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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)
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「…………えーっと、博士」
絶句とは、こういう事なのかもしれない。
博士が作ろうとしている頭に乗せるアクセサリーは、『常温超電導』という夢の技術をふんだんに使った、鉄板に穴をあけるほどの回転を引き起こす天使の輪である。
先ほどまでちょびっとだけ、金で出来ているかもしれない! と、甘くみていた自分を叱り飛ばしたい。
今、私はひどい表情をしているだろうな。
「あの……なんで回転するんですか?」
「これは構造上、仕方のないことなのじゃ! 頭部の生体磁気は不安定での……」
そして博士は、ヒトから出ている生体磁気の、独自理論によるトンデモ特性を力説してくれた。
「ええかひみっちゃん、頭部の時期は脳波の影響を受けて不安定じゃ! そしての……」
えーっと、頭の生体磁気はとっても不安定らしい。博士の言葉を要約すると思考によってN極とS極が、もうこれでもかっていうほど切り替わる。
下手すると斥力が働きすぎ、輪っかがどこかへ飛んで行ってしまうほどに!
そのため、博士は天使の輪の再現性をこれでもかとこだわりたかったらしい。
博士のイメージでは、私の頭上で淡い光と共に、荘厳を醸して浮かぶものだった。
「今回、結構苦労したぞ!」
とても気軽にニコニコと語る博士の頑張りは、異常である!
なんかもうこれでもかというくらい、生活を削って突き詰めていたのだ!
あの……この発明品って、私にとってはとても迷惑な品ですよ!?
てか私、これに対する結末は決めているんです……。
だからね、その……幻覚見る感じの頑張り具合とかをですね!
……実感つきで言葉にするのはやめて頂きたいんです!!
「博士? 寝ないとだめよ? あたしだって、眠れないと一日が駄目になるもん!」
「うむ。いもっちゃん、儂もそう思う……」
妹の思いやりに、博士は哀愁を漂わせて答える。
「しかしのぉ、科学者にとってのうまく行かんは、目的へのガソリンじゃよ?」
「…………ほほう?」
「特に、なにやってもダメな時ほど、試したいアイデアが出てきてのぉ……」
そんな考えができるひと、私はあまり知らない。同時に、おもわず心配になってしまった。
「……その、ごはんも欲しくないとか、やりすぎですよ!? えと、しっかり食べてくださいよ!」
『食べれない、眠れないって、僕もたまにあるよ……。でもさ、博士のは段違いがすぎるぜ!』
「おや、ご友人は眠れないとかがあるんですか?」
『いやぁ、僕はあまり食べれなくなるのさ』
おや、ご友人も不健康っぽいのか……私はちょっと意外に思う。
「お主の場合、食事にナニ盛られとるか解らんからじゃろ?」
……ご友人は奥さんはじめ他の方々にも、何をやらかしたんだろ?
『ちょ、博士!? 今、僕はそんな話してないぜ!? 集中しすぎて食欲不振になっちゃう話だろう!』
「そうか? まあ、気遣いは受け取っとくがのぉ……」
「……博士も、その、ご友人も、えっと頼むからご自愛をお願いします!」
「そうよ? 体壊したら元も子もないじゃん!」
『ありがとう、気を付けるぜ』
「ありがとな、ひみっちゃん、いもっちゃんも。儂も、まあ気を付けるわ」
そんなわけで、博士は異常なほどに頑張って、夢を見ながら手は動かす感じの状態を続け、なんとか『ひな形』まではできているらしい。
……その積み重ねは、深々と刻まれた目元の隈に現れている。
「まあ、そんなことを繰り返した結果、回転こそが最も安定することにたどり着いたのじゃ!」
結局、生体磁気の推移を回転力に変換することで、博士は理想を実現させ。
あと博士は豆知識的に語ったが、どうやらこの生体磁気の変化って、感情に連動しているようである。
なんですかね?
決意とか前向きな事を考えた場合、N極とS極の移り変わりが多くなって、とても回転が激しくなり、放つ光もすごくなる。
逆にネガティブな感情が多いと逆に回転は弱まり、光も黒っぽくならしい……。
なんでわざわざそうしたの?
だったら私はどうなんだろうね?
ちょっと気になる……。
しかし! 磁気を調べるためには、ホチキス状のもので頭にパチン!
ってするみたいだし、絶対体に悪いはずだ!! いらない!
