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永禄6年(1563年) 松倉城調略
2、竹中半兵衛の噂
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松倉城の城下を秀吉が「野盗の仕業と見せかけて焼いた」と知り、怒った者がいた。
蜂須賀小六である。
蜂須賀小六も木曽川を縄張りにしており、坪内利定とは友好関係を築いていたのだから。
そんな訳で、小牧山城の城下の組頭長屋にまで蜂須賀小六は乗り込んできた。
秀吉が昼間っから女房のねねの着物の中に手を突っ込んでイチャイチャしていたのに。
「サル、おまえ、調子に乗っておるようだな」
別に蜂須賀小六が小牧山城の城下に乗り込んでも問題はない。
秀吉の配下になっていないだけで秀吉の仲介で織田信長に許されて知行安堵で家臣になっていたのだから。
「おお、これは小六殿、どうなされた?」
ねねが恥ずかしそうに秀吉から離れて奥に隠れる中、秀吉が平然と対応した。
間が悪かった、と思いながらも小六が怒りはまだ収まってはおらず、
「松倉城下を焼いたな?」
「はて? 妙な言い掛かりはよしてくだされ。あれは野盗の仕業でござろうが」
素知らぬ顔で秀吉はとぼけるが小六は秀吉という男の事を熟知している。
「で、本当は?」
「廻船問屋1つで52貫文も稼がせて貰いましたわ」
正直に話すのが秀吉である。
「やっぱりおまえではないか」
「仕方がなかったのですよ。『清洲には服従しない』と言いだしたので」
「ん、聞いてた話と違うな? 恭順を誓ったのに襲ったのでは」
「いえいえ、恭順を誓ったふりをしてやり過ごそうとしていたので脅しの意味も込めて『焼いた』までで」
「・・・二度とするなよ」
「それは請け負えませんな。命令があれば汚い事でも下っ端はやらねばなりませんから」
「サル」
咎めるように言う蜂須賀小六に対して秀吉が「妙案を思い付いた」とばかりに、
「では、小六殿がワシの傍に居て見張られては?」
「どうしてワシが秀吉の傍に居なければならないのだ」
「無論、小六殿に二枚舌を使わせぬ為でござる。聞いておりますぞ、何やら頻繁に稲葉山城とやりとりをしているとか」
秀吉に指摘された小六は真顔になって、
「清洲に頭を下げたものの、どちらが勝つか分からなくなってきたからな」
どちらとは尾張の織田と美濃の斎藤の話である。
犬山城が美濃に寝返った事で、現在は美濃の方が優勢に見えるのだから。
よって、そんな言葉が小六の口から出たのだが、
「小六殿~。しっかりして下されよ。この小牧山城が完成して、犬山城の枝城がことごとく殿に降伏してるのに、まだそんな事を言っておるとは。世情をちゃんと読まぬと生き残れませぬぞ」
「何を言っておる、サル。美濃には竹中半兵衛がいるんだぞ。あやつがいる限り、美濃は負けんさ」
またか、と秀吉は内心で舌打ちした。
最近良く聞く名前だ。
竹中半兵衛。
西美濃三人衆の安藤守就の娘婿。
かなりの切れ者らしい。
その男のせいで美濃の斎藤が勢い付いているのだから。
だが、秀吉から言わせれば、そいつがいても「もう美濃は終わり」だ。
何せ、マムシの三代目が女色に溺れて佞臣を周囲に置き始めたので。
「斎藤などもう時間の問題だと思いますがな~」
「いいや、まだ分からん。織田が勝つまで斎藤と繋ぎを付けるが上策だからな。斎藤とも誼を持つさ」
「さようで」
こうして蜂須賀小六は帰っていったのだった。
そんな会話があった直後の事である。
◇
永禄6年4月には「新加納の戦い」があった。
織田軍5700人。
斎藤軍3500人。
信長自らが出陣し、兵数だけなら織田が優勢。
なのに織田は惨敗した。
竹中半兵衛の伏兵戦術に遊ばれて。
木下秀吉はその時、小牧山城の守衛任務に付いていた。
早い話が留守番である。
百姓に戦は出来まい。
そう思われていたので。
いや違うな。「斎藤などもう楽勝」と高を括って精鋭だけで出陣したので。
正直、秀吉も信長が勝って稲葉山城を取ってくると思っており、
