妹と、ちょっとお話しましょうか?

夏夜やもり

文字の大きさ
7 / 25
朝焼けメダリオン

7

しおりを挟む
「でさ、びやだるさんとはりがねさん、お話しすることできたの?」

 コーヒーを頂いてから、妹が聞いてくる。

「お隣さんってさ、検査入院なんでしょ?」

 妹の指摘に、私は首をひねる。

「ああ、そうだったね? なんか結構長いこと居た気がするんだけどなぁ?」
「検査なのに?」
「あれー? 普通、そんなに掛かんないのかね? ずっと一緒だった印象があるんだよ」
「まあ、そういうことあるよね」
「実際は......どうだったかな?」
「お話しできず?」
「いやいや、何回かはお話しできたよ。てか、お二人にもかなりお世話になってるのさ」
「迷惑かけたの?」
「お世話になったのだよ」

 妹が、胡散臭そうな視線を向けてくる。それを外して、私は言った。

「えーと......ご両親はお忙しい感じだったよ?」
「ふーん?」
「お二人が来たときはさ、家族で一階の喫茶店行って、おやつとかしてたみたい」
「どんな話してたんだろね?」
「さあ? まぁ、あいつは話したがりだからね、話題は尽きないと思うよ?」
「ってことは、普段からそんなこと言ってたの?」
「うん。......私、びやだるさんと、はりがねさんのこと、詳しくなっちゃったもん」

 私は少し記憶を辿ってみると、少しずつ紐解ひもとかれるようによみがえる。

「へえ、どんな話だった?」
「たとえば、びやだるさんの仕事とか?」

 妹は少し興味のある表情で小首をかしげた。

「あら、何してる人?」
「それがさ、小物の細工職人さんだっての! 野太くて金だわしみたいな剛毛つきの手なのに、ちっちゃい細工が得意なんだって!」
「へえ? って、ああ! それじゃあこれ作ったのも?」

 妹がメダリオンを持ち上げて揺らす。月と太陽をモチーフとした、色々複雑なデザインであり、丸っこくて所々質感を変えてある。かなり緻密ちみつなものだった。

「そうそう! お守りだっていうんだよ、これ!」
「すっごいね! 手が掛かってるんじゃない?」
「愛する天使のためーって感じらしいよ!」

 そこで妹が息を吐く。

「今の持ち主悪魔じゃん?」
「な、何を言ってるんだね? 私ってばちゃんといろいろ頑張って、真っ当な人格となってるはずだよ!?」
「今欲しいものは?」
「土地と金塊、時間と宝石」
「悪魔じゃなくて、俗物かぁ......びやだるさんも悲しんでるわ」
「ぐぬぬ......いや、まった! 悲しんでないよ! びやだるさんも、喜んでたって!」
「あらそ?」

 無慈悲な妹は、私の言葉を切って捨てる。

「でさ、お隣さんは、お二人について何か話たんでしょ?」
「......うん、そうだね、あいつはとても楽しそうに教えてくれたよ」

 私は唇を尖らせ、不満を表現しつつも話は続けた。


**―――――
 たしかその日は、眠れなくてひどい顔をしていたはずだ。

「うー、...藤さんは、なんなの!?」
「おーい? どしたん?」
「え?」
「だいじょうぶなん?」
「えっ......うん、まあ、うん」
「とうさんがどしたんや? おとんか?」
「いや、その......」

 うすぼんやりした頭で浮かんだ映像は、知人の斉藤さんがやらかした件であり、私はそれをそのまま出してしまった。
 それをあいつが取り違え、びやだるさんについて聞いたと勘違いしている。そこで私は聞いてみた。

「そうだ、びやだるさんて、なにしてる人なの?」

 あいつは少し首をひねってから言う。

「あんな、おとんは職人やで!」

 私の顔色にはまるで気にせず、けらけらと笑ってから話し出す。

「でな、その才能に惚れ込んだのがおかんやねん!」

 あー、うん、そうなんだ? と二人を思い浮かべつつ、私は水を向けた筈だ。

「プロポーズはどっちから?」
「おとんや!」
「はじめて会ったのは?」
「えとな、えっとな」

 聞くところによると、はりがねさんとびやだるさんが出会ったのは、桜がの道だと言っていた。

「とくもり?」
「そや。特盛の桜やったって!」
「んー? 想像できない」
「みせてもらったんやけどな! 道にな、桜が山になってたってたんよ!」
「ふむふむ」

 本人の言説なので、実際はどうか解らないのだが、まあ、信じよう。
 その特盛桜の石畳いしだたみを歩いている途中、その人を見つけた瞬間に雷に打たれたらしい。
 たぶん、びやだるさんが。そういえば聞いてなかったけど、まあ、そういう事にしよう。はりがねさんはものすごい美人さんだからね!
 初対面で『はりがねさん! 何かどっかで間違えたのっ!?』て思ったのは生涯しょうがいをかけて内緒にする予定なのだ。

「あんな! 二人が出会って初めに思ったのは、あのお腹に何センチうずめられるかなー? らしいわ!」
「ふむふ......ん?」

 んんっ!? あれ? これ、興味津々だったのははりがねさんだったりする?

「でな、声をかけたんや」
「何て?」
「うちと茶ぁしばきにいかへん? って」
「ちゃ? しばく? 何それ? というか、え?」

 あっれー? 今思い出して、疑問出てきた。
 はりがねさんってば実は結構ぐいぐいいく人だったぽいの!?
 え、でも、ええ!? いや、とても物静かでさ、えっと、すっごいせてるけど、びっくりするくらい美人さんで、姿勢なんかも定規が背中に入っているかみたいな人で、ええー!?


