ヤバイ秀吉

魚夢ゴールド

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永禄6年(1563年) 松倉城調略

3、蜂須賀小六を売る

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「新加納の戦い」に敗北した後の信長の機嫌は最悪であった。

そこに誰かが讒言などでもしようものなら猜疑心の塊の信長がその讒言を乗るのは必定で、木下秀吉は自分の手柄に加算する為に、

「木曽川の蜂須賀が稲葉山城と通じている節がございます」

信じられない事に知り合いの蜂須賀小六を売っていた。

だが、これは讒言ではない。

実際に蜂須賀小六は美濃とも通じていたのだから。

まあ、それでも「仲間を売るなんて」と思うかも知れないが、秀吉には秀吉の言い分がある。

「巻き添えにされたらたまらんのでのう」という。

小六が稲葉山城に内通している事が信長が他の者から聞いた場合、秀吉も巻き添えになるので先に密告して手を打ったという訳だ。

というか、秀吉も知り合いの誼でちゃんと小六に警告はした。

対する小六の返事は「両方賭け」でどっちが勝っても自分が得をするというものだった。

「これからも美濃とは誼を通じる」という訳だ。

世の中、そんな奴が上手くいく道理もないのに。

そんな阿呆は「使えぬ」のだから見切っても問題なかろうて。

それが秀吉の主張でこの度、売る事となったのである。

ピクリ。

蜂須賀の裏切りの報告を聞かされた元々、不機嫌な信長が更に激怒しながら、

「サルが降伏話を持ってきたのではなかったのか?」

「いいえ。あのような二枚舌の男などこのサルが殿に紹介する訳がないではありませぬか。殿、さっさとあの裏切り者を始末致しましょう」

秀吉は堂々と言い切った。

「誰が紹介したか」は「問題ではない」というスタンスだ。

信長も同様である。

信長に味方しておきながら「信長を裏切って斎藤と通じている」のが問題なのだから。

戦国の世である。

舐められたら終わりだ。

というか、前回の敗戦を受けて「織田より斎藤の方が強い」と見くびられたところが気に入らぬ。

蜂須賀は「殺す」で決定だ。

「ふむ、では殺してこい」

「その件で妙案がございまする」

待ってました、と言わんばかりに秀吉が進言した。

「どのような」

「松倉城の坪内殿を使い、新参者の忠誠を試すのでございまする」

(ほう、悪くないのう)

