11 / 21
第11話
しおりを挟む25
槇岡は私の腕をつかんで座るように促した。
「驚かせて悪い。だけど真剣に聞いてほしい」
こちらを見つめる瞳は相変わらず深い色合いをたたえている。
「もう一度言う。君に惚れた。この気持ちは動かせない」
……何を言ってるの? この男は。
私の表情に槇岡は軽くため息をついて組んだ手にあごをのせる。
「莉奈に心惹かれたのは」
つと目をそらして窓外の街灯の光に目をやる。
「今まで付き合った女には無い純粋さがあったからだ。外見だけ飾った女ならいくらでもいるからね。莉奈には本当にこっちの心の中に入ってくる。誰に対しても取り繕うような壁は作らない。生のままの愛情を向けてくる。
あいつと愛し愛されるのは本当に素の感情を交わせる相手だけだ。
そこに嘘はないし莉奈も嘘をつけない。莉奈の魅力も欠点も全部あいつのピュアさからきてる」
よく見ている。まったく同感だった。
「そこまで分かってるならなんで……」
組んだ手をほどくと柔らかなまなざしを向けてくる。
「気付いてないかもしれないが、君も莉奈と同じ純粋さを持ってる。世の中のあらゆる女を見てきた俺だから分かる」
「…………」
「口で愛を語ろうが損得で動く女、外面を取り繕うだけで生きてる女なら山ほどいる。
しかし純粋に愛情だけで動ける女は一握りしかいない。俺の周りじゃおふくろ、莉奈、君ぐらいだった。
君は出会った時にひるまずに俺に向かってきた。自分のためじゃない。莉奈を愛してるからこそ、自分をかえりみずに全力で向かってこれたんだ。
気付いていないかもしれないが、君も愛情で動く人間だ。そして本当は君の愛の方が深く激しい」
意外な言葉だった。自分をそんな風に思ったことはなかった。
槇岡の瞳が鋭く、しっかりと私をとらえる。
「家庭の事情は聞いてる。血のつながってない相手になかなかそこまでやれないだろう。
君なら家柄や金でなく愛で動いてくれる。君ほどの女は他にいない。莉奈も好きだがそれ以上に君に心を奪われた。
言ったろう。俺も莉奈と同じだ。気持ちに嘘がつけない。だから……」
しなやかな指先で私の手を包む。
「愛してる。俺と結婚してくれ」
「なっ……」
心までわしづかみにして離さない深いまなざし。美しい顔立ちから発散される剥き出しのオスの欲望。
ここまで強烈でストレートな感情をぶつけられたことはなかった。
こちらの抵抗をすりつぶすような押しの強さに思わず心が乱れる。
莉奈のことだったはずだ。いつのまにか自分の話になってる。もうめちゃくちゃだ。
「……ええいいわ、とか私が言うと思う?」
「突然で混乱させたのはすまないと思ってる。しかし時間が経てば落ち着く」
「あのねえ……」
頭がおかしくなりそうだった。現実が自分の理解を超えてしまっている。
「……もちろん莉奈には償いをする。何不自由ないようにしてやれる」
「そんな問題じゃない!」
「最初だけだ。時間が経てば元に戻る。みんな同じように付き合っていける。君と莉奈の立場が入れ替わるだけだ」
口振りに迷いが見られない。まるでもう決まったことのように話す。端正な顔立ちは確信にあふれていた。常軌を逸したことをさらりと言ってのける相手に頭がぐちゃぐちゃになりそうだった。
「できるわけないじゃない。わたしたち姉妹なのよ……血はつながってないけど。妹の幸せを奪えるわけないでしょう!」
「逆だよ。莉奈にとってもまだマシな状況なんだ」
「えっ?」
「どこかの見知らぬ女に盗られるわけじゃない。自分の姉だ。莉奈は本当に君のことを慕ってる。姉として心から愛してる。自分の好きな男が大好きな姉と結ばれるならまだ打撃は少ないだろう。しばらくはショックを受けるだろうが、何とかなる」
頭痛がひどくなってきた。脱力して反論する気力さえ失せてくる。
「あんたってホントに信じられない男ね…… 金輪際こんな話しないで」
もう耐えきれない。私は立ち上がってハンドバッグを取った。
「とにかく今日のことは莉奈に黙ってて」
「ああ……当分の間は」
足が止まる。
「俺も俺なりに誠実なつもりだ。恋人として愛せない相手にいつまでも恋人の振りをすることはできない。いつかは真実を告げないといけない」
平気で「誠実」という言葉を使える神経が許せない。
にらみつける私にやれやれというように松岡は両手あげ、そのまま頭の後ろに手をやる。
「そんなに怒るな。いつかは決着つけなきゃいけないのは確かだろう?」
私は答えずに身を翻した。
これ以上一緒にいると磁力のような力で引き込まれそうで、むちゃくちゃな理屈に説得されそうで怖かったのだ。
◆
帰りのタクシーでも衝撃が余韻のように身体の中にたゆたい、冷静に考えをまとめることができない。
私を愛している……
想定を超えた現実が目の前に迫り、日常に戻ることを妨げる。
槇岡の残像と莉奈の姿が窓外の風景に見え隠れする。
マリアちゃんの言葉が脳裏によみがえった。
「ほしい物は必ず手に入れる男」
莉奈になんと言えばいいのだ。
あんたのフィアンセはお姉ちゃんに惚れたからあきらめろと?
どうすればいい??
0
あなたにおすすめの小説
有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!!
お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。
皆様、お気に入り登録ありがとうございました。
現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
姉の引き立て