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俺には丁度いい

33話 至福

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今日はすぐに寝よう
そう思っていたのだが、妹が

「お腹空いたー」

今日はもう遅いからと言っても聞いてくれない
妹が駄々をこねるのは久しぶりだ
近くに店があるといいのだが、、
外に出て、大きく息を吸い込んだ
身体中に冷たい空気が流れ、目が覚めた
山が近いからか、夜はかなり冷え込んだ
俺はカッターシャツ1枚だが、妹はコートと手袋をつけている
ふと、視線が気になったのか、妹がこちらを見た
そして手袋外して一言

「お兄ちゃん、寒くない?」

この子と一緒なら、なんでも楽しめそうだな
大丈夫だよ、お兄ちゃんは寒くない
頭を撫でながら言った
嬉しそうに頬を赤らめた彼女は、急いで手袋をつける
やっぱり寒いんじゃないか
俺も心配されないよう、明日からはコートを着るつもりだ
いつもなら小さな火を出して温まるのだが
この区域でそれは出来ない
はずれとはいえ能力だ
わざわざ当たりが居ない場所まで来たんだ
いや、正確には見なくていい、、かな?
どちらにせよ、自分から使うなんてもってのほかだ
自然豊かな田舎、無防備な人間でちょうどいい
少し歩くとコンビニが一件
茶色ベースの外装になっていた
教科書では見たことあるが、実際観るのは初めて
本物を見てみると、景観にピタリとあっている
落ち着きが増してきた
いまのところ妹のつまらなさそうな顔は見てない
順調だ、驚くぐらいに
自動ドアを通過し店内へ
妹はラーメンを、俺は肉まんを選ぶ
レジを打っているおばさんも、どことなく親切だった

「可愛い妹さんねー」
「ありがとう」

そうだろう、可愛いだろう
俺が1番わかってる
勘違いでもいい
1番身近に居ると、錯覚できれば満足だ
2人で店を後にした
肉まんを二つに分けて、片方を妹に渡す
小さな手袋を外し、肉まんを受け取って微笑んだ
肉まんは暖かく、湯気が2人を癒してくれた
絵に書いたような夜食だ
街灯はほとんど無かったが、月の光で結構明るい
つかの間の至福を楽しんだ後、旅館に戻る
時間は8時を回ったところ
帰ってから温泉に入れるだろうか
いい感じだ
始まったばかりの旅は、最高に楽しかった
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