ただ、オーラのあるって言われてそうな人で、そう、私たち以外で試すのなら、ちょっとおもしろいかもとは思ってしまうのも人のサガであろうか?
特に斉藤さんが着けたら回転凄くて面白そう!! あのヒトたちなら、きっと飛べる!
「そんでの、理論を実現するためにも、中々苦労したぞ!」
博士はホワイトボードを持ち出し……何度目かになるのか、回転に変換する力だとか、可動子?
トルク? Fとかみゅーとか、懐かしくもトラウマに近いπだとか、えと、えっともはや記憶から消去したくなるような計算式のオンパレードで語り尽くして頂きました!
どうやってるのか、ちょっともう異次元の感じで数式が並び、妹ですら頭抱えた感じの羅列につぐ羅列!
何たらエネルギー効率?
えと、なんというか、その磁力を維持する電気がどうとか、そこまでに及ぶ、なんというの!?
なんなの!? もうもう!
私は現実逃避の為に、別のことを考えたかった……。だが、この発明へ困惑が、ネガティブを呼び寄せる。
だってさ、鉄板に穴開けるくらい回転するんですよ!?
こんなん付けてお辞儀したら、私の頭が人を傷つけるんじゃない!?
いやいや、自分で考えて戦慄した! これ、ありうるぞ!?
えと、この恐ろしさがわかりますかね?
・
・
・
例えば、私の出先での話だ。
そこそこ決めた感じで現れた私、ただし頭にはサンサンと輝く天使の輪がある。
そして、その頭にある物体を直視し、ちょっと引き気味でも、しかし、いつものことだと付き合ってくれる方々の視線の痛さよ……。
「おはよう」
引きつり笑いで礼をつくした私のシュールさ。
どんびきでも、何故か近寄ってくる偉い人に、私は丁寧にお辞儀するのだ。
そして、繰り広げられるB級ホラーとC級逮捕劇!!
・
・
・
自分の頭で作り出した恐怖の想像のせいで、今回は聞いたふりが出来ないでいた……。
「つまり、儂の研究技術の集大成なのじゃ!!」
「……なるほど」
計算多くてさっぱりですとは言葉にださずに内心で頭を抱えている。なぜ博士は、ここまで頑張って不要なものを付けようとするんだろう?
「あー、そのー博士……」
「どうしたんじゃ? ひみっちゃん」
「えーと、えーっと、その、確認するべき点が……いくつかありますが……」
「なんでもええぞ! 気軽に聞いとくれ」
説明しきったあの満面の笑み、こういう無邪気な表情というものを、ほほえましく見る人と、おぞましく見る人で、人生を歩く向きが知れるのだと思う。
え、私? そんな当然のこと、明言しません!
「質問の前にですね、ちょっと、紅茶をおかわりしていいです?」
「おお、もうカラじゃったか!? 儂が淹れようかの!」
「だめです! 飛び散りますから! ……ねえ、悪いけど」
以前のトラブルを思い出し、私が勢い込んで博士を止めると、妹が立ち上がってくれた。
「あたしが淹れる! 博士は座ってて!」
「お、おう……すまんの、いもっちゃん」
茶器へ行く前、妹が訝しんで聞いてくる。
「ねね、どうしたの急に?」
「うん、少し、考えたいんだよ。うん、考えなきゃ……」
「何を考えるのよ?」
「色々とね……」
しばし、私の目を見ていた妹は、何かを察して紅茶の用意をしてくれた。
**―――――
紅茶のおかわりを頂き、熱々の湯気に少し眉をしかめ、漂ってくる香りだけ楽しみつつ、私は考える。
椅子に座って膝を閉じ、わきを締めて鼠径部に手を置く、ちょびっと行儀の良い姿勢が私の考え方だ。視線はあさってに飛んでいるがね。
この姿勢をみた妹からは、何ぼんやりしているの?
と言われるのだが、聞こえないやい! と遠くへ押しやり、しっかり、ちゃんと、考える。
それは発明品の処分についてだ。
まず、しっぽである。あの手触りが良いウサしっぽはおしいと思う。が、手触りだけで神経に触る感じなので当然処分である。
これらはまあ、問答無用で叩いても壊せると思うのだ。
ただ、ツノと天使の輪に関しては悩む。
まず「妹のツノ」、その根幹にある『ナノマシン』である!
