて聞いていたが堪えきれない声を抑えるかのように口元を手で覆った。
「リア様にはハッキリと断られました。」
リーナが長い間待ち望んでいてそれでも決して言って貰えなかった言葉…。
「リーナ様。貴方がずっとその言葉を待っていたことには気が付いていました。でも、色々な言い訳を考えて…俺は結局言えなかった。」
「私、私はずっと…その言葉を待っていたわ…。」
「それでもいつも俺が何かを言おうとすると逃げて行った…。」
「聞くのが怖かったのよ…。それに私が強く求めたら貴方は意にそぐわないことでもしようとした、そうでしょう?」
「リーナ様…」
もはやリーナは嗚咽を堪える余裕などなかった。
「ずっと…ずっとレジーが好きだった。私は…貴方が自分の意志で私を望んでくれることをずっと待っていた…。」
レジナルドは幼い頃からリーナが自分に好意を抱いていることに気付いていた。そしていずれ自分はリーナと結婚することになるのだろうという漠然とした思いを抱いていた。言われてみれば、それは義務や忠誠心からくるものであったのかもしれない。自ら手を差し出すことをしなかったのもそのせいだ。セシリアには悩むことなく差し出せたこの手を…。
レジナルドは泣き崩れるリーナをただ見ていることしか出来なかった。今の自分が手を差し出しても謝っても──それは違うような気がした。
「リーナ王女殿下、私は…ステーリアに付いて行くことは出来ません。貴方を連れて逃げることも…できません。」
気付けばジークフリートも目を開けてこちらを見ていたが、やはり何も言わなかった。執務室にはただリーナの泣き声だけが響く。
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