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1 博士は刻(とき)をみたようです
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博士を押しとどめてから、しばらく世間話を続けてふと気づく。スマホを見ると良い時間となっていた。
「えっと、博士もう発明はないですよね」
「うむ! 今見せれるもんはないの」
「では、そろそろお暇します」
「え、ちょっと、何しに来たのよ? ダイヤもらわず帰っちゃうの?」
おっとそうだ。博士への慰謝料請求を忘れるところだった。
「そうでした! 忘れてましたよ博士! 私たちの心と体を傷物にした代償として、安全なおみやげをください!」
「あたし、何でもいいからダイヤが良い!!」
そのセリフは、何でもいいと掛けてはいけない。
「やっぱりおぬしら強盗か? まあええ、ダイヤか? ふむ……ちょっとまっとってな!」
「くれぐれも危険物以外ですよ! お願いします!」
「ダイヤー!」
博士はゆったりした歩き方で、研究室のほうへ入っていく。
「うふふ、ノリでダイヤとか言ってたけど、実際は何くれるのかな?」
「あんまダイヤとかいわないの! もしかして、ほかの人にもたかってるの?」
「いやいや、博士が話しやすいから、ついね」
そういえばそうだよね。
考えてみれば博士はとても話しやすい人であり、私たちが気を遣わなくて済むような雰囲気を持っている。あれは人柄なんだと思う。それに便乗してダイヤを要求する私たちって、悪い人かな?
でも、私の今朝を爆発させて、妹まで叩き起こした罪は重い。
それにだ、発明という世界の脅威で私の精神を圧迫したうえ、私は打ち身まで作ることになったのだ! ……うん! 私たちには正義がある!
ただ、妹には注意したほうがいいかもしれない。
よく知らない人にダイヤたかるって、実は社会的に危ういヒトなのだ! って事で少し釘を刺しておこうと思った。
「博士は気にしない人だけどさ……ああいうのは気を付けてね」
「ええーっと、何を?」
「他の人にダイヤ的なものをたかったりしないようにね!」
「ああ、うん。解ってる」
妹は真摯を作って頷いた。
「でもさ、どうするの?」
「なにが?」
「愛人として、活動を続けるの?」
「まず愛人じゃないからね!?」
たしかに私は、合鍵をくれるといったから貰った。だが、愛人になるとは言っていない。くれたものを貰っただけである。
勘違いしてはいけないのだよ!
「うーん、でもさでもさ」
「しっ、来たみたいだよ」
「おまたせ! ひみっちゃん! いもっちゃん!」
「おお、何ですか?」
「どんなダイヤ?」
妹め、注意したのに連呼するんじゃない!?
「おみやげじゃ!」
「!?」
「うえっ!?」
博士が持って来たのはUSBの差込口がついた蠢くナニカだった。
大きさは体格が良い男性の腕くらいもあり、表現しにくい不定形がうねうねと伸び縮みし、ぼこぼことした気味の悪い質感の皮膚をしている。
体表には赤紫の痣みたいな部分がいくつもあって、同時に地肌の黄土色っぽい部分がうぞうぞと揺れる。
そういった色のコントラストが徐々に入れ替わる感じがあってとても気持ち悪い。
また、少し目を離すとなんだか落ち着かない姿になり、角度によっては表現に困る何か? が生えて見えることもある。これ、しばらく見てると精神的にヤバイ!? なにこの……謎の生物!
というか、これがおみやげですか!?
嫌がらせの間違いでしょ!?
「なにこれ、キモっ!」
妹のストレートがぶち刺さる。いままで注意しようと思っていたけど、ありがとうと素直に思えた。妹は、私が言えないことでもはっきり言ってくれるんだね。うん、それでこそ妹だ。
「およ? きもち悪いかの?」
「はい、すみません……えっと、ハンマー、ハンマーはどこだっけ」
「ああ、あたしまだ返してなかったわ。でも、これを叩くのはヤダ! 譲ったげる!!」
そういえば妹、ずっとこれを握りしめとったのか? ハンマーを返してもらっても……あれ? 私がこれを処分するの!? ……うぐぅ……気が進まない……。
というか絶対ヤダ!