**―――――
 話の途中で動揺どうようを見せ始めた私に、妹が、目を丸くして声を聞いてきた。

「えっとさ、聞いた感じだと、はりがねさんから誘ったぽいけど......」
「う、うん。思い出してみたら、衝撃しょうげきの真実!?」
「あたし、てっきりびやだるさんがすっごい頑張ったと思ってたんだけどな」
「えっと、たぶんはりがねさんか、びやだるさんが、多くをはしょって説明したんだと思うよ? あいつも真に受けた感じ?」

 妹の動揺が良く解る、まあ、語っていた私もうろたえている。
 記憶の中の言葉だから、正確ではないのだが、ちゃんと思い出してみるとあっれー!? と思わずにいられない。

「むぅ......まあ、そういうこともあるのか」
「いや、でもびやだるさん、家族全員、すっごい好き好きーってかんじだったから、幸せなんじゃないなぁ......」

 なぜかフォローする私に、ふと、妹がこぼす。

「ま、まあそうね! でもさ、お腹にはどこまでうずめられるか、やってみたいって思うかなぁ......」
「え!? うーん、まあ、私、初対面でうずめられたからなぁ......」
「ねねね! ねえねえ、どうだった? どうだったの!?」

 ナニ? その食いつき? 妹さん? どうしたのかな!? 内心ちょびっと慌てているが、私は聞かれたことにしっかり答えた。

「ぷよんぷよんだけど奥がちょっと硬かった。あと......変わった臭いがした、かな?」
「ほほぉー! ほーほー!!」

 あれ? 妹もはりがねさんと似たような趣味なの? いや、あまり知りたくなかったかな? ちょっと、認識を改めながら、記憶を手繰っていく。

「えっとね、それからあいつの語りモードに入ったんだよね」
「うんうん」


**―――――
「でさ、出会ってそれから、どうなったの?」
「えーと、たしか......旅行行った時におとんがや」

 おおう!? 話が一気に飛んだな? いや、たしかそうだ。当時も心の中で突っ込んでいた気がする。

「どこに行ったの?」
「え? っと、確か海でな、遠くの岩に夕日が下りるとや、ローソクに火をつけるように見えるとかの場所らしいんや!」
「なあに、それ?」
「そんな景色やねん」
「むう、ろうそくみたいな岩なの?」
「せや! で、二人でその景色を堪能したあとにな......」

 あいつは何故か自慢じまんげな顔を作って語る。

「この景色は一瞬で終わる一つの思い出だけど、君が隣にいる事で、僕の一生の思い出になっているんだ......」
「ほう?」
「そして、あの日君がつけた僕の心の火は、日々燃え上がっている。今、太陽よりも激しく、月よりも美しい、輝きなんだ!」

 思い返してみるとさ、ずいぶんとまあ詩的だよねぇ......。

「だから、僕と結婚してほしい......てかんじや!」
「ほ......ほほー」

 多分何度も何度も聞かされたのであろう言葉だとおもう。すらすらと出てきて、ちょっとだけ赤くなっている。
 突っ込んで聞くのは野暮だと、私も思う。だけど続きを促した。

「えと......えっとぉ、答えはなんて?」
「おかんはなぁ『はい』っていったんやって! その時うちの心の火も激しくなったんや! ってな!」

 なんていうか、こういうの、私、困る。茶化しにくいし、ちょびーっと照れてしまうのだ。
 あ、あくまでも、ちょびーっと、ですよ!?

 そして、あいつはにっこにこしながら語りを続けた。

「あんな、大きくなったら見に行きたいんや!」

 まあそうだよね、ろうそくの岩? 海岸? 見てみたい気もするし、ご両親のことだもんね。

「良いんじゃない? それ、行ってみたら?」

 私の返答に、あいつはなんか少しまじめっぽく続けた。

「なな、退院したら下見に行かへん?」

 ん? 私と? え? なんで? てか、そこって近いの? そんな事を思いながらも、私は答える。

「やだ」
「なんでや!」
「私、海苦手。おぼれるもん」

 ここで実例を出すべきだろうが、私の名誉めいよにかかわるため、海で溺れて助けてもらった2回の出来事は言わない。聞かれるまでは黙秘だ。

「そっちかー」
「ちなみに、山もイヤ! 山は危険がてんこ盛り」

 こっちも言わないが、山へ出かけて吊り橋で足がすくんで落ちそうになった件は、3回程度でりている。

「なんっ!? じゃあ何処ならええねん?」
「さあ? まあノリで断わった感あるから仕方ないね」
「んじゃ、まあ、またノリの良い時に頼んでみるわ」

 えっと、それって......私にとってはその都度つど断わってほしいと言ってるようなもんなのだが、まあ、言わずが花だろう。

「考えとくね」
「いまいやらしい笑い方してへんか?」
「ふっふっふ、大丈夫だよー、ツクッテルダケダヨー」
「あーもう、約束やで」
「考えとく」



**―――――
「何で断わっちゃうかな?」
「いや、ノリって重要なのだよ? この時の答えのせいで、あいつの『お願いや!』は、だいたい断る流れになったんだよ」
「ひっど!」

 まあ、口には出さんが本気の時にはちゃんと考えたりもしただろう。たぶん......? いや、やっぱりノリとか気分で断わるかな?

「ん? でも、なんでご両親の出会いになったんだっけ?」
「え、私が聞いたからだよ?」
「んー? それが聞きたかったんだっけ?」
「いやいや、何してる人なの? って聞いたんだって!」
「あれ? じゃあ、何で二人の出会いとプロポーズの話になってんの?」
「さあ? あいつが言いたかったんじゃない?」
「ふむう、そういうもんかな?」
「まあ、そういうやつだったよ」

 妹が首をひねる中、私は椅子に体を預けて上を見た。あいつは、そうだ。自分から、色々と話すやつだったなと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...