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卒業パーティー前 〜宮殿内でも移動するのに護衛が付く王太子の浮気がバレないなんて物語は存在しない〜
34、国王誕生日の夜の部
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国王誕生日の夜の部はアンゼル宮殿のダンスホールで舞踏会である。
子供達の参加は不可。
その子供のラインは貴族学校を卒業しているかどうか。
それがアンドレーヌ王国の伝統である。
よって学生は不参加だった。
唯一の例外は王太子のハミルである。
婚約者のエルゼーシアはまだ結婚していないので夜の部は不参加な訳だが、ハミルだけは参加していた。
側近達も学生なので当然、不参加である。
はっきり言って王太子ハミルにとってはつまらない式典だった。
別に踊ったりはしないので。
王族の席に座って舞踏会を眺めているだけの儀式なのだから。
通常ならば、本当につまらぬ式典なのだが。
今回のハミルは違う。
喋れる貴族がいないのか、ずっと夫人と楽しそうにダンスを踊ってる現在のブルーウッド公爵家の当主マイケルを否が応にも視線で追っていた。
ハミルは隠してるつもりだったが、まだまだ子供だ。
目立つ壇上に座る王太子ハミルの視線の動きはバレバレだったのだから。
よってハミルの視線の動きを夜の部参加の貴族達はしっかりと確認しており、
「あらら、何を熱心に見られてるのかと思えば・・・義父上様の御指図ではありませんよね?」
エルゼーシアの母親である公爵夫人ナシシー・マリーハルケンが扇で口元を隠して尋ねた相手は夫の父親、エドモンド・マリーハルケンである。
エドモンドはアンドレーヌ王国に叛意がない事を示す為に国王の誕生日には必ず出席している訳だが、その野心はもはや高位貴族ならば誰もが知っており、
「ワシではないぞ。ブルーウッド公爵の小倅を取り込もうとした事はあったが。きゃつはプライドだけは高いからのう。ワシの下には付きたくないそうだ」
「では独自に王太子殿下に接触したのでしょうか?」
「逆じゃろう。王太子が公爵家に接触したとみるべきだ」
「力のない名だけの公爵に? 何故です?」
「子爵令嬢では王妃になれんからのう。名だけの公爵家でも養女になれば公爵令嬢だからな。王族との結婚も可能という訳だよ」
「それはそれは」
逆はあっても「娘が王太子にふられる」とは思っていなかったナナシーが眼を細める中、
「・・・どうなされるのです?」
「古来より密約は明るみに出ると同時に存在しなかった事となる。それで良かろう」
「畏まりましたわ」
などと王太子ハミルとブルーウッド公爵の結託を歓迎せぬマリーハルケン公爵家は方針を固めた訳だが、
◇
今回の国王誕生日の夜の部の舞踏会で一番貴族達の視線を集めたのは、王太子ハミルではない。
当然の事ながら、一番貴族の視線を集めたのは下位貴族の男爵であるワイドム男爵夫妻だった。
何せ、息子のキロスが貴族学校で遅蒔きながら生徒会入りを果たしているのだから。
今年度は王太子ハミルが生徒会長なのだから、生徒会の役員になるという事は過去の通例からも、そのまま王太子ハミルの側近になる可能性が高いという事だ。
ハミルは王太子なのだから、番狂わせがなければ順当に国王となる。
つまりは国王側近という訳である。
まあ、まだ側近の候補の段階だが。
正式決定は貴族学校の卒業後の進路で、そのまま王太子の側近となった時だが。
因みに下位貴族かどうかは問題ない。
アンドレーヌ王国では下位貴族の方が高位貴族よりも王太子の側近の可能性が高いのだから。
高位貴族はブルーウッド公爵家の失脚以降、権力の集中を避ける為にアンドレーヌ王国では要職に付けない仕組みなので。高位貴族は優秀な寄り子貴族を政権に送り込んでいるという訳だが。
その点、下位貴族なら何ら問題がない。
嫡子で、卒業後に領地経営をするとしても。
領地経営は父親が引退せずにすればいいだけなのだから。
よって将来のアンドレーヌ王国の首脳部入りも有り得た。
生徒会執行部入りをキロスが果たしたと同時に、当然キロスの事は調べられている。
キロスの貴族学校の成績は下位貴族の男ではトップ。
そもそも出身のワイドム男爵家は王家直轄。このポイントは大きい。
高位貴族が寄り親ではないのだから。
なので王太子が側近に選んでも何の障害もない訳だ。
お陰でキロスの両親、キロンとエマスのワイドム男爵夫妻は面識のない高位貴族からも声をかけられる始末だった。
貴族服で辛うじて相手の爵位は分かるが、何十人と声を掛けられているのだ。
もう誰が誰か分からない。
顔と名前が、だが。
内心でそんな事を思っていると、遂には宰相ブラックスまでがキロンの前にやってきた。
ブラックスは先代国王の世代である。なので、ダンスをしに舞踏会に来ているのではない。普段は領地に引っ込み、国王の誕生日等々の式典の時しか王都入りをせぬ貴族達と意見交換をする為に出席しているのだが、ついでに、
「ワイドム男爵ですかな。宰相のブラックス・サンドスです」
「これはご丁寧に。キロン・ワイドムです。こちらは妻のエマスです」
そう挨拶したキロンは息子同様の黄緑色髪の中年男である。
パッと見は優秀そうには見えないが、領地はちゃんと治めてる。暴動も流民もない。
「息子さんの件だが、貴族学校の卒業後はアンゼル宮殿勤めになる事も考えておいてくれよ」
「いや、ですが息子は後継者で」
「優秀な王家直轄の貴族が政府に勤めるのは当然であろう?」
「息子はドモリ癖があるので向かぬと思いますが」
「そこは直すという方向で」
「はあ」
などと会話したのだった。
子供達の参加は不可。
その子供のラインは貴族学校を卒業しているかどうか。
それがアンドレーヌ王国の伝統である。
よって学生は不参加だった。
唯一の例外は王太子のハミルである。
婚約者のエルゼーシアはまだ結婚していないので夜の部は不参加な訳だが、ハミルだけは参加していた。
側近達も学生なので当然、不参加である。
はっきり言って王太子ハミルにとってはつまらない式典だった。
別に踊ったりはしないので。
王族の席に座って舞踏会を眺めているだけの儀式なのだから。
通常ならば、本当につまらぬ式典なのだが。
今回のハミルは違う。
喋れる貴族がいないのか、ずっと夫人と楽しそうにダンスを踊ってる現在のブルーウッド公爵家の当主マイケルを否が応にも視線で追っていた。
ハミルは隠してるつもりだったが、まだまだ子供だ。
目立つ壇上に座る王太子ハミルの視線の動きはバレバレだったのだから。
よってハミルの視線の動きを夜の部参加の貴族達はしっかりと確認しており、
「あらら、何を熱心に見られてるのかと思えば・・・義父上様の御指図ではありませんよね?」
エルゼーシアの母親である公爵夫人ナシシー・マリーハルケンが扇で口元を隠して尋ねた相手は夫の父親、エドモンド・マリーハルケンである。
エドモンドはアンドレーヌ王国に叛意がない事を示す為に国王の誕生日には必ず出席している訳だが、その野心はもはや高位貴族ならば誰もが知っており、
「ワシではないぞ。ブルーウッド公爵の小倅を取り込もうとした事はあったが。きゃつはプライドだけは高いからのう。ワシの下には付きたくないそうだ」
「では独自に王太子殿下に接触したのでしょうか?」
「逆じゃろう。王太子が公爵家に接触したとみるべきだ」
「力のない名だけの公爵に? 何故です?」
「子爵令嬢では王妃になれんからのう。名だけの公爵家でも養女になれば公爵令嬢だからな。王族との結婚も可能という訳だよ」
「それはそれは」
逆はあっても「娘が王太子にふられる」とは思っていなかったナナシーが眼を細める中、
「・・・どうなされるのです?」
「古来より密約は明るみに出ると同時に存在しなかった事となる。それで良かろう」
「畏まりましたわ」
などと王太子ハミルとブルーウッド公爵の結託を歓迎せぬマリーハルケン公爵家は方針を固めた訳だが、
◇
今回の国王誕生日の夜の部の舞踏会で一番貴族達の視線を集めたのは、王太子ハミルではない。
当然の事ながら、一番貴族の視線を集めたのは下位貴族の男爵であるワイドム男爵夫妻だった。
何せ、息子のキロスが貴族学校で遅蒔きながら生徒会入りを果たしているのだから。
今年度は王太子ハミルが生徒会長なのだから、生徒会の役員になるという事は過去の通例からも、そのまま王太子ハミルの側近になる可能性が高いという事だ。
ハミルは王太子なのだから、番狂わせがなければ順当に国王となる。
つまりは国王側近という訳である。
まあ、まだ側近の候補の段階だが。
正式決定は貴族学校の卒業後の進路で、そのまま王太子の側近となった時だが。
因みに下位貴族かどうかは問題ない。
アンドレーヌ王国では下位貴族の方が高位貴族よりも王太子の側近の可能性が高いのだから。
高位貴族はブルーウッド公爵家の失脚以降、権力の集中を避ける為にアンドレーヌ王国では要職に付けない仕組みなので。高位貴族は優秀な寄り子貴族を政権に送り込んでいるという訳だが。
その点、下位貴族なら何ら問題がない。
嫡子で、卒業後に領地経営をするとしても。
領地経営は父親が引退せずにすればいいだけなのだから。
よって将来のアンドレーヌ王国の首脳部入りも有り得た。
生徒会執行部入りをキロスが果たしたと同時に、当然キロスの事は調べられている。
キロスの貴族学校の成績は下位貴族の男ではトップ。
そもそも出身のワイドム男爵家は王家直轄。このポイントは大きい。
高位貴族が寄り親ではないのだから。
なので王太子が側近に選んでも何の障害もない訳だ。
お陰でキロスの両親、キロンとエマスのワイドム男爵夫妻は面識のない高位貴族からも声をかけられる始末だった。
貴族服で辛うじて相手の爵位は分かるが、何十人と声を掛けられているのだ。
もう誰が誰か分からない。
顔と名前が、だが。
内心でそんな事を思っていると、遂には宰相ブラックスまでがキロンの前にやってきた。
ブラックスは先代国王の世代である。なので、ダンスをしに舞踏会に来ているのではない。普段は領地に引っ込み、国王の誕生日等々の式典の時しか王都入りをせぬ貴族達と意見交換をする為に出席しているのだが、ついでに、
「ワイドム男爵ですかな。宰相のブラックス・サンドスです」
「これはご丁寧に。キロン・ワイドムです。こちらは妻のエマスです」
そう挨拶したキロンは息子同様の黄緑色髪の中年男である。
パッと見は優秀そうには見えないが、領地はちゃんと治めてる。暴動も流民もない。
「息子さんの件だが、貴族学校の卒業後はアンゼル宮殿勤めになる事も考えておいてくれよ」
「いや、ですが息子は後継者で」
「優秀な王家直轄の貴族が政府に勤めるのは当然であろう?」
「息子はドモリ癖があるので向かぬと思いますが」
「そこは直すという方向で」
「はあ」
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