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想音作クトゥルフ
怠惰なる神の御許に集う
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※本シナリオでは「1890年代キャラシート」を採用する。
また、「キャラクター名」はキャラシート入力後は「条件を満たさない限りシナリオ中には使用できない」ものとする。
その代わりとして、各プレイヤーキャラクターには「数字」にちなんだ「仮名」が与えられる。
名称は「エット」「トヴォ」「トーレ」「フィラ」を当てはめるものとする。
「エット」(本名 神威 刹那 ~かむい せつな~)政治家 25歳 最近注目株の若手議員。人心掌握に長けており、芸術面でも歌でデビューを打診されるほどの能力を持つ歴史を専攻していたためそちらの知識にも長けている。過去の汚職などにも詳しいのでその危険を察知するとそれを仕掛けてくる人を味方につけて回避したりする。相手の望みを瞬時に読み取りそれを材料に説得し外交はお手の物だ。人をまとめて行動するリーダーシップを発揮し、親身に悩みを聞いてくれる兄貴分といった性格。
「トヴォ」(本名 桐ヶ谷 瑛璃奈~きりがや えりな~)宗教家(僧侶) 22歳 真面目で天然。趣味で電気修理や機械修理をこなす
「トーレ」(本名 石村 伊作~いしむら いさく~)エンジニア 34歳 無口。影が薄い。体格が良い。足が早い。ナイーブな性格。
「フィラ」(本名 日下 透~くさか とおる~)警察官 24歳 出世に興味がない 争いは好まないのんびりとした性格
「銀のマリア像」
星の戦士の加護を持つマリア像。1~3日目までで重要な取りこぼしがあった場合それを手に入れた者に伝える。取りこぼしがなかった場合は4日目以降に手に入るものの位置を1つだけ知らせる。
推奨技能:目星、聞き耳、図書館
シナリオクリア条件
孤児院からの脱出 1d6
「銀のマリア像」を入手 1d3
「ツァトゥグァ」について知る 1d3
シナリオ失敗条件
院長に脱出計画がばれる(脱出道具を1つ見つけるたびに「幸運」を振る。失敗回数が「6日目の朝」時点で「4回」以上であること)
「7日目の朝」を迎える
~シナリオ オープニング~
時は18世紀末。
辺鄙な片田舎の、小さな孤児院。
私たちはそこで生まれ、そして巣立っていく。
その先には、新たなる人生が待っている。
そう。
待っている「はず」だった。
~プロローグ~
朝、目が覚める。
僕たちはベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
窓から見える空はきれいな青空が広がっている。
「ずっと」一緒に寝食を供にしてきた仲間たちと、「おはよう」とあいさつを交わし、服を着替える。
簡素な無地の服。
「毎日」、僕らが袖を通してきた服だ。
部屋を出ると、ほかの部屋の仲間たちも起きてきたみたいだ。
ゾロゾロと礼拝堂に集まり、しばらく。
僕らの「お父さん」が前に出て、「朝のお言葉」をしゃべり始めた………。
「院長 朝のお言葉」
~お言葉の後~
そう、僕らは1週間後に、この「慣れ親しんだ孤児院」を出て、新しい「お父さん」「お母さん」のもとに行くことになる。
残り少ない日々を、「神への祈り」を忘れることなく、過ごしていこう。
クトゥルフ神話TRPG「怠惰なる神の御許に集う」、始めさせていただきます。
~1日目~
※本シナリオは「時間割」に沿ってシナリオが進行します。
各時間にできることは限られています。
時間を有効的に活用しましょう。
「お勉強の時間」
⇒この時間は「図書館」で学習をする時間です。
各キャラクターは「1手番」の時間が与えられます。
・勉強する⇒「図書館」技能で勉強します。
成功:開いた本の隙間から「紙の切れ端」が落ちる→「あまり長くはいられない。早くここから」と書かれている。
・本を読む⇒「目星」技能で本を探します。
成功:「カバーと中身の違う本」を見つける→本のタイトルには「脱出経路」と書かれている。本には「鍵穴」があり、開けられない。
・寝る⇒技能ロールはなく、何もせずに1手番消費します。
「おひるごはん」
「作業時間」
⇒この時間は「食堂」「礼拝堂」「庭」「図書館」のうち、どれか1つを選んで作業を行う時間です。
どの場所を選んでも「1手番」が与えられ、「目星」技能で作業をします。
「食堂」:成功で「忘れ物の手記」を見つける→「私たちは記憶を操られている。早く正しい記憶を取り戻して、ここから逃げないと」と書かれている
0/1のSAN値チェック
「礼拝堂」:院長先生がお祈りをしている。その後会話。
「庭」:成功で茂みの中から「隠された日誌」を見つける→「18歳の巣立ちを迎えてはいけない。迎えたら最後、殺される」と書かれている。
「図書館」:成功で「お勉強の時間」と同義
「自由時間」
⇒この時間は「食堂」「礼拝堂」「庭」「図書館」「自室」「院長室」の中から1つを選んで自由に行動できます。
ここでは各プレイヤーに「1手番」が与えられます。
「目星」技能で各箇所を探索することが可能です。
ただし、いつでもすべての場所に入れるわけではないので、注意してください。
「食堂」「庭」「図書館」は同じ
「礼拝堂」:成功で椅子の下に「紙の切れ端」を見つける→「逃げないと、喰われる。院長は何かを隠してる」と書かれている。
「自室」:成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「エット」が発覚する。
1d3/1d6のSAN値チェック
「院長室」:鍵がかかっている。ノックをしても反応がない。立ち去ろうとすると後ろから「院長」が現れる。
0/1のSAN値チェック
「よるごはん」
「就寝時間」
⇒この時間は寝る時間です。「自室」「庭」で過ごすことが可能ですが、あまり長く居ると怒られてしまいます。
