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1 博士は刻(とき)をみたようです
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その歯並びはとても揃っていて、ダイヤで出来ているのが一目瞭然となるように、輝くような微笑を私たちに向けてくれている……。
少しはにかむような唇の動きと、体幹のぐねぐねうにうにぼっこぼこのコントラストを目にしてしまった私は、思う。
うっわ、きもちわるっ! これにキスしなさいって!?
失礼ですが頭のお加減はよろしかったでしょうか!?
「うっわ、きっも!? ダイヤだけど! たしかにダイヤがあるけど!! 余計にきっも!!」
うん。妹もどんびきしている。確かにね、いちど吊るし上げをくらうべき友人さんの情熱もおかしいと思うけど、なんでそれに従っちゃったんですか!?
博士は天才だと思ってたけど取り消します! 最低ですよ!!
「瞬間的な認証は口づけでもええんじゃが……」
博士は少し言いにくそうに額を押さえて続ける。
「しかし……儂が嫌だったんでのぉ、小指を噛ませてもおっけーじゃ!」
ああ、それならちょっとだけまし? いや、でも、これに噛ませる!? この歯、ダイヤで出来てるんですよね!? どっちにしても怖い! というか……大丈夫なの!? 噛まれた後、取られない!?
私は、血の気の引いた表情で聞いてみる。
「その……指とか簡単にかじり取られそうな歯にみえますが!?」
「ダイヤで噛まれたら痛いでしょ!?」
私と妹の言葉が重なった。まあキスという選択肢はありえないから、登録をしなければの場合、噛まれる一択になるんだが、うぅ……。
「大丈夫じゃ。甘噛みじゃし、せいぜいちくっとするだけじゃぞ」
そして、博士は自分の指を噛ませた。
うっわ、何ですかあの唇の動き方!? え!? ちょっと!!
うっわー、これ……これは!? どんびきしている妹に近づき、私はその目をふさいでおいた。
それを受け入れ、抵抗しない所を見ると、妹も見たくなかったんだろうな。
「うっわー……何だあれ、うっわー……って!? まさか! ねえ!!」
「見たくはないけど、気にはなるから黙ってて」
そして、博士が引き抜いた指を見る。そこには、歯型もついていなければ、液体も付着していない。ああ、よかった、本当に甘噛みなのだろう。
………………良かった? 良いのだろうか? うーん、良くないよね!?
『確認しました。登録PC6台。思わず赤面してしまうファイル10万飛んで94、口に出すのも恥ずかしいものを中心に、消去準備完了しています』
げげ、こんなんに私の声を使わないでほしい。
「人前で言わんでええ!」
「ねえ、これはもう……ハンマーで良いんじゃない?」
「いや、無害ならだめだよ。うん、無害ならね……」
こそこそと言い合う私たちをみて、博士は眉をひそめる。
「無害ってなんじゃ! 儂の発明品たちは全て愛おしくも儚い最高傑作じゃぞ!」
「明後日のほうに突き抜けてることが多いじゃないですか! これは見た目が有害です!」
「うん。今回のはキモさが飛び抜けてるよね」
しかし、同時にこの生物っぽいのをハンマーを使って壊したくない。
なんかその……感触とか質感とかもしばらく残りそうだし、なんていうか、普通に見ているだけでも夢に出てきそうな外見である。
もし、この生物に仇なした場合、100倍くらいは返ってきそうだ。
いや、まて!? 生物だから『孵る』的な想像もできるのか!? だったら悪夢100万倍だ!?
「というわけでひみっちゃん、もって帰るか?」
「ええ!? それ、私たちの反応見て言ってます?」
「夢に出てきそうだからほしくないけど、ダイヤだけ欲しい。歯抜く?」
「ちょっ、ひどいぞ! いもっちゃん。あれはまだ乳歯じゃ! しばらくしたら勝手に抜けるのじゃ!」
乳歯!?
え、抜けるの?
しかもニュアンス的に生えてくるっぽい!?
あの、すごく意味が解らないです!!
というか、このきもちわるいのって幼児設定!?
でも動いてるし!? チューしようとするし!
あと……よりにもよって私の声だし……うむむむ。
「よう解らんが、友人が言ったんじゃ。乳歯のほうがぐっと来るらしいぞ!」
ちょっと、友人さんてばいいかげんにしてください!
