博士の愛しき発明品たち!

夏夜やもり

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3 博士はネコ耳天使に興味があります(製作的な意味で)

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 とても輝かしい微笑を見せた私に、博士もご友人も笑顔になっている。
 ちなみに妹は、ツノを生やすナノマシンのシリンダーを外しているようだ。

 およ、何か引っかかってるのかな?
 ああ、回したらとれるのね……おっと、いけない。

 私は目の端で親指たてた妹を確認し、お腹に力を籠め、言った。

「博士、すべて拝見しました!」
「あたし、もうお腹いっぱい」
「そかそか! で、どうじゃった?」
『素敵すぎる発明だろ!』

 ええ、本当に惜しいです。
 対象が私たちでなければね……。
 揺らぎそうになる決意をしっかりとどめ、私は心を奮起ふんきさせる。

「これが、答えです!!」

 言葉、同時に行動。
 私はポケットからハンマー取り出し、おぞましくも希望にあふれた発明品たちへ、勢いをつけて振り下ろした!

「ちょっ! うおっ!? のおおおおおお!? なんてことするんじゃぁぁぁぁあああああ!!」

 博士の叫び声に合わさるように、発明品たちが音を立てて壊れていくのを聞きとどめ、白カラスさんは一瞬で飛び離れ、遠くからご友人の叫びが聞こえる。

『ふぁっ!? ううう、麗しの君!? 何したんだい!?』
「あああ! ばんらばらじゃ! せっかく、せっかく!!」
『もしかして、こわしちゃったのかい!? のおおおおおおぉぉぉぉぉ! 世紀の発明だったのにぃぃぃ!!』
「すいませんね……。たとえ画期的かっきてきな発明でも、私と妹は、が強いんです!」

 言葉にしつつもハンマーは舞うがごとく振り上げられ、発明を壊すための流星がごとく振り下ろされた。止まることはない。

 私もね、初めはやたらめったら振りおろしていたのだ。しかし、『発明破壊士デストロイヤー』として成長しているらしく、もろそうな所は一目で見抜くし、硬そうなところは細かく叩く技巧派な面も見せている。

「あら、あたしはつつしみ深いわよ!? でも、危機管理能力は同じくらいだし、執行は速やかだわ!」

 私がハンマーをふるう間、妹は資料を破いてくれている。恐怖に駆られて動く私たちは、発明品たちの処分に手を抜かない。
 三つ同時の破壊であり、壊すのにも労力がかかる。私たちは交替しながらたハンマーを打ち付けていく。

 まず、腰の神経に接続するネコ・ウサしっぽは、感触がとても素敵だった。

 しかし、体へ取りつけるというだけでも容赦ようしゃはできない。硬そうなねこさんしっぽの骨組みは、始め白かったのだが、叩くたびに灰色になり、何度か打ち付けてると、パキンと砕けてしまった。

 妹が手で催促するからハンマーを渡す。そしてこやつは、ツノを生やすナノマシン生成装置をとても念入りに叩く。
 すみの方から何度も同じところばかり、がんがんと打ち据え、コードだと思っていた物も、割れるようにはじけ飛び、部品が転がる。
 妹はそういうのが気に入らないらしく、ガムテープを取出して一つにまとめていくようだ。

 一区切りついた様なので、私はハンマーを返してもらい、天使の輪へと打ち付ける!
 そして、一撃で割れてしまった。
 ちょびっとだけ金じゃないかなー? と、淡い期待を抱いたのだ。
 しかし、その金属は一瞬で黒くなってしまい、価値を失ったように思える。
 
 ホチキスぽい『生体磁力波長測定装置』は、とても脆い物だったらしく、あっという間にただの破片に変化した。

「さて、設計図は何番ですか?」
「あたし、先に資料シリンダーの炊き上げ準備しとくわ!」
「ありがとっ! お願いね」
「あ……うう……しっぽは330、ツノマシンは329、天使の輪セットは332じゃ……全部、だめだったんか……」
「ええ、全部だめです」
「あのさ、『作らないで』って、始めから言ってんじゃん」
「うう……しかしの……ううう……」
『ぉぉ……僕と、博士の、叡智えいちが……ぁぁ……』

 あれ? 白カラスさんてば、だいぶ遠くにいるのかな? 声がとぎれとぎれになっている。
 なんでそんなに逃げる必要があるんだろう? そんなことを思いながらも、私は手を緩めない。
 
