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60話 仮初めの時間
しおりを挟む「高橋あのさ...ずっと気になってたんだけど、その...怪我は、大丈夫なのか?」
「ふはっ!そこ突っ込むか坂北。」
「そこはそっとしといてやれよ。傷口抉んな!w」
「だ、だって...!」
昼休み。俺は教室で高橋、木下、今村、他数人と机を合わせてご飯を食べている。
今朝の騒動はどこへやら、みんなすっかりいつも通りの雰囲気だ。
怪我のことは聞こうか迷ったが、昨日その場にいたのに助けられなかったというのもあって、生々しい傷痕がどうしても目に入ってきてしまう。なので思いきって訊ねてみた。
「昨日、一体何が...。」
「あー...、俺ずっと暴れてたからな。いい加減諦めろと殴られたんだわ。」
それでも暴れ続けたらこうなった、と苦笑して話す高橋に驚愕の目を向ける。
やっぱり酷いことをされたんだ...。
怖かっただろうし、痛かっただろう。もしかしたら俺以上に。何も出来なかった自分に腹が立つ。
「けど別に、俺は坂北みたいないいこちゃんじゃなかったからよ、こんなん入学してから今までの間に何回もあったんだぜ。お前は知らなかっただろうけど。だから今更へこんだりしてねぇよ。」
そう言って焼そばパンを頬張る高橋が、嘘をついてるようには見えなくてさすがだ。あっけらかんとした様子の高橋にほっとする。
良かった、大丈夫そうで。
俺も、自作の卵焼きを口に運んだ。
「んなことよりさ、お前ら。さっそく今日の放課後どっか行かね?なぁ坂北?」
!!!!!
話題を変えた高橋の何気ない言葉に、俺は目をキラキラと輝かせた。
「い、行きたい!!!!」
そうだ。折角校則が緩んだのだから、南原さんの奴隷になったことに落ち込むよりも、遊んだり出来ることを喜ばなきゃ。
「坂北のやつ、今まで遊んだこと無いんだってよ。」
「はぁ!?マジ!?ありえね~」
「つっても俺らも亜奈月に入学してからろくに遊んでなかったからなぁ~。坂北じゃなくてもテンションあがるわ。」
「どこ行く?ゲーセン?カラオケ?」
「ボーリングも良くね?」
すぐに皆、ワイワイと盛り上がりはじめる。
誰もが普通にしてるであろうこの会話。その中に居られることが、今の俺は何より嬉しかった。
例え、仮初めの幸せだとしても。
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