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ミラクルの輪廻転生
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みちのく学院大学に通っているという青山の弟・翔太から連絡が入ったのは、青山がおてんば企画を電撃訪問した翌日のことであった。若い男子が好きなのか、日奈子はぶりっ子を思わせるような口調で、電話口に語りかけていた。
「あら、翔太君ね。連絡待っていたわよ。うん? いいのいいの。この際だから、うんと私に甘えちゃって。ふふ。かわいいったらありゃしない」とかなんとか。ほとんど恋人気分で語りかける日奈子の姿を目の当たりにして、「プロレス結婚式よりもイケメンプロレスに夢中になっちゃったみたい」と美央はあきれ返ることしきりだった。
おてんばプロレス vs イケメンプロレス vs おてんば企画。個性が三つ巴の対抗戦は、お盆の真っただ中に、おてんば市公会堂のメインホールを借りて開催されることになった。考えてみると、おてんば企画というのは会社名であって、プロレス団体ではないのだが、本家本元のおてんばプロレスと関係が深い、そしてタイではバンコクおてんばプロレスを運営しているというふたつの理由から、今や「おてんば企画=素人女子プロレス界の虎の穴」として、その名をとどろかせているのであった。
おてんば企画発行のフリーペーパー『おてんば通信』のスポンサーが、何社か応援してくれて、協賛についてくれたのはありがたかった。地元の不動産会社や信用金庫、ホームセンター、宅配弁当の会社etc。あれ、よく見ると、ウエディングの会社も協賛してくれているようだけど、プロレス結婚式は頓挫したんじゃ――。
レスラーとしての顔を持ちつつも、この日のイベント指揮を兼任している美央は、ちょっと訝しげな表情を浮かべながら、ホールの壁に張られた模造紙に目をやった。そこには「本日のカード」が、いかにも女子スタッフが書きましたといわんばかりの丸文字で並べ立てられていた。
〇第一試合:稲辺隆子 vs KEN
〇第二試合:ジャッキー美央 vs SHO
〇第三試合:稲辺容子 vs X
翔太はSHOというリングネームで、賢治はKENというリングネームで、それぞれデビュー戦を迎えることになっていた。名づけてSHO-KEN。学生プロレスラーとしては青臭い一年生でしかなかったが、イケメンプロレスラーとしては、初代メンバーの青山(翔太のお兄さん)らに負けず劣らず、いい男たちなのだ。稲辺隆子もジャッキー美央も、イケメン軍団との闘いには、心をときめかさずにいられなかったのである。
それにしても第三試合の「X」は誰だろう。もしかすると日奈子社長が、プレジデント日奈子改めシンデレラ日奈子なんていいながら、お姫様のコスプレで登場するのでは――と社員一同、実はひそかに気をもんでいた。本当であればプロレス結婚式を実現したかったはずだが、夢が叶わなかった今となっては、日奈子自身が麗しのお姫様に変身し、おてんば市民の度肝をぬく。それぐらいのことは考えていてもおかしくなかった。
「あの日、あの瞬間(とき)の闘いが、今ここに再燃する。今はプロとして活躍するRKクイーンやスーパーアサコのファイティングスピリットを継承するのは私たちだ。そんな想いを胸に、おてんばプロレスの女神たちが、男子学生プロレスの新鋭を迎え撃つ、おてんばプロレス バーサス イケメンプロレス。いざ開戦!」。
そんな場内アナウンスを皮切りに、ド派手な曲が流れ出すと、今回エントリーされた選手六名のうち五名がリングに勢揃いした。アナウンスを務めたのは、みちのく学院大学の放送部の有志学生であった。聞けば翔太の友人らしく、これがまたハマり役としかいいようがなかった。気になるXは「X」とだけコールされたが、正体は謎のまま。
決戦の火ぶたとでもいうべき開会宣言は当然、日奈子社長だろうと思われたが、ワイヤレスマイクを持ってリングに現れたのは、意外にもニューおてんば温泉の社長だった。地元では有名人の登場に「おおっ」というどよめきが起こった。
ニューおてんば温泉の社長のことを知らない読者のために、簡単に補足しておくと、おてんばプロレスが産声をあげたばかりの頃、試合会場や練習場所がない選手らのために、ひと肌脱いでくれたのが、ニューおてんば温泉の社長である。おてんばプロレス創設期のメンバーで、今は最強の女子プロレスラーとして君臨しているスーパーアサコ(本名:船橋浅子)の父親でもあった。その父親がマイクを手に、ついに雄叫びをあげるか――と思いきや、社長の第一声はきわめて普通というか、ごくありきたりなものだった。
「おばんです(「こんばんは」の意)。ニューおてんば温泉の船橋です。会場のキャパシティーを考えて、今回は市の公会堂をお借りしましたが、これもひとえに皆さんの安全性を考えた結果で‥‥」とかなんとか、町内会の運動会のあいさつじゃないんだからさ。おてんばプロレスが旗揚げ戦をくり広げていた頃は、ニューおてんば温泉の社長自身が過激で、「さすがスーパーアサコのお父さん」といわれていたはずなのに。
でも、ま、ひとり娘がプロレス界きってのスーパースターの座にのぼり詰めたとあっては、仕方ないのかなぁ。ちゃんとした父親像を見せないと、何をいわれるかわからないのが世の常でもあったのだ。
それでもプロレスラーの父親らしく、最後は「全力だ、全力だ、全力だ~っ!」という力強い言葉で締めると、しきりに手を振りながらリングを降りていった。いずれは市議会議員への立候補も検討しているという社長だったが、おてんば市の議場で、市民の幸せのために闘い抜く姿も見てみたいような。