それぞれ「目星」技能を使うことで部屋の探索が可能です。
「部屋」:目星判定成功で『エット』が自分の名前を知らなかった場合、『エット』のみ成功で「名前の書かれた紙」入手。『エット』を除き最も出目の低かった探索者は「古いカギ」を発見。
「庭」:聞き耳判定成功で「遠くで野犬の遠吠え」が聞こえる。誰もいない中で聞く不気味さに寒気がした。0/1のSAN値チェック
~2日目~
「院長 朝のお言葉」
「自由時間」
「食堂」:成功で「ロープ」を1本発見
「礼拝堂」:院長と会う
「庭」:成功で孤児院の裏に「掘り進められた穴」を見つける。中は暗くて様子をうかがうことはできない。相当深いところまで掘られているようだ。
「図書館」:「カギを入手」している場合、「脱出経路」を読むことができる→「脱出に必要なものはロープと聖書を人数分、ランタンが2つ、革袋が1つ、そして銀のマリア像」
「孤児院から逃げるには、孤児院の礼拝堂の教壇の下の穴から」
「自室」:成功で「ランタン」を1つ見つける。
「院長室」:中に入れる。成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「トヴォ」が発覚する。
1d3/1d6のSANチェック
「おひるごはん」
「作業時間」
「礼拝堂」:成功で「教壇の下に穴」を見つける。中は暗くて様子をうかがうことはできない。相当深いところまで掘られているようだ。
「庭」:入口のわきに「ロープ」を1本発見
「よるごはん」
「就寝時間」
~3日目~
「院長 朝のお言葉」
「作業時間」
「食堂」:成功で「革袋」を1つ発見
「礼拝堂」:とくになし
「庭」:院長と会う
「図書館」:成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「トーレ」の名前が判明する。
「おひるごはん」
「作業時間」
前に同じ
「よるごはん」
「就寝時間」
「自室」:成功で「聖書」を1つ発見
~4日目~
「院長 朝のお言葉」
※「お言葉」のあと、探索者は「院長室」に呼ばれる
「教会の掃除」
探索者は各自「2手番」が与えられます。
掃除できる場所は「講壇」「講堂」「ベランダ」「鐘」「懺悔室」「神父の部屋」「空き部屋」「地下室」
「講壇」:成功で「聖書」を1つ入手
「講堂」:なにもなし
「ベランダ」:なにもなし
「鐘」:成功でメモ書き「7日目に、教会の扉を開けてはいけない。そこは神が休むところなり」を発見する
「懺悔室」:成功で「銀のマリア像」を発見
「神父の部屋」:成功で本棚の中から「黒いノート」を発見する(『ツァトゥグァの無形の落とし子』について、神話技能+3%、1d3/1d6のSAN値チェック)
「空き部屋」:成功で「ロープ」を1本発見する
「地下室」:成功で「ランタン」を1つ発見する
「就寝時間」
「庭」:院長に会う 0/1のSANチェック
~5日目~
「院長 朝のお言葉」
「勉強時間」
・勉強する→成功でメモ書き「院長は6日目の夜に教会にお祈りに行く」と書いてある。
・本を読む→成功で本棚から「聖書」を1冊発見する。
・寝る→寝る。幸運ロール失敗で寝過ごして午後の手番が消える。院長に起こされ目覚める。0/1のSAN値チェック。
「おひるごはん」
「自由時間」
「食堂」:成功で「ロープ」を1本発見
「礼拝堂」:成功で「メモ」が発見→「かみを信じなさい。あなたが信じれば、それに答えてくださる」と書かれている。
「庭」:成功で植込みの中から「名前の書かれた紙」を見つける→「フィラ」の名前が判明する。
「図書館」:院長に会う
「自室」:成功でベッドの下から「カギ」を見つける。
「院長室」:中に入れる。タペストリーには「ツァトゥグァ」の絵が書かれている。1d3/1d6のSAN値チェック、神話技能+3%
「よるごはん」
「就寝時間」
「自室」:(全員の名前が分かっていないなら)成功で「カギのかかった木箱」を見つける。中を開けると「この時点で名前が分かっていない人間の名前が書かれた紙」を見つける。
(全員の名前が分かっているのなら)木箱を開けると、「メモ」が見つかる。
~メモの中身~
今日で7日目。俺たちはここを出て新たな家族の元に行くことになっている。ああ、本当にそうだったらどれだけよかったことか。昨日神父が教会で俺たちのために祈ると言っていた。新たな旅路に幸あらんことを、だそうだ。ここを出る子供がいるときには必ずやる。だが実際に祈ってるのは俺たちの幸運なんかじゃない。あの化け物にだ。俺たちはここを出るために準備して来た。でも駄目だった。気づかれた。監視されながら出ることは不可能だった。今日の朝会が終わったら教会に来るようにと言われている。今までここを出た人間は多いはずなのに、教会から出ていくところを誰1人見ていない。教会に向かって、きっとそれっきりだ。もうすぐ俺たちも教会に向かわなくちゃならない。もしも誰かがこれを見つけて読んだなら、うまく逃げてくれ。この悪夢のような空間から逃げ出せることを祈っている。 エット
1/1d6のSAN値チェック
~6日目~
「院長 朝のお言葉」
※この後に「幸運」によるポイントが4点以上ある場合は、強制的にバッドエンドとなる。
「作業時間」
全部屋とくになし
「おひるごはん」
「作業時間」
全部屋とくになし
「よるごはん」
「就寝時間」
「礼拝堂」:ランタンに明かりをつけて探索成功で「教壇の下の穴」を見つける。→エンディングへ
「庭」:ランタンに明かりをつけて探索成功で「建物裏の穴」へ入れる。→バッドエンディングへ
~7日目~
バッドエンド確定
バッドエンド①「院長に気づかれる」
6日目の朝の「お言葉」のあとに「院長室」に呼ばれる。
(6日目の朝のお言葉が終わった後)
「ああ、そうでした。エット君、トヴォ君、トーレ君、フィラ君。4人はこの後私の部屋まで来てください。じきに旅立つあなた達とお話しする機会が欲しいのです。明日はきっと忙しくなりますから、今日のうちが良いでしょう。では、忘れずにお願いしますね?」
