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価値観
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皆が楽しく話している輪の中にいても、何か話題を提供できるわけでもなくひたすら聞き手に徹するのがいつもの私だった。だから話に耳を傾けながら一人黙々と作業をしている方が気が楽だと思う事も多い。
「何か手伝う?」
トイレから出てきたシンが私に気を使って声をかけてくれる。
「無理、狭いから二人は立てないよ。それに右手それじゃ戦力外。」
「包帯外す?もうこのメンツなら良くない?」
「もう少しで終わるし平気だから。」
シンはキッチンと部屋との境目に立ったままで私の方を見ながら、何故か嬉しそうな顔になって笑った。
「ねぇ、美緒は覚えてる?俺たちが初めて会った時の事。」
野菜を切っていた手を休めると少しだけ考えた。どうして今この場でそんな事を聞かれるのだろう?
「……新歓だったよね?」
「そう。あの時カラオケの後でグループに別れて、その流れでここに来たじゃん。」
「あ、大輔の部屋だったっけ?あれって?」
「あの時も美緒ここで一人で料理とか片付けしてたんだよ。俺めっちゃ覚えてる。」
「大輔以外話せる人いなさそうだったし。私一人でこっそり話聞きながら片付けとかしてる方が気が楽だったんじゃないかな。」
シンの後ろから大輔の笑い声が聞こえた。
「シンお前もしかして美緒にその話した事なかったの?」
「え?大ちゃんそれ何の事?」
「シンが美緒と初めて会ってすぐハートを撃ち抜かれたって話。」
「ハートを撃ち抜かれたって……お前何か他に言い方ないの?」
「なのにシンのヤツ美緒に全然話しかけられなかったらしくてさ、めっちゃへこんで俺に連絡して来てんの。」
「うそ、今じゃ全然そんなの考えられない。」
カラオケの後の3次会だか4次会かでここでしていたことなんてせいぜいゴミの分別くらいで何か料理を作ったような記憶はない。
顔を上げるとシンはまだニコニコと笑ってこちらを見ていた。
「私が料理得意だと思ったの?もしかしてそういうのがタイプだったりする?」
「んー、それもちょっとあるけど。裏方でこっそりみんなの為に動いてるの見て、なんか偉いなーこの子と思って。」
「……」
「大輔、俺ちょっと美緒とこのまま消えていいかな?」
「駄目駄目!そういうのはお控え下さい!今からだろーよ、鍋パ。」
「はい熱いの通りまーす。大輔それ避けて。あとテレビ、消そうか。リモコンどこ?」
「美緒、俺の隣おいで。」
「じゃ青木はこっち~。」
「青木って呼ばれるのすごい違和感あるんだけど。」
「え~それを言うなら美緒の方じゃない?なんでさん付けなの?」
「なんで……だろ?」
「落ち着いてて年上っぽく見えるからかな?シンと大ちゃんにはない感じだよね。」
「香菜ちゃんまで持ってかれるんかい。やばいな、青木直哉。」
「大丈夫、私は可愛い系が好きだから大ちゃんご指名で。」
シンの隣に座ると肩がくっついてきてドキッとする。シンが意味ありげに私の顔を見ると、そのまま隣の香菜に目を向けた。
「香菜ちゃん、なんか変わったよね?前からこんな感じだったっけ?」
「言われてみれば香菜喋り方とかもっとおっとりしてたよね、はじめの頃は。」
「え……?今私、どんな感じ?」
「もしかして俺の影響?」
「あるかも。二人似て来た、雰囲気。」
「えー?止めてよ。美緒までそんな事言わないで。」
「熟年夫婦の境地じゃん、やばくね?俺ら。」
大輔は高校の時からあまり変わらない。男の人の中では小柄な方で、可愛い笑顔で誰とでもすぐに打ち解けることが出来る。大学の入学式の時、知らない人だらけで緊張していた私に声を掛けてくれた唯一の知り合いが大輔だった。
そして人付き合いが苦手な私にシンを含めた多くの友人を紹介してくれたのも大輔だ。それがなければ今こうしてシンと付き合っていなかったかもしれない。
「……香菜ちゃんと美緒ちゃんは高校からの友達?」
「違う違う。大ちゃんと美緒が高校一緒だったの。美緒つながりで私と大ちゃんは知り合った感じ?」