この分野で完成された品ってさ、現代でも研究が進み、医療から軍事まで、あらゆる分野から渇望されている夢の技術じゃないですかね!?
さらにである! 「私の天使の輪」、これってさ『常温超伝導』ですわよ!?
私を飾ろうとする、意味の解らない目的に目をつむれば、これまた、人類の電力をはじめとした、あらゆる科学市場に至極大きな一歩を踏み出させる、絶大な技術じゃないか!?
これがどんなものになるかは、はっきりいって素人考えしかできない。私個人の認識では、電気代がすっごくお得! 程度である。
もしかしたら、乾電池で車とか動かせたりしないかな?
無理ですかね!?
まあ、そこら辺を考えるのはもっと頭の良い方々のお仕事だ。
……思考が明後日に飛んでしまった。
結局のところ、『私ってばこれを壊してしまっても良いの!?』という一点を、思い悩んでいるのだ。
うーむむむ、なにも知らなければね、もうちょこっと突っ込みどころを探して、納得できたうえで壊……あれ!?
いやいや、結論ありきで考えちゃダメだな、しかし、うーむむむむむむ……。
んー!? あれ?
もしかしたら、誤解されているかもしれないんですが……私って、博士が見せてくれたものを壊すとき、一応、悩んでいるんですよ!?
博士が体を酷使し、幻覚を見るほどに頑張り続けたたうえで作ったという部分をね、しっかりちゃんと理解しているんです!
……でも! でもでも!! でもでもでも!!!
あーもうもう! なんで、こんなとんでもない物を私に見せたんだろう!?
超技術であり、調べたら出てくる有用さの数々ってのが、私の行動を止めようとする……。
そんな、私の苦悩をつゆ知らず、悩みの種が私を慮ってくれた。
「どうしたんじゃ、ひみっちゃん? 何かあったんか?」
「んー、何か考えてるみたい」
「前も思ったが、姿勢よく悩むんじゃな?」
『博士、どんな格好なんだい?』
「手をついて背筋伸ばして、一点見とる感じじゃよ。ピシッとしとるの?」
「あー、最近の流行りみたい。あれ、実はどこも見てないのよねー」
『おお、それは見てみたいぜ! この子に見れる技術を付けてくれよ!』
「そうすると、お主の部屋も見られるようになるぞ? 裸族のお主をひみっちゃんやいもっちゃんに見せるわけにはいかんの」
『酷いなぁ! ちゃんと勝負パンツは履いてるぜ!』
「ちゃんとの意味が違う!? 服着てよ!!」
何言ってるんだろうね? あー外野がうるさいなぁもう!
そうだ、妹にも、意見を聞こうか……?
うん……。私は首だけ妹に向けて、疑問を口にする。
「ちょっといいかな?」
「んわっ!? なに?」
引き気味の妹に、私は問う。
「『世界の希望』と『自分の人生』、天秤かけたらどっちに傾く?」
「自分の人生」
おおっ!? 即答だ!
妹よ、私の悩みもぶった切りか!?
「なによ、どうしたの?」
「うん、いや、そうだね。うん。私もそうなのだよ。……うん」
「んー??」
「ひみっちゃん、どうしたんじゃ?」
「いえー、情報が足りなくて……考えがまとまらなかったんです」
「おお! そうか! 何でもええぞ!! 聞いとくれ!」
『よーし、博士の補足は僕がするぜ!』
何やら現実逃避をしたくなる年ごろだった私は、妹の言葉によって、ようやく自分を取り戻した。決断した。
そして、最後に聞くべきことを、少しだけ重たい口調で問う。
「えっと、これなんですけど……? 回転中に触れたらどうなります?」
「なっ!? 危ないから触っちゃダメじゃ!!」
『人の骨は鉄より脆いぜ! 麗しの君!!』
「ええ……」
どん引きした妹の肩を叩いてから、私たちは発明たちをよくよく見てから息を吐いた。
「ふぅ……」
そして、言葉を続ける。
「わかりました。あと、これにも自動追尾機能はつけてるんですね!?」
「もちろんじゃ! 間違って他の人に着けたら大変じゃろ!」
その言葉で、私は大きく頷いた。
「うん。博士、よーく、わかりましたよ!」
私が立ち上がったのを見て、妹もそれにならう。
「……そうね。あたし、これら全部がどんなものか、再認識したわ……うん」
絶句とは、こういう事なのかもしれない。
博士が作ろうとしている頭に乗せるアクセサリーは、『常温超電導』という夢の技術をふんだんに使った、鉄板に穴をあけるほどの回転を引き起こす天使の輪である。
先ほどまでちょびっとだけ、金で出来ているかもしれない! と、甘くみていた自分を叱り飛ばしたい。
今、私はひどい表情をしているだろうな。
「あの……なんで回転するんですか?」
「これは構造上、仕方のないことなのじゃ! 頭部の生体磁気は不安定での……」
そして博士は、ヒトから出ている生体磁気の、独自理論によるトンデモ特性を力説してくれた。
「ええかひみっちゃん、頭部の時期は脳波の影響を受けて不安定じゃ! そしての……」
えーっと、頭の生体磁気はとっても不安定らしい。博士の言葉を要約すると思考によってN極とS極が、もうこれでもかっていうほど切り替わる。
下手すると斥力が働きすぎ、輪っかがどこかへ飛んで行ってしまうほどに!
