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第一章:仇討ち
プロローグ
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<作者注:2010/1/1に大幅加筆しました>
部屋の真ん中に血だまりができ、一人の女性がうつ伏せで倒れている。
着衣には乱れがなく、争った形跡も見られなかった。
部屋には、自警団の男二人が口に布を当て、死体の周囲をくまなく見ていた。
一人は年配の男で、もう一人は若い男。どちらも、自警団の上着を着て剣を背中に背負っている。
「この腐臭は、この女からか?」
肩幅が広く長身で体格の良い年配の男が、死体から数歩後ずさって言った。
「いえ、団長。まだ死体には体温が残っています。殺されたばかりではないかと……」
団長と呼ばれた男は、ニブルの街の自警団のボスだ。名をルッカスという。
今年自警団に入って2年目の男が、ルッカス団長に答えながら、手掛かりになるものが残されていないかくまなく部屋の中を探していた。
小さな部屋だが、大人ふたりが寝ることができるほどの大きめのベッドが置いてある。
その傍らには、質素なテーブルに冷めた食事が乗せられていた。
食器が二人分用意されているところを見ると、もう一人誰かいたのだろう。
「ところで、あそこにいる男は誰だ? この女の旦那か?」
団長は、入口に立った体格のいい男が、先ほどから気になっていた。
鋭い眼光を放ち、見に纏う雰囲気が重い。かなりの手練れの雰囲気を醸し出している。
その男は、まだ青年にも見えるが、数々の修羅場を通ってきたかのような顔つきをしていた。
瞳に怒りが現れているようだ。一目で怒っていることがわかった。
男は武器を持っておらず、防具もつけていないので冒険者の類ではない。仕立てが良さそうな真っ黒な上下の服を着て、腕まくりした上着の袖からたくましい筋肉が浮いた腕が見える。
ただの町人ではないことは、ひとめ見てわかった。
若い方の自警団の男が、その男は、自警団が部屋に来た時には女のそばに立っていたと団長に説明した。自警団が部屋に入ってから、入り口でずっと現場の様子を見て動こうとしないのだと言う。
「あそこの男は、被害者の女の身内か何かか?」
ルッカス団長は、もう一度その男について若い団員に聞いた。
「いえ、あの男は、この被害女性の男ですよ。最近はやりのヒモっていうんですかね、愛人だと本人は言っていましたが……」
団長は、話の途中で遮るように手を振ってから、呟いた。
「ヒモか。とてもそんな優男には見えないな……」
「さっき話を聞きましたが、身内ではなく愛人だと…… 来た時には女が殺されていたと言っています。」
「なるほどな…… あの男が殺したのならこの場所にとどまっているわけないよな。」
「その男をどうすればいいのか、念のために治安官に確認して来ます」
「待て! その必要はない」
団長は、今にも部屋から駆け出して行く部下を静止した。
ルッカスは、入口のドア枠に持たれて腕組みして立つ男をもう一度よく舐め回すように見た。
どこかで見たことがある顔だ……一度、話をしたことがあるが思い出せない……
「この匂いは生ける屍の仕業だろうな。その男はもういい。名前とどこに住んでいるかを聞いておけ」
荒くれ者が多いこの街だから、揉め事が多く、殺人事件も少なくはない。
それでも、街中にモンスターが出る事件はこの街でも滅多に起こらない。
「モンスターを見つけ出せ! アンデッドが街に出たとなると、パニックが起きる。すぐに街中を確認させろ」
団長は、若い団員にすぐに街の警戒をするように指示する。通報を受けて来てみたが、厄介なことになりそうだと独り言ちる。
その後、応援が駆けつけるまで団長は部屋の様子をくまなくみて回っていた。時折、入口に立つ男に目を向けながら……
しばらくして、応援に来た数人の自警団が殺害された女を布で包んで運び出して行く。
女の死体は自警団が回収し、領地の治安官が確認した後、身内がいれば引き渡されて埋葬される決まりだ。
女は娼婦で、身内に当たる家族はいないと愛人の男から聞いたので、引き取り手がいないかもしれない。