「そうそう。俺たちの仲間内で一番最初に付き合いだしたのがシンと美緒だったよな。」
「直哉くん学部違うからその頃の事全然知らないよね?シンから何か聞いてた?」
「いや……。そもそもまこっちゃんとは最近まであんまり話した事もなかったから。」
「え?そうなの?」
シンは飲んでいたジュースから手を離すと観念したかのように話し始めた。
「考えてみてよ?同級生に直哉がいます。その隣にはもう一人直哉を体育会系にした様なヤツがいます。コレどうよ?隣に並ぶ勇気ある?」
「……ない。俺は断言できる。」
「まこっちゃんと幸人はよく話してたじゃん?友達だろーよ。」
「……恐れ多いわ、サイと友達とか。」
「青木、写真とかないの?その頃の。」
「写真?」
直哉さんは少し考えながら首をひねった。
「まこっちゃんとはクラス違ったし、写真はないと思う。」
「じゃ、直哉くんとその友達の写真ならある?」
香菜の興味津々といった声にシンと直哉さんが一瞬凍りついたのが分かった。きっと二人にも触れられたくない過去というものがある。
ちらっとシンの方を窺うと目が合った。
「あ、お玉なかったね。」
「いいよ、美緒ちゃん。俺取って来る。」
直哉さんはすかさず立ち上がるとキッチンに向かった。
「やばい、スマートに逃げられた。大ちゃん、高校時代の二人の話題に触れるのはタブーだわ。」
「俺めっちゃ気になって来た。」
「お前ら二人には意地でも見せん。」
「あ、お水……足した方がいいかも……。」
なんとなく立ち上がると水を取りにキッチンの方へ向かう。ついでのようなフリをして直哉さんの様子を窺うと、明らかに戸惑っているのが分かった。
「なんかごめんね。苦手だよね、こういうノリ。」
「あ、いや。でもそうなのかも。慣れてないから……こういう風に隠さずに何でも話すっていうの。」
「分かる、私も一緒だから。」
「青木~、シンがすんごい目で睨んでるから、背後気を付けろ。」
「大輔、お前言うなって。」
「何か手伝う?」
トイレから出てきたシンが私に気を使って声をかけてくれる。
「無理、狭いから二人は立てないよ。それに右手それじゃ戦力外。」
「包帯外す?もうこのメンツなら良くない?」
「もう少しで終わるし平気だから。」
シンはキッチンと部屋との境目に立ったままで私の方を見ながら、何故か嬉しそうな顔になって笑った。
「ねぇ、美緒は覚えてる?俺たちが初めて会った時の事。」
野菜を切っていた手を休めると少しだけ考えた。どうして今この場でそんな事を聞かれるのだろう?
「……新歓だったよね?」
「そう。あの時カラオケの後でグループに別れて、その流れでここに来たじゃん。」
「あ、大輔の部屋だったっけ?あれって?」
「あの時も美緒ここで一人で料理とか片付けしてたんだよ。俺めっちゃ覚えてる。」
「大輔以外話せる人いなさそうだったし。私一人でこっそり話聞きながら片付けとかしてる方が気が楽だったんじゃないかな。」
シンの後ろから大輔の笑い声が聞こえた。
「シンお前もしかして美緒にその話した事なかったの?」
「え?大ちゃんそれ何の事?」
「シンが美緒と初めて会ってすぐハートを撃ち抜かれたって話。」
「ハートを撃ち抜かれたって……お前何か他に言い方ないの?」
「なのにシンのヤツ美緒に全然話しかけられなかったらしくてさ、めっちゃへこんで俺に連絡して来てんの。」
「うそ、今じゃ全然そんなの考えられない。」
カラオケの後の3次会だか4次会かでここでしていたことなんてせいぜいゴミの分別くらいで何か料理を作ったような記憶はない。
顔を上げるとシンはまだニコニコと笑ってこちらを見ていた。
「私が料理得意だと思ったの?もしかしてそういうのがタイプだったりする?」
「んー、それもちょっとあるけど。裏方でこっそりみんなの為に動いてるの見て、なんか偉いなーこの子と思って。」
「……」
「大輔、俺ちょっと美緒とこのまま消えていいかな?」
「駄目駄目!そういうのはお控え下さい!今からだろーよ、鍋パ。」
「はい熱いの通りまーす。大輔それ避けて。あとテレビ、消そうか。リモコンどこ?」
「美緒、俺の隣おいで。」
「じゃ青木はこっち~。」
「青木って呼ばれるのすごい違和感あるんだけど。」