そのため、博士は天使の輪の再現性をこれでもかとこだわりたかったらしい。
博士のイメージでは、私の頭上で淡い光と共に、荘厳を醸して浮かぶものだった。
「今回、結構苦労したぞ!」
とても気軽にニコニコと語る博士の頑張りは、異常である!
なんかもうこれでもかというくらい、生活を削って突き詰めていたのだ!
あの……この発明品って、私にとってはとても迷惑な品ですよ!?
てか私、これに対する結末は決めているんです……。
だからね、その……幻覚見る感じの頑張り具合とかをですね!
……実感つきで言葉にするのはやめて頂きたいんです!!
「博士? 寝ないとだめよ? あたしだって、眠れないと一日が駄目になるもん!」
「うむ。いもっちゃん、儂もそう思う……」
妹の思いやりに、博士は哀愁を漂わせて答える。
「しかしのぉ、科学者にとってのうまく行かんは、目的へのガソリンじゃよ?」
「…………ほほう?」
「特に、なにやってもダメな時ほど、試したいアイデアが出てきてのぉ……」
そんな考えができるひと、私はあまり知らない。同時に、おもわず心配になってしまった。
「……その、ごはんも欲しくないとか、やりすぎですよ!? えと、しっかり食べてくださいよ!」
『食べれない、眠れないって、僕もたまにあるよ……。でもさ、博士のは段違いがすぎるぜ!』
「おや、ご友人は眠れないとかがあるんですか?」
『いやぁ、僕はあまり食べれなくなるのさ』
おや、ご友人も不健康っぽいのか……私はちょっと意外に思う。
「お主の場合、食事にナニ盛られとるか解らんからじゃろ?」
……ご友人は奥さんはじめ他の方々にも、何をやらかしたんだろ?
『ちょ、博士!? 今、僕はそんな話してないぜ!? 集中しすぎて食欲不振になっちゃう話だろう!』
「そうか? まあ、気遣いは受け取っとくがのぉ……」
「……博士も、その、ご友人も、えっと頼むからご自愛をお願いします!」
「そうよ? 体壊したら元も子もないじゃん!」
『ありがとう、気を付けるぜ』
「ありがとな、ひみっちゃん、いもっちゃんも。儂も、まあ気を付けるわ」
そんなわけで、博士は異常なほどに頑張って、夢を見ながら手は動かす感じの状態を続け、なんとか『ひな形』まではできているらしい。
……その積み重ねは、深々と刻まれた目元の隈に現れている。
「まあ、そんなことを繰り返した結果、回転こそが最も安定することにたどり着いたのじゃ!」
結局、生体磁気の推移を回転力に変換することで、博士は理想を実現させ。
あと博士は豆知識的に語ったが、どうやらこの生体磁気の変化って、感情に連動しているようである。
なんですかね?
決意とか前向きな事を考えた場合、N極とS極の移り変わりが多くなって、とても回転が激しくなり、放つ光もすごくなる。
逆にネガティブな感情が多いと逆に回転は弱まり、光も黒っぽくならしい……。
なんでわざわざそうしたの?
だったら私はどうなんだろうね?
ちょっと気になる……。
しかし! 磁気を調べるためには、ホチキス状のもので頭にパチン!
ってするみたいだし、絶対体に悪いはずだ!! いらない!