さぁ、闘いの輪廻転生。イケメンプロレスとの新たなメイクドラマが始まった。
「あら、翔太君ね。連絡待っていたわよ。うん? いいのいいの。この際だから、うんと私に甘えちゃって。ふふ。かわいいったらありゃしない」とかなんとか。ほとんど恋人気分で語りかける日奈子の姿を目の当たりにして、「プロレス結婚式よりもイケメンプロレスに夢中になっちゃったみたい」と美央はあきれ返ることしきりだった。
おてんばプロレス vs イケメンプロレス vs おてんば企画。個性が三つ巴の対抗戦は、お盆の真っただ中に、おてんば市公会堂のメインホールを借りて開催されることになった。考えてみると、おてんば企画というのは会社名であって、プロレス団体ではないのだが、本家本元のおてんばプロレスと関係が深い、そしてタイではバンコクおてんばプロレスを運営しているというふたつの理由から、今や「おてんば企画=素人女子プロレス界の虎の穴」として、その名をとどろかせているのであった。
おてんば企画発行のフリーペーパー『おてんば通信』のスポンサーが、何社か応援してくれて、協賛についてくれたのはありがたかった。地元の不動産会社や信用金庫、ホームセンター、宅配弁当の会社etc。あれ、よく見ると、ウエディングの会社も協賛してくれているようだけど、プロレス結婚式は頓挫したんじゃ――。
レスラーとしての顔を持ちつつも、この日のイベント指揮を兼任している美央は、ちょっと訝しげな表情を浮かべながら、ホールの壁に張られた模造紙に目をやった。そこには「本日のカード」が、いかにも女子スタッフが書きましたといわんばかりの丸文字で並べ立てられていた。
〇第一試合:稲辺隆子 vs KEN
〇第二試合:ジャッキー美央 vs SHO
〇第三試合:稲辺容子 vs X
翔太はSHOというリングネームで、賢治はKENというリングネームで、それぞれデビュー戦を迎えることになっていた。名づけてSHO-KEN。学生プロレスラーとしては青臭い一年生でしかなかったが、イケメンプロレスラーとしては、初代メンバーの青山(翔太のお兄さん)らに負けず劣らず、いい男たちなのだ。稲辺隆子もジャッキー美央も、イケメン軍団との闘いには、心をときめかさずにいられなかったのである。
それにしても第三試合の「X」は誰だろう。もしかすると日奈子社長が、プレジデント日奈子改めシンデレラ日奈子なんていいながら、お姫様のコスプレで登場するのでは――と社員一同、実はひそかに気をもんでいた。本当であればプロレス結婚式を実現したかったはずだが、夢が叶わなかった今となっては、日奈子自身が麗しのお姫様に変身し、おてんば市民の度肝をぬく。それぐらいのことは考えていてもおかしくなかった。
「あの日、あの瞬間(とき)の闘いが、今ここに再燃する。今はプロとして活躍するRKクイーンやスーパーアサコのファイティングスピリットを継承するのは私たちだ。そんな想いを胸に、おてんばプロレスの女神たちが、男子学生プロレスの新鋭を迎え撃つ、おてんばプロレス バーサス イケメンプロレス。いざ開戦!」。
そんな場内アナウンスを皮切りに、ド派手な曲が流れ出すと、今回エントリーされた選手六名のうち五名がリングに勢揃いした。アナウンスを務めたのは、みちのく学院大学の放送部の有志学生であった。聞けば翔太の友人らしく、これがまたハマり役としかいいようがなかった。気になるXは「X」とだけコールされたが、正体は謎のまま。
決戦の火ぶたとでもいうべき開会宣言は当然、日奈子社長だろうと思われたが、ワイヤレスマイクを持ってリングに現れたのは、意外にもニューおてんば温泉の社長だった。地元では有名人の登場に「おおっ」というどよめきが起こった。
ニューおてんば温泉の社長のことを知らない読者のために、簡単に補足しておくと、おてんばプロレスが産声をあげたばかりの頃、試合会場や練習場所がない選手らのために、ひと肌脱いでくれたのが、ニューおてんば温泉の社長である。おてんばプロレス創設期のメンバーで、今は最強の女子プロレスラーとして君臨しているスーパーアサコ(本名:船橋浅子)の父親でもあった。その父親がマイクを手に、ついに雄叫びをあげるか――と思いきや、社長の第一声はきわめて普通というか、ごくありきたりなものだった。
「おばんです(「こんばんは」の意)。ニューおてんば温泉の船橋です。会場のキャパシティーを考えて、今回は市の公会堂をお借りしましたが、これもひとえに皆さんの安全性を考えた結果で‥‥」とかなんとか、町内会の運動会のあいさつじゃないんだからさ。おてんばプロレスが旗揚げ戦をくり広げていた頃は、ニューおてんば温泉の社長自身が過激で、「さすがスーパーアサコのお父さん」といわれていたはずなのに。
でも、ま、ひとり娘がプロレス界きってのスーパースターの座にのぼり詰めたとあっては、仕方ないのかなぁ。ちゃんとした父親像を見せないと、何をいわれるかわからないのが世の常でもあったのだ。
それでもプロレスラーの父親らしく、最後は「全力だ、全力だ、全力だ~っ!」という力強い言葉で締めると、しきりに手を振りながらリングを降りていった。いずれは市議会議員への立候補も検討しているという社長だったが、おてんば市の議場で、市民の幸せのために闘い抜く姿も見てみたいような。
さぁ、闘いの輪廻転生。イケメンプロレスとの新たなメイクドラマが始まった。
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