トップシークレット☆桐島編 ~お嬢さま会長に恋した新米秘書~

日暮ミミ♪

文字の大きさ
43 / 50

秘密の恋愛と過去との決別 ③

しおりを挟む
 ――新年度を迎える前日の三月三十一日。この日、僕は絢乃さんとのデートを断り、朝から一人で買い物をしていた。目的は、三日後に控えた絢乃さんの誕生日プレゼント選びだ。

 記者会見が行われた前日の朝、彼女に欲しいものを訊ねてみると、高級ブランド品はもらっても嬉しくないとの答えが返ってきた。それはきっと、僕のサイフ事情をかんがみておっしゃったのだと思う。それに、「ブランド物には興味がない」ということをそれ以前にもおっしゃっていたからだ。
 コスメはどうだろうかと提案してみたが、言ってしまってから思い出した。僕には、デパートのコスメ売り場にイヤな思い出があったことを。

 大学時代のことだ。当時交際していた彼女から誕生日に口紅が欲しいとねだられたことがあり、真っ赤なルージュを選んで贈ったら「こんなどキツい色を選ぶなんて、桐島くん、どういうセンスしてるの!」と思いっきりドン引きされたのだ。
 それ以来、女性へのプレゼントにコスメという選択肢は僕の中から消えたのだった。

「――コスメはともかく、コロンはどうだろう? ……ってダメかぁ。コスメと売り場一緒だしな」

 一階にコスメ売り場のあるデパートに入りかけ、頭を抱えた。
 絢乃さんのお好きな柑橘系の香りのコロンを贈ろうと思い立ったのだが、コロンや香水が売られているのはトラウマのあるコスメ売り場だ。僕としては、あまり立ち入りたくない場所である。それも男ひとりでは。
 それに、柑橘系ならどれでもいいというわけでもないだろうし。彼女がどのブランドのものを愛用されているのかまでは聞いたことがなかったから。

「…………ここは無難にアクセサリーかな」

 デパートに入るのをやめ、恵比寿にある宝飾店へ向かった。
 問題は、どんなアクセサリーを選ぶか。まだ付き合い始めて間もなかったので、指輪はさすがに重いだろう。絢乃さんにブレスレットを着けるイメージはないので、ネックレスなんてどうだろうか? ゴテゴテしていなくてシンプルなものなら、制服の時にも着けやすいだろう。

「……あの、すみません。彼女へのプレゼントなんですけど、シンプルでも可愛いネックレスなんてあったりしますか?」

 女性店員さんに声をかけ、お手頃価格で買えるネックレスを選んでもらった。チャームもチェーンもプラチナで、オープンハートのチャームが可愛らしく、これなら絢乃さんに似合いそうだ。
 僕はそれを一目で気に入り、彼女にプレゼントしようと即決した。


   * * * *


 ――そしてやってきた、絢乃さんの十八歳のお誕生日当日。
 学校はまだ春休み中だったため、彼女は朝からスーツ姿で出社されていた。元は僕の願望でありワガママだったのだが、それを叶えて下さった絢乃さんは本当に僕のことを愛して下さっているのだと思うと嬉しかった。

 新年度を迎えて三日目。絢乃さんは入社の挨拶に訪れる新入社員の応対をしたり、新入社員たちのリストに目を通したり、社内の改革を進めるための根回しをしたりしながら通常業務をこなされ、なかなかにハードな一日を過ごされていた。
 そして、お疲れの中迎えた夕方六時。

「――桐島さん、今日は夕飯どうしようか?」

 彼女がOAチェアーの背もたれに身を預けて伸びをしながら飛んできた問いかけに、僕は「待ってました」と小さく拳を握った。

「それでしたら、僕の方で決めて、すでに予約してある店があるのでそこでディナーにしませんか? 僕からのお祝いということで」

 実は前日のうちに、ネットで見つけたおしゃれだがリーズナブルな洋食屋さん(注:兄の店ではない)を予約してあったのだ。いつも絢乃さんにごちそうになりっぱなしだったので、たまには僕が美味しいものをごちそうしようと思っていて、彼女のお誕生日はそのいい口実だったのだ。「用意周到だ」と笑いたければ笑ってくれ。

