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湖水に映る白い城
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「もうすぐ視界が開けてくるはずだ…。」
ジークフリートの言葉通り、馬車が木立を抜けると一気に視界が開けた。疎らに生えた低木の向こうには草原と広い湖が見える。その向こうには真夏だというのに頭に雪をかぶったままの山脈が聳え立つ。
「これが…湖…。」
王宮の池で水鳥に餌をやったことはあったが、その比ではない広さにセシリアは呆然とした。湖は対岸が見えないほど広く、風があるせいなのか岸辺には波が打ち寄せている。遠目にも岸辺でくつろぐ人影がいくつか見えるが一体何をしているのだろうか…。
「もう少し進むと離宮が見えてくる。この湖の一角が王領になっているんだ。」
もはや返す言葉もみつからなかった。丸二日掛けてたどり着いたこの北の地もやはりヴィルヘルム国内なのだ。ジークフリートが将来治めるヴィルヘルムという国は一体どれだけの広さがあるのだろう…。その隅々にまで目を光らせるとは一体陛下はいくつ目をもっておられるというのか…。
「どうした、リア?」
複雑な心境を察したのかジークフリートはすぐに声を掛けてくれる。
「いえ、あの…私は今まで王都から出た記憶がなかったものですから。単純に国土の広さを思い知ったと申しますか…。」
「国土の広さ?湖の広さ、だろ?」
「はい、それはもちろんです。」
ジークフリートは窓の外の景色を眩しそうに見ると、独り言のように小さな声で呟いた。
「大丈夫、リアが心配するようなことは何もない。」
その時、速度を落として馬車の窓に近づいてきたレジナルドが手で合図を送るのが見えた。前方を指さしている。
「離宮が見えたと知らせているようだな。」
「あ、あの白い建物ですね?とっても綺麗なお城…。」
「気に入ったか?やはり北の離宮は女性には評判がいいようだな。母上も離宮の中でもここが一番気に入っているようだし。」
「湖の暗い色に白い城壁が映えますからね。」
「夏はいいが冬は一面真っ白になるそうだからな。どれが城か分かったもんじゃないぞ?」
「まぁ、本当に?」
「さぁ、そうなのだろうと今思っただけだ。私は冬には来たことがないからな。」
「ジーク様は一年に一度だけ王妃様に会いに来られるのですね。」
「あぁ、それでも会えない年もある。だから姉上はそれが嫌でここ二、三年は来ていない。」
「身近な人に期待を裏切られるのは辛いものです。…リーナ様のお気持ちも分かりますわ。」
「そうか…。」
年に一度はるばる王都から会いに来る我が子にも会えるかどうか…そのような状態で王妃様はもう何年もこの地にとどまっておられるということになる。陛下が離宮に避暑に向かうという話は今まで聞いたことがないからそちらともお会いになることはないのだろう。
「王妃様はどうして長い間離宮におられるのでしょうか。王都ならばここよりもっと優秀な医者もいるかもしれませんのに…。」
「…」
きっと、そんなことは陛下もジークフリートも皆が考えたことなのだろう。その上でやはり王妃はこの地に留まっている。それだけ体調が悪いということなのだろうか…。それとも…。
──まるで幽閉されている様だわ。
湖水に映る美しい城を眺めながら、セシリアはそこにある見えない檻を肌で感じた気がした。
ジークフリートの言葉通り、馬車が木立を抜けると一気に視界が開けた。疎らに生えた低木の向こうには草原と広い湖が見える。その向こうには真夏だというのに頭に雪をかぶったままの山脈が聳え立つ。
「これが…湖…。」
王宮の池で水鳥に餌をやったことはあったが、その比ではない広さにセシリアは呆然とした。湖は対岸が見えないほど広く、風があるせいなのか岸辺には波が打ち寄せている。遠目にも岸辺でくつろぐ人影がいくつか見えるが一体何をしているのだろうか…。
「もう少し進むと離宮が見えてくる。この湖の一角が王領になっているんだ。」
もはや返す言葉もみつからなかった。丸二日掛けてたどり着いたこの北の地もやはりヴィルヘルム国内なのだ。ジークフリートが将来治めるヴィルヘルムという国は一体どれだけの広さがあるのだろう…。その隅々にまで目を光らせるとは一体陛下はいくつ目をもっておられるというのか…。
「どうした、リア?」
複雑な心境を察したのかジークフリートはすぐに声を掛けてくれる。
「いえ、あの…私は今まで王都から出た記憶がなかったものですから。単純に国土の広さを思い知ったと申しますか…。」
「国土の広さ?湖の広さ、だろ?」
「はい、それはもちろんです。」
ジークフリートは窓の外の景色を眩しそうに見ると、独り言のように小さな声で呟いた。
「大丈夫、リアが心配するようなことは何もない。」
その時、速度を落として馬車の窓に近づいてきたレジナルドが手で合図を送るのが見えた。前方を指さしている。
「離宮が見えたと知らせているようだな。」
「あ、あの白い建物ですね?とっても綺麗なお城…。」
「気に入ったか?やはり北の離宮は女性には評判がいいようだな。母上も離宮の中でもここが一番気に入っているようだし。」
「湖の暗い色に白い城壁が映えますからね。」
「夏はいいが冬は一面真っ白になるそうだからな。どれが城か分かったもんじゃないぞ?」
「まぁ、本当に?」
「さぁ、そうなのだろうと今思っただけだ。私は冬には来たことがないからな。」
「ジーク様は一年に一度だけ王妃様に会いに来られるのですね。」
「あぁ、それでも会えない年もある。だから姉上はそれが嫌でここ二、三年は来ていない。」
「身近な人に期待を裏切られるのは辛いものです。…リーナ様のお気持ちも分かりますわ。」
「そうか…。」
年に一度はるばる王都から会いに来る我が子にも会えるかどうか…そのような状態で王妃様はもう何年もこの地にとどまっておられるということになる。陛下が離宮に避暑に向かうという話は今まで聞いたことがないからそちらともお会いになることはないのだろう。
「王妃様はどうして長い間離宮におられるのでしょうか。王都ならばここよりもっと優秀な医者もいるかもしれませんのに…。」
「…」
きっと、そんなことは陛下もジークフリートも皆が考えたことなのだろう。その上でやはり王妃はこの地に留まっている。それだけ体調が悪いということなのだろうか…。それとも…。
──まるで幽閉されている様だわ。
湖水に映る美しい城を眺めながら、セシリアはそこにある見えない檻を肌で感じた気がした。
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