王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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動き出した時計の針

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 ジークフリートはレジナルドを小さな声で呼ぶと、ドアの方を指さした。しばらくリーナを一人にしておけと言うことかもしれない──レジナルドはソファーから立ち上がるとリーナに無言で一礼しそのまま執務室を後にした。
 外へ出た途端、後ろで大きなため息が聞こえた。どうやらジークフリートも一緒に部屋から出てきたようだ。
「済まなかった…レジー。」
「お前が謝ることじゃないだろ、俺たちの問題だ…。」
「それはそうだが…。私に聞かせたくない話もあっただろう?」
 ジークフリートが言いたいのはレジナルドがセシリアに言ったあの言葉の事だろう。知らなかったのだから戸惑うのも仕方がない。
「俺に失望したか?ジーク。陰でリア様にあんな事を言っていただなんて…軽蔑されてもしょうがないと思ってる…。」
「…失望も軽蔑もしない、ただ──驚いた。レジーがそこまでの覚悟でいただなんて…。」
「あの時のリア様はフェルナンド殿下とジークの間で板挟みになっていた。だからリア様にそれ以外の道もあるのだと教えられるのは俺しかいないと思い込んでしまった…。」
「…私はリアに逃げるなとは言わなかった。自分の意思で私の目の前から居なくなるのならばそれも仕方ないと思っていた。──もし私がレジーの立場だったら同じ様にリアに逃げる様に言っていたかもしれないな。」
「リア様が逃げなかったからそんな風に言えるんだよ…。」
 レジナルドは苦々しい顔で廊下の窓の外に視線をやった。
「リア様は逃げる場所なんて自分にはどこにもないと言っていた。だから守ると言ってくれたお前の元を離れないと…。」
「そんな事を…」
「その言葉を聞いて俺も目が覚めたんだ。リア様を守るのは俺の役目じゃない、ジークの役目だ。それにジークを守れるのは俺だけなんだって…。」
 二人は話しながらいつの間にか庭園に面した回廊まで降りてきていた。
 レジナルドの視線が噴水で止まる。
 母親を亡くしてから9年。姉弟とともにほとんどの時間を王宮ですごしてきた。庭園にある噴水にもガゼボにも3人の穏やかで幸せな記憶が残っている。母を、王妃様を守れなかったと知った時幼いながらレジナルドは心に誓った。自分は立派な騎士になる──そして次期王となるジークフリートこそはこの手で守って見せると…。リーナも守るべき存在であることに違いはなかったはずだ。どうして自分はセシリアでもジークフリートでもなくリーナを守ると言えなかったのだろうか?逃げる場所がないのはリーナも同じはずだ…。
 いや、リーナにはまだこの王宮の他に逃げる場所があった…。結婚することでここから逃げることができるのだ。ジークフリートともレジナルドともセシリアとも違う…。
 いつだったかジークフリートが言っていた。王家に関わった女性は不幸になる運命なのだろうかと。どこか無意識のうちに自分も同じように考えていたのかもしれない。──不幸になる運命から逃がせるのならば逃してあげたいと…。

「今思えば、リア様とお前のあの茶会が全ての始まりだったんだな。」
「そうかもしれないな。なかなか進まなかった時計の針が一気に進み始めたのだからな。」
「…」
「知っていたか?最近、姉上とリアは一緒に過ごす事がなくなってしまった。フェルナンドがステーリアに帰ってからは勉強会も茶会もしていないそうだ…。」
「暑くなったせいで庭園に出ていないだけなのかと思っていた…。」
「それも始めはあったのかもしれない。だが姉上は私とリアを見て、一度は諦めてしまったお前との未来を再び夢見るようになってしまったと言っていた…。フェルナンドとの婚約が確定する前にお前とのことをはっきり出来たのは姉上にとっても良かったんだと思う。」
 リーナはレジナルドへの想いを直ぐには断ち切れないかもしれない。しかしきちんと区切りを付けることは出来るはずだ。
「これでリーナ様はフェルナンド殿下と婚約する事になるのか…。」
「どうだかな…。フェルナンドのやつもまだまだ未練がありそうだからな。」
「そこはジークにまかせるからな?」
 レジナルドはジークフリートの肩を軽く叩くと大きく伸びをした。
「はぁ、肩凝った!」
「あぁ。さて…そろそろ姉上の様子を見てくるかな。」
「…リーナ様には随分酷いことを言ってしまったな。」
「謝る相手は私じゃないはずだ。まぁ今日はもういい。お前は帰れ。」
 今度はジークフリートがレジナルドの肩を軽く叩くと、片手を上げて執務室の方へ上がって行った。
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