ルッカス団長は、女が運び出されると同時に立ち去る男に目をやった。
《自分の女が殺されたのに、涙ひとつ流さない男がいるのか…… 》
◇
カールトン国の王都から山一つ離れた場所にある、ニブルの街。
自治区で、街の揉め事や事件は自警団が担っている。
もちろん、他国の侵攻があれば都市から騎士団や近衛兵が派遣されて来るが、そんな大事件はこの街では数十年起きていない。
国王に任命された治安官が1人ずつ、それぞれの街に派遣されている。治安官の下に、ニブルの領主から任命された自警団が組織されている。自警団は町人の身分だが、捜査権を許可されていた。
ニブルの街のはずれにダンジョンがあり、冒険者が集まる街として有名である。
この大陸には四つの国があり、それぞれの国に1つずつ大きなダンジョンが存在している。
そのうちの一つが、このニブルの街に存在している。
そのため、腕に自信のある冒険者も、駆け出しの冒険者も集まって来て賑わいを見せている。
当然、荒くれ者が多くなると揉め事は耐えないため、自警団だけでは処理しきれていない。
そうなると揉め事は自警団に持ち込むより、街にいる裏稼業の男たちに頼む店主も増えて来る。
治安が悪いと大陸中では知れ渡っているため、殺人事件があったとしても街の住民も自警団も驚かない。
今回の娼婦の女が殺されたのも生ける屍の仕業として処理された。
犯人探しなんてやっている暇はない……それが、自警団の判断だった。
死体を検分した治安官も、またかと面倒臭そうな顔をし、ろくに死体を確認しなかった。
「ところで、アンデッドはいたの?」
濃い茶色の髪を後ろで一つ括りし、黒いブラウスに黒のズボン姿の治安官が、遺体の横に立った自警団に怠そうに聞いた。
「いえ、街の隅々まで探しましたが…… いませんでした」
「そう。まぁいいわ、それではこのご遺体は家族に返してあげて」
治安官の女は、遺体を見ようともせず指先だけで下げるように合図を出す。
「身寄りがないようですので、この女の愛人に取りに来るように伝えているのですが、そっちで処理してくれと」
「あら、冷たい愛人ね」
そう言うと、治安官は遺体となった女の肩にそっと手を置いた。
「あなたもかわいそうね。さんざん客を取らされ、金をむしり取られ、死んでも埋葬さえしてくれないとは」
そこに、自警団の男が失礼しますと部屋に入って来た。治安官の前に軽く一礼すると、遅くなりすみませんと謝り、足を揃え直立する。
「ご報告いたします。被害者の部屋にいた男の身元についてですが…… いまご報告してよろしいか」
「ええ、いいわ。どんな男なの?」
治安官の女は、近くにあった椅子に腰をかけ足を組んだ。華奢な足首がズボンの裾から見える。
自警団は治安官の厳しい目線を避けるかのように目を書類に落とす。
「男の名前は、セイヤ・サルバトーレ。年齢は24歳」
「あら私と同い年ね。何の仕事をしてるの」
治安官は、急に興味が湧いたのか、腕組みをほどき身を乗り出した。
「仕事は何をしているのかよくわかりませんが、店を経営しているようです」
「店ねぇ……何を売っているの?どんなお店?」
同い年の男と聞いて、何をそんなに食いつくところがあるのかと、報告する団員もタジタジとなるほど、前のめりの管理官に、報告を続けた。
「近所の人の話では、ダンジョンに入る装備を買う金がなくなった冒険者に金を貸したり、商売を始めたい店主に金を貸しているとか」
「金貸しってこと?」
「いえ、誰にでも金を貸しているわけではないようです。将来性のある商売や冒険者に金を貸して、成功したらお金を返してもらっているのだとか。投資家と近所の人は言っていました」
ふーん、と腕組みをする管理官は、二十四歳にしては幼く見える。化粧気のない丸顔にパッチリした目が特徴的だ。自警団の中にも、幼い見た目に反して大きく横に張り出した胸を持つ治安官に色めき立つものが多い。
「投資家ねぇ。そんなの聞いたことがないわ。成功したら金を返してもらうって、成功しなかったら金は返ってこないじゃないの?お人好しな慈善家ってことね」
「店を経営していると申し上げましたが、男は金を出しているだけで店主は別にいるので、この男がなにをしているのかを説明できる者はいませんでした」