もしかして妄想はなはだしい人!?
それとも犯罪者予備軍!? いや、堀の中って可能性もあるんじゃないですか!? 処された方が良いんじゃないですね!? 私たちが処しましょうか!?
えと、えーっと……私はさまざまなダメージによって混乱し、頭の中で119番に電話するか110番に電話するべきかをぐるぐると悩んでいる。
そんな内心の葛藤を顧みず、妹が大きく言った。
「おし、爆発しないなら貰うわ!」
え、貰うの!?
妹、それ、貰っちゃうの!?
3日くらい夢に見るよ!
そんで、7日目に現実になる感じだよ!?
「爆発なぞせんといっとろう! ただ、日に一度塩水を200CCやっとくれ。あまり濃いと体悪くするからな! スポーツドリンクくらいの濃度でええ」
「うえ、そんな手間がいるの?」
「何もなしで動く技術はないんじゃ。昔は消費電力が工場並みだったんじゃが、ようやくその程度に押さえたわ!」
おおっと!?
あのきもちわるいの、塩水で動くの!?
それってものすごい技術じゃないんですかね?
えっと、たしかエネルギーとか、動力機関においての効率とかって……それに蠢いたり、話したりしているってことは……え?
なんか、聞いちゃいけない未知の技術じゃないですかね!?
あれ、忘れておかなきゃまずい感じ!?
新技術に関する開発者に対しての黒い噂などを時おり耳にする私としては、さらに心へ打撃を受けてしまった。私、もうそろそろ限界が近い。
「おっけー! ダイヤゲット! ありがとっ! 博士!」
「いもっちゃん、飛び切りの笑顔じゃの。かわええのお! それだけでも男がほっとかんじゃろう?」
「いやー、そうでもないのよ……身内に変なのがいると、逃げてっちゃうの」
「そうか? ひみっちゃんは良い子じゃぞ」
「どの辺が!?」
んー!?
今受けたばかりの心理的外傷と戦っていたから聞き逃すところだったけど、真顔で聞いてるよね? 妹さん。
「そりゃ、挨拶ができるし、目上のもんを立ててくれるしのぉ……今時珍しい子じゃ!」
「それって、珍しいの?」
「当然じゃ! 気を置けず話せる子は希少なんじゃぞ!」
「へー、あたし、仕事以外ちゃらんぽらんで、残念街道突っ走ってる人だと思ってた!」
あれ、いつの間にか私責められてる? 私の混乱は、正当じゃないのかな? えっとえと、私って精神弱いひと?
え、うーん、というかこれ、あの生物をうちで飼う方向で話が決まっているの!?
ええーーー!!? あ、でもダイヤがとれるのか?
うーむ、うむむむ、むううう……。私は考えて、考え抜いてから、決断を言葉にした。
「よっし、世話は頼んだよ!」
「えっ、それじゃダイヤ独り占めしていいのね?」
「おっけー、二人で交代して世話しましょう! きもきもさん、うちに来てくれてありがとね!」
私は、そんな感じで決断を覆した。
「おお! もってってくれるか! ありがとな、ひみっちゃん。ちゃんと登録するんじゃぞ!!」
「え、登録しなかったら、どうなるんですか?」
「登録せんと装置の意味が無かろう?」
「う、まあ……機能は、まあ便利? でしょうか……」
正直、ダイヤをもらったらお役御免ですとは口に出しにくい。
「いまの状態だと、儂に何かあった時のみに反応し、羽化して飛んでくることになるぞ!」
ふむ……その光景はトラウマになるかもしれないが、博士のピンチがわかるなら、問題なくない? 急に飛び立ったら後追わなきゃなんないだろうし。
「でもさ、うちのPCってさ、あたし家計簿以外で使ってないんだよね」
「私のマイPCにはいざって時に消えてほしいデータが……ああ、あるか」
「おっけー、登録よろです!」
「やだなぁ……まあ気の向いたときにしておく」
けどずっと保留にしておこう。
「じゃあダイヤも貰ったし、かえろっか」
「あの、この子を隠すものをありません?」
「段ボール箱があるぞい!」
てけてけと博士はラボへと入っていく。相変わらずフットワークが軽いようだ。
「はあ……なんでこんなことに」
「まま、良いんじゃない? 塩水だけだし、大丈夫しょ」
「どうやって飲ますのこれ?」
「え……さあ?」
こうして、欲に目がくらんだ私たちは、その前途が多難であることが予想できた。
少しはにかむような唇の動きと、体幹のぐねぐねうにうにぼっこぼこのコントラストを目にしてしまった私は、思う。
うっわ、きもちわるっ! これにキスしなさいって!?