「松倉城までが裏切ったら何とする?」

「その時はこのサルめが責任を取って松倉城の城下を乱妨取りして御覧に入れまする」

「サルは『それ』をしたいだけではないのか?」

呆れた信長だったが、織田が劣勢と見て斎藤に靡く風見鶏は必要ないので、

「ふむ、サルに任せる。蜂須賀を殺せ」

「ははっ、見事蜂須賀を討ち取って御覧に入れまする~」

こうして信長の命令を受けて秀吉は退出したのだった。





そんな訳で松倉城には秀吉の足軽隊が堂々と入っていた。

松倉城は「サル顔の雑兵を殺さねば清洲には従わぬ」とか威勢の良い書状を送り付けてきたが信長が兵を向けたら簡単に開城して信長の傘下に加わっている城である。

なので秀吉の足軽が出向いても攻撃してくる事はない。

そして松倉城は秀吉の足軽隊を入れて戦々恐々としていた。

何せ、今や秀吉の足軽隊の兵数は膨張を重ねて100人なのだから。

正確には、

足軽組頭の木下秀吉の配下の足軽49人。

それと賭場で意気投合した同僚の足軽組頭の堀尾吉晴を含む足軽40人。

秀吉の戦目付、前田利家を含む配下の10人。

それで計100人という訳だ。





松倉城の城下を焼いた癖に、秀吉は堂々と松倉城の広間に乗り込み、

「小牧山城の殿の命を松倉城の坪内殿に伝えまする。蜂須賀一党を撃滅せよ、以上です」

秀吉に文句の1つも言いたかったが、秀吉の言葉を聞いて、

「はあ? 蜂須賀は清洲に忠誠を誓っているのでは・・・」

坪内利定は秀吉から受け取った命令書を読んだ。

秀吉が言ってる事は本当だ。

信長の署名入りの蜂須賀抹殺の命令書が真実だと物語っている。

それに、秀吉の周囲に居る者達は、どう見ても武辺者。

正規の織田軍の侍だ。

秀吉配下の野武士集団とは一線を画している。

というか、坪内利定の顔見知りも混ざっていた。

前田利家だ。利定は利家が清洲で笄斬りをやって出奔した時に一時期、松倉城に迎え入れている。利家を厚遇したのは荒子湊の御曹司だったからだが。

その利家に視線で「どういう事だ、この書状は?」と問う中、秀吉が、

「斎藤とつるんでるようなのでな。この度、殺す事に決まった」

「・・・木下殿は蜂須賀とは昵懇だと聞き申したが?」

「殿に二枚舌を使う男などワシの友にはおりませぬゆえ」

ムカつく顔でヘラっとしながら秀吉は堂々と言い放った。

「監視役がいる」からそう言っている訳ではない。

秀吉の中で蜂須賀小六はもう切り捨てられている。

「使える手駒」から「殺して手柄にする」に。

「というか、ワシが小六殿を殺すのか?」

「ええ、小牧山城の殿に忠誠を誓っているところを見せる良い機会ですな~、坪内殿」

「・・・しかし」

坪内利定が渋ったのは利定が木曽川の取りまとめ役だからである。

蜂須賀一党とは数代に渡って家同士の付き合いがあったのだ。

というか蜂須賀小六を殺したりなんかしたら、他の川並衆からの信用を失う。

出来れば避けたかったが、信長の命令書があるので拒否も出来ない。

「そう言えば、蜂須賀とは知り合いでしたな~。もしや、貴殿も蜂須賀同様に稲葉山城と通じておられるのですかな? だとしたら、この秀吉、殿の為に不忠義者を斬らねばなりませぬが」

煽る感じで刀を左手に引き寄せていた。

というか、秀吉の今の恰好は戦支度である。

足軽鎧に額当てだ。

槍や弓を持ってる足軽も多数、松倉城に入ってる。

その90人が一斉に暴れたら松倉城などあっという間に落ちるだろう。

そして、この秀吉は野盗に見せかけて城下を焼く奴だ。

やりかねない。

というか、命令書という大義名分があるのだ。

こいつは暴れたがってる。

だが、それ以上に。

秀吉の周囲にいる本物の織田兵がヤバイ。

そのまま信長に報告されたら裏切り者に認定されるので。

「前田殿、助けてくれ」

「『助ける』とは? 坪内殿、悪い事は言わん、秀吉の指示に従いなされ。下手に美濃に内応しているその蜂須賀という男を庇えば貴殿まで殿に斬られますぞ」

板挟み状態の前田利家だったが、結局は信長を選んでそう言った。

「そうそう、利家殿の言う通り。やりなされ。それとも出来ない理由でもありますのかな? それは困り申したな~。この秀吉、友である利家殿の恩人を斬りとうはないが、殿に逆らう者は誅さねばならぬのでな~」

利家に見えない角度で、秀吉はニヤニヤ顔を利定に向けた。

(嘘つけ。どう見ても暴れたがってるだろ、その顔は。クソ)

「待たれよ。言われた通りにやり申すので・・・」

利定が命令を受け入れようとしたが、松倉城の家中の者が秀吉の挑発に乗ってしまい、

「城下を焼いておきながら、良くも図々しい。死ねい、野盗がっ!」

脇差を抜いて抜刀してきた。

とはいえ、松倉城側の人間は全員が平服である。

対する信長の使いは全員が軍装備。

刀も持ち込んできており、秀吉が動くまでもなく、足軽組頭の堀尾吉晴が一刀で斬り伏せたのだった。

「ぐあああああ」

「何だ、こやつは? 木下殿、この城はどうやら既に美濃に寝返ったようですぞ」

「そのようですな~」

「ち、違う。そやつが勝手に」

吉晴が決め付け、秀吉が面白がって同意する中、利定が慌てて否定し、

「前田殿、誤解なんだ、分かるだろ」

荒子湊の御曹司に泣き付いた。

因みに前田利家は松倉城は味方と油断して出遅れて刀を抜けていない。

「蜂須賀を討ち倒してそれを殿に証明なされよ、坪内殿」

戦目付なのだ。

私情を挟まずに利家はそう言うのが精一杯だった。





 ◇





だが、松倉城に入った秀吉配下の足軽49人とは別に、単独行動を取って松倉城に入らなかった者が1人だけいた。

坪内光景(前野長康)である。

光景は蜂須賀小六と兄弟分の盃を交しており、見殺しには出来なかったのだ。

その為、蜂須賀小六の居城の蜂須賀城に飛び込んで、

「小六、小牧山城におまえが美濃と内通してるのがバレた。逃げろ、殺されるぞ」

「はあ。どうして?」

屋敷でゆっくりと寛いでいた小六が尋ねた。

「知らんわ。サルが小牧山城の殿に命令されて殺しにくる」

「サルではオレは殺せんだろ?」

「サルには無理でも、サルの知り合いの前田利家って豪傑ならおまえを殺せるぞ」

「前田、聞いた事があるな。誰だっけ?」

「美濃の足立六兵衛を殺した織田の猪武者だ」

「ああ、あの足立を殺した武芸者の・・・まずいな」

小六も腕っ節には自信はあったが、さすがに足立六兵衛を殺した奴とやり合って勝てるとはうぬぼれてはいない。

「悪い事は言わん、逃げろ」

「ああ、そうしよう」

こうして蜂須賀小六は蜂須賀城から逃げ出したのだった。





その後、松倉城から呼び出しの使いの者がきたが、蜂須賀城は手下も逃げており、もぬけの殻だった。
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