治安官の女は報告する男に手を出して、報告書を受け取り自分で確認した。書類に目を走らせる女は、一通り書類に目を通したのか、書類から目を離すと一つ疑問に思ったことを尋ねた。
「この男がこの街に来たのは2年前か。その前は何をしていたの?」
「本人に確認したところ、他国で事業を失敗してカールトン国に来たとしか……」
この団員はろくに調べていないのか、尻すぼみに声が小さくなる。
「事業に失敗したのに、投資するお金があるのなら、何か裏がありそうね。いいわ、私が今度この男の過去を調べてみるわ」
そう言うと、管理官は立ち上がり、何か思案しているのか窓から外を見た。
この大陸には4つの国があるが、町人、村人のクラスは行き来は自由だ。
どこの国に住もうと制限されることはない。
これは4つの国が共通の言語、通貨、宗教であり、それぞれの国が住民は自由に行き来して良いと昔から決めたからだ。
ただし、納税の制度は国によって若干違う。
カールトン国では、ギルドや商店を利用すれば税を収め、それぞれのギルドや商会が領主に税を払う。
冒険者ならギルドへ届出をするし、商売人は商会ギルドへ届け出る。職人たちはそれぞれ石工ギルド、木工ギルド、鍛冶職ギルドに所属している。
ただし、普通の住民から直接取り立てる税はなかった。町民クラスから直接に税を徴収する必要がないからだ。
どこの国から来て住んでもかまわないし、物を買うときに税を払うため税金を納める必要もない。
そのため入国と出国は手数料を関所で払うのみ。どの国も人の出入りは多い。
「男が投資家という商売をしているのなら、税を収めているんじゃない?」
窓の外を見ていた治安官は、クルッと振り向くと直立不動の自警団の男に尋ねた。
「税を収めた記録はありませんが、酒場と花屋をやっています。ただ、店主はこの男ではありません」
「なるほどね…… お金を貸しているだけで店は店主が別にいるから税の記録がないのね」
「店主が納税しているのなら、別に問題ないわ。もうこの件はここまでにしましょう」
そういうと、治安官の女は部屋から出て行くように、手で合図した。
壁に背を預け、腕組みした治安官はつぶやいた。
「セイヤ・サルバトーレ……聞いたことがあるような……」
<つづく>
部屋の真ん中に血だまりができ、一人の女性がうつ伏せで倒れている。
着衣には乱れがなく、争った形跡も見られなかった。
部屋には、自警団の男二人が口に布を当て、死体の周囲をくまなく見ていた。
一人は年配の男で、もう一人は若い男。どちらも、自警団の上着を着て剣を背中に背負っている。
「この腐臭は、この女からか?」
肩幅が広く長身で体格の良い年配の男が、死体から数歩後ずさって言った。
「いえ、団長。まだ死体には体温が残っています。殺されたばかりではないかと……」
団長と呼ばれた男は、ニブルの街の自警団のボスだ。名をルッカスという。
今年自警団に入って2年目の男が、ルッカス団長に答えながら、手掛かりになるものが残されていないかくまなく部屋の中を探していた。
小さな部屋だが、大人ふたりが寝ることができるほどの大きめのベッドが置いてある。
その傍らには、質素なテーブルに冷めた食事が乗せられていた。
食器が二人分用意されているところを見ると、もう一人誰かいたのだろう。
「ところで、あそこにいる男は誰だ? この女の旦那か?」
団長は、入口に立った体格のいい男が、先ほどから気になっていた。
鋭い眼光を放ち、見に纏う雰囲気が重い。かなりの手練れの雰囲気を醸し出している。
その男は、まだ青年にも見えるが、数々の修羅場を通ってきたかのような顔つきをしていた。
瞳に怒りが現れているようだ。一目で怒っていることがわかった。
男は武器を持っておらず、防具もつけていないので冒険者の類ではない。仕立てが良さそうな真っ黒な上下の服を着て、腕まくりした上着の袖からたくましい筋肉が浮いた腕が見える。
ただの町人ではないことは、ひとめ見てわかった。
若い方の自警団の男が、その男は、自警団が部屋に来た時には女のそばに立っていたと団長に説明した。自警団が部屋に入ってから、入り口でずっと現場の様子を見て動こうとしないのだと言う。
「あそこの男は、被害者の女の身内か何かか?」
ルッカス団長は、もう一度その男について若い団員に聞いた。
