王太子殿下は甘い物を召し上がりません!

ゆみ

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バカンスのはじまり

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 学園はいつの間にか長期休暇に入っていたがセシリアにはあまり関係がなかった。ジークフリートとの婚約が正式に決まってからは以前とは違い様々な予定が入り学園を休むことも増えてきていたせいもある。

「高原で避暑、ですか?」
「あぁ。北の離宮には母上がいらっしゃるから一度連れて行きたいと思っていたんだ。もちろん、二人きりという訳にはいかないからレジーも連れて行くけれど。」
「王妃様にはお会い出来るのでしょうか?」
「体調次第というところかな?行ってみないと何とも言えないのだが…。去年は挨拶をしてほんの少し顔を見ただけで終わった。まぁ母上が居ると言っても離宮もそれなりに広さがあるから、その他の場所は自由に使っても問題ない。リアの予定も少しだけなら休むよう調整出来るだろう?」
「わかりました…。では、私も一緒に連れて行ってください。」
 婚約者の嬉しそうな笑顔にジークフリートは思わずその細い身体を抱きしめた。
「リアは最近勉強や公務で休む暇もないのだろう?少しだけでもいいから一緒にゆっくり過ごそう。」
「はい。」
 セシリアよりも背の高いジークフリートの胸にそっと耳をつけると鼓動が聞こえる。目を閉じてこうしているとフワフワとした温かい気持ちになるのは何故だろう。
「リア、愛してる。」
「ジーク様…私も…です。」
 鼓動が一気に高まるのが分かった。愛しているという言葉を受け取るのはまだ面映ゆい。ましてや自分から口に出すことは当分できそうにもないが、二人の関係が一歩ずつ前進しているのは確かだ。

「レジー、この書類は正真正銘本物だったんだな?」
「はい。宰相にも確認しましたが、間違いなくフェルナンド殿下のサインとステーリアの国璽だという事です。」
 ジークフリートはもう一度文面に目を落とす。ステーリアの国璽が押された公式文書。そこにはステーリアのウォーレン侯爵家からセシリアのいとこがヴィルヘルムを正式に訪問すると書いてあった。婚約祝いだと書いてあるが初対面のいとこに婚約を祝われる筋合いはない。

──フェルナンドの奴、ついに動き出したか…。

 長期休暇を狙ってやって来るのだからあちらもしばらくの間ヴィルヘルムに留まるつもりなのだろう。
「離宮に行く予定はどうする?」
「少し早めるとするか…。このいとこだと言う者も到着がいつになるのかはっきりと知らせて来ていないからな。休みに入って直ぐにあちらを出発するにしても数日待たせるくらいならば問題ないだろう。」
「それにしてもフェルナンド殿下、一体何を企んでいるんだと思う?」
 レジナルドが翡翠色の目を光らせて尋ねてくる。久しぶりに見る獲物を見定めるようなこの顔…。
「分からない。リアを強引にステーリアに連れ帰るという事はないだろうが…。何かリアの母親絡みで付け入る隙でも見つけたのかも知れないな…。」
「母親絡み…。」
「とにかく、この話は極秘だ。ビューロー侯爵にはもうウォーレン侯爵から知らせが来ているかもしれないが、それ以外には決して漏らさないように。」
「分かってる。リア様にはジークが伝えるんだろ?」
 ジークフリートは無意識のうちに視線を窓の外の庭園に動かした。庭園にもガゼボにも今は人影はないが、その目にはセシリアの姿がはっきりと見えているかのようだった。
「…少しだけ時間をくれ。いとこが来るまでには何とかする…。」
「ビューロー侯爵が先に知らせるかもよ?」
「侯爵がリアに直接会いに来ることはないだろう。侯爵からリア宛てに手紙が来たら私に教えてくれ。」
「了解。」
 レジナルドはため息をつくと、ジークフリートを慰めるようにその肩に手を置いた。
「そんなに考え込んだってしょうがないだろ?それよりもリア様と一緒に過ごす初めてのバカンスを楽しむ事の方が優先だと思うけど?」
「…そうだな、分かっている。それにしてもフェルナンドの奴ここぞとばかり邪魔をして来やがって。」
「王太子殿下、お言葉が乱れておいでですよ?」
「今だけだ、聞かなかったことにしろ。」
 ジークフリートは手に持ったままだった手紙を破りたい衝動にかられたがなんとか堪えた。
「レジー少しだけ私の相手をしろ、騎士団に行くぞ?」
「なんだ、むしゃくしゃして剣を振りたくなったのか?お手柔らかに頼むよ…。」
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