「え~それを言うなら美緒の方じゃない?なんでさん付けなの?」
「なんで……だろ?」
「落ち着いてて年上っぽく見えるからかな?シンと大ちゃんにはない感じだよね。」
「香菜ちゃんまで持ってかれるんかい。やばいな、青木直哉。」
「大丈夫、私は可愛い系が好きだから大ちゃんご指名で。」
シンの隣に座ると肩がくっついてきてドキッとする。シンが意味ありげに私の顔を見ると、そのまま隣の香菜に目を向けた。
「香菜ちゃん、なんか変わったよね?前からこんな感じだったっけ?」
「言われてみれば香菜喋り方とかもっとおっとりしてたよね、はじめの頃は。」
「え……?今私、どんな感じ?」
「もしかして俺の影響?」
「あるかも。二人似て来た、雰囲気。」
「えー?止めてよ。美緒までそんな事言わないで。」
「熟年夫婦の境地じゃん、やばくね?俺ら。」
大輔は高校の時からあまり変わらない。男の人の中では小柄な方で、可愛い笑顔で誰とでもすぐに打ち解けることが出来る。大学の入学式の時、知らない人だらけで緊張していた私に声を掛けてくれた唯一の知り合いが大輔だった。
そして人付き合いが苦手な私にシンを含めた多くの友人を紹介してくれたのも大輔だ。それがなければ今こうしてシンと付き合っていなかったかもしれない。
「……香菜ちゃんと美緒ちゃんは高校からの友達?」
「違う違う。大ちゃんと美緒が高校一緒だったの。美緒つながりで私と大ちゃんは知り合った感じ?」
「そうそう。俺たちの仲間内で一番最初に付き合いだしたのがシンと美緒だったよな。」
「直哉くん学部違うからその頃の事全然知らないよね?シンから何か聞いてた?」
「いや……。そもそもまこっちゃんとは最近まであんまり話した事もなかったから。」
「え?そうなの?」
シンは飲んでいたジュースから手を離すと観念したかのように話し始めた。
「考えてみてよ?同級生に直哉がいます。その隣にはもう一人直哉を体育会系にした様なヤツがいます。コレどうよ?隣に並ぶ勇気ある?」
「……ない。俺は断言できる。」
「まこっちゃんと幸人はよく話してたじゃん?友達だろーよ。」
「……恐れ多いわ、サイと友達とか。」
「青木、写真とかないの?その頃の。」
「写真?」
直哉さんは少し考えながら首をひねった。
「まこっちゃんとはクラス違ったし、写真はないと思う。」
「じゃ、直哉くんとその友達の写真ならある?」
香菜の興味津々といった声にシンと直哉さんが一瞬凍りついたのが分かった。きっと二人にも触れられたくない過去というものがある。
ちらっとシンの方を窺うと目が合った。
「あ、お玉なかったね。」
「いいよ、美緒ちゃん。俺取って来る。」
直哉さんはすかさず立ち上がるとキッチンに向かった。
「やばい、スマートに逃げられた。大ちゃん、高校時代の二人の話題に触れるのはタブーだわ。」
「俺めっちゃ気になって来た。」
「お前ら二人には意地でも見せん。」
「あ、お水……足した方がいいかも……。」
なんとなく立ち上がると水を取りにキッチンの方へ向かう。ついでのようなフリをして直哉さんの様子を窺うと、明らかに戸惑っているのが分かった。
「なんかごめんね。苦手だよね、こういうノリ。」
「あ、いや。でもそうなのかも。慣れてないから……こういう風に隠さずに何でも話すっていうの。」
「分かる、私も一緒だから。」
「青木~、シンがすんごい目で睨んでるから、背後気を付けろ。」
「大輔、お前言うなって。」
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他サイトにもアップしています。
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pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
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2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
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