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卒業パーティーで冤罪に遭った公爵令嬢を助けたのは在学中の2年間憑き纏った3代前の学長の幽霊だった

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「アンジェリカ・ブランっ! 貴様、王太子の私の婚約者である事をいい事にその地位を利用して、私が懇意である男爵令嬢のキャリー・ノワールをしいたげたなっ! そのような者に王太子妃、ひいては国母などが務まる訳がないっ! よって、ここにこの私、プラス・キャットテールはアンジェリカ・ブランとの婚約を破棄し、新たにキャリー・ノワールとの婚約を結ぶ事を発表するっ! アンジェリカはさっさとキャリーに謝罪せよっ!」

 と貴族学校の卒業パーティーで大声を張り上げて盛大にやらかしたのは私の婚約者であるプラス・キャットテール殿下だった。

 追及されたのはこの私、公爵令嬢のアンジェリカ・ブランなのですけど、私は驚きはしなかった。

 事前にこのような事が起きるとの情報を得ていたからだ。

 それでも聞いた時は、半信半疑だったのですけど。

 まさか、こんな馬鹿な事をやらかすなんて。

 ここまでこの殿下っておバカだったかしら?

 私が呆れる中、私の視界の上の方でプカプカ浮かびながら、

『なっ? 言った通りじゃったろ? 卒業パーティーで冤罪で王太子から婚約破棄をされると』

 と嫌味なくらいのドヤ顔をするのは、お爺さんの幽霊だった。

 そう、この幽霊が私に事前にこの情報を伝えた人物(死んでますが)でした。

 何やら、この幽霊、私にしかえないらしくて、入学初日の昼間の校内で浮遊してる幽霊を目撃して、私が驚いたのが運の尽き。

 私が視えてる事にお爺さんの幽霊が気付いて以来、貴族学校の在学中の2年間、ずっと学校で取り憑かれて本当に迷惑してたんですのよ。

 因みに、この幽霊の素性は、このキャットテール王国の貴族学校の3代前の学長ランズロ・ピリオド氏です。

 何せ、歴代の学長の肖像画の中に、お爺さんの幽霊と同じ顔の肖像画が飾られていたので、素性は簡単に割り出せましたわ。

 尚、故人でした。

 それは間違いありません。余りに迷惑で私自らお墓まで訪ねましたから。

『さあ、準備は万端なんじゃからやってしまえ、アンジェリカ』

 と勇ましくピリオド氏が言う中、

「(物事には順序がありましてよ)」

 と私は律儀に扇で口元を隠して小声で答えてから、

「虐げるとは何の事でございましょうか、殿下? わたくし、そちらの方とはお喋りした事はございませんが?」

「酷い。そんな意地悪な事を言うなんて」

 とプラス殿下の横でエスコートされながら悲しそうな顔をする殿下以上に頭の中がお花畑なのがキャリー・ノワール嬢です。

 本当、こんな事をやらかして断頭台まで一直線なのが分からないのかしら?

 それとも本当にこんな企みが成功すると本気で信じてる?

 まあ、殿下の裏の顔を何も知らないのは確かなようですわね。

 御可哀想に。

「またそうやってキャリーを虐げてっ! さっさと謝罪しろっ!」

「何に対してでしょうか?」

「貴様はここに居るキャリーの私物を漁り、教科書をボロボロにして、噴水に突き飛ばし、更には階段からも突き落とし、それだけでは飽き足らず暴漢にキャリーの馬車を襲わせたであろうっ! そこに居る王家の影の者が総てを目撃しているっ! 言い逃れは出来ないぞっ!」

 そうプラス殿下が言うと、すぅ~とプラス殿下の横に卒業パーティーの出席者には似つかわしくない30代の男が出てきた。

「証言せよ」

 プラス殿下の言葉で、

「殿下が言われた事は総て本当の事でございます」

 と証言し、卒業パーティーの出席者達が、

「おお」

「まさか、アンジェリカ様が」

「信じられない」

 と素直にリアクションしたので、私は辟易しながら、

「お待ちを、殿下。その者は殿下付きの王家の影ではありませんか? 私付きの王家の影ではございませんわよ?」

 そう指摘すると、プラス殿下が、

「そんな事はないっ! この者はソナタ付きの王家の影だっ!」

 そう嘘を通そうとしたので、

「そんな訳がないではありませんか。そもそも、その男ですわよ。キャリー嬢の馬車を襲ったのは? 証拠は襲撃時に受けてまだ治っていない、背中側の左肩にある矢傷。大変ですわね? プラス殿下の我儘に付き合わされて。そうそう、わたくしの方から国王陛下に男爵令嬢の馬車を襲った犯人として通報しておきましたから、その内、捕縛されると思いますのでお覚悟して下さいましね。と言うか、殿下、さっさとその者を殺して口を封じないと、殿下がキャリー嬢の気を引く為に馬車を襲撃させ、自ら偶然通り掛かって助けた、という自作自演の行為が露呈してしまいますわよ?」

