おてんばプロレスの女神たち ~あばずれ日奈子のチャレンジ魂~

ちひろ

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男女六人プロレス物語

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 注目の第一試合。「稲辺隆子 vs KEN」というフレッシュな闘いに、大きな期待が寄せられた。
 この日、市の公会堂を埋め尽くした観客の数は五百人超。驚いたことに大学のチアリーディング部の美女軍団が、イケメンプロレスの応援についていた。「行け、行け、KEN」なんて、黄色い声援の雨あられ。これは後日談になるが、観客の一部がその応援ぶりをSNSにアップしたところ、またたく間に世界中に広がり、大会の翌日にはテレビや雑誌の取材と称して、みちのく学院大学の事務部に何本かの問い合わせが入ったというのだから驚きだ。
 隆子は一時期「TAKAKO」というリングネームを使っていたが、稲辺姉妹というユニットを話題にしたくて、今はあえて本名の稲辺隆子で通していた。
 一方のKENは、今日が学生プロレスラーとしての初陣。相棒のSHOとはスパーリングなどを通して、それなりにトレーニングを積み重ねてきたが、正式な試合、しかも女子との一戦は免疫がないだけに、実は膝が震えるほど緊張しまくっていた。
 カ~~~ンというゴングが鳴った瞬間、レスラーとしては先輩格の隆子が、いきなりドロップキックをくり出した。顔面にキックを食らい、たまらず場外へエスケープするKEN。すると、そこへ人間ロケット砲とでもいうべき、トペ・スイシ―ダを放ったのだから、これはすごいことになってきた。名づけてタカコ・ロケット。この技は“水のないプール”に飛び込むようなもので、それなりに大きなリスクを抱えていた。そんな危険きわまりない大技を余裕しゃくしゃくで炸裂させるあたり、やはり隆子は十年にひとりの逸材かもしれなかった。ロケット砲を受けて、場外に倒れ込んだKENに、隆子のエルボードロップが襲いかかった。
 「ワン、ツー、スリー、フォー‥‥」というレフェリーのカウントが続く中、これはチャンスと直感した隆子は、なんと場外でスライディング式のアックスボンバーを決めた。隆子自身、初めての挑戦だったが、斧爆弾ともいわれる技の威力はすさまじかった。
 「フィフティーン、シックスティーン、セブンティーン‥‥」。
 無情なカウントが渦巻く中、最後の最後ですかさずリング内に生還を果たした隆子に軍配があがった。二分二十四秒、隆子のリングアウト勝ち。
 開会宣言だけでなく、レフェリーも買って出ていたニューおてんば温泉の社長が、隆子の細い右腕を高々とあげると、会場内は大きな拍手に包まれた。逸材・隆子により、おてんばプロレスの厳しい洗礼を受けたKENは、やっとの思いでリングにあがると、隆子の手を握り締めて深々と頭を下げた。「KEN君、頑張ってね」と隆子がほほ笑みかけると、KENは頬をピンクに染めながら、小さなえくぼで笑い返していた。
 第二試合は「ジャッキー美央 vs SHO」戦である。こうなったらKENの敵討ちだ――というリベンジを胸に、リングに現れたSHOのセコンドには、第一試合を終えたばかりのKENがついた。
 相手は“明るく、楽しく、元気に”を貫き通している美央だ。なんでこうなったのかはよくわからないが(ひょっとして日奈子の発案だろうか)、ジュリアナ〇〇の踊りを披露しながら、超・華やかな入場シーンを演出してみせた美央。その光景は、まるでリングに大きなひまわりが咲いたようでもあった。
 美央に負けじと、「レッツゴー、SHO」なんて、黄色い声援を送り続けるチアリーダーズ。昭和時代に建てられ、いささかうらぶれた雰囲気さえ漂う市の公会堂が、女子高か女子大の文化祭のようなお祭りムードに包まれた。
 試合開始を告げるゴングが鳴り響くと、まず仕かけたのはSHOだった。「女子高の文化祭は終わりなんだよ」と雄叫びをあげながら、美央の胸にローリングソバットをぶちかますと、高校時代は陸上部で鍛えたという脚力を活かした稲妻レッグラリアットを一発。美央がよろけたすきをついて、強烈なバックドロップを放った。
 カウントは「ワン、ツ‥‥」。いささか不意をつかれた美央ではあったが、そこはおてんば企画のプロレス部次長(勝手にそう思っているだけ)。すぐさま立ちあがると、「なんだよ、おりゃ」と雌叫びをあげながら、猛反撃に打って出た。美央ラリアットに美央キック、美央スクリュー、美央バックブリーカーetc。
 全部に“美央”がつく技の大放出で、二代目イケメンプロレスの総帥であるSHOからスリーカウントを奪った美央。最後は芸術的な美央スープレックスで、SHOという男子の塊が空中で弧を描いた。五分四十七秒、美央スープレックスからの体固めで美央の勝ち。
 これで二代目イケメンプロレスは、ふたりの選手が玉砕という結果に終わってしまった。力だけじゃ勝てない。身長や体重も関係ないし、ましてや性別なんて――と思い知らされたSHOとKENは、「次は必ず」といい、美央や隆子に再戦を要求した。その潔い光景に、大きな、本当に大きな大きな拍手が沸き起こった。おてんばプロレスもイケメンプロレスも、おてんば市にとっては、かけがえのない財産だったのである。
