博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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「ねえ博士、もう作っちゃったの?」

 妹が青ざめたまま、それでもいろいろ装った感じで聞いた。
 うまい! 私はまだ立ち直れていないというのに……。
 しばし待ってて妹よ。もうちょっとで私のパニック終わるから!
 妹に問われた博士は首を横に振る。

「いや、まだじゃよ。いもっちゃん。いまは設計図とテスト機構をいくつか作っただけじゃ!」

 よ、よし、この段階であれば大丈夫。まだ自動追尾機能は未実装……。

『取りあえず、DNAを判定して対象を追跡するアルゴリズムは完璧だよ! 前の資料が役に立ったぜ!』
「うむ! 昔の焼き直しではアレなんで、ちょびっと凝った部分もあるぞ! 他で生きるなら問題ないの!」
「うえっ!? なんでそんなもん真っ先に作ってるの!?」
「ん? 元々ある機構じゃからの! それに間違って他人につけたら似合わんじゃろ?」

 うっわ、もうもう! そういうところですよ!?
 博士たちは最もいらない配慮と凝り性が発動し、最も付けてほしくなかった部分を率先して作ったらしい!?

「あーもうもう……」

 博士たちといい、斉藤さんたちといい、なんで人をナチュラルに困らせるんだろう!?
 しかもこの人たちってば、善意や希望や努力、さらには向上心やハイテンションなど、正の感情が重なると、その実力がものすっっっごく高まり、潜在能力までも存分に発揮することで、天災レベルに達してしまう!!

 ていうか、なんで私の周りには、そういったヒトが多いのだろうか!?

『博士の大脳と小脳にアプローチする機構、画期的だよな!』
「うむ! あれだけ負担なしにできるとはの!」

 っ!? えと、小脳って?
 運動とかの重要な感じの場所じゃありませんかね!?
 なんでヤバいものをさらにヤバくするんですか!?

「どうせなら、運動を記録させた方が負担が減るのじゃ! さすがに飛べんがな!」
『あの造詣で、飛べるようにできなるのかな?』
「うーむ、重力に干渉できればのお……しかし、それをヒトでするとなれば……脳がぱーんってなるかもじゃぞ?」

 あの、人の脳をぱーんとか、やめていただけません?
 本人目の前にいるんですが!?

『うわー悩むなぁ……うーむ……シミュレーションではどうだったんだい?』

 悩むなあああああぁぁぁ!!!
 人のあたまを風船みたく扱わないでっっっ!!

「研究縛りと言っとるじゃろう!?」
『おー、じゃあ組み込むのは、最後かなぁ?』

 組み込むこと前庭で話すんじゃなああああああい!!!
 誰の頭だと思ってるんですか!?
 ご自分でつけてから……って、あー、もうもうもうもう!!
 通じない人だったねえ!!!

「いや、さすがに今回は無しじゃよ。アタッチメントの余地は残すがの!」
『そうだね! 麗しのお二人が、気に入ってからだ!!』

 今の会話、すべて全部まるっと聞いてるんですが!!?
 てか、気に入ると思っているのがすごいですね!!

「あーそのー……。」 

 私は言葉を荒げないよう何とか気を抑えつつ、言葉を探す。
 しかし、先に切り込んだのは、妹だった。

「本当もう、すっごい迷惑!!! いいかげん、やめてくれない!!?」

 妹の憤りに、博士と白カラスさんはほぼ同じように首を傾げる。

「いもっちゃん、何が迷惑なんじゃ?」
『どうしたんだい、麗しの妹ちゃん。僕たちは君をドレスアップしようと言っているんだぜ?』

 ドレスアップて……そういうのって、勘違いした方があっち方向に頑張ると、たいてい残念なことになるのだぞ!
 てか、脳がぱーんってなったら、ブラッディドレスアップなんですよ!?
 鏡すら見れなくなるんですよ!!?

 本当……なぜ解らないんですか!!?
 迷惑です!!
 そう本当に、迷惑なんです!!! ああああー!! 

 そこで気が付く。そうか、私、本気で怒らないと通じないのかな?
 たぶん博士たちは、テンション上がり過ぎで解らないんだろうなぁ……。
 ああー………………妹みてるし、あんまりやりたくないんだよなぁ……でも、むうー、むむー。
 ちらっと妹を見る。めずらしく青ざめているなぁ……たまには私の前でそんな顔すればいいのに……。
 でも、うん……よし。

「ふぅ……」

 私は大きく息を吐いた。目を閉じる。

「……?」

 妹がこっちを見た気がするが、それは考えない。

 私は今までの怒りに加え、今回の件とは別の件……。
 今まで経験した中でもたまに夢に見てしまう程の、存在をすべて壊して、りつぶしたいと思う、湧き立つようないきどおりの事象を脳裏で反芻はんすうし、その黒くきもちわるい感情をお腹へと沈める。

 薄く目を開き、自分でも驚くほどの冷たい目を博士と白カラスさん(その先のご友人)へ向け、少し声を低くして言葉に出した。

「いいかげんにしてください」

 言葉と同時に、いつもよりも気迫を込めて博士の瞳を視線でとらえる。

「な、なんじゃひみっちゃん……?」
『どうしたんだい? 麗しの君?』

 急に雰囲気を変えた私に、博士と白カラスさんがびくりと震えた。

「私たちは、『その発明品が、私たちにとって迷惑だから作るな』……と言っています。そのこと、理解できてますか!?」
「ぅ……その、通りよ」

 何故か妹のトーンが引き気味になっているのが気になったが、私は博士のうろつき始めた両の眼をしっかと追って逃がさない。
 私が増幅させた憤りと気迫を真正面から受け、博士たちは戸惑っている。