(院長室にて)
「さて、皆さん揃ったようですね。ええ、まず何からお話ししましょうか。何度経験してもお別れには慣れないものですね……新たな門出を悲しんではいけないというのに。ところで皆さん、何か隠していることはありませんか? ああいえ、答えなくても結構ですよ。懺悔とは神に行うもの、私がそれを無理に聞き出そうとは思いません。もしかしたら『私に聞かれてはまずいお話』もあるかもしれませんからね。そうでしょう、エット君……いえ、日下君? 私は残念でなりません。あなた達4人がここから逃げ出そうと考えていたとは……神の御許から離れることが信仰に繋がろうはずもありません。……しかしあなた達が疑いたくなるのも仕方のないことなのかもしれません。そんなあなた達には特別に、神の御姿をお見せ致しましょう。神は寛大です、きっとあなた方の前に姿を現しその疑問に答えてくれるでしょう。」
神父はそう言うなりブツブツと呪文を唱える。ひとしきり唱え終わったかと思うと、部屋の中に異様な気配が巻き起こるのを感じるだろう。何かが、ここへやって来る。毛皮に覆われた大きな体躯にヒキガエルのような顔、頭部にはコウモリのような耳がある。おおよそこの世のものとは思えない怪物が、唐突にこの部屋に中心に現れたのである。あなた達が恐怖に身をすくめている中、神父は1人穏やかな笑みを浮かべたままたった一言、こう言った。
「どうぞ、お納めください」
その言葉を待っていたかのように怪物はあなた達の方へと手を伸ばす。震えて動かない体を鷲掴みにされ、ある者は頭から、ある者はつま先から大きな口へと放り込まれる。幾度かの咀嚼を終えると、怪物は影も形もなく部屋の中から姿を消した。神父はそれを満足そうに見つめながら呟いた。
「あなた方と神が共にあらんことを」
消息を絶った4人の行方は、杳として知れない。
バッドエンド②「間違えた穴」
「庭」の穴から抜け出そうとするも、その先は行き止まり。
引き返そうとする探索者の前に、ランタンを持った院長が。
「おやおや、いけませんねぇ……もう就寝時間だというのにこんなところで遊んでいたのですか。探検ごっこは構いませんが、何もなかったでしょう? 普段暮らしている分には、こんな穴に用があるはずありませんからね。ここに来る理由があるとすれば、好奇心から探検したくなることもあるでしょうが……恐らくは『目的があって抜け出そうと考えているとき』でしょうか。その荷物を見るに好奇心で入った、という様子ではありませんね。何かの考えに基づいて院から逃げ出したくなったのでは?例えば……何か妙な考えに至ってしまったとか。いいですか皆さん、決まりや約束事というのは『決まっているから』守らなければならないのではなく『守る理由があるから』決まっているのです。さあ、4人とも院長室へいらっしゃい。少しお話をすれば誤解は解けるでしょうし、決まりを守らなかったことを悔い改めてもらわなければなりません」
あなた達は院長室へと連れられ、そこで神父と話をすることになった。神父が口にするのは院内の規則を破ったことへの反省を促すものや院から抜け出そうとしたことを心配しての言葉ばかりだった。何かをされることもなく安心していると、不意に眠気が襲ってくる。それは恐ろしく強く、抗うことのできない強烈な睡魔だった。安心から来るものなのか、それとも何か別のものなのか。意識の途切れる最後の瞬間、あなた達は神父の一言を鮮明に聞き取ることができるだろう。
「あなた方4人が神と共にあらんことを」
後に孤児院を出た4人と連絡がついた、彼らの姿を見かけたという話は、誰も聞かない。
バッドエンド③最期の朝
「エットさん、トヴォさん、トーレさん、フィラさん。最後に教会で神に祈りを捧げましょう。ここでの生活での最後のご挨拶になりますから、これからも見守っていてくださいますようにとお祈りするのです。勿論私もあなた達のためにお祈りをさせてもらいます。あなた達の新たな旅路に幸多からんことを、とね」
あなた達は神父に促されるように礼拝堂から教会へと向かうだろう。教会の戸を開け、慣れた動作で中へと踏み入ろうとしたその時。あなた達は突如として暗闇の中へ入り込んでしまう。普段の教会であれば光のない空間ということはあり得ない。一体ここはどこなのか。振り返れば見慣れた景色の中で神父がいつもと同じように微笑んでいる。引き返そうとしたあなた達に神父が声をかける。
「それでは皆さん、神と共にあらんことを」
神父がいつもの表情、変わらぬ声色でそう言い、扉を閉める。唯一光の届いていた扉が閉ざされたことで、周囲は何一つ見えない闇に包まれた。どことも知れぬ闇の中、お互いの息遣いだけが聞こえている中、別の何かが音を立てる。大きく、それでいて重いものがゆっくりと動く音。何かがこちらに近づいてくる足音だ。音のする方に目を凝らしても、何も見えない。ただ暗闇から音だけが迫ってくる。幾らか近づいてくるとその音は止まり、次に聞こえてきたのは叫び声だった。聞き慣れた仲間の、3人のうちの誰かの声。1人が叫び、その声が聞こえなくなるとまた1人が悲鳴を上げる。この暗闇の中で何が起こっているのか、それを知る術はあなたにはなかった。最後の1人の悲鳴が終わると同時に、何かがあなたの体をがっしりと捉える。毛に覆われた大きな何かに捉えられ、身動き一つ取ることができない。恐怖に頭が支配され、耐えきれなくなり叫び声を上げそうになったところで、あなたの意識はぶつりと途切れた。しかし、これはこれで幸運だったのかも知れない。叫び声こそ聞こえたものの、最後の瞬間まで何が起こっているのか理解しないで済んだのだから。
エンディング
探索者たちが教壇の下の穴を進んでいく。穴は見た目以上に深く、先まで続いている。
所々曲がり、下り、上り、そうこうしているうちに平衡感覚を失い、自分たちが今どこに向かって進んでいるのか分からなくなる。
ふと気が付けば手にしていたはずのランタンの明かりは消え、暗闇をただひたすらに進んでいくのみとなった。
