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大也、男の夢が破れて罪をなすり付ける

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 大也が土岐影ヒナタと名乗った女が別人である事を知ったのはカフェでお喋りして30分後の事だった。

 カフェでお茶をしてると、20代前半で大学生でも通る茶髪ピアスの男が1人入店してきて、苛立った様子で、

「理早紫織、おまえは東京は出禁のはずだろうが。この忙しい時に迷惑を掛けてくれるな」

 と声を発した。

 視線がこちらに向いていたので『誰の事を言ってるんだろう』と大也が背後に振り返るも誰も居ず、その隙に大也達のテーブルに近付いた茶髪男がヒナタに向かって、

「そっちが小森の裁定を破ったんだ。ペナルティーはしっかりと受けて貰うからな」

「えっ、誰かと間違えてませんか? こちらは土岐影ヒナタさんと言って・・・」

 大也がそう弁護するも、ピアス男が、

「おまえ、この嘘つき女に騙されてるぞ」

「・・・いやいや、まさか、そんな事ある訳が・・・」

 大也がそう言ってヒナタを見ると、『バレたか』と舌を出しながら、

「まあ、騙された方が悪いって事で♪」

 自分が土岐影ヒナタでない事を認めた。

 それには大也の方が驚きである。

「えっ? 本当に土岐影ヒナタさんじゃないの?」

「ええ。そもそもそんな人間、土岐影家にいないし」

 との言葉を聞き、『姉妹制覇』を本当に夢見ていた大也が如何いかに失望したか。

 ガッカリと肩を落とした。

 本当に肩を落とした。

 エロゲーみたいな『姉妹制覇』を狙っていたので。

 確かに『騙された方が悪い』という論理は分からなくもない。

 大也だって敵にはそう言い放つ。

 だが、それは敵に対してだけだ。

 大也自身に対しては適用されない言葉だった。

 なので、大也は白々しい嘆きながら、

「そんな~、頼まれたから火葬場に行って留守中の大鳥忍軍の幹部氏族の屋敷を訪問して暴れたのに。まさか、騙されていたなんて~」

 昨日の行動全部を土岐影ヒナタ(偽物)になすり付けた。

「はあ? そんな事頼んでないでしょうが?」

「えっ、新幹線で頼んだじゃないですか。だからオレはーーああ、まさか、騙されて大鳥忍軍の幹部氏族が酷い目にあったなんて~」

「ちょっと、待ちなさいっ! 私を巻き込まないでよねっ!」

 土岐影ヒナタ改め理早紫織が叫んだ視界の端では、窓の外に停まる車内で唇を読んだ金馬リョウがスマホで報告していた。

「ともかく、私はもう地元に帰るから」

「当然だ」

 紫織が席を立ち、ピアス男がそう答える中、席に座ったままの大也が、

「八潮なんですね? その内、この度のお礼を関西にしに行きますんで、その際はよろしく」

「いいけど返り討ちだと思うわよ」

「それは楽しみかも」

 大也がそう言ってケーキを一口食べたのだった。





 ◇





 夜の大鳥邸の夕食時の話題はそのにせ土岐影ヒナタの件に尽きた。

 事前の報告を受けた大鳥宗次が食堂には居て(大鳥颯太と緋色は政界工作で不在)、

「本当に昨日の幹部氏族の訪問、八潮忍軍の理早紫織に頼まれてやったのかね、大也君?」

「ええっと・・・」

「そもそもいつ知り合ったんだね、あの女と?」

「昨日静岡駅から乗った帰りの新幹線で隣の席になって・・・」

「つまり、初対面でいいように使われた訳だね?」

「申し訳ありません」

「それで火葬場で留守の大鳥忍軍の幹部氏族の邸宅に訪問して暴れたと?」

「やりたくはなかったんですが」

 しれっと大也は言ったが、よくよく考えれば詫び料を3家から合計2300万円貰ってる。

 ムカつく幹部氏族も潰れてるらしいし。

 収支は完全にプラスだった。

「政府機関の大鳥忍軍がナメられるのは困るんだよ、大也君」

「分かってます。速攻で明日にでも関西に・・・」

「今は次の総理決めの真っ最中だからダメだ」

「そうなんですか?」

「そうだ。他国だって干渉してくるかもしれないし」

「他国?」

「中国だよ。政界には親中派も居るからね。それだけは阻止しなければならないから」

「大変ですね」

「その大変な時期に問題だけは起こさないでくれよ、大也君」

 その後もこんこんと宗次に諭されたのだった。
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