王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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馬と騎士

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 王族の避暑地である北の離宮はヴィルヘルム北部の高原地帯にあり王都からは馬車で二日ほどの距離になる。標高が高い湖水地方は冬には湖まで凍るほどの寒さとなり、その氷が王宮の地下の氷室に納められて一年中利用されているという。

 セシリアが王都の外に出るのは実に12年ぶりのことだ。4歳のころの記憶などほとんどないのだからもうこれは初めてと言ってもいいのかもしれない。
「リア様、馬車に酔ったりしない?何かあったらすぐに言ってね?」
「レジー、私がいるから大丈夫だ。」
「それはそれで心配なんだけどねぇ。」
 今日は天気もいいのでレジナルドは騎士と共に馬で同行することになった。レジナルドが馬車に並走し、前に三人後ろに三人の騎士が護衛についている。これが多いのか少ないのかは正直セシリアには分からなかった。普段の王都である公務の移動の際もだいたいこれくらいの人数の護衛がつくので、長距離を移動するにしては数が少ない方なのかもしれない。
「レジー様は馬に乗っておられるとなんだかいつもより騎士らしく見えますね。」
「そうか?私は見慣れているからな…。」
「私、ジーク様が馬に乗られる姿もいつか見てみたいです。」
「リアも離宮に着いたら一緒に馬に乗ってみるか?」
「それはきっと無理だと…思います。」

 ジークフリートはセシリアが自分の考えていることを積極的に言葉にだすように努力していることに気が付いていた。出会って最初のころはレジナルドとの会話にも恐る恐る入ってくるくらいだったのに、最近では随分馴染んできている。そうするように教育係から言われているのか…定かではないが。
 改めて横に座るセシリアの肩を自分の方に引き寄せる。痣だらけだった身体ももう随分綺麗になっていることだろう。王宮での食事のおかげか細かったその身体も少しずつ普通に近づいてきている。何より一番変わったのがその表情だろう。自信なさそうに俯くばかりだったあの姿はもうどこにもない。顔を上げて笑う姿はどこに出しても恥ずかしくない立派な侯爵令嬢──。ここに至るまで一体どれだけの時間を無駄にさせてしまったのだろうか。

「私が落ちないように守るから、平気だろう?」
「一度乗ってしまえばジーク様に守って頂けますが…。レジー様のあの姿を見る限り馬の背中はかなり高いですが、一体どうやってあんな所までよじ登るのですか?」
「…よじ登る?」
「違うのですか?」
 ジークフリートは窓を開けると並走しているレジナルドに手で合図を出した。
「どうした?もうリア様の具合でも悪くなった?」
「いや違う。リアが、お前がどうやって馬にのか知りたいと言っている。」
「は?よじ登るって、何それ?」
 空を仰いで爆笑するレジナルドを満足そうに見ると、ジークフリートもセシリアのいる方へ振り返り思わず笑みをこぼした。
「ジーク様の意地悪…」
「リアは可愛いな。」
 その手が琥珀色の髪をそっと撫でる。
「私の頭の中にあるのはほとんどが文字からの情報なんです。だから実際に目にしたことのあるものは本当にわずかしかありません。ジーク様もその事は分かっておられるでしょう?」
「あぁ、馬の乗り方までは侯爵家に置いてある本には書いてなかったかもしれないな。大丈夫だ、リアが分からないことがあれば私が何でも教えてあげるから。」
「…はい。」
「いいか?頼っていいのは私だけだ、それから…たまにはレジーも。」
 セシリアはその言葉に違和感を覚えた。
「ジーク様と、レジー様だけですか?」
「なんだ、それだけじゃ不満なのか?リアも贅沢だな。」
「不満ではありませんが、なんだか…。いえ、何でもありません。」
 ジークフリートが誤魔化すように甘く微笑んだのでそれ以上は聞けなかったが、今の言葉をその通りに捉えると二人以外は頼るなということだろうか?──いや、考えすぎなのかもしれない。
 セシリアはもやもやとした思いを抱え、揺れる馬車の中から馬上のレジナルドのピンと伸びた背中を見つめた。ジークフリートの肩にもたれさせたままの頭を優しくその手で撫でられながら…。
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