斬られ役、異世界を征く!! 弐!!

通 行人(とおり ゆきひと)

文字の大きさ
93 / 282
双竜塞編

執事、思い出す

しおりを挟む

 93-①

「お、お嬢様ーーーっ!!」

 影光の首根っこを捕まえたゲンヨウは、マナのいる姫の間に突入した。

「何事ですか!? 騒々しい!!」
「お、思い出したのです!! こ奴は……この男は……!!」
「ふげっ!?」

 ゲンヨウはマナの前に影光をドサリと投げ捨てた。

「ゲンヨウ!! 私はこの方を客人として扱うようにと言ったはずですよ!!」
「はっ!? も、申し訳ございません!! しかしながら、私は……私は思い出したのです!!」
「一体何を思い出したというのです!?」

 尻を突き出して突っ伏している影光を、ゲンヨウは震える指で指し示した。

「こ、この男こそ……三年前の大戦において、我が主にして魔族の王……シン陛下の名をかたった不届き者を倒した男です!!」

 指を差された影光は焦った。

「じ、ジイさん!? ど、どうしてそれを……」
「お嬢様……私は一目見てすぐに看破かんぱ致しました。『復活した古の魔王』というのが、我が主ではなく、真っ赤な偽者であるという事を」

 ゲンヨウはそう言って遠い目をした。

「敬愛する我が主の名を騙るなど言語道断……断じて生かしてはおかぬ!! そう息巻いたものの……あの偽者は凄まじいまでの力を持っておりました……三百年前ならともかく、すっかり老いさらばえ、衰えてしまった今の私の力では、まともにやり合って勝てる見込みは全く無かったのです……そこで私は、あの偽魔王に執事として仕えるフリをしながら、寝首をく事に致しました」

 ゲンヨウは拳を握り締めた。語りにも熱が入り始める。

「来る日も来る日も私は、偽の主に頭を下げ、顎先で使われるという屈辱に耐えながら、何とか奴の正体や弱点を探ろうとしておりました……そして、三年前のあの日……この男が現れたのです!!」
「お奉行様……言い掛かりはよして頂きましょう!! 何の事だか、あっしにはこれっぽっちも身に覚えがありませんぜ」

 武光の記憶をそっくりそのままコピーされているのだ、『身に覚えが無い』どころか、三年前 (武光にとっては半年前)の魔王城での最終決戦は、互いの一挙手一投足ですら鮮明に思い出せるのだが、再び指を差された影光は、『遠山の◯さん』でお白州しらすに引きずり出された悪人ばりにしらばっくれた。

「髪の色を変えた程度で、魔王の執事たる私の目は誤魔化せぬ…………今更いまさら変顔で誤魔化そうとしても無駄だ!!」
「ちっ……ダメか」
「私はあの時、姿を消して一部始終を見ておったのだ!! 偽魔王の正体、そして古の勇者の真実、そしてお前が凄まじき力で偽魔王を叩きのめした事も!!」

 影光は大いに焦った。まさかあの時、謁見の間に自分達以外に人がいたとは……

「じゃ、じゃあジイさん、アンタまさか……そのあとの俺達の一世一代の大芝居も──」
「無論、知っておる」
「ゲェーッ!?」
「中々楽しませてもらったぞ、『魔王陛下が勇者なんぞに敗北する』というゴミのような結末だけは頂けなかったがな。それにしても……お主、何故なにゆえ魔王討伐の手柄を勇者の末裔まつえいに譲った? 魔王討伐の功績があれば、人間共の世界で英雄にもなれたろうに」
「い、いやアレは俺じゃなくてだな、えーっと……そう、アレだ!! あれは俺の……双子の兄だ!!」
「……お主はさっき『俺達の芝居』と言っておった」
「うっ……うるせーーーーー!! とにかくアレは俺じゃないの!! やったのはぜんぶ1号なの!! 魔王を倒したのも、その後、大芝居を打ったのも……ナジミとちゅーしたのも!!」


「なっ……何しとんじゃーーーーー!?」


 オサナが勢いよくドアを開けて姫の間に入ってきた。

「あっ……オサナ、丁度良い所に。ジイさんに俺とアイツは別人だって事を──」
「こんの……浮気者ーーーーーっ!! アスタト神殿三大退魔奥義が一つ……『アスタトの地獄』ッッッ!!」

 “ガガァン!!” 

 オサナの必殺奥義が影光に炸裂し、影光の顔面が姫の間の石壁にめり込んだ。

 石壁に顔面が突き刺さり、まるでハンガーに掛けられた服のように “ぷらーん” と垂れ下がっている影光を見て、マナはゲンヨウに問いかけた。

「ゲンヨウ、本当にこの方が、凄まじい力を持つ『お父様の偽者』を倒したと……?」
「さ、左様でございます!!」

 とは言うものの、ゲンヨウもだんだん自信が無くなってきた。

「壁に突き刺さってますが……」
「た、確かにこの者だった……と、思うのですが……」

 マナとゲンヨウの眼下を、オサナに足を掴まれた影光が引きずられて行く。ピクピクと痙攣けいれんしている影光は、さながら死にかけのテントウムシだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました

東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!! スティールスキル。 皆さん、どんなイメージを持ってますか? 使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。 でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。 スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。 楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。 それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。 2025/12/7 一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

処理中です...