マリーハルケン王朝建国物語 〜婚約破棄されたのでお祖父様の悲願が達成されそうです〜

魚夢ゴールド

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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜

33、ブルーウッド公爵の囁き

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アンドレーヌ王国は王弟が起こした大公家は特例として、貴族の筆頭である公爵家は4 つしかない訳だが。

近年アンドレーヌ王国ではその公爵家の一つが完全に機能していなかった。

「名だけの公爵」と揶揄されるブルーウッド公爵家の事である。

「権力闘争に負け続けた」と一言で称されてるが「宰相職を5代続けて独占した為に傀儡にされていた王家以下貴族有志と全面対決となり、全権限と領地と全資産を剥ぎ取られた」が正確な表現である。

そうなのだ、ブルーウッド公爵家は殆ど反逆者みたいなものだった。

アンドレーヌ王国の執政を務めて全盛を極めていたブルーウッド公爵家が弱小になったのは3代も前の話で、本日誕生日の国王カミルが誕生した時には爵位は公爵ながらも領地の方は男爵の領地並みに削られ、もう完全に負けた状態の「名だけの公爵」となっていた。

当然、子分である寄り子貴族は1人も居ない。

このブルーウッド公爵家を格下げして有力な侯爵家を上げるプランが毎年のように献策されるが、それが「出来ぬ」のはブルーウッド公爵家の歴史にある。

ブルーウッド家の歴史は古く、建国時まで遡る。

建国王の初代国王を命懸けで助けたのはいうに及ばず、その際に王妹が降嫁している。

そして、初代国王が残した「ブルーウッド家は公爵から外すな」という言葉。

まさか初代国王もその後、アンドレーヌ王国でブルーウッド公爵家が傲慢にも宰相の地位を5代続けて独占し、アンドレーヌ王国を我が物顔で牛耳り、遂にはその絶大な権力と資産と領地を剥き取られて哀れな状態になるとは思ってもいなかったのだろう。

余談だが、ブルーウッド公爵家がヤラかしたせいで「高位貴族はアンドレーヌ王国の要職に付けない」という決まりが出来たくらいである。お陰で高位貴族はブルーウッド公爵家の事が大嫌いであった。まあ、高位貴族でも「爵位を継承していなければ要職に就ける」という抜け道は存在しているのだが。

話を戻すが。

本来ならばその敗北時にブルーウッド公爵家は潰れていてもおかしくなかったのだが、 初代国王の遺言に逆らうのを嫌った当時の国王(カミルの祖父。少しヤラカシ気味)がそのままに「名だけの公爵」として残していた。

今や、その初代国王が残した言葉は「アンドレーヌ王国の呪い」に近い。

次の父王も初代国王の言葉に逆らうのを嫌って、まだブルーウッド公爵家を潰していないのだから。

お陰でブルーウッド公爵家は細々と存続していた。





はずなのだが、まだブルーウッド公爵家の現在の当主マイケルはこの情勢の中でもブルーウッド公爵家の復権を諦めてはおらず、





 ◇





ブルーウッド公爵も当然のように誕生日の国王謁見に参加していた。

マイケルは国王のカミルと同年代ではない。

10歳年下たった。

同年に子供が居ても過去のブルーウッド公爵のオイタのせいで、側近にも婚約者にも選出されない事が分かっていたので。

「無理して合わせるだけ損」という訳だ。

なので、まだ30代と若かった。

マイケルの子供もまだ10歳にもなっていない。

髪は王家と同様に金髪だが、血はもう薄まっていて容姿は似ていない。

謁見用の公爵服もここ数年同じ服を着ているくらいに困窮しており、他の羽振りの良い公爵家と比べれば雲泥の差があった訳だが。

このマイケルはブルーウッド公爵家の現状を打開して、復権する為の起死回生の策を引っ下げてアンゼル宮殿に乗り込んで来ていた。

そして運良くマイケルはその伝手を発見したのである。

それが廊下を大量の書類を抱えて歩く王太子ハミルの新たな側近キロスである。

黄緑髪で眼鏡。そしてアンゼル宮殿内を歩く王太子と同じ年代、とくれば最近、側近候補として取り立てられたワイドム男爵家の令息「キロス」以外には居ない訳で。

「ワイドム男爵家の嫡子のキロス殿かね?」

「はい、えっと、どちらの・・・えっ、公爵様?」

顔を見ても誰か分からなかったキロスが服装に気付いて警戒した。

キロスは下位貴族の男爵家の令息だ。

公爵なんかと喋った事は1回もない、はずだが。

「えっと、ど、どうして私の名前を・・・」

「有名だからね。殿下の側近に抜擢された事は」

「はあ」

「殿下に伝言を頼みたい」

「えっ、そういうのは受けていませんが」

「殿下に取ってもいい話さ」

そう言ってマイケルは誰にも聞こえないようにキロスの耳許まで口を移動させて手を抑えて唇が読めないようにまで警戒した後、

「殿下に伝えてくれ。ブルーウッド家ならば養子を受け入れる、と」

「何ですか、それは?」

「殿下に伝えれば分かるさ」

「はあ」

こうして別れたキロスは、





王太子執務室に戻り、休憩となって文官が全員退室した隙を見計らって、

「殿下、先程廊下で公爵服を名乗るブルーウッド家の方に伝言を頼まれたのですが」

「あのな、キロス。そんなのは受けていたらキリがないから次からは断るようにな・・・ん、 ブルーウッド家だと? 公爵本人がか?」

「はい」

「何と言ってきたんだ?」

「『ブルーウッド家ならば養子を受け入れる』だそうです」

その言葉を聞いた瞬間、王太子ハミルは王太子教育の成果を試される事になった。

つまりはポーカーフェイスで表情を変えず心情を悟られぬように振る舞えるかどうかの。

もし眼の前にキロスが居なかったら「不敬過ぎるわ。私の心情を言い立てるなどっ! どこが『名ばかりの公爵』だ。まだまだ油断ならぬではないか。そして使える。こちらが切り出す前に打診してくるとは。見返りは何だ? ブルーウッド公爵家に権勢を与えて過去のようになるのは拙いから余りやれぬぞ」とまくして立てていたはずなのだから。

因みに「何の事か?」と言えば、恋愛小説さながらの「下位貴族令嬢を王太子妃にする為に爵位を上げる為の養子縁組の政略」の事だ。

ハミルの中では実はもう結婚相手を「マリーハルケン公爵家の権力を笠に着てやりたい放題の気に入らぬエルゼーシアから一緒にいて心休まるアンヌに変更する」プランが練られていたのだ。

そして見事にポーカーフェイスで乗り切ったハミルは、

「・・・何の事か分からんな」

「ですよね? 私もです」

キロスも心底同意している。

眼の前のキロスは事の重大さが何一つ分かっていない様子だ。

分かって無さ過ぎて、この調子だとその意味を周囲に問う形で吹聴しそうだ。

「それは困る」ので、やんわりと口止めする為に、

「キロス、ブルーウッド公爵家の歴史は知っているな? 王太子と接触があった、と周囲に知られたら要らぬ憶測を呼ぶ。他言せぬように。誰にもだ。陛下にだけは問われたら答えていい」

「畏まりました」

キロスはそう請け負ったので、どうにか口止めに成功したのだった。
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