そのうち進んでいる手の感覚、足の感覚、すぐ前、または後ろを進んでいるはずの仲間たちの気配すらもあいまいになっていく。
自分が少しずつ自分でない、闇に溶けていくような嫌な感覚だった。
暗闇の中を泳いでいるような、そんな感覚。
果たして、今腕は動いているのだろうか。進んでいるのだろうか。止まっているのだろうか。
そもそも腕はあるのだろうか。足はあるのだろうか。頭はあるのだろうか。
ーーーーー自分ーーーはーーダレーーーーーー
次に目を覚ました時には、見知らぬ天井が広がっていた。
腕には点滴がつながれている。
どうやら病院のようだ。
病院の看護師が来て、すぐに医者を呼びに行った。
話を聞くと、「丸一週間」寝たままで、生死の境をさまよっていたようだ。
しかし、どうしてこうなったのか、その直前の記憶がどうも思い出せない。
このあとは精密検査を受けて、早ければ明日にでも退院できるらしい。
今日はゆっくりと休んで、休息をとろう。
今日ばかりは、この奇跡を「神」に祈っても良い気がした。
~エピローグ~
夢から、醒める。
「今回は逃げてしまいましたか……。」
少し残念そうな、それでいて楽しげにも聞こえる声音で、男はごちる。
「あぁ、神よ……。真の幸福を知らず、あまつさえ逃げてしまう愚かな子羊たちに慈悲を……。」
男はよろよろとした足取りで、部屋にかけられたタペストリーの前に跪く。
禍々しくも神々しい、見るものに不安と安心を同時に与えるそんな「神」とも「悪魔」ともみれる姿。
「あぁ神よ、この世の理の外にまします真の神よ……。あなた方の慈悲を、きっと世の人間たちにも知らしめてまいりましょう……。」
男はゆっくりと顔をあげる。その落ちくぼんだ眼はもはや狂気に濁り、口元には凄惨な笑みが浮かんでいた。
「では、次の贄を用意いたしましょう……。」
男の姿が暗がりに消える。
そこに人がいた形跡は、もうなかった。
●院長 朝のお言葉(7日分)
1日のお言葉
皆さん、おはようございます。今朝は良く晴れましたね、きっと気持ちいい1日になることでしょう。皆さんには常日頃から言っているように様々な未来が待っています。今はここでその時を待ちながら教養を深め、いずれはここを巣立ち新たな人生へと踏み出すのです。そして一週間後にはここを出て新たな人生を歩む事になる人もいます。皆さんとはお別れになりますが、皆さんが敬虔な信徒であればいつかまた出会うことができるでしょう。ひたむきなあなた達に神がよくしてくれないはずはありません。神はいつでもあなた達とともにあることを忘れないでくださいね……。今日は言葉ではなくお祈りをしましょう、神が祈りの言葉を聞き届けてくださるでしょう
2日目のお言葉
皆さん、おはようございます。皆さんにとってやりたいこととはなんでしょうか?どんなに大きなことでも、そしてどんなに小さなことでも神はご覧になっています。今日の言葉は『だれでも、求めるものは受け、探すものは見つけ、門を叩くものには開かれる』です。夢を持つこと、夢に向かって進むことを忘れないでください。神はその行いをお見過ごしになどならないのですから
3日目のお言葉
皆さんは何か困ったことはないでしょうか。私に相談してくださっても構いませんが、思い悩むことがあったり、どうすればいいかわからなくなったりする時にはお祈りをしてみてください。『あなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる』これが今日の言葉です。この礼拝堂はお祈りのために作られた部屋であり、お祈りとは自分の内にあるものと対面するためのものです。もしも自分に自信がなくなったときや不安に押し潰されそうなったときは内なる声を聞きなさい、神はきっと答えてくださるでしょう。
4日目のお言葉
皆さんは一緒に暮らす人たちを信じているでしょうか。今日の言葉は『信じない者ではなく、信じる者になりなさい』です。信じるということはとても難しく、そして尊い行いです。疑うことは簡単ですが、誰も彼も疑っていては心に邪な考えを植え付け、争いごとを生むことにもなり兼ねません。盲信することではなく、心から信じることができるよう、また信じてもらえるよう努めることこそが大事なことだということを覚えておいてください。
5日目のお言葉
わたしは数日前、皆さんにやりたいことについてお聞きしました。今日の言葉は『もし、からし種一粒ほどの信仰があれば、この山に向かって、「ここから、あそこに移れ」と命じても、その通りになる。あなた方にできないことは何もない』です。皆さんは神とともにあることをあまり実感できていないかもしれません。信仰することで不幸の全てがなくなるわけではありませんが信じることを忘れない人の元にこそ奇跡は起こり、何事も成し得る力が湧いてくるのです。こんなことはできない、無理だと思うことなく挑戦してください。神はいつでも皆さんとともにあるのですから
6日目のお言葉
今日の言葉は『わたしは主、あなたの神。あなたの右の手を固く取って言う。恐れるな、わたしはあなたを助ける』です。神は私たちを助けてくださり、正しき道へと導いてくださります。神は友人ではなく、また友人ではないからこそ全ての苦難に手を差し伸べてはくださいません。しかし本当に助けを必要としている時、神は皆さんを助けてくださるはずです。正しいことをしていると思うときにこそ迷わず、たじろがずにまっすぐ進んでください。
7日目のお言葉
ついにこの日が来てしまいました。18歳となった皆さんはこの施設を出て新たな人生を送ることになります。そんなあなた達にはこの言葉を贈りましょう。『今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなた方にはなおさらのことではないか』皆さんは神に見守られ歩んでいくのです。思い悩まず、新たな一歩を踏み出すことを恐れないでくださいね。ここでの生活を忘れず、皆さん一人一人が祈りを捧げることを忘れないでください。いと高きところから見守っておられる神は皆さんの祈りに答え救いをくださることでしょう……。
