博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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 設計図たちがしっかり灰になったことを確認して、一息つこうと私たちはソファーへと戻る。
 白カラスさんは定位置とばかり、私の肩へと止まった。そして、絶妙な力加減で私にダメージっぽい何かを与える。

 あの……カラスさん?
 そろそろ優しさを覚えてもいいんですよ?

 しかし、白カラスさんはダンディな表情のまま、無造作に胸を張るだけであった。ぐぅ……。

『うう……あうう……せっかく頑張ったのになぁ……』
「是非も無しじゃ。これも儂らのさだめじゃよ」
『そういうもんかなぁ?』 

 博士たちのやり取りをよそに、私はすっかり適温になった紅茶を楽しむ。
 うん、やっぱ水も茶葉も良い物である。ふわっと漂う上品な香りが鼻腔を撫ぜて、舌に現れた独特の渋みと甘味が儚くもすっと消えて行く。この一瞬を楽しむときこそ、紅茶を喫しているんでいるんだなぁ……としみじみ思ってしまうものだ。

「ねね、ちょっと疑問なんだけどさ」

 ふと、妹が博士に尋ねる。

「なんじゃ、いもっちゃん」

 博士はニコニコと妹を見た。

「そもそもさ、なんで脳をいじろうとしたの?」

 そこで博士は首をひねる。

「……なんで、とはどういう事じゃ?」
「だって、翼と関係ないじゃん! 耳はさぁ、聞こえるようにするためってわかるけどさ……」
「そりゃ、随意運動ずいいうんどうのためじゃよ」
「ずいい運動?」

 ある程度長く生きてくると雑学もつくもので、私は軽く聞き流している。
 でも妹は習ってないのかなぁ?
 ぼんやりと考えがよぎったが、今は紅茶に集中だな。てか、博士たちが説明するでしょ。
 そして、肩から友人さんが博士をたしなめる。

『博士、専門的な話は年ごろの子にゃわからんぜ』
「おや、そうかいの?」

 そこから、博士は軽く紅茶を傾けてのどを潤すと胸を張り、『随意運動の解説』を始めた。

「ええかの? 今回耳や翼もそうじゃが、からだを自分の意思で動かすことを随意運動というのじゃよ」
「へえ?」
「でな、随意運動をするためには、大脳皮質運動野という……」

 ちょっと、いや、かなり専門的な話が続いたので要約すると、翼を動かすためには脳のある部分に運動の核(神経核!?)が必要となり、それが『大脳皮質運動野』と言うらしい。

 そして今回、私たちの意思はまるっきり無視しているというのに、取り付けた翼を自分の意思で動かせるような工夫をするため、博士は脳に新たなる命令系統として『大脳皮質運動野』を増設しようとしていたのだ!

 えと、このヤバさ、解りますかねえ!?
 ひとの脳を勝手に増量って、しかもインスピレーションのみでやったんですよ!?
 てか、増やしてなんとかなるもんなんですか!?
 私、そういった分野に足踏みいれて大変な事になるって話、映画とか小説とかで見た気がしますよ!?

 文字にして読み返してみると良いんじゃないかな!?
 『博士は人にオシャレを押し付けるため、その人の脳をいじったり増やそうとしたりした!』本当、マッド極まる感じのあれでしょう!!
 あとですね、妹専用の6枚羽堕天使の翼は、複雑な動きになりすぎたということで、脳の全体容量を広げる感じで考えていたっていうし!!
 それでいけるの!?
 いや、行けたとしてもブレーキ踏んで!!
 踏み外したら堕ちていくだけの方向ですよ!!!

「あのさ……それって、失敗したら取り返しつかないじゃん」

 めずらしく妹が真っ青な顔をしている。こっそり録画したたろかな?