「ま、まてまて、そんなにダメかいの?」
「見ているヒトを不安定にするための装置ですよね?」
「これ、心が弱ってる人がみたら、ちょっとしゃれになんないと思う」
「むむむ……うーむ、そうか……? 機能は、まあありふれたもんじゃからなぁ。儂が開発する必要はなかったと思うが……うーむむむ……」
「え、ありふれたものなんですか?」
「それ、逆に気になるわね」
私たちはその悍ましい何かを視線の外に置こうとした。ただし、何か起きたら怖いので、視界から全部は消さずに問う。
すると博士はにこにこして言った。
「うむ! 興味あるんか?」
「博士、こんなキモイのを前に、にっこにこね……」
「ま、まあ博士の辞書に一般的という文字がなさそうだし……」
博士は「失礼じゃの!」と、唇をとがらせてから、しかし、にこにこしながら説明を始める。
「これはの、持ち主に何かあった時、PCの記憶媒体を消去し、初期化・再構成によって復元できなくするものじゃ!」
そこから、なんかパソコンっぽい用語がいっぱい続きます。
なんですか?
クラスタがどうとか、構造的ななんやらとか、まあ、噛み砕いて言えば、大切な部品には全く干渉せず、また衝撃などを用いずに消去するものだという。
ちなみに、一番苦労したところは持ち主のバイタルを察知する部分らしい。
いやいや突っ込みどころが多いでしょ……。
これ、デザインには、突っ込んじゃダメなんでしょうか?
えっと、えーっと、だったら……まずはどうやって動いているんです?
うわあっ!? 全自動で這いずりだしましたよ!? なんか、意志を持ってるっぽいし!
というか、バイタル察知が出来るなら、そこだけ切り取って作りましょうよ!
そっちの需要はもんのすごいと思いますよ!?
しばし語った博士は、吐き捨てるように続けた。
「しかし、つまらん仕事じゃよ。友人の頼みでなきゃ作る気にもならん!」
「発明じゃないんですか?」
「こんなもん、ありふれとるじゃろ?」
「始めてみました……見たくなかった」
「こんなん、見たことないから!!」
この生物(!?)は博士の中では発明と呼びたくないらしい。しかし、仕事につまらないとか言っても仕方ないとおもうんですがねぇ……。そして少し考える。
記憶媒体ってHDDとかSSIDのことですよね?
形に拘らなければ個人情報とかも色々あるし、需要は多い気がする。
斉藤さんじゃないけれど、自分に何かあった時はPCお風呂に付けてくれって頼んだことのある人は、そこそこのお値段で買ってくれるかもしれない。
「もし本人が無事じゃった時には元に戻す機能も付いておる! これはサービスじゃ!」
あ、やっぱ博士って凄いんだ。
「…………この見た目に目をつむれば、良い発明っぽいですね」
「そう? 微妙じゃない? ていうか、ダイヤは!?」
おや、妹はダイヤにしか興味ないのかね……? しかし、これを求める汚れた大人には気をつけてほしい。
そんなことを考え、ふと装置に目をやると、なんか先の方からきらきらした角みたいなの出して、突っつきそうな態度を見せている。
いや、え、もしかして、もしかする!?
「一応、ダイヤは内部につかっとるんじゃ。一時期、内装との両立に凝ってたのじゃ! それこそ友人に粋とは何かを語られてのぉ、影響受けてしもうた!」
あっれ、あのキラキラしたものって、もしかしてダイヤのツノ!?
あれで突っつくの?
たとえば間違えてデータ消しちゃっても、ご主人様をなんとかしてしまう的なもの!?
この生物、先走らないですよね!?
「そこでの、儂は機能を持たせつつ粋な発明を両立するために……試行錯誤を重ねたのじゃ!」
言いながら博士は生物へと近づく。博士が視線を合わせた瞬間、奴はすっとツノを隠した。見間違いじゃないよね?
「での、友人の熱い情熱をもった要望で、仕方なく取り入れたのじゃが……本人認証は口づけになった」
博士がぽんっ、と装置をおさえる。すると形の良い唇が生えてきた!?
そして、悍ましいその装置はにっこりと微笑む。
それは、左口角が持ち上がった少し癖のある、つつましくも儚い微笑であり、ダイヤの歯並びがキラキラと輝いて見えた!