また、「キャラクター名」はキャラシート入力後は「条件を満たさない限りシナリオ中には使用できない」ものとする。
その代わりとして、各プレイヤーキャラクターには「数字」にちなんだ「仮名」が与えられる。
名称は「エット」「トヴォ」「トーレ」「フィラ」を当てはめるものとする。
「エット」(本名 神威 刹那 ~かむい せつな~)政治家 25歳 最近注目株の若手議員。人心掌握に長けており、芸術面でも歌でデビューを打診されるほどの能力を持つ歴史を専攻していたためそちらの知識にも長けている。過去の汚職などにも詳しいのでその危険を察知するとそれを仕掛けてくる人を味方につけて回避したりする。相手の望みを瞬時に読み取りそれを材料に説得し外交はお手の物だ。人をまとめて行動するリーダーシップを発揮し、親身に悩みを聞いてくれる兄貴分といった性格。
「トヴォ」(本名 桐ヶ谷 瑛璃奈~きりがや えりな~)宗教家(僧侶) 22歳 真面目で天然。趣味で電気修理や機械修理をこなす
「トーレ」(本名 石村 伊作~いしむら いさく~)エンジニア 34歳 無口。影が薄い。体格が良い。足が早い。ナイーブな性格。
「フィラ」(本名 日下 透~くさか とおる~)警察官 24歳 出世に興味がない 争いは好まないのんびりとした性格
「銀のマリア像」
星の戦士の加護を持つマリア像。1~3日目までで重要な取りこぼしがあった場合それを手に入れた者に伝える。取りこぼしがなかった場合は4日目以降に手に入るものの位置を1つだけ知らせる。
推奨技能:目星、聞き耳、図書館
シナリオクリア条件
孤児院からの脱出 1d6
「銀のマリア像」を入手 1d3
「ツァトゥグァ」について知る 1d3
シナリオ失敗条件
院長に脱出計画がばれる(脱出道具を1つ見つけるたびに「幸運」を振る。失敗回数が「6日目の朝」時点で「4回」以上であること)
「7日目の朝」を迎える
~シナリオ オープニング~
時は18世紀末。
辺鄙な片田舎の、小さな孤児院。
私たちはそこで生まれ、そして巣立っていく。
その先には、新たなる人生が待っている。
そう。
待っている「はず」だった。
~プロローグ~
朝、目が覚める。
僕たちはベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
窓から見える空はきれいな青空が広がっている。
「ずっと」一緒に寝食を供にしてきた仲間たちと、「おはよう」とあいさつを交わし、服を着替える。
簡素な無地の服。
「毎日」、僕らが袖を通してきた服だ。
部屋を出ると、ほかの部屋の仲間たちも起きてきたみたいだ。
ゾロゾロと礼拝堂に集まり、しばらく。
僕らの「お父さん」が前に出て、「朝のお言葉」をしゃべり始めた………。
「院長 朝のお言葉」
~お言葉の後~
そう、僕らは1週間後に、この「慣れ親しんだ孤児院」を出て、新しい「お父さん」「お母さん」のもとに行くことになる。
残り少ない日々を、「神への祈り」を忘れることなく、過ごしていこう。
クトゥルフ神話TRPG「怠惰なる神の御許に集う」、始めさせていただきます。
~1日目~
※本シナリオは「時間割」に沿ってシナリオが進行します。
各時間にできることは限られています。
時間を有効的に活用しましょう。
「お勉強の時間」
⇒この時間は「図書館」で学習をする時間です。
各キャラクターは「1手番」の時間が与えられます。
・勉強する⇒「図書館」技能で勉強します。
成功:開いた本の隙間から「紙の切れ端」が落ちる→「あまり長くはいられない。早くここから」と書かれている。
・本を読む⇒「目星」技能で本を探します。
成功:「カバーと中身の違う本」を見つける→本のタイトルには「脱出経路」と書かれている。本には「鍵穴」があり、開けられない。
・寝る⇒技能ロールはなく、何もせずに1手番消費します。
「おひるごはん」
「作業時間」
⇒この時間は「食堂」「礼拝堂」「庭」「図書館」のうち、どれか1つを選んで作業を行う時間です。
どの場所を選んでも「1手番」が与えられ、「目星」技能で作業をします。
「食堂」:成功で「忘れ物の手記」を見つける→「私たちは記憶を操られている。早く正しい記憶を取り戻して、ここから逃げないと」と書かれている
0/1のSAN値チェック
「礼拝堂」:院長先生がお祈りをしている。その後会話。
「庭」:成功で茂みの中から「隠された日誌」を見つける→「18歳の巣立ちを迎えてはいけない。迎えたら最後、殺される」と書かれている。
「図書館」:成功で「お勉強の時間」と同義
「自由時間」
⇒この時間は「食堂」「礼拝堂」「庭」「図書館」「自室」「院長室」の中から1つを選んで自由に行動できます。
ここでは各プレイヤーに「1手番」が与えられます。
「目星」技能で各箇所を探索することが可能です。
ただし、いつでもすべての場所に入れるわけではないので、注意してください。
「食堂」「庭」「図書館」は同じ
「礼拝堂」:成功で椅子の下に「紙の切れ端」を見つける→「逃げないと、喰われる。院長は何かを隠してる」と書かれている。
「自室」:成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「エット」が発覚する。
1d3/1d6のSAN値チェック
「院長室」:鍵がかかっている。ノックをしても反応がない。立ち去ろうとすると後ろから「院長」が現れる。
0/1のSAN値チェック
「よるごはん」
「就寝時間」
⇒この時間は寝る時間です。「自室」「庭」で過ごすことが可能ですが、あまり長く居ると怒られてしまいます。
それぞれ「目星」技能を使うことで部屋の探索が可能です。
「部屋」:目星判定成功で『エット』が自分の名前を知らなかった場合、『エット』のみ成功で「名前の書かれた紙」入手。『エット』を除き最も出目の低かった探索者は「古いカギ」を発見。