「どうしてワシが留守番なんですか、柴田様~。稲葉山城の井之口で乱妨取りして稼ぎたかったのに~」
軍権停止中で同じく小牧山城に残っている柴田勝家に話しかけていた。
「戦を何だと思っておるんだ、サルは。そんな事を言ってるから外されるんだ。おまえはもう少し尾張の兵としての自覚を持て」
柴田勝家が説教をしていると、犬山城を監視していた密偵が、
「犬山城に動きがあったとの報告です。殿の留守を突いて、この小牧山城に兵を寄せるつもりです」
「サル、出番だ」
「柴田様は預かった鉄砲隊を指揮されるのですよね?」
「当然だろ」
「お願いしますよ」
こうして小牧山城の外周に守衛の兵は展開された。
秀吉は率いる50人の足軽に向かって、
「いいか、銭にならなくても仕事はちゃんとやるのがワシら木下隊じゃ。ちゃんと働かんと戦に出して貰えんからのう。やるぞ、皆の衆」
発破を掛けて兵の士気を高めたのだった。
とは言っても織田の守衛部隊の花は当然の事ながら鉄砲隊だ。
ダダダダン。
またもや派手に撃っていた。
それで犬山城の兵は臆して撤退していった。
「何じゃ、これだけか? つまらんな」
秀吉がそう呟き、坪内光景も本当に犬山城の兵が撤退したので不思議そうに、
「呆気なさ過ぎるな」
「小一郎、忍び達から何か聞いておるか?」
「何もじゃ、兄者」
「ふむ」
秀吉はトンチを利かせながら、
「ならばこの出兵は・・・美濃を攻めた織田の本隊を動揺させる為じゃな」
「何だ、それは?」
「今のを美濃に出兵した殿に報告すると『犬山城の兵が殿の留守中に小牧山城に兵を進めた』じゃからな」
「あれで『兵を進めた』となるのか?」
「なるじゃろ。本隊の動揺を狙ったんじゃろうな。竹中の仕業じゃろうて」
「だとしたら、噂の竹中って奴も大した事ないんじゃないか」
「じゃな、ギャハハハ」
そう笑ったのだが。
美濃に出兵した織田兵はその報告を聞いて動揺したらしい。
信じられない事に織田は「新加納の戦い」で負けて帰っていた。
(美濃に負けてきよった。信じられん。何をやっておるのだ、うちの殿は? 兵数だってこちらが上回っていたという話なのに。素人のワシが指揮してても勝ってたはずじゃぞ)
帰還した敗残兵の姿を見て、秀吉は呆れたのだった。
蜂須賀小六である。
蜂須賀小六も木曽川を縄張りにしており、坪内利定とは友好関係を築いていたのだから。
そんな訳で、小牧山城の城下の組頭長屋にまで蜂須賀小六は乗り込んできた。
秀吉が昼間っから女房のねねの着物の中に手を突っ込んでイチャイチャしていたのに。
「サル、おまえ、調子に乗っておるようだな」
別に蜂須賀小六が小牧山城の城下に乗り込んでも問題はない。
秀吉の配下になっていないだけで秀吉の仲介で織田信長に許されて知行安堵で家臣になっていたのだから。
「おお、これは小六殿、どうなされた?」
ねねが恥ずかしそうに秀吉から離れて奥に隠れる中、秀吉が平然と対応した。
間が悪かった、と思いながらも小六が怒りはまだ収まってはおらず、
「松倉城下を焼いたな?」
「はて? 妙な言い掛かりはよしてくだされ。あれは野盗の仕業でござろうが」
素知らぬ顔で秀吉はとぼけるが小六は秀吉という男の事を熟知している。
「で、本当は?」
「廻船問屋1つで52貫文も稼がせて貰いましたわ」
正直に話すのが秀吉である。
「やっぱりおまえではないか」
「仕方がなかったのですよ。『清洲には服従しない』と言いだしたので」
「ん、聞いてた話と違うな? 恭順を誓ったのに襲ったのでは」
「いえいえ、恭順を誓ったふりをしてやり過ごそうとしていたので脅しの意味も込めて『焼いた』までで」
「・・・二度とするなよ」
「それは請け負えませんな。命令があれば汚い事でも下っ端はやらねばなりませんから」
「サル」
咎めるように言う蜂須賀小六に対して秀吉が「妙案を思い付いた」とばかりに、
「では、小六殿がワシの傍に居て見張られては?」
「どうしてワシが秀吉の傍に居なければならないのだ」
「無論、小六殿に二枚舌を使わせぬ為でござる。聞いておりますぞ、何やら頻繁に稲葉山城とやりとりをしているとか」
秀吉に指摘された小六は真顔になって、