ただ、オーラのあるって言われてそうな人で、そう、私たち以外で試すのなら、ちょっとおもしろいかもとは思ってしまうのも人のサガであろうか?
特に斉藤さんが着けたら回転凄くて面白そう!! あのヒトたちなら、きっと飛べる!
「そんでの、理論を実現するためにも、中々苦労したぞ!」
博士はホワイトボードを持ち出し……何度目かになるのか、回転に変換する力だとか、可動子?
トルク? Fとかみゅーとか、懐かしくもトラウマに近いπだとか、えと、えっともはや記憶から消去したくなるような計算式のオンパレードで語り尽くして頂きました!
どうやってるのか、ちょっともう異次元の感じで数式が並び、妹ですら頭抱えた感じの羅列につぐ羅列!
何たらエネルギー効率?
えと、なんというか、その磁力を維持する電気がどうとか、そこまでに及ぶ、なんというの!?
なんなの!? もうもう!
私は現実逃避の為に、別のことを考えたかった……。だが、この発明へ困惑が、ネガティブを呼び寄せる。
だってさ、鉄板に穴開けるくらい回転するんですよ!?
こんなん付けてお辞儀したら、私の頭が人を傷つけるんじゃない!?
いやいや、自分で考えて戦慄した! これ、ありうるぞ!?
えと、この恐ろしさがわかりますかね?
・
・
・
例えば、私の出先での話だ。
そこそこ決めた感じで現れた私、ただし頭にはサンサンと輝く天使の輪がある。
そして、その頭にある物体を直視し、ちょっと引き気味でも、しかし、いつものことだと付き合ってくれる方々の視線の痛さよ……。
「おはよう」
引きつり笑いで礼をつくした私のシュールさ。
どんびきでも、何故か近寄ってくる偉い人に、私は丁寧にお辞儀するのだ。
そして、繰り広げられるB級ホラーとC級逮捕劇!!
・
・
・
自分の頭で作り出した恐怖の想像のせいで、今回は聞いたふりが出来ないでいた……。
「つまり、儂の研究技術の集大成なのじゃ!!」
「……なるほど」
計算多くてさっぱりですとは言葉にださずに内心で頭を抱えている。なぜ博士は、ここまで頑張って不要なものを付けようとするんだろう?
「あー、そのー博士……」
「どうしたんじゃ? ひみっちゃん」
「えーと、えーっと、その、確認するべき点が……いくつかありますが……」
「なんでもええぞ! 気軽に聞いとくれ」
説明しきったあの満面の笑み、こういう無邪気な表情というものを、ほほえましく見る人と、おぞましく見る人で、人生を歩く向きが知れるのだと思う。
え、私? そんな当然のこと、明言しません!
「質問の前にですね、ちょっと、紅茶をおかわりしていいです?」
「おお、もうカラじゃったか!? 儂が淹れようかの!」
「だめです! 飛び散りますから! ……ねえ、悪いけど」
以前のトラブルを思い出し、私が勢い込んで博士を止めると、妹が立ち上がってくれた。
「あたしが淹れる! 博士は座ってて!」
「お、おう……すまんの、いもっちゃん」
茶器へ行く前、妹が訝しんで聞いてくる。
「ねね、どうしたの急に?」
「うん、少し、考えたいんだよ。うん、考えなきゃ……」
「何を考えるのよ?」
「色々とね……」
しばし、私の目を見ていた妹は、何かを察して紅茶の用意をしてくれた。
**―――――
紅茶のおかわりを頂き、熱々の湯気に少し眉をしかめ、漂ってくる香りだけ楽しみつつ、私は考える。
椅子に座って膝を閉じ、わきを締めて鼠径部に手を置く、ちょびっと行儀の良い姿勢が私の考え方だ。視線はあさってに飛んでいるがね。
この姿勢をみた妹からは、何ぼんやりしているの?
と言われるのだが、聞こえないやい! と遠くへ押しやり、しっかり、ちゃんと、考える。
それは発明品の処分についてだ。
まず、しっぽである。あの手触りが良いウサしっぽはおしいと思う。が、手触りだけで神経に触る感じなので当然処分である。
これらはまあ、問答無用で叩いても壊せると思うのだ。
ただ、ツノと天使の輪に関しては悩む。
まず「妹のツノ」、その根幹にある『ナノマシン』である!