「庭」:聞き耳判定成功で「遠くで野犬の遠吠え」が聞こえる。誰もいない中で聞く不気味さに寒気がした。0/1のSAN値チェック
~2日目~
「院長 朝のお言葉」
「自由時間」
「食堂」:成功で「ロープ」を1本発見
「礼拝堂」:院長と会う
「庭」:成功で孤児院の裏に「掘り進められた穴」を見つける。中は暗くて様子をうかがうことはできない。相当深いところまで掘られているようだ。
「図書館」:「カギを入手」している場合、「脱出経路」を読むことができる→「脱出に必要なものはロープと聖書を人数分、ランタンが2つ、革袋が1つ、そして銀のマリア像」
「孤児院から逃げるには、孤児院の礼拝堂の教壇の下の穴から」
「自室」:成功で「ランタン」を1つ見つける。
「院長室」:中に入れる。成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「トヴォ」が発覚する。
1d3/1d6のSANチェック
「おひるごはん」
「作業時間」
「礼拝堂」:成功で「教壇の下に穴」を見つける。中は暗くて様子をうかがうことはできない。相当深いところまで掘られているようだ。
「庭」:入口のわきに「ロープ」を1本発見
「よるごはん」
「就寝時間」
~3日目~
「院長 朝のお言葉」
「作業時間」
「食堂」:成功で「革袋」を1つ発見
「礼拝堂」:とくになし
「庭」:院長と会う
「図書館」:成功で「名前の書かれた紙」を見つける→「トーレ」の名前が判明する。
「おひるごはん」
「作業時間」
前に同じ
「よるごはん」
「就寝時間」
「自室」:成功で「聖書」を1つ発見
~4日目~
「院長 朝のお言葉」
※「お言葉」のあと、探索者は「院長室」に呼ばれる
「教会の掃除」
探索者は各自「2手番」が与えられます。
掃除できる場所は「講壇」「講堂」「ベランダ」「鐘」「懺悔室」「神父の部屋」「空き部屋」「地下室」
「講壇」:成功で「聖書」を1つ入手
「講堂」:なにもなし
「ベランダ」:なにもなし
「鐘」:成功でメモ書き「7日目に、教会の扉を開けてはいけない。そこは神が休むところなり」を発見する
「懺悔室」:成功で「銀のマリア像」を発見
「神父の部屋」:成功で本棚の中から「黒いノート」を発見する(『ツァトゥグァの無形の落とし子』について、神話技能+3%、1d3/1d6のSAN値チェック)
「空き部屋」:成功で「ロープ」を1本発見する
「地下室」:成功で「ランタン」を1つ発見する
「就寝時間」
「庭」:院長に会う 0/1のSANチェック
~5日目~
「院長 朝のお言葉」
「勉強時間」
・勉強する→成功でメモ書き「院長は6日目の夜に教会にお祈りに行く」と書いてある。
・本を読む→成功で本棚から「聖書」を1冊発見する。
・寝る→寝る。幸運ロール失敗で寝過ごして午後の手番が消える。院長に起こされ目覚める。0/1のSAN値チェック。
「おひるごはん」
「自由時間」
「食堂」:成功で「ロープ」を1本発見
「礼拝堂」:成功で「メモ」が発見→「かみを信じなさい。あなたが信じれば、それに答えてくださる」と書かれている。
「庭」:成功で植込みの中から「名前の書かれた紙」を見つける→「フィラ」の名前が判明する。
「図書館」:院長に会う
「自室」:成功でベッドの下から「カギ」を見つける。
「院長室」:中に入れる。タペストリーには「ツァトゥグァ」の絵が書かれている。1d3/1d6のSAN値チェック、神話技能+3%
「よるごはん」
「就寝時間」
「自室」:(全員の名前が分かっていないなら)成功で「カギのかかった木箱」を見つける。中を開けると「この時点で名前が分かっていない人間の名前が書かれた紙」を見つける。
(全員の名前が分かっているのなら)木箱を開けると、「メモ」が見つかる。
~メモの中身~
今日で7日目。俺たちはここを出て新たな家族の元に行くことになっている。ああ、本当にそうだったらどれだけよかったことか。昨日神父が教会で俺たちのために祈ると言っていた。新たな旅路に幸あらんことを、だそうだ。ここを出る子供がいるときには必ずやる。だが実際に祈ってるのは俺たちの幸運なんかじゃない。あの化け物にだ。俺たちはここを出るために準備して来た。でも駄目だった。気づかれた。監視されながら出ることは不可能だった。今日の朝会が終わったら教会に来るようにと言われている。今までここを出た人間は多いはずなのに、教会から出ていくところを誰1人見ていない。教会に向かって、きっとそれっきりだ。もうすぐ俺たちも教会に向かわなくちゃならない。もしも誰かがこれを見つけて読んだなら、うまく逃げてくれ。この悪夢のような空間から逃げ出せることを祈っている。 エット
1/1d6のSAN値チェック
~6日目~
「院長 朝のお言葉」
※この後に「幸運」によるポイントが4点以上ある場合は、強制的にバッドエンドとなる。
「作業時間」
全部屋とくになし
「おひるごはん」
「作業時間」
全部屋とくになし
「よるごはん」
「就寝時間」
「礼拝堂」:ランタンに明かりをつけて探索成功で「教壇の下の穴」を見つける。→エンディングへ
「庭」:ランタンに明かりをつけて探索成功で「建物裏の穴」へ入れる。→バッドエンディングへ
~7日目~
バッドエンド確定
バッドエンド①「院長に気づかれる」
6日目の朝の「お言葉」のあとに「院長室」に呼ばれる。
(6日目の朝のお言葉が終わった後)
「ああ、そうでした。エット君、トヴォ君、トーレ君、フィラ君。4人はこの後私の部屋まで来てください。じきに旅立つあなた達とお話しする機会が欲しいのです。明日はきっと忙しくなりますから、今日のうちが良いでしょう。では、忘れずにお願いしますね?」
(院長室にて)