「別に問題なかろう?」
「問題ばっかでしょ!!」
『大丈夫だぜ! 理論は完璧さ!!』
「実践されたらミスが出るパターンじゃん!!」
「まあ、それはアフターケアで何とかするぞ!!」
「ヒトの身体ですよ!? 何ともならないでしょうが!!」
「んー……?? そうかのお?」

 うえぇ博士!? ピンと来てない感じ!?
 さっき上げたボルテージを、暴力に向けなきゃダメなのかな!?
 てか、話し合いは平行線にしか見えず、私は別の方向からのアプローチを行うことにする。

「あのですね、問題大ありです!! お洒落しゃれは自分の気分と状況に合わせてで選ぶものでしょうが!」
「およ!? そういうもんかの?」
「あっっったりまえよ!? てか、つけたら取れないじゃん!!」
「ふぅむ……乙女心はわからんのう」
『そういうのがわかったら良いのにな! 僕のワイフもたまにヤバいし』
「お主の場合、年中じゃろが」

 ご友人のプライベート、ちょびっと聞いてみたいが今は駄目だ。とここで、私は博士の格好に注目する。

「あれ? というか博士いつもその格好ですね?」

 そういえば博士はいつも白衣だったなぁ。しわはあるみたいだが、汚れが目立つということはない。おそらくだが、同じものを何着かお持ちなのだと思う。
 ただ、オシャレには縁が薄いんじゃないだろうか?

「もしかして、博士は服にこだわりはないんじゃないですか?」
「んー? いや、そうでもないぞ? この白衣は使い勝手が良いからの! 同じものを何着か用意しとる。有名ブランドじゃぞ!」

 おや、そうなんだ?
 こだわりは着心地なのかな?
 しかし白衣にブランド?
 どんなブランドがあるのだろうか?

「ねえ、博士のこだわりって何なの?」
「なによりも丈夫なことじゃ! こいつは燃えんし、溶けん! 爆発にも耐えるぞ! 実体験ありじゃ!」
「うっわ、それ頻繁ひんぱんに燃したり溶かしたりしてるってこと?」
「しかも、日々爆風にさらしてるんですね?」

 私たちの言葉に博士は少し嫌そうな表情を浮かべた。

「日々ではないわ! せいぜい、週に一度くらいじゃ!」

 それは、『頻繁に』の部類に入ると思うんですが?
 というか、そんなもののブランドっていくつも存在するんですかね!?
 有名ってか、唯一無二って感じじゃないですか?

 私たちの驚きにはまるで気付かない様子の博士は、優雅ゆうがにティーカップを傾け、軽く息を吐いてから私たちを見た。

「ふぅ……しかし、お洒落にかける情熱と心意気はわかったぞ。今後の参考にさせてもらうわ」
「え、そう、ですか?」
「うむ。それに、いつもは完成したもんを見てもらっとるが、今回のは途中経過で壊れたからの。なかなか新鮮じゃ!」
『たしかにな! 僕も目が覚めたぜ! 開発中でもユーザー意見に目を向けろってが分かったよ!』

 絶対嘘だ。『そもそも作るな!』という意見には目をつぶっているじゃないか!

「よし、今回は不完全燃焼じゃからのぉ……フィードバックをしてみるぞい! ひみっちゃん、いもっちゃん、問題点を教えてくれんか?」

 相変わらず、へこたれないなぁ……私は考える。
 『作らないで!』は通らなかった。しかし、暴走を何とか止める手立て、うーむむ、いや、考えても駄目か……。
 そこでひらめく。とにかくNGをいっぱい言って作る気力を無くすって方向はどうかな?
 たしか、知人がそんな感じで愚痴ぐちっていた、頓挫とんざしてしまった計画にはいくつか覚えがある。私は顔を上げた。

「まず、脳の改造はNGです」
『オーライ、そこはもう把握したぜ』
「うむ。そういったことは無いようにするぞ! それ以外で、問題点を教えとくれ」

 いま『なるべく』って言った!?
 どうしよう、それ以上の問題を伝える意味があるのだろうか?
 もう一回怒りを表す必要があるんじゃないかな?
 いや、なんで私の方がいきなし心を折られそうになってるの!?

「……じゃあさぁ」

 私が面食らっていると妹が口を開く。なんか瞳の光が消えているから、聞こえなかったことにしたんじゃないかな?