この分野で完成された品ってさ、現代でも研究が進み、医療から軍事まで、あらゆる分野から渇望されている夢の技術じゃないですかね!?
さらにである! 「私の天使の輪」、これってさ『常温超伝導』ですわよ!?
私を飾ろうとする、意味の解らない目的に目をつむれば、これまた、人類の電力をはじめとした、あらゆる科学市場に至極大きな一歩を踏み出させる、絶大な技術じゃないか!?
これがどんなものになるかは、はっきりいって素人考えしかできない。私個人の認識では、電気代がすっごくお得! 程度である。
もしかしたら、乾電池で車とか動かせたりしないかな?
無理ですかね!?
まあ、そこら辺を考えるのはもっと頭の良い方々のお仕事だ。
……思考が明後日に飛んでしまった。
結局のところ、『私ってばこれを壊してしまっても良いの!?』という一点を、思い悩んでいるのだ。
うーむむむ、なにも知らなければね、もうちょこっと突っ込みどころを探して、納得できたうえで壊……あれ!?
いやいや、結論ありきで考えちゃダメだな、しかし、うーむむむむむむ……。
んー!? あれ?
もしかしたら、誤解されているかもしれないんですが……私って、博士が見せてくれたものを壊すとき、一応、悩んでいるんですよ!?
博士が体を酷使し、幻覚を見るほどに頑張り続けたたうえで作ったという部分をね、しっかりちゃんと理解しているんです!
……でも! でもでも!! でもでもでも!!!
あーもうもう! なんで、こんなとんでもない物を私に見せたんだろう!?
超技術であり、調べたら出てくる有用さの数々ってのが、私の行動を止めようとする……。
そんな、私の苦悩をつゆ知らず、悩みの種が私を慮ってくれた。
「どうしたんじゃ、ひみっちゃん? 何かあったんか?」
「んー、何か考えてるみたい」
「前も思ったが、姿勢よく悩むんじゃな?」
『博士、どんな格好なんだい?』
「手をついて背筋伸ばして、一点見とる感じじゃよ。ピシッとしとるの?」
「あー、最近の流行りみたい。あれ、実はどこも見てないのよねー」
『おお、それは見てみたいぜ! この子に見れる技術を付けてくれよ!』
「そうすると、お主の部屋も見られるようになるぞ? 裸族のお主をひみっちゃんやいもっちゃんに見せるわけにはいかんの」
『酷いなぁ! ちゃんと勝負パンツは履いてるぜ!』
「ちゃんとの意味が違う!? 服着てよ!!」
何言ってるんだろうね? あー外野がうるさいなぁもう!
そうだ、妹にも、意見を聞こうか……?
うん……。私は首だけ妹に向けて、疑問を口にする。
「ちょっといいかな?」
「んわっ!? なに?」
引き気味の妹に、私は問う。
「『世界の希望』と『自分の人生』、天秤かけたらどっちに傾く?」
「自分の人生」
おおっ!? 即答だ!
妹よ、私の悩みもぶった切りか!?
「なによ、どうしたの?」
「うん、いや、そうだね。うん。私もそうなのだよ。……うん」
「んー??」
「ひみっちゃん、どうしたんじゃ?」
「いえー、情報が足りなくて……考えがまとまらなかったんです」
「おお! そうか! 何でもええぞ!! 聞いとくれ!」
『よーし、博士の補足は僕がするぜ!』
何やら現実逃避をしたくなる年ごろだった私は、妹の言葉によって、ようやく自分を取り戻した。決断した。
そして、最後に聞くべきことを、少しだけ重たい口調で問う。
「えっと、これなんですけど……? 回転中に触れたらどうなります?」
「なっ!? 危ないから触っちゃダメじゃ!!」
『人の骨は鉄より脆いぜ! 麗しの君!!』
「ええ……」
どん引きした妹の肩を叩いてから、私たちは発明たちをよくよく見てから息を吐いた。
「ふぅ……」
そして、言葉を続ける。
「わかりました。あと、これにも自動追尾機能はつけてるんですね!?」
「もちろんじゃ! 間違って他の人に着けたら大変じゃろ!」
その言葉で、私は大きく頷いた。
「うん。博士、よーく、わかりましたよ!」
私が立ち上がったのを見て、妹もそれにならう。
「……そうね。あたし、これら全部がどんなものか、再認識したわ……うん」
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