「さて、皆さん揃ったようですね。ええ、まず何からお話ししましょうか。何度経験してもお別れには慣れないものですね……新たな門出を悲しんではいけないというのに。ところで皆さん、何か隠していることはありませんか? ああいえ、答えなくても結構ですよ。懺悔とは神に行うもの、私がそれを無理に聞き出そうとは思いません。もしかしたら『私に聞かれてはまずいお話』もあるかもしれませんからね。そうでしょう、エット君……いえ、日下君? 私は残念でなりません。あなた達4人がここから逃げ出そうと考えていたとは……神の御許から離れることが信仰に繋がろうはずもありません。……しかしあなた達が疑いたくなるのも仕方のないことなのかもしれません。そんなあなた達には特別に、神の御姿をお見せ致しましょう。神は寛大です、きっとあなた方の前に姿を現しその疑問に答えてくれるでしょう。」
神父はそう言うなりブツブツと呪文を唱える。ひとしきり唱え終わったかと思うと、部屋の中に異様な気配が巻き起こるのを感じるだろう。何かが、ここへやって来る。毛皮に覆われた大きな体躯にヒキガエルのような顔、頭部にはコウモリのような耳がある。おおよそこの世のものとは思えない怪物が、唐突にこの部屋に中心に現れたのである。あなた達が恐怖に身をすくめている中、神父は1人穏やかな笑みを浮かべたままたった一言、こう言った。
「どうぞ、お納めください」
その言葉を待っていたかのように怪物はあなた達の方へと手を伸ばす。震えて動かない体を鷲掴みにされ、ある者は頭から、ある者はつま先から大きな口へと放り込まれる。幾度かの咀嚼を終えると、怪物は影も形もなく部屋の中から姿を消した。神父はそれを満足そうに見つめながら呟いた。
「あなた方と神が共にあらんことを」
消息を絶った4人の行方は、杳として知れない。
バッドエンド②「間違えた穴」
「庭」の穴から抜け出そうとするも、その先は行き止まり。
引き返そうとする探索者の前に、ランタンを持った院長が。
「おやおや、いけませんねぇ……もう就寝時間だというのにこんなところで遊んでいたのですか。探検ごっこは構いませんが、何もなかったでしょう? 普段暮らしている分には、こんな穴に用があるはずありませんからね。ここに来る理由があるとすれば、好奇心から探検したくなることもあるでしょうが……恐らくは『目的があって抜け出そうと考えているとき』でしょうか。その荷物を見るに好奇心で入った、という様子ではありませんね。何かの考えに基づいて院から逃げ出したくなったのでは?例えば……何か妙な考えに至ってしまったとか。いいですか皆さん、決まりや約束事というのは『決まっているから』守らなければならないのではなく『守る理由があるから』決まっているのです。さあ、4人とも院長室へいらっしゃい。少しお話をすれば誤解は解けるでしょうし、決まりを守らなかったことを悔い改めてもらわなければなりません」
あなた達は院長室へと連れられ、そこで神父と話をすることになった。神父が口にするのは院内の規則を破ったことへの反省を促すものや院から抜け出そうとしたことを心配しての言葉ばかりだった。何かをされることもなく安心していると、不意に眠気が襲ってくる。それは恐ろしく強く、抗うことのできない強烈な睡魔だった。安心から来るものなのか、それとも何か別のものなのか。意識の途切れる最後の瞬間、あなた達は神父の一言を鮮明に聞き取ることができるだろう。
「あなた方4人が神と共にあらんことを」
後に孤児院を出た4人と連絡がついた、彼らの姿を見かけたという話は、誰も聞かない。
バッドエンド③最期の朝
「エットさん、トヴォさん、トーレさん、フィラさん。最後に教会で神に祈りを捧げましょう。ここでの生活での最後のご挨拶になりますから、これからも見守っていてくださいますようにとお祈りするのです。勿論私もあなた達のためにお祈りをさせてもらいます。あなた達の新たな旅路に幸多からんことを、とね」
あなた達は神父に促されるように礼拝堂から教会へと向かうだろう。教会の戸を開け、慣れた動作で中へと踏み入ろうとしたその時。あなた達は突如として暗闇の中へ入り込んでしまう。普段の教会であれば光のない空間ということはあり得ない。一体ここはどこなのか。振り返れば見慣れた景色の中で神父がいつもと同じように微笑んでいる。引き返そうとしたあなた達に神父が声をかける。
「それでは皆さん、神と共にあらんことを」
神父がいつもの表情、変わらぬ声色でそう言い、扉を閉める。唯一光の届いていた扉が閉ざされたことで、周囲は何一つ見えない闇に包まれた。どことも知れぬ闇の中、お互いの息遣いだけが聞こえている中、別の何かが音を立てる。大きく、それでいて重いものがゆっくりと動く音。何かがこちらに近づいてくる足音だ。音のする方に目を凝らしても、何も見えない。ただ暗闇から音だけが迫ってくる。幾らか近づいてくるとその音は止まり、次に聞こえてきたのは叫び声だった。聞き慣れた仲間の、3人のうちの誰かの声。1人が叫び、その声が聞こえなくなるとまた1人が悲鳴を上げる。この暗闇の中で何が起こっているのか、それを知る術はあなたにはなかった。最後の1人の悲鳴が終わると同時に、何かがあなたの体をがっしりと捉える。毛に覆われた大きな何かに捉えられ、身動き一つ取ることができない。恐怖に頭が支配され、耐えきれなくなり叫び声を上げそうになったところで、あなたの意識はぶつりと途切れた。しかし、これはこれで幸運だったのかも知れない。叫び声こそ聞こえたものの、最後の瞬間まで何が起こっているのか理解しないで済んだのだから。
エンディング
探索者たちが教壇の下の穴を進んでいく。穴は見た目以上に深く、先まで続いている。
所々曲がり、下り、上り、そうこうしているうちに平衡感覚を失い、自分たちが今どこに向かって進んでいるのか分からなくなる。
ふと気が付けば手にしていたはずのランタンの明かりは消え、暗闇をただひたすらに進んでいくのみとなった。
そのうち進んでいる手の感覚、足の感覚、すぐ前、または後ろを進んでいるはずの仲間たちの気配すらもあいまいになっていく。
自分が少しずつ自分でない、闇に溶けていくような嫌な感覚だった。
暗闇の中を泳いでいるような、そんな感覚。