「えっと、博士もう発明はないですよね」
「うむ! 今見せれるもんはないの」
「では、そろそろお暇します」
「え、ちょっと、何しに来たのよ? ダイヤもらわず帰っちゃうの?」
おっとそうだ。博士への慰謝料請求を忘れるところだった。
「そうでした! 忘れてましたよ博士! 私たちの心と体を傷物にした代償として、安全なおみやげをください!」
「あたし、何でもいいからダイヤが良い!!」
そのセリフは、何でもいいと掛けてはいけない。
「やっぱりおぬしら強盗か? まあええ、ダイヤか? ふむ……ちょっとまっとってな!」
「くれぐれも危険物以外ですよ! お願いします!」
「ダイヤー!」
博士はゆったりした歩き方で、研究室のほうへ入っていく。
「うふふ、ノリでダイヤとか言ってたけど、実際は何くれるのかな?」
「あんまダイヤとかいわないの! もしかして、ほかの人にもたかってるの?」
「いやいや、博士が話しやすいから、ついね」
そういえばそうだよね。
考えてみれば博士はとても話しやすい人であり、私たちが気を遣わなくて済むような雰囲気を持っている。あれは人柄なんだと思う。それに便乗してダイヤを要求する私たちって、悪い人かな?
でも、私の今朝を爆発させて、妹まで叩き起こした罪は重い。
それにだ、発明という世界の脅威で私の精神を圧迫したうえ、私は打ち身まで作ることになったのだ! ……うん! 私たちには正義がある!
ただ、妹には注意したほうがいいかもしれない。
よく知らない人にダイヤたかるって、実は社会的に危ういヒトなのだ! って事で少し釘を刺しておこうと思った。
「博士は気にしない人だけどさ……ああいうのは気を付けてね」
「ええーっと、何を?」
「他の人にダイヤ的なものをたかったりしないようにね!」
「ああ、うん。解ってる」
妹は真摯を作って頷いた。
「でもさ、どうするの?」
「なにが?」
「愛人として、活動を続けるの?」
「まず愛人じゃないからね!?」
たしかに私は、合鍵をくれるといったから貰った。だが、愛人になるとは言っていない。くれたものを貰っただけである。
勘違いしてはいけないのだよ!
「うーん、でもさでもさ」
「しっ、来たみたいだよ」
「おまたせ! ひみっちゃん! いもっちゃん!」
「おお、何ですか?」
「どんなダイヤ?」
妹め、注意したのに連呼するんじゃない!?
「おみやげじゃ!」
「!?」
「うえっ!?」
博士が持って来たのはUSBの差込口がついた蠢くナニカだった。
大きさは体格が良い男性の腕くらいもあり、表現しにくい不定形がうねうねと伸び縮みし、ぼこぼことした気味の悪い質感の皮膚をしている。
体表には赤紫の痣みたいな部分がいくつもあって、同時に地肌の黄土色っぽい部分がうぞうぞと揺れる。
そういった色のコントラストが徐々に入れ替わる感じがあってとても気持ち悪い。
また、少し目を離すとなんだか落ち着かない姿になり、角度によっては表現に困る何か? が生えて見えることもある。これ、しばらく見てると精神的にヤバイ!? なにこの……謎の生物!
というか、これがおみやげですか!?
嫌がらせの間違いでしょ!?
「なにこれ、キモっ!」
妹のストレートがぶち刺さる。いままで注意しようと思っていたけど、ありがとうと素直に思えた。妹は、私が言えないことでもはっきり言ってくれるんだね。うん、それでこそ妹だ。
「およ? きもち悪いかの?」
「はい、すみません……えっと、ハンマー、ハンマーはどこだっけ」
「ああ、あたしまだ返してなかったわ。でも、これを叩くのはヤダ! 譲ったげる!!」
そういえば妹、ずっとこれを握りしめとったのか? ハンマーを返してもらっても……あれ? 私がこれを処分するの!? ……うぐぅ……気が進まない……。
というか絶対ヤダ!