「いえ、あの男は、この被害女性の男ですよ。最近はやりのヒモっていうんですかね、愛人だと本人は言っていましたが……」
団長は、話の途中で遮るように手を振ってから、呟いた。
「ヒモか。とてもそんな優男には見えないな……」
「さっき話を聞きましたが、身内ではなく愛人だと…… 来た時には女が殺されていたと言っています。」
「なるほどな…… あの男が殺したのならこの場所にとどまっているわけないよな。」
「その男をどうすればいいのか、念のために治安官に確認して来ます」
「待て! その必要はない」
団長は、今にも部屋から駆け出して行く部下を静止した。
ルッカスは、入口のドア枠に持たれて腕組みして立つ男をもう一度よく舐め回すように見た。
どこかで見たことがある顔だ……一度、話をしたことがあるが思い出せない……
「この匂いは生ける屍の仕業だろうな。その男はもういい。名前とどこに住んでいるかを聞いておけ」
荒くれ者が多いこの街だから、揉め事が多く、殺人事件も少なくはない。
それでも、街中にモンスターが出る事件はこの街でも滅多に起こらない。
「モンスターを見つけ出せ! アンデッドが街に出たとなると、パニックが起きる。すぐに街中を確認させろ」
団長は、若い団員にすぐに街の警戒をするように指示する。通報を受けて来てみたが、厄介なことになりそうだと独り言ちる。
その後、応援が駆けつけるまで団長は部屋の様子をくまなくみて回っていた。時折、入口に立つ男に目を向けながら……
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女の死体は自警団が回収し、領地の治安官が確認した後、身内がいれば引き渡されて埋葬される決まりだ。
女は娼婦で、身内に当たる家族はいないと愛人の男から聞いたので、引き取り手がいないかもしれない。
ルッカス団長は、女が運び出されると同時に立ち去る男に目をやった。
《自分の女が殺されたのに、涙ひとつ流さない男がいるのか…… 》
◇
カールトン国の王都から山一つ離れた場所にある、ニブルの街。
自治区で、街の揉め事や事件は自警団が担っている。
もちろん、他国の侵攻があれば都市から騎士団や近衛兵が派遣されて来るが、そんな大事件はこの街では数十年起きていない。
国王に任命された治安官が1人ずつ、それぞれの街に派遣されている。治安官の下に、ニブルの領主から任命された自警団が組織されている。自警団は町人の身分だが、捜査権を許可されていた。
ニブルの街のはずれにダンジョンがあり、冒険者が集まる街として有名である。
この大陸には四つの国があり、それぞれの国に1つずつ大きなダンジョンが存在している。
そのうちの一つが、このニブルの街に存在している。
そのため、腕に自信のある冒険者も、駆け出しの冒険者も集まって来て賑わいを見せている。
当然、荒くれ者が多くなると揉め事は耐えないため、自警団だけでは処理しきれていない。
そうなると揉め事は自警団に持ち込むより、街にいる裏稼業の男たちに頼む店主も増えて来る。
治安が悪いと大陸中では知れ渡っているため、殺人事件があったとしても街の住民も自警団も驚かない。
今回の娼婦の女が殺されたのも生ける屍の仕業として処理された。
犯人探しなんてやっている暇はない……それが、自警団の判断だった。
死体を検分した治安官も、またかと面倒臭そうな顔をし、ろくに死体を確認しなかった。
「ところで、アンデッドはいたの?」
濃い茶色の髪を後ろで一つ括りし、黒いブラウスに黒のズボン姿の治安官が、遺体の横に立った自警団に怠そうに聞いた。
「いえ、街の隅々まで探しましたが…… いませんでした」
「そう。まぁいいわ、それではこのご遺体は家族に返してあげて」
治安官の女は、遺体を見ようともせず指先だけで下げるように合図を出す。
「身寄りがないようですので、この女の愛人に取りに来るように伝えているのですが、そっちで処理してくれと」
「あら、冷たい愛人ね」
そう言うと、治安官は遺体となった女の肩にそっと手を置いた。
「あなたもかわいそうね。さんざん客を取らされ、金をむしり取られ、死んでも埋葬さえしてくれないとは」