果たして、今腕は動いているのだろうか。進んでいるのだろうか。止まっているのだろうか。
そもそも腕はあるのだろうか。足はあるのだろうか。頭はあるのだろうか。
ーーーーー自分ーーーはーーダレーーーーーー
次に目を覚ました時には、見知らぬ天井が広がっていた。
腕には点滴がつながれている。
どうやら病院のようだ。
病院の看護師が来て、すぐに医者を呼びに行った。
話を聞くと、「丸一週間」寝たままで、生死の境をさまよっていたようだ。
しかし、どうしてこうなったのか、その直前の記憶がどうも思い出せない。
このあとは精密検査を受けて、早ければ明日にでも退院できるらしい。
今日はゆっくりと休んで、休息をとろう。
今日ばかりは、この奇跡を「神」に祈っても良い気がした。
~エピローグ~
夢から、醒める。
「今回は逃げてしまいましたか……。」
少し残念そうな、それでいて楽しげにも聞こえる声音で、男はごちる。
「あぁ、神よ……。真の幸福を知らず、あまつさえ逃げてしまう愚かな子羊たちに慈悲を……。」
男はよろよろとした足取りで、部屋にかけられたタペストリーの前に跪く。
禍々しくも神々しい、見るものに不安と安心を同時に与えるそんな「神」とも「悪魔」ともみれる姿。
「あぁ神よ、この世の理の外にまします真の神よ……。あなた方の慈悲を、きっと世の人間たちにも知らしめてまいりましょう……。」
男はゆっくりと顔をあげる。その落ちくぼんだ眼はもはや狂気に濁り、口元には凄惨な笑みが浮かんでいた。
「では、次の贄を用意いたしましょう……。」
男の姿が暗がりに消える。
そこに人がいた形跡は、もうなかった。
●院長 朝のお言葉(7日分)
1日のお言葉
皆さん、おはようございます。今朝は良く晴れましたね、きっと気持ちいい1日になることでしょう。皆さんには常日頃から言っているように様々な未来が待っています。今はここでその時を待ちながら教養を深め、いずれはここを巣立ち新たな人生へと踏み出すのです。そして一週間後にはここを出て新たな人生を歩む事になる人もいます。皆さんとはお別れになりますが、皆さんが敬虔な信徒であればいつかまた出会うことができるでしょう。ひたむきなあなた達に神がよくしてくれないはずはありません。神はいつでもあなた達とともにあることを忘れないでくださいね……。今日は言葉ではなくお祈りをしましょう、神が祈りの言葉を聞き届けてくださるでしょう
2日目のお言葉
皆さん、おはようございます。皆さんにとってやりたいこととはなんでしょうか?どんなに大きなことでも、そしてどんなに小さなことでも神はご覧になっています。今日の言葉は『だれでも、求めるものは受け、探すものは見つけ、門を叩くものには開かれる』です。夢を持つこと、夢に向かって進むことを忘れないでください。神はその行いをお見過ごしになどならないのですから
3日目のお言葉
皆さんは何か困ったことはないでしょうか。私に相談してくださっても構いませんが、思い悩むことがあったり、どうすればいいかわからなくなったりする時にはお祈りをしてみてください。『あなたが祈るときは、奥まった自分の部屋に入って戸を閉め、隠れたところにおられるあなたの父に祈りなさい。そうすれば、隠れたことを見ておられるあなたの父が報いてくださる』これが今日の言葉です。この礼拝堂はお祈りのために作られた部屋であり、お祈りとは自分の内にあるものと対面するためのものです。もしも自分に自信がなくなったときや不安に押し潰されそうなったときは内なる声を聞きなさい、神はきっと答えてくださるでしょう。
4日目のお言葉
皆さんは一緒に暮らす人たちを信じているでしょうか。今日の言葉は『信じない者ではなく、信じる者になりなさい』です。信じるということはとても難しく、そして尊い行いです。疑うことは簡単ですが、誰も彼も疑っていては心に邪な考えを植え付け、争いごとを生むことにもなり兼ねません。盲信することではなく、心から信じることができるよう、また信じてもらえるよう努めることこそが大事なことだということを覚えておいてください。
5日目のお言葉
わたしは数日前、皆さんにやりたいことについてお聞きしました。今日の言葉は『もし、からし種一粒ほどの信仰があれば、この山に向かって、「ここから、あそこに移れ」と命じても、その通りになる。あなた方にできないことは何もない』です。皆さんは神とともにあることをあまり実感できていないかもしれません。信仰することで不幸の全てがなくなるわけではありませんが信じることを忘れない人の元にこそ奇跡は起こり、何事も成し得る力が湧いてくるのです。こんなことはできない、無理だと思うことなく挑戦してください。神はいつでも皆さんとともにあるのですから
6日目のお言葉
今日の言葉は『わたしは主、あなたの神。あなたの右の手を固く取って言う。恐れるな、わたしはあなたを助ける』です。神は私たちを助けてくださり、正しき道へと導いてくださります。神は友人ではなく、また友人ではないからこそ全ての苦難に手を差し伸べてはくださいません。しかし本当に助けを必要としている時、神は皆さんを助けてくださるはずです。正しいことをしていると思うときにこそ迷わず、たじろがずにまっすぐ進んでください。
7日目のお言葉
ついにこの日が来てしまいました。18歳となった皆さんはこの施設を出て新たな人生を送ることになります。そんなあなた達にはこの言葉を贈りましょう。『今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなた方にはなおさらのことではないか』皆さんは神に見守られ歩んでいくのです。思い悩まず、新たな一歩を踏み出すことを恐れないでくださいね。ここでの生活を忘れず、皆さん一人一人が祈りを捧げることを忘れないでください。いと高きところから見守っておられる神は皆さんの祈りに答え救いをくださることでしょう……。
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