 さてさて。問題は第三試合である。果たして「X」は誰なのか。興味や関心は、そのこと一点に注がれていた。
 あれ、でも待って。今日はそれ以外にも不可思議なことがあるのよね。勘のいい読者の皆さんはお気づきかもしれないけど、あの目立ちたがり屋の日奈子社長が姿を見せていないのである。
 ということは、やはりXは日奈子社長なのではないかと思うのが自然だろう。シンデレラ日奈子にでも変身するつもりなのか、あるいは「男女半々レスラーの日奈子です」なんていいながら、右半分が男子で左半分が女子というコスプレで登場するとか。とにかく話題づくりに関しては、こと欠かないところが日奈子の魅力でもあったのだ。
 「稲辺容子 vs X」というアナウンスが流れると、まずは容子がリングに姿を見せた。容子は大学の四年生。小学校の教員試験に合格し、来春からは地元の小学校で教壇に立つことが、ほぼ決まっていた。教員になってからも、おてんばプロレスのリングには立つつもりでいたが、保護者や子供たちの手前、あまり正体を露わにするわけにもいかない。そのときは「謎のマスクウーマンにでも変身しようかしら」と容子は考えていた。
 さぁ、一方の「X」は誰なのかと思ったら、な、なんと正体は元祖イケメンプロレスの総長である青山であった。青山はサラリーマンとして東京で働いていたが、後輩たちのためならば‥‥という一心で、おてんばプロレスのリングに戻ってきてくれたのである。
 青山にとっては、四年半ぶりのリングインであった。もちろん、この日のためにトレーニングは積み重ねてきた。最盛期のようにとはいかないかもしれないが、少なくともおてんばプロレスのナウリーダー(現在のエース)である容子と相まみえる以上、失礼のないように努力は続けてきたつもりだ。
 青空を思わせるようなスカイブルーのガウンを脱ぎ捨てると、「おおっ」というどよめきが押し寄せた。シェイプアップされたその肉体は、まさにプロレスラーそのものだったのである。いくらおてんばプロレスのエースとはいえ、容子は女子だ。男子の青山に勝てるのかという疑問はあったが、容子としては望むところであった。
 「さぁ、かかってきなさい」という容子のかけ声とともに、世紀のゴングが打ち鳴らされた。
 まずは手四つの体勢から、両者一歩も引かない試合運び。青山が容子の頭を抱えて締めあげると、すかさず容子が切り返して青山の頭を締めあげるヘッドロックの応酬だ。キックにはキックで、ラリアットにはラリアットで応戦する両者。これはもうプロの域に達しているのでは――という闘いぶりに、「容子」コールと「青山」コールが交錯した。
 「す、すごい試合」と口にしながら、リングサイドで一喜一憂する妹の隆子。青山の後輩であるSHOやKENも、世紀の一戦に心を奪われていた。おてんばプロレスの新たな歴史が、ここに極まりし。そういっても過言ではないほど、ハイレベルな試合となったのである。
 試合が大きく動いたのは、「五分経過」というアナウンスが流れた直後のことであった。容子のブレーンバスターを切り返した青山が、ボディースラムで容子をマットに叩きつけると、パイプ椅子を駆使しながら、ムーンサルトプレスで勝負に出た。ところが、一瞬早く容子が膝を立て、それが青山の腹部に当たり、「いた(痛)ー」なんてわめき立てながら、青山がリングに伏してしまったのだ。
 となると、ここから先はもう、容子の思うつぼであった。サイドスープレックスで青山をリングに叩きつけると、渾身の足四の字固めで青山を締めあげたのだ。
 どうだー。まいったか。青山自身、断固ギブアップはしないという素振りを見せていたが、容子の執念が勝ったというか、もっと専門的にいえば、容子の両足の密着度があまりにも高く、寸分の余地もなかったことが直接的な勝因となり、青山は無念のギブアップをせざるを得なかった。
 たこのように吸いつくオクトパス・フィギュアフォー・レッグロックなーんて。プロレス史上、そういう技は存在しないんだけど、本邦初公開のテクニカルな秘技で、おてんばプロレスのエース・容子が勝利をものにしたのである。
 「やったよ、やった」と笑顔を爆発させながら、容子は妹の隆子と抱き合った。無念の敗北に呆然自失とした青山のもとには、SHOとKENが駆け寄った。終わってみれば、容子ら女子軍団の三連勝。容子も美央も隆子も胸を張っていいだろう。男子だからとか、女子だからとか、そういう時代は完全に終わったのだ。七分十秒。オクトパス・フィギュアフォー・レッグロック(新技)で容子のギブアップ勝ち。これはもう劇勝としかいいようがない。
 ということで、きっとこのへんで日奈子社長が現れ、勝利のキスでほめ讃えるのではないか――と思いきや、どうやら日奈子が姿を見せる気配は感じられなかった。結局、男女六人のプロレス物語は、おてんばプロレス+おてんば企画の圧勝で幕をおろした。
 「ああ、おもしろかった」「おてんばプロレス。これからも頼むぞ」なんて、来場者が腰をあげようとしたそのときのことであった。
 「本日のメインイベント、プロレス結婚式の開催です!」というアナウンスが、突然のように場内に流れた。プ、プロレス結婚式だなんて何よ――と度肝を抜かれながら、美央をはじめとする、おてんばプロレスの関係者たちは一斉に固まってしまった。
 「何!? ‥‥何が始まるわけ」。
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