 絢乃さんは僕が支払いを持って大丈夫なのかと心配されていたが、「たまにはいいでしょう? 僕に花を持たせると思って」と言ったら、そこは素直に折れて下さった。彼女は僕のプライドをへし折らないよう、そこは僕を立てようとして下さったらしい。
 プレゼントもちゃんと用意してあるというと、彼女は無邪気に「やったぁ♪」と喜んで下さって、この人は本当に可愛いなぁと僕はこっそり鼻の下を伸ばしていた。

 何だかんだ言ったとて、僕は健全な大人の男なのだ。彼女との関係はまだキス止まりだったが、十八歳ということは法律上成人となった彼女と、そろそろ次のステップに進みたいなと思い始めていたのはこの頃からだ。体の関係も、二人の関係でも――ただの恋人同士ではなく、結婚に向けてということだ。

 
 食事の最中、彼女にプレゼントのネックレスを渡すと、「一生の宝物にする」とものすごく喜んで下さった。
 シンプルだが可愛いデザインのネックレスは華奢きゃしゃな彼女の首元にピッタリ収まり、やっぱりこれに決めて正解だと思った。
 ネックレスを着けて差し上げる時、彼女の白いうなじにドキッとなったのは僕だけの秘密にしておこう。


   * * * *


 ――それから一ヶ月後の、五月の大型連休が終わりに近づいたある日。絢乃さんが、少し早めに僕のアパートで誕生日を祝って下さることになった。
 午後からとよのショッピングモールでビーフカレーの材料とケーキを買い込み、プレゼントとして僕がリクエストしたスポーツウォッチも買って下さるという。そして、僕の部屋で一緒に料理をしてささやかなパーティーをしよう、ということだった。

 絢乃さんは十八歳になって間もなくご自身名義のクレジットカードを作られ、その日の買い物の代金も遅めのランチ代もすべてカード決済して下さった。彼女の気前のよさが、いつか災いするのではないかと僕はヒヤヒヤしているのだが……。

 その日、僕は絢乃さんから新学年になってできたというお友達を紹介された。短めのポニーテールと赤いフレームの伊達だてメガネがキュートな彼女・阿佐間あさまゆいさんは、篠沢グループの顧問弁護士である阿佐間先生のお嬢さんだという。
 唯さんからの情報ではその日、小坂リョウジさんが映画の舞台挨拶を行っていたらしい。でも、絢乃さんが僕以外の男は眼中にないと言って下さったので、僕は安心した。だから、あの人が原因でのちにあんな事態に陥ることになるなんて思ってもみなかった。


   * * * *


 ――僕もお手伝いして完成した美味しいビーフカレーとチョコレートケーキで、二人だけのパーティーをして、ちょっとした新婚気分を味わった。……そういえば、二人でサイダーを飲んでいたが、絢乃さんは「炭酸が苦手だ」とおっしゃっていたような。
 それはともかく、僕はそれが次のステップへ進むチャンス到来のように思ってしまい、いや待て待てと自分をいさめていた。
 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、絢乃さんが「結婚についてどう思う?」と逆プロポーズのような質問を投げかけてきた。
 僕は彼女がまだ高校生だったことや、実家の家柄が篠沢家ほど裕福ではないことなどを言い訳にしてはぐらかそうとしたが、次の瞬間絢乃さんが本気を見せてきた。

「わたし、本気だよ」

 彼女は真剣な目で僕を見つめた後、初めて彼女から僕にキスをした。その時の彼女は少し大人びて見えて、僕の鼓動が早くなった。僕からもキスを返し、彼女から「キス、上手だね」と感心されたが、正直そんな余裕なんてなかった。
 彼女が本気で僕を想って下さっていることは分かったが、それでも、僕はまだ結婚に対して前向きになれなかった。彼女を愛していないからではなく、愛しているからこそ。過去のトラウマを引きずったままでは前に進めなかったのだ。それでは、彼女の本気に応えることができないと思ったから――。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...