「私、設計図とってくるよ」
「あいあい」

 妹は資料とシリンダーを暖炉へ入れると、くだけた燃えない破片をガムテープでまとめている。
 たぶん捨てやすくするんだろうな……変な所で気遣きづかいさんだ。

 私はハンマーを妹へ預け、小走りで設計図棚へと急ぐ。それなりに分厚い紙束三つをしっかり確かめ、暖炉へおもむき、妹を呼んでから、二人でこまかくちぎってから投げ入れた。

「はい、ライター借りてきたよ」
「ありがと」
「うう……なにが、なにがわるかったんじゃ……」
「博士、どんなに優れていても、人にお洒落を押し付けちゃダメです」
「そこなの!?」

 そうだよ。作るなってのは何度か言ったでしょ?
 しかし、博士は今気が付いたように、ハッとした表情を見せた。

「そ、そうか……儂は、作るのが楽しくて……何度か言ってくれとったのに……押し付けに、なっとったのか……すまんかったのぉ……」

 うん、解ってた。
 とても楽しそうに説明してくれていたからね……。
 おそらくだが、私たちの制止を、博士は聞いたふりして聞いてなかったんだろう……。
 まあ私も、博士の説明ではそんな感じなのでおあいことしておきましょうか。
 発明品は壊すけどね。

『しかし、選択肢のひとつとして保管しておくっていう手が……』
「付けたら人としていろいろ終わります! それに、外せなくなるんだから、他に選べなくなるでしょ!! ダメダメです!!」
「それに自動追尾機能があるんでしょうがっ! そんなんがどこかにあると知ってたら、不安で眠れないわ!!」

 こうして、私たちは最後に残った人体改造グッズの元凶である、設計図に火をつける。

「うん、三つもあるから炎も三倍、安心、安全、火の用心~♪」

 私は自分でも意味の解らないことを口走りながら、炎のたけりをみつめる。ナノマシンのシリンダーは結構素敵に炎が弾ける。
 一気に燃え上がった熱気が来た。私はちょっと引きつつ、しかし、立ち昇る炎の勢いにテンションが上がる。

「いいねいいね! 炎は激しく、渦巻いて! 太陽さんもニッコニコ!」
「何言ってるのかさっぱりだけど、激しい炎も……うん、素敵な気がする……ああー、良く燃えるわね!」
「炎は良いんだよ! よく燃えるね! ね!! これがあるから私、明日も頑張れる!!」
「まぁ……嫌な事も忘れるわね」

 私のテンションについてこれない妹だが、静かに炎を見つめていた。

「うぅぅ……儂、結構頑張ったのに」
『僕もだよ……あれは、歴史に残っただろうになぁ……』

 こうして私たちは、頼んでいないオーダーメイドのお洒落シリーズを……。
 私たちへの肉体改造という悍ましい悪夢を……。
 完膚なきまでに破壊し、設計図や資料をまとめて焼き尽くしたのである!


**―――――
「博士、さすがにもう無いですよね?」

 暖炉の方を、いまだに火を見つめている妹に任せ、私は博士に向き直って尋ねる。

「うむ……もう、無いぞ……」
『……僕と博士の合作だから、みんなの度肝を抜けると思ったのに!』

 度肝はしっかり抜かれたよ。うん。これでもかって程にね!
 恐怖で博士のヘッドハンティング(*注 ハンマーによる)に至らなかったこと、めてほしいぞ。

「十分おどろきました。そして危機感を覚えました。でも、私たちは自分を守る勇気があったのです!」
「逆にさ、なんで、あれで行けると思ったのよ?」
「……うう、ううう、普通だとつまらんじゃろ?」
『僕だってさ、資料集めからプログラムまで、こんな時間まで組んでいたのに……うう……』

 なぜかお二人はすごい感じに落ち込んでいる。
 あー、もう、なんて言うか……これがあるから、私も悩むんですよ!
 ……うう……でも、でもでもでも!

 たとえ博士たちの苦労の塊であろうが、人類の発展だろうが、私たちが対象となった以上、速やかに処分するのは道理じゃないですかね?
 私、間違っているのかな!?