失礼ですが頭のお加減はよろしかったでしょうか!?
「うっわ、きっも!? ダイヤだけど! たしかにダイヤがあるけど!! 余計にきっも!!」
うん。妹もどんびきしている。確かにね、いちど吊るし上げをくらうべき友人さんの情熱もおかしいと思うけど、なんでそれに従っちゃったんですか!?
博士は天才だと思ってたけど取り消します! 最低ですよ!!
「瞬間的な認証は口づけでもええんじゃが……」
博士は少し言いにくそうに額を押さえて続ける。
「しかし……儂が嫌だったんでのぉ、小指を噛ませてもおっけーじゃ!」
ああ、それならちょっとだけまし? いや、でも、これに噛ませる!? この歯、ダイヤで出来てるんですよね!? どっちにしても怖い! というか……大丈夫なの!? 噛まれた後、取られない!?
私は、血の気の引いた表情で聞いてみる。
「その……指とか簡単にかじり取られそうな歯にみえますが!?」
「ダイヤで噛まれたら痛いでしょ!?」
私と妹の言葉が重なった。まあキスという選択肢はありえないから、登録をしなければの場合、噛まれる一択になるんだが、うぅ……。
「大丈夫じゃ。甘噛みじゃし、せいぜいちくっとするだけじゃぞ」
そして、博士は自分の指を噛ませた。
うっわ、何ですかあの唇の動き方!? え!? ちょっと!!
うっわー、これ……これは!? どんびきしている妹に近づき、私はその目をふさいでおいた。
それを受け入れ、抵抗しない所を見ると、妹も見たくなかったんだろうな。
「うっわー……何だあれ、うっわー……って!? まさか! ねえ!!」
「見たくはないけど、気にはなるから黙ってて」
そして、博士が引き抜いた指を見る。そこには、歯型もついていなければ、液体も付着していない。ああ、よかった、本当に甘噛みなのだろう。
………………良かった? 良いのだろうか? うーん、良くないよね!?
『確認しました。登録PC6台。思わず赤面してしまうファイル10万飛んで94、口に出すのも恥ずかしいものを中心に、消去準備完了しています』
げげ、こんなんに私の声を使わないでほしい。
「人前で言わんでええ!」
「ねえ、これはもう……ハンマーで良いんじゃない?」
「いや、無害ならだめだよ。うん、無害ならね……」
こそこそと言い合う私たちをみて、博士は眉をひそめる。
「無害ってなんじゃ! 儂の発明品たちは全て愛おしくも儚い最高傑作じゃぞ!」
「明後日のほうに突き抜けてることが多いじゃないですか! これは見た目が有害です!」
「うん。今回のはキモさが飛び抜けてるよね」
しかし、同時にこの生物っぽいのをハンマーを使って壊したくない。
なんかその……感触とか質感とかもしばらく残りそうだし、なんていうか、普通に見ているだけでも夢に出てきそうな外見である。
もし、この生物に仇なした場合、100倍くらいは返ってきそうだ。
いや、まて!? 生物だから『孵る』的な想像もできるのか!? だったら悪夢100万倍だ!?
「というわけでひみっちゃん、もって帰るか?」
「ええ!? それ、私たちの反応見て言ってます?」
「夢に出てきそうだからほしくないけど、ダイヤだけ欲しい。歯抜く?」
「ちょっ、ひどいぞ! いもっちゃん。あれはまだ乳歯じゃ! しばらくしたら勝手に抜けるのじゃ!」
乳歯!?
え、抜けるの?
しかもニュアンス的に生えてくるっぽい!?
あの、すごく意味が解らないです!!
というか、このきもちわるいのって幼児設定!?
でも動いてるし!? チューしようとするし!
あと……よりにもよって私の声だし……うむむむ。
「よう解らんが、友人が言ったんじゃ。乳歯のほうがぐっと来るらしいぞ!」
ちょっと、友人さんてばいいかげんにしてください!
もしかして妄想はなはだしい人!?