「ま、まてまて、そんなにダメかいの?」
「見ているヒトを不安定にするための装置ですよね?」
「これ、心が弱ってる人がみたら、ちょっとしゃれになんないと思う」
「むむむ……うーむ、そうか……? 機能は、まあありふれたもんじゃからなぁ。儂が開発する必要はなかったと思うが……うーむむむ……」
「え、ありふれたものなんですか?」
「それ、逆に気になるわね」
私たちはその悍ましい何かを視線の外に置こうとした。ただし、何か起きたら怖いので、視界から全部は消さずに問う。
すると博士はにこにこして言った。
「うむ! 興味あるんか?」
「博士、こんなキモイのを前に、にっこにこね……」
「ま、まあ博士の辞書に一般的という文字がなさそうだし……」
博士は「失礼じゃの!」と、唇をとがらせてから、しかし、にこにこしながら説明を始める。
「これはの、持ち主に何かあった時、PCの記憶媒体を消去し、初期化・再構成によって復元できなくするものじゃ!」
そこから、なんかパソコンっぽい用語がいっぱい続きます。
なんですか?
クラスタがどうとか、構造的ななんやらとか、まあ、噛み砕いて言えば、大切な部品には全く干渉せず、また衝撃などを用いずに消去するものだという。
ちなみに、一番苦労したところは持ち主のバイタルを察知する部分らしい。
いやいや突っ込みどころが多いでしょ……。
これ、デザインには、突っ込んじゃダメなんでしょうか?
えっと、えーっと、だったら……まずはどうやって動いているんです?
うわあっ!? 全自動で這いずりだしましたよ!? なんか、意志を持ってるっぽいし!
というか、バイタル察知が出来るなら、そこだけ切り取って作りましょうよ!
そっちの需要はもんのすごいと思いますよ!?
しばし語った博士は、吐き捨てるように続けた。
「しかし、つまらん仕事じゃよ。友人の頼みでなきゃ作る気にもならん!」
「発明じゃないんですか?」
「こんなもん、ありふれとるじゃろ?」
「始めてみました……見たくなかった」
「こんなん、見たことないから!!」
この生物(!?)は博士の中では発明と呼びたくないらしい。しかし、仕事につまらないとか言っても仕方ないとおもうんですがねぇ……。そして少し考える。
記憶媒体ってHDDとかSSIDのことですよね?
形に拘らなければ個人情報とかも色々あるし、需要は多い気がする。
斉藤さんじゃないけれど、自分に何かあった時はPCお風呂に付けてくれって頼んだことのある人は、そこそこのお値段で買ってくれるかもしれない。
「もし本人が無事じゃった時には元に戻す機能も付いておる! これはサービスじゃ!」
あ、やっぱ博士って凄いんだ。
「…………この見た目に目をつむれば、良い発明っぽいですね」
「そう? 微妙じゃない? ていうか、ダイヤは!?」
おや、妹はダイヤにしか興味ないのかね……? しかし、これを求める汚れた大人には気をつけてほしい。
そんなことを考え、ふと装置に目をやると、なんか先の方からきらきらした角みたいなの出して、突っつきそうな態度を見せている。
いや、え、もしかして、もしかする!?
「一応、ダイヤは内部につかっとるんじゃ。一時期、内装との両立に凝ってたのじゃ! それこそ友人に粋とは何かを語られてのぉ、影響受けてしもうた!」
あっれ、あのキラキラしたものって、もしかしてダイヤのツノ!?
あれで突っつくの?
たとえば間違えてデータ消しちゃっても、ご主人様をなんとかしてしまう的なもの!?
この生物、先走らないですよね!?
「そこでの、儂は機能を持たせつつ粋な発明を両立するために……試行錯誤を重ねたのじゃ!」
言いながら博士は生物へと近づく。博士が視線を合わせた瞬間、奴はすっとツノを隠した。見間違いじゃないよね?
「での、友人の熱い情熱をもった要望で、仕方なく取り入れたのじゃが……本人認証は口づけになった」
博士がぽんっ、と装置をおさえる。すると形の良い唇が生えてきた!?
そして、悍ましいその装置はにっこりと微笑む。
それは、左口角が持ち上がった少し癖のある、つつましくも儚い微笑であり、ダイヤの歯並びがキラキラと輝いて見えた!
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