 博士は部品に縋り付いているし、白カラスさんはかなり距離を離しているようだ。ご友人の声がふわんふわんと聞こえてくるので、ちょっとへんな感じがする。

「あーそのー、えっと、博士……」

 声を掛けようとしても、出てこない。
 参ったなぁ……うーむむむ……妹はまだ火掻き棒で灰をかき混ぜてるし、んー、なんて言うべきだろう?
 ……どっちにしても、発明品壊した私が言ったところでって気持ちもある……むぅ……。

「そうじゃな、ひみっちゃん……。フィードバックをお願いできるかの? 今回の問題点を、具体的に教えておくれ」

 え!? まだ、解ってないの?
 と思ったが、博士、何やら紙の乗ったバインダーを取り出している。何か記録付けようとしてるのかな?
 んー、まあ、何度もお伝えするのもあれだし、さっきも言った事を繰り返す。

「あれ、私たちの体への影響が問題です」
「そんなことは起こらんのじゃよ?」
「だから、その確証が得られないでしょうがっ!? 具体的な、安心安全である、根拠のこもった言葉を、数字でまどわさずに出せますか!?」
「数字無しか!? ……ふむ……むむむむ……しかし、うーむむむ、数字なしじゃと……うむむむう」

 ああ、これ解る。たぶん、博士の認識がちがうのだろう。
 使う人の常識と、作っている人の常識がちがうっていうあれだと思う。
 ……使う気はないんだけどね!

 おそらくだが、この発明って本当に体への影響はないんでしょう。
 ……『データ的にも』『数値的にも』ね。

 でも、私たちはデータ通りのひとじゃないし、何より、あんなん付けて人前に出た場合の視線や、その視線にさらされるであろう私たちの気持ちを解ってしいのだ!
 取れないんだし!!

 もうきっぱり言っちゃうと、末代までの恥ですよ!!
 そんで、子孫に語られちゃいますよ!?
 これ、わかりますかね!?
 『祖先の話になるが……ネコ耳の似合う天使がいたのじゃ……』って、言われる身になってもらえません!?

 始めっから言ってたつもりなんだけど、解らないってのが、ねぇ……。これ、ずっと平行線かなぁ?
 そして言葉を捜し、私は言った。

「あー、その博士、私はお洒落は簡単で、安全で、さらに多様性が必要だと思っています」
「……ふむ?」
「外せるようになろうが、なるまいが、いちいち自分の体を心配するものを嫌ですし、無理に付けようとしたら怒ります」
「そうか……じゃから、あんなに怒ったんじゃな」
「はい」
「うむ……でもなぁ、似合っとると思ったんじゃ……」

 まだ言うかなぁ……うーん……。

「今回は作るのが楽しいってのもあった。じゃが! なによりも儂はひみっちゃんといもっちゃんの天使と悪魔の姿を見たかったんじゃ!」

 それは、光栄ですと思うべきか、それとも、やめて! と拒否するべきか……うーん……。
 そして閃く。

「見たいのであれば、良いこと思いつきました。」

 言って私は妹に声を掛ける。

「ちょっといいかな?」
「んー、なあに?」

 声を掛けた時の妹は、ガムテープでまとめた破片を、大きなものと小さなものに分けているところだった。炎は飽きたらしい。

「私たちの天使と悪魔、妹が絵に描きますから、我慢してください」
「なんと!? いもっちゃんは絵が描けるんか?」
「ええっ!? 何で急に!? あたしが描くの?」
「だって上手じゃん! もし私が描いたらどうなると思う?」
「夢に見る」

 あれ、私そんなにひどい絵描いてたっけ?

「ま、まあ、そうなるのかな? だから、適任だと思わない?」

 そう、こう見えて妹は絵を描くのが得意なのだ!
 私が言うと疑われるかもしれないですが、本当、びっくりするくらい上手で、しかも、お話のイメージから描き上げることだってできてしまう凄腕である!

「えー……んー」

 思い悩む妹、まあ、無茶ぶりってわかるよ。でもさ、その画力には私たちの未来が掛っているかもしれないぞ。

「ねえ、第二第三の人体改造の悪夢、見たい?」
「……わかった! ちょっと待ってね! 博士、紙と描くもの、ある!?」
「あるぞ!」
『おお、なんだい? 急に面白いこと始めてるんじゃないかい?』

 話が落ち着いたのを察したのか、白カラスさんが近づいてきた。ご友人も立ち直りが早いようだ。

「おし、持ってきたぞ!」
「はーい、ありです」

 妹は受け取ったA4のコピー用紙二枚と、なぜか鉛筆と色鉛筆を受けとる。そして構図に悩んでいる様だった。

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