「いや、あの、まださわりしか作っておらんし、儂の納得した出来まで達しておらぬから……」
『そうだぜ、僕たちはまだまだこんなもんじゃない!』

 ああ、そういった言い訳・熱血は不要です。

「お二人とも、そんなことは聞いていません。私たちは自分の言葉を聞かない方の事情を、考慮しません」
「ひ、ひみっちゃん……」

 私がきっと睨むと博士はさらにひるんだ。白カラスさんもおぞ気が立ったように見える。
 二人とも怒られても目をそらさないから、ちょっと好感が持てるんだよなぁ。

「これは、私たちにとって不利益なものです。いますぐ、未完成品と設計図を出してください。全力で破棄します」

 博士と白カラスさんはしばらくわたわたとしているが、もう一度睨みつけると、再びびくりとして首を垂れた。

「……はい、わかりました、ぞ」
『……わかった、よ』

 私の威力威圧が功を奏し、小さく頷いた博士はのろのろと研究所まで赴き、作りかけの機械を持ってきた。

 それは天使の翼といった白く塗られた骨組みであり、取り付け部分であろう根っこにはドリルらしき、先が丸められた部品があって、何だかぼんやりと緑の光を発している。

 もう一つは悪魔の6枚羽……というよりは堕天使の翼といった感じの黒い翼の骨組みは、少し尖った爪がついた形をしていて、それぞれが一つの中心部へ集結して、取り付け部分らしき根っこは天使の翼よりも少し太くなっていた。

 しかし、一週間弱でここまで作るって……何者なんですかね?
 博士たちって……もしかして今日も寝不足かな?
 あーうー、ダメダメ、せっかく増幅した怒りが消えてしまうじゃないか!
 何とか雰囲気を保ちつつ、私はポケットからハンマーを取り出した。

「それでは処分します」

 言って天高く振りかぶる。
 それは、大脳に侵入して運動神経構造を新たに埋め込み、小脳までも少しいじってしまうであろう機能を持たせた私の悪夢。もしかしたら、頭がぱーんってなるかもしれない、悍ましい何か。
 それは、マッドと呼んでも差し支えない博士とご友人がインスピレーションのみで手がけた、作りかけのお洒落の押し付け。

 その、悪夢の装置へ向け、私は力強くハンマーを振りおろし、叩いて、叩いて、打ちつけて、打ち下ろし、完膚なきまでに叩き壊した。

「ふう……はい」

 肩で息をしつつ、私専用の天使の翼を完膚なきまでに破壊して、そのハンマーを妹へと渡す。

「ありがと」

 妹は、自分の趣味が合うらしき、悪魔の6枚羽、いや堕天使の翼っぽい骨組みを、ちょっとだけ惜しそうに見つめてから、なぜ持ってきたのか? ポケットからガムテープを取り出し、巻きつけ、先んじて破片が飛び散らないようにして叩きはじめた。
 ああ、これって妹がちまたうわさになっている、気遣いちゃんって奴か?
 親友ちゃんが言ってたね。

「のおおおお……ひみっちゃんといもっちゃんの新たな姿がぁぁぁぁ!!」
『うう……あああああ、僕、今回はすっごい出来になりそうな、予感があったのにいい!!』

 博士がうずくまって、壊されていく姿を嘆いている。
 まったく、博士ってば何言ってるんだろうね、本当に。この転がる姿をみていると、やはり申し訳なくなってしまうのだよな。

 ああそうだ。私、発明品壊したから、もう冷静になっていますよ!
 だから大丈夫です。ただ発明品壊すとき、ちょびーっと手元が狂って、変な所叩いちゃって……何やらいやーな音がしたってのは、博士は気がついて無いから、ひみつですからね! ぜったい!
 私は内心を覆い隠すように、諭す言葉を投げかける。

「すいませんね、私たちは人の楽しみよりも自分を優先する人なんです……」
「いやいや、人を楽しみで改造する方がヤバいと思うんだけど!?」

 うん、確かにね。ただ、頷くだけで同意を示し、私は言った。

「で、設計図はどこですか?」
「うう……331と332じゃ」
「はい」

 あれ……前のからちょっと進んでませんかね?
 まあ、最新がこの数値ってことかな? 少し思案顔で私は設計図の棚へを丹念に調べ、331と332の設計図を持ってきて、目を通す。

「うわ、なんでこんな気遣いは入れてるの?」
「なになに?」
「これみてごらんよ」

 天使の翼には、皮膚を傷をつけないようなメモ書きがある。

「え、大脳増設……てか、なんでこんなことする必要あるの?」

 妹にいわれて読み進めてみると、頭蓋骨を内側からちょびっと削ってスペースを作り、『大脳皮質運動野の機能追加手順』という、ちょっと何言ってるかわからない書き込みがあって、目を見張った。
 ちなみに、悪魔の6枚羽、堕天使の翼にはなんか『大脳増設手順』なる書き込みが見えた気がするが、私は見ないふりをしたいと思うが、無理である。

「ぅぁ……どんびきだわ、あたし」
「私、もう何も言えない」

 呆然としつつも手は滑らかに動くらしい。その悪夢の設計図を、細かく、本当に頑張って小さく小さく破いて砕いて、暖炉へと叩き込む。
 さらに卓上ライターを借りて火をつけ、しっかりと丹念に繰り返し炎が巻き上がるようにして、それらが灰になるまでを見届けた。

「ふぅ…………火は、良いなぁ」
「本当、火は、素敵ねぇ」

 そして私たちは、自分の脳を改造してまで追究しつくしたお洒落装置を、見事に破壊したのであった。

「良いですかお二人とも、以後この発明品を研究・開発した場合、とても悲惨なことになります」

 別に何も考えてないけど、まあ想像していただくだけで良いでしょう。
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