それとも犯罪者予備軍!? いや、堀の中って可能性もあるんじゃないですか!? 処された方が良いんじゃないですね!? 私たちが処しましょうか!?
えと、えーっと……私はさまざまなダメージによって混乱し、頭の中で119番に電話するか110番に電話するべきかをぐるぐると悩んでいる。
そんな内心の葛藤を顧みず、妹が大きく言った。
「おし、爆発しないなら貰うわ!」
え、貰うの!?
妹、それ、貰っちゃうの!?
3日くらい夢に見るよ!
そんで、7日目に現実になる感じだよ!?
「爆発なぞせんといっとろう! ただ、日に一度塩水を200CCやっとくれ。あまり濃いと体悪くするからな! スポーツドリンクくらいの濃度でええ」
「うえ、そんな手間がいるの?」
「何もなしで動く技術はないんじゃ。昔は消費電力が工場並みだったんじゃが、ようやくその程度に押さえたわ!」
おおっと!?
あのきもちわるいの、塩水で動くの!?
それってものすごい技術じゃないんですかね?
えっと、たしかエネルギーとか、動力機関においての効率とかって……それに蠢いたり、話したりしているってことは……え?
なんか、聞いちゃいけない未知の技術じゃないですかね!?
あれ、忘れておかなきゃまずい感じ!?
新技術に関する開発者に対しての黒い噂などを時おり耳にする私としては、さらに心へ打撃を受けてしまった。私、もうそろそろ限界が近い。
「おっけー! ダイヤゲット! ありがとっ! 博士!」
「いもっちゃん、飛び切りの笑顔じゃの。かわええのお! それだけでも男がほっとかんじゃろう?」
「いやー、そうでもないのよ……身内に変なのがいると、逃げてっちゃうの」
「そうか? ひみっちゃんは良い子じゃぞ」
「どの辺が!?」
んー!?
今受けたばかりの心理的外傷と戦っていたから聞き逃すところだったけど、真顔で聞いてるよね? 妹さん。
「そりゃ、挨拶ができるし、目上のもんを立ててくれるしのぉ……今時珍しい子じゃ!」
「それって、珍しいの?」
「当然じゃ! 気を置けず話せる子は希少なんじゃぞ!」
「へー、あたし、仕事以外ちゃらんぽらんで、残念街道突っ走ってる人だと思ってた!」
あれ、いつの間にか私責められてる? 私の混乱は、正当じゃないのかな? えっとえと、私って精神弱いひと?
え、うーん、というかこれ、あの生物をうちで飼う方向で話が決まっているの!?
ええーーー!!? あ、でもダイヤがとれるのか?
うーむ、うむむむ、むううう……。私は考えて、考え抜いてから、決断を言葉にした。
「よっし、世話は頼んだよ!」
「えっ、それじゃダイヤ独り占めしていいのね?」
「おっけー、二人で交代して世話しましょう! きもきもさん、うちに来てくれてありがとね!」
私は、そんな感じで決断を覆した。
「おお! もってってくれるか! ありがとな、ひみっちゃん。ちゃんと登録するんじゃぞ!!」
「え、登録しなかったら、どうなるんですか?」
「登録せんと装置の意味が無かろう?」
「う、まあ……機能は、まあ便利? でしょうか……」
正直、ダイヤをもらったらお役御免ですとは口に出しにくい。
「いまの状態だと、儂に何かあった時のみに反応し、羽化して飛んでくることになるぞ!」
ふむ……その光景はトラウマになるかもしれないが、博士のピンチがわかるなら、問題なくない? 急に飛び立ったら後追わなきゃなんないだろうし。
「でもさ、うちのPCってさ、あたし家計簿以外で使ってないんだよね」
「私のマイPCにはいざって時に消えてほしいデータが……ああ、あるか」
「おっけー、登録よろです!」
「やだなぁ……まあ気の向いたときにしておく」
けどずっと保留にしておこう。
「じゃあダイヤも貰ったし、かえろっか」
「あの、この子を隠すものをありません?」
「段ボール箱があるぞい!」
てけてけと博士はラボへと入っていく。相変わらずフットワークが軽いようだ。
「はあ……なんでこんなことに」
「まま、良いんじゃない? 塩水だけだし、大丈夫しょ」
「どうやって飲ますのこれ?」
「え……さあ?」
こうして、欲に目がくらんだ私たちは、その前途が多難であることが予想できた。
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