「うん、背中に翼あったら服とか限られるでしょう? そこ、どうすんのよ!?」
「む? いもっちゃんは古い絵画はしらんか?」
「えー?」
「古典に天使画は結構出てくるじゃろ? あの着こなしを参考にしてはどうかの?」
「どんなのよ? てか、いつの時代の話!?」
「美術の教科書もっとらんのか? 儂はあれにぐっと来るもんが多かったぞ!」

 ああ、美術ですか……印象派とか写実主義とかさまざまな分類がある感じのあれですね?
 というか、ああいうのに出てくる天使ってふわっふわした感じの服とか、露出多めなの知ってます!?
 てか、全裸的なものも見受けますよ!?

「んーとさ、えーっと……」

 妹が思い悩んでいる。伝えたいことが伝わってない感じの戸惑いをみせている。

「じゃあさ、博士はあたしが今持ってる服、全部捨てろっての?」
「む……それもそうか、ふむ……じゃあ穴開けてみるのはどうじゃ?」
「なんでよ!? そんな面倒しなきゃなんダメって大問題でしょ!!」
「おお、なるほど! ……確かに、そうじゃのう……。これは、うむ、盲点じゃったの……」
『そ、そうだったな!? 僕は大抵全裸だから問題ないが、外に出る時のシャツが切れなくなるのは問題だな!』
「……ほかにもですよ」

 いらない情報を記憶から消去しつつ、私たちはこっち方面からの問題点を挙げていった。
 妹も完全にスルーしている様子でたられば話をしている。
 発明を消去しているから、少し安堵しているのだとは思う。

 しかし、そもそも頭にネコ耳いらないし、背中に翼は必要ない。
 そこがまるで伝わらないのは何故だろう?
 てか何度言ったのだ?
 それでも聞かないんだっけ?
 どうすれば良いのだろう!?
 言い方かな?

「服の繊維を抜けるようにするのは……むう、ちょっと厳しいのお……やろうと思えば……。むう、脳と心臓にも負荷がかかって良ければ……」
『おお! そうだ博士! 例の技術を使ったらどうだい?』
「あれか? あれは……たしかテストできんから休止中じゃったぞ……むむむ」
『何言ってんだ、博士が倫理りんりなんてもんにしばられてるじゃないか!』
「いや、しかし……ふむ……むう、検討の余地が、あるんかのぉ?」

 なんだろう、嫌なことを流そうとしていた態度で、聞き流し続ければ、どんどん危ない方向へと行ってません?

「博士! 検討しないで!!」
「つくったら許しませんよ? ほとんど残ってない倫理感は大切にしてください!」

 勢い込んでい言う私たちに、白カラスさんはびっくりして飛び上がった。

「あと、脳とかへの影響があるのは駄目ですからね! 駄目なんですよ!! 理解してください!!」
「わかっとる。もう作らんから安心せい」

 息を吐いた博士であったが、ご友人は駄目そうである。

『ふむ……それじゃ博士、ICチップ埋め込み方式はなんで駄目なんだい?』

 ……それって一昔前のSF小説にあった、行動とかを支配者が自由にする洗脳ための、なんたらじゃない!?
 舌の根も乾かないうちに!
 この人、発想が飛び抜けて怖い!
 そろそろご友人を黙らせなきゃかな?

「しかしの、お主、言わんかったか? あれは対象への影響が大きすぎるじゃろ?」
『だからといって、大脳増設は面倒だろう!?』
「何とかできそうなもんを、やらない選択は無いぞ? 儂はひみっちゃんやいもっちゃんを傷つけたくはないのじゃ」

 大脳増設とかしている時点で、どの口がそれを言うのだろうか!?

「あの、脳になんかするって話を聞いた時点で、私たちの心は傷ついてます。確認ですが、もう二度と作らないんですよね?」
「うむ! あくまで、たらればの話じゃ! 問題点を把握しておけば、別のもんを作るときに生きるじゃろ?」
『そうだよ。PDVAだぜ、麗しの君!』
「PDCAでしょ!? 計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Act)でしたよね? Vって何ですか?」
『Vは勝利のVに決まってるじゃないか!』

 ああ! もうもう!! ご友人!
 いいかげん私、物理的な行動にでますわよ!?
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