そこに、自警団の男が失礼しますと部屋に入って来た。治安官の前に軽く一礼すると、遅くなりすみませんと謝り、足を揃え直立する。
「ご報告いたします。被害者の部屋にいた男の身元についてですが…… いまご報告してよろしいか」
「ええ、いいわ。どんな男なの?」
治安官の女は、近くにあった椅子に腰をかけ足を組んだ。華奢な足首がズボンの裾から見える。
自警団は治安官の厳しい目線を避けるかのように目を書類に落とす。
「男の名前は、セイヤ・サルバトーレ。年齢は24歳」
「あら私と同い年ね。何の仕事をしてるの」
治安官は、急に興味が湧いたのか、腕組みをほどき身を乗り出した。
「仕事は何をしているのかよくわかりませんが、店を経営しているようです」
「店ねぇ……何を売っているの?どんなお店?」
同い年の男と聞いて、何をそんなに食いつくところがあるのかと、報告する団員もタジタジとなるほど、前のめりの管理官に、報告を続けた。
「近所の人の話では、ダンジョンに入る装備を買う金がなくなった冒険者に金を貸したり、商売を始めたい店主に金を貸しているとか」
「金貸しってこと?」
「いえ、誰にでも金を貸しているわけではないようです。将来性のある商売や冒険者に金を貸して、成功したらお金を返してもらっているのだとか。投資家と近所の人は言っていました」
ふーん、と腕組みをする管理官は、二十四歳にしては幼く見える。化粧気のない丸顔にパッチリした目が特徴的だ。自警団の中にも、幼い見た目に反して大きく横に張り出した胸を持つ治安官に色めき立つものが多い。
「投資家ねぇ。そんなの聞いたことがないわ。成功したら金を返してもらうって、成功しなかったら金は返ってこないじゃないの?お人好しな慈善家ってことね」
「店を経営していると申し上げましたが、男は金を出しているだけで店主は別にいるので、この男がなにをしているのかを説明できる者はいませんでした」
治安官の女は報告する男に手を出して、報告書を受け取り自分で確認した。書類に目を走らせる女は、一通り書類に目を通したのか、書類から目を離すと一つ疑問に思ったことを尋ねた。
「この男がこの街に来たのは2年前か。その前は何をしていたの?」
「本人に確認したところ、他国で事業を失敗してカールトン国に来たとしか……」
この団員はろくに調べていないのか、尻すぼみに声が小さくなる。
「事業に失敗したのに、投資するお金があるのなら、何か裏がありそうね。いいわ、私が今度この男の過去を調べてみるわ」
そう言うと、管理官は立ち上がり、何か思案しているのか窓から外を見た。
この大陸には4つの国があるが、町人、村人のクラスは行き来は自由だ。
どこの国に住もうと制限されることはない。
これは4つの国が共通の言語、通貨、宗教であり、それぞれの国が住民は自由に行き来して良いと昔から決めたからだ。
ただし、納税の制度は国によって若干違う。
カールトン国では、ギルドや商店を利用すれば税を収め、それぞれのギルドや商会が領主に税を払う。
冒険者ならギルドへ届出をするし、商売人は商会ギルドへ届け出る。職人たちはそれぞれ石工ギルド、木工ギルド、鍛冶職ギルドに所属している。
ただし、普通の住民から直接取り立てる税はなかった。町民クラスから直接に税を徴収する必要がないからだ。
どこの国から来て住んでもかまわないし、物を買うときに税を払うため税金を納める必要もない。
そのため入国と出国は手数料を関所で払うのみ。どの国も人の出入りは多い。
「男が投資家という商売をしているのなら、税を収めているんじゃない?」
窓の外を見ていた治安官は、クルッと振り向くと直立不動の自警団の男に尋ねた。
「税を収めた記録はありませんが、酒場と花屋をやっています。ただ、店主はこの男ではありません」
「なるほどね…… お金を貸しているだけで店は店主が別にいるから税の記録がないのね」
「店主が納税しているのなら、別に問題ないわ。もうこの件はここまでにしましょう」
そういうと、治安官の女は部屋から出て行くように、手で合図した。
壁に背を預け、腕組みした治安官はつぶやいた。
「セイヤ・サルバトーレ……聞いたことがあるような……」
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