 と私が指摘し、

『襲撃現場は学校の外だったので知らんが、貴族学校の敷地内であの王家の影が独り言で愚痴ってたのは、バッチリ聞いたからのう』

 と情報源であるピリオド氏が頷き、キャリー嬢が驚いてプラス殿下の顔を見る中、

「だ、黙れっ! そんな事、この私がする訳がーー」

「あら、私物や教科書の工作もそこの者がやっているではありませんか?」

「何を言っているっ! 私物や教科書は貴様がーー」

「犯行は総てわたくしが欠席した授業中だったので目撃者も居ないから罪をわたくしになすりつけられる、ですか? 違いますわよ、プラス殿下。と言うか、その様子だと不都合な報告は殿下にされてないようですわね、そちらの王家の影は? やれやれですわね。殿下は御存知ないようですからお教えして差し上げますが、その者は意外に使えず、上級生の時のキャリー嬢の教室が1階だった不運も重なり、授業中の犯行ながら教官や庭師に3度ほど窓側から目撃されておられますわよ」

 と私が言うと、プラス殿下が、役立たずが、とばかりに冷淡に王家の影の男を睨み、幽霊のピリオド氏が、

『目撃者はワシが呼んだのだから感謝するのじゃぞ』

 とドヤ顔をした。

「(ええ、もちろんですわ)」

 私は扇で口元を隠して、そう答えた。

 事実、そうらしいですから。

 ピリオド氏が視えないまでも、嫌な感じというか、第六感というか、波長の合う人間を、無意識下で都合良く誘導する事が出来るとかで。

 それが目撃者が都合良く居る真相らしいですわ。

「そして、その度に貴族学校側が騎士団に問い合わせをしており、王家の影の案件でしたので当然、国王陛下の耳にもその情報が入っておりますから、わたくしの無実は陛下も御存知でしてよ、殿下」

「なっ? 陛下の耳にも入っているだと?」

 それにはプラス殿下も驚いたのでした。

「当然でしょう、殿下? 学外の者、それも王家の影が女生徒の私物を漁っているのですから貴族学校の対応としては」

 私もノリノリで、

「わたくしも陛下に質問されましたもの。『男爵令嬢の私物を王太子付きの王家の影が漁り、それが未報告なのはどういう事なのか知っているか?』と。『その男爵令嬢には他国のスパイ疑惑でも掛かっているのか?』とも」

「違います。私は他国のスパイなんかじゃーー」 

 とキャリー嬢が慌てて、身の潔白を訴えようとしたので、

「ええ、わかっておりますわ。ちゃんとわたくしの方で陛下に進言しておきましたから安心して下さっていいわよ、キャリー嬢」

 と言った私は、会心のドヤ顔でキャリー嬢を見て、

「それらの私物漁りは、殿下が懇意したがっている令嬢を裏で虐めるように命令して、困ってるところを正義の味方づらをして堂々と近付き、口説く為の自作自演の行為なだけで、他国のスパイなのではけしてありません、とちゃんとね」

 そう真相を教えてあげたのだった。

 すると、キャリー嬢はスゥ~と冷めた表情になり、密着していたプラス殿下から身を引いたのでした。

 卒業パーティーの出席者達が、

「まさか、アンジェリカ様ではなく、殿下が裏で糸を引いていたとは」

「教科書の破損ならともかく、馬車の襲撃は犯罪なのでは?」

「最低」

「あり得ない」

 小声でヒソヒソと喋る中、事実を暴露されたプラス殿下が赤面しながら、

「デ、デタラメだっ! そんな事は全部、貴様の妄想だっ! 証拠は何一つないのだからなっ! 衛兵、さっさとその毒婦を捕縛しろっ!」

 と殿下が命令する中、

「誰が毒婦ですかっ? そうそう、遅ればせながら殿下にお教えせねばならない事があるのですがーー」

 私のニヤニヤ顔を見て、殿下が嫌な予感を覚えながら、

「な、何だ?」

「先程から殿下の後ろに陛下が居られますわよ」

 そう私はドヤ顔でお教えして差し上げたのだった。

「何を言っている? 父上は外遊中でーー」

 そう言いながらもプラス殿下が振り返り、国王陛下が本当に居たので、

「ヒィーー父上」

 驚いて尻もちをつきながら、

「どうして卒業パーティーに? 外遊中のはずでは?」

「外遊はアンジェリカに言われて取り止めたわ。それにしても、まさか、本当にワシが取りまとめた政略結婚を破棄して、男爵令嬢を妃に迎え入れようなどと画策していたとはな。まあ、その男爵令嬢も今や結婚する気はなさそうだが?」

 と国王陛下が呆れたのだった。

 卒業パーティーの会場に居た全員が陛下の登場に礼をし、

「ーークソ」

 偽証をした王家の影の男は他の複数の王家の影に捕縛され、服を破られて、包帯が巻かれた左肩の傷跡も確認されて、王家の影が陛下に頷いて合図を送る中、

「よい、頭を上げよ」

 と国王陛下が言ったので、全員が姿勢を直し、私が真っ先に、

「では、陛下。賭けはわたくしの勝ちという事でよろしゅうございますね?」

 と発言した。

「よかろう、アンジェリカ。王太子の有責でそなた達の婚約破棄を認めよう」

「ありがとうございます」

「さて、プラスの処置だが、令嬢を口説く為だけに王家の影を使い、貴族学校内で不法行為を繰り返し、遂には下位貴族所有の馬車を襲撃させ、その罪を無実の上位貴族の令嬢、それも自分の婚約者になすり付けようとした。この罪は明白だ。よって、廃太子とした上で、王位継承権と王籍を剥奪。生涯北の塔への幽閉とするっ! 引っ立てよっ!」

「そ、そんなぁ~。父上、お待ち下さい、これは何かの間違いでーーそうだ、あの男が勝手にやった事で・・・」

「あらあら、自分が国王になったら王家の影の隊長にしてやる、と甘い事を言って、これまで散々つまらない汚れ仕事をさせておいて今更切り捨てるだなんて、さすがに無いんじゃありません? まあ、我が公爵家の後押しのお陰で王太子になっておきながら、わたくしを切り捨てるような薄情な御方なのですから、その行動に一貫性があると言えばありますが」

 と私が笑うと、噛み付くような顔でプラス殿下が、

「アンジェリカ、貴様ぁぁぁぁっ!」

「あら? わたくしが悪いのですか? 悪いのはアナタ様でしょ、元王太子殿? と言うか、令嬢くらい変な工作を使わずに自力で口説いて下さいな。情けない。あの工作を知った時は婚約者のわたくしまで、さすがに恥ずかしい思いをしたのですからね」

 と見下し、

『いい、それ。ワシも王族相手に、そんな風に偉そうにしたり顔で説教してみたいっ!』

 とピリオド氏が言う中、プラス殿下は卒業パーティーの出口へと引きずられてそのまま北の塔へと送られたので、二度と皆の前に現れる事はなかった。





 こうして卒業パーティーは無事に終わったのですけれど・・・





 卒業パーティーの翌日。

 私はブラン公爵邸の私室でプカプカと浮かぶそれを睨んでいた。

『ここが公爵邸か。立派じゃのう~』

 そう。何故か、ピリオド氏がまだ私の視界で浮遊していた。

「(どうして、まだ居るんですの? ってか、どうして貴族学校から出ておりますのっ! アナタは貴族学校からは出られないはずでしょう?)」

 使用人達が居る手前、小声で尋ねると、

『何故か昨日から出れるようになったんじゃよ? アンジェリカが卒業したからかのう?』

 と呑気に適当な事を言い、

「(いい加減、成仏して下さいましっ! こっちは在学中の2年間だけだと思い、我慢してましたのにっ!)」

『これこれ、アンジェリカ、それはなかろう。王太子の奸計から救ってやったのに』

「(それとこれとは別の話ですわっ!)」

 この後、ピリオド氏は私が死ぬまで取り憑いたのでした。



 本当にいい迷惑ですわ。





 おわり
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