「清洲に頭を下げたものの、どちらが勝つか分からなくなってきたからな」
どちらとは尾張の織田と美濃の斎藤の話である。
犬山城が美濃に寝返った事で、現在は美濃の方が優勢に見えるのだから。
よって、そんな言葉が小六の口から出たのだが、
「小六殿~。しっかりして下されよ。この小牧山城が完成して、犬山城の枝城がことごとく殿に降伏してるのに、まだそんな事を言っておるとは。世情をちゃんと読まぬと生き残れませぬぞ」
「何を言っておる、サル。美濃には竹中半兵衛がいるんだぞ。あやつがいる限り、美濃は負けんさ」
またか、と秀吉は内心で舌打ちした。
最近良く聞く名前だ。
竹中半兵衛。
西美濃三人衆の安藤守就の娘婿。
かなりの切れ者らしい。
その男のせいで美濃の斎藤が勢い付いているのだから。
だが、秀吉から言わせれば、そいつがいても「もう美濃は終わり」だ。
何せ、マムシの三代目が女色に溺れて佞臣を周囲に置き始めたので。
「斎藤などもう時間の問題だと思いますがな~」
「いいや、まだ分からん。織田が勝つまで斎藤と繋ぎを付けるが上策だからな。斎藤とも誼を持つさ」
「さようで」
こうして蜂須賀小六は帰っていったのだった。
そんな会話があった直後の事である。
◇
永禄6年4月には「新加納の戦い」があった。
織田軍5700人。
斎藤軍3500人。
信長自らが出陣し、兵数だけなら織田が優勢。
なのに織田は惨敗した。
竹中半兵衛の伏兵戦術に遊ばれて。
木下秀吉はその時、小牧山城の守衛任務に付いていた。
早い話が留守番である。
百姓に戦は出来まい。
そう思われていたので。
いや違うな。「斎藤などもう楽勝」と高を括って精鋭だけで出陣したので。
正直、秀吉も信長が勝って稲葉山城を取ってくると思っており、
「どうしてワシが留守番なんですか、柴田様~。稲葉山城の井之口で乱妨取りして稼ぎたかったのに~」
軍権停止中で同じく小牧山城に残っている柴田勝家に話しかけていた。
「戦を何だと思っておるんだ、サルは。そんな事を言ってるから外されるんだ。おまえはもう少し尾張の兵としての自覚を持て」
柴田勝家が説教をしていると、犬山城を監視していた密偵が、
「犬山城に動きがあったとの報告です。殿の留守を突いて、この小牧山城に兵を寄せるつもりです」
「サル、出番だ」
「柴田様は預かった鉄砲隊を指揮されるのですよね?」
「当然だろ」
「お願いしますよ」
こうして小牧山城の外周に守衛の兵は展開された。
秀吉は率いる50人の足軽に向かって、
「いいか、銭にならなくても仕事はちゃんとやるのがワシら木下隊じゃ。ちゃんと働かんと戦に出して貰えんからのう。やるぞ、皆の衆」
発破を掛けて兵の士気を高めたのだった。
とは言っても織田の守衛部隊の花は当然の事ながら鉄砲隊だ。
ダダダダン。
またもや派手に撃っていた。
それで犬山城の兵は臆して撤退していった。
「何じゃ、これだけか? つまらんな」
秀吉がそう呟き、坪内光景も本当に犬山城の兵が撤退したので不思議そうに、
「呆気なさ過ぎるな」
「小一郎、忍び達から何か聞いておるか?」
「何もじゃ、兄者」
「ふむ」
秀吉はトンチを利かせながら、
「ならばこの出兵は・・・美濃を攻めた織田の本隊を動揺させる為じゃな」
「何だ、それは?」
「今のを美濃に出兵した殿に報告すると『犬山城の兵が殿の留守中に小牧山城に兵を進めた』じゃからな」
「あれで『兵を進めた』となるのか?」
「なるじゃろ。本隊の動揺を狙ったんじゃろうな。竹中の仕業じゃろうて」
「だとしたら、噂の竹中って奴も大した事ないんじゃないか」
「じゃな、ギャハハハ」
そう笑ったのだが。
美濃に出兵した織田兵はその報告を聞いて動揺したらしい。
信じられない事に織田は「新加納の戦い」で負けて帰っていた。
(美濃に負けてきよった。信じられん。何をやっておるのだ、うちの殿は? 兵数だってこちらが上回っていたという話なのに。素人のワシが指揮してても勝ってたはずじゃぞ)
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