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嫉妬
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翌朝目が覚めるとスマホが新着メッセージを知らせていた。シンからのメッセージが今朝早くに届いていたようだ。とは言うものの内容はとりとめのないもので、昨夜目が覚めたら暗い部屋で寝ていて、大輔以外は誰も居なくなっていたから驚いたというようなものだった。
ゆっくりと起き出すと電気ポットに水を注ぎ、カップにドリップコーヒーをセットする。
ここ数日は一人でゆっくりとコーヒーを淹れるような余裕もなかったことに今更ながら気が付いた。
『俺、コーラ飲めないの。』
暗闇の中で見た白くて綺麗な横顔は困った様に笑っていた。
「全然 完璧な人なんかじゃないじゃん。」
カチッと音がすると電気ポットの電源が落ちた。コーヒーの粉に少しだけお湯を注ぐとしばらくの間目を閉じる。
思い浮かんだのは大輔の部屋でニコニコと笑っていたシンだった。
『裏方でこっそりみんなの為に動いてるの見て、なんか偉いなーこの子と思って。』
カップにお湯を細く注ぎながら、コーヒーの香りを吸い込むと顔が自然とニヤけてくる。
誰かに褒められたくてこっそり裏方に徹していた訳ではなかったけれど、それに気が付いてくれたのがシンだったのは運命だったのかもしれない。
自分がシンにふさわしいような相手ではないという劣等感はいまだに消えないけれど、自分を選んでくれたきっかけを知ることができてホッとしている自分がいた。
コーヒーに口を付けようとしたとき、再びスマホが鳴った──シンからのメッセージだろうか。
" 何かさ、ナオから高校の時の写真送ってきたんだけど、あの後見せて欲しいとか頼んだ? "
「え?」
ぼーっとメッセージを眺めていたが、写真という文字にようやく頭が動き出した。
「何それ、見たいんですけど。」
" 頼んでないけど見たい "
コーヒーを飲みながら返信を待っていると、しばらくして一枚の写真が送られてきた。
「え、これって……。」
写真に写っているのはバスケットボールを持った体操服姿の10人ほどの男子高校生の姿だった。緊張したようなその面持ちに思わず笑みがこぼれる。
一人ずつ確認してどれがシンなのか確かめるが、明らかに違うという人を除いていっても候補が2人までしか絞り込めなかった。真ん中の背の高い二人がそれっぽいが一人は黒縁の眼鏡をかけているし、もう一人は色が黒くてシンらしくない気もする。
" シンどれ? "
" 分かんないでしょ?黒メガネがオレ。その隣の背の高いのがサイ "
「え、黒メガネの方?」
もう一度写真を拡大してその二人を見てみる。確かに言われてみれば黒メガネの下の二重の目元にシンの面影がわずかにだがあるような気がする。
「そっか、メガネだったんだ。しかも髪黒いし、真面目そうだな。」
" 髪黒いしメガネかけてるから分かんなかった "
メッセージを送信している途中で、シンから電話がかかってきた。私が起きていることを確認したから不自由な手でやりとりをするより直接話した方が早いとでも思ったのだろう。
「もしもし?」
『おはよう。今起きた?』
「少し前にね。コーヒー飲んでたらいきなり写真来た。」
『ナオが美緒に送って欲しいってさっき送って来た。サイの持ってた写真らしいよ。』
「え、直哉さんから?」
『……』
「シン?どうかした?」
『……ナオが美緒にお礼言っといてほしいって。』
「え?お礼?」
直哉さんからお礼を言われるようなことをした記憶はないし、少し拗ねるような調子になったシンの口調に何もやましい事はないはずなのにドキッとした。
『ナオはああいう集まり、いろいろ聞かれるから嫌がるんだよ。でも昨日は美緒がフォローしてくれたから助かったってさ。』
「フォロー……してたかな?」
『してた。俺よりナオのこと分かってる感あったし。』
「そんなことないよ。」
『だからナオに会わせたくなかったのに。』
「直哉さん、ちょっと私と似てる所あったからそのせいかもしれない。」
『……』
「怒ってるの?」
『ね、今外出れる?』
「え?今?無理無理、まだ着替えてないし。」
『じゃドアの鍵だけ開けてよ。』
スマホを離し、慌ててインターホンのモニターで外の様子を確認するとドアの外でスマホを片手に立っているシンの姿が映った。
一体いつの間にここに来たのだろうか?
「うわ……そこにいたの?ストーカー?」
『聞こえてますけど?』
「あっ!」
急いでドアまで行くとロックを外す。それを待っていたかのように外側からドアが開かれ、真顔のシンが中まで押し入って来た。
「大輔に送ってもらったの?」
シンは靴も脱がずにそのまま真っすぐに私に近付くと、スマホを持った左手で私に抱きついてきた。右手は約束通りまだ包帯をしているせいで窮屈そうに私のお腹あたりにおさまっている。
「美緒……」
「どうしたの?」
「会いたかった。心配だったし。」
「毎日会ってるじゃん。」
「そうだけど。昨日寝て起きたら大輔しかいないし。しかもナオが一緒に帰ったとか言われるし。こっちの身にもなってよ?」
シンの左手がもう一度ギュッと私を引き寄せた。
「またナオに取られるかもって思ったら怖くて。」
また――という部分が気にかかった。もしかしなくても、シンは直哉さんに大事な物か、もしくは大切な人を取られた経験があるという意味――。
シンの唇が首筋に触れた。そのまま耳元に口を近づけると小さな声で囁かれる。身体が強張るのが分かった。
「何もないなら よかった。」
「……シン、高校の時女友達も彼女もいなかったって言ったよね?直哉さんに取られたって、どういうこと?」
「え?」
肩に回されていた腕が緩み、シンの体がそっと離れた。
「さっき、『 また 』って言った。」
「あぁ、それ?……ナオに取られたのは別に……彼女とかそんなんじゃないよ。」
じっと見つめた視線の先で、シンは恥ずかしそうに下を向くと少し小さな声になった。
「取られたのは友達だよ、幸人。ちっちゃい頃からずっと一緒にいたのは俺なのに、高校入ったらあっさりナオに持ってかれた……ただそれだけ。」
ゆっくりと起き出すと電気ポットに水を注ぎ、カップにドリップコーヒーをセットする。
ここ数日は一人でゆっくりとコーヒーを淹れるような余裕もなかったことに今更ながら気が付いた。
『俺、コーラ飲めないの。』
暗闇の中で見た白くて綺麗な横顔は困った様に笑っていた。
「全然 完璧な人なんかじゃないじゃん。」
カチッと音がすると電気ポットの電源が落ちた。コーヒーの粉に少しだけお湯を注ぐとしばらくの間目を閉じる。
思い浮かんだのは大輔の部屋でニコニコと笑っていたシンだった。
『裏方でこっそりみんなの為に動いてるの見て、なんか偉いなーこの子と思って。』
カップにお湯を細く注ぎながら、コーヒーの香りを吸い込むと顔が自然とニヤけてくる。
誰かに褒められたくてこっそり裏方に徹していた訳ではなかったけれど、それに気が付いてくれたのがシンだったのは運命だったのかもしれない。
自分がシンにふさわしいような相手ではないという劣等感はいまだに消えないけれど、自分を選んでくれたきっかけを知ることができてホッとしている自分がいた。
コーヒーに口を付けようとしたとき、再びスマホが鳴った──シンからのメッセージだろうか。
" 何かさ、ナオから高校の時の写真送ってきたんだけど、あの後見せて欲しいとか頼んだ? "
「え?」
ぼーっとメッセージを眺めていたが、写真という文字にようやく頭が動き出した。
「何それ、見たいんですけど。」
" 頼んでないけど見たい "
コーヒーを飲みながら返信を待っていると、しばらくして一枚の写真が送られてきた。
「え、これって……。」
写真に写っているのはバスケットボールを持った体操服姿の10人ほどの男子高校生の姿だった。緊張したようなその面持ちに思わず笑みがこぼれる。
一人ずつ確認してどれがシンなのか確かめるが、明らかに違うという人を除いていっても候補が2人までしか絞り込めなかった。真ん中の背の高い二人がそれっぽいが一人は黒縁の眼鏡をかけているし、もう一人は色が黒くてシンらしくない気もする。
" シンどれ? "
" 分かんないでしょ?黒メガネがオレ。その隣の背の高いのがサイ "
「え、黒メガネの方?」
もう一度写真を拡大してその二人を見てみる。確かに言われてみれば黒メガネの下の二重の目元にシンの面影がわずかにだがあるような気がする。
「そっか、メガネだったんだ。しかも髪黒いし、真面目そうだな。」
" 髪黒いしメガネかけてるから分かんなかった "
メッセージを送信している途中で、シンから電話がかかってきた。私が起きていることを確認したから不自由な手でやりとりをするより直接話した方が早いとでも思ったのだろう。
「もしもし?」
『おはよう。今起きた?』
「少し前にね。コーヒー飲んでたらいきなり写真来た。」
『ナオが美緒に送って欲しいってさっき送って来た。サイの持ってた写真らしいよ。』
「え、直哉さんから?」
『……』
「シン?どうかした?」
『……ナオが美緒にお礼言っといてほしいって。』
「え?お礼?」
直哉さんからお礼を言われるようなことをした記憶はないし、少し拗ねるような調子になったシンの口調に何もやましい事はないはずなのにドキッとした。
『ナオはああいう集まり、いろいろ聞かれるから嫌がるんだよ。でも昨日は美緒がフォローしてくれたから助かったってさ。』
「フォロー……してたかな?」
『してた。俺よりナオのこと分かってる感あったし。』
「そんなことないよ。」
『だからナオに会わせたくなかったのに。』
「直哉さん、ちょっと私と似てる所あったからそのせいかもしれない。」
『……』
「怒ってるの?」
『ね、今外出れる?』
「え?今?無理無理、まだ着替えてないし。」
『じゃドアの鍵だけ開けてよ。』
スマホを離し、慌ててインターホンのモニターで外の様子を確認するとドアの外でスマホを片手に立っているシンの姿が映った。
一体いつの間にここに来たのだろうか?
「うわ……そこにいたの?ストーカー?」
『聞こえてますけど?』
「あっ!」
急いでドアまで行くとロックを外す。それを待っていたかのように外側からドアが開かれ、真顔のシンが中まで押し入って来た。
「大輔に送ってもらったの?」
シンは靴も脱がずにそのまま真っすぐに私に近付くと、スマホを持った左手で私に抱きついてきた。右手は約束通りまだ包帯をしているせいで窮屈そうに私のお腹あたりにおさまっている。
「美緒……」
「どうしたの?」
「会いたかった。心配だったし。」
「毎日会ってるじゃん。」
「そうだけど。昨日寝て起きたら大輔しかいないし。しかもナオが一緒に帰ったとか言われるし。こっちの身にもなってよ?」
シンの左手がもう一度ギュッと私を引き寄せた。
「またナオに取られるかもって思ったら怖くて。」
また――という部分が気にかかった。もしかしなくても、シンは直哉さんに大事な物か、もしくは大切な人を取られた経験があるという意味――。
シンの唇が首筋に触れた。そのまま耳元に口を近づけると小さな声で囁かれる。身体が強張るのが分かった。
「何もないなら よかった。」
「……シン、高校の時女友達も彼女もいなかったって言ったよね?直哉さんに取られたって、どういうこと?」
「え?」
肩に回されていた腕が緩み、シンの体がそっと離れた。
「さっき、『 また 』って言った。」
「あぁ、それ?……ナオに取られたのは別に……彼女とかそんなんじゃないよ。」
じっと見つめた視線の先で、シンは恥ずかしそうに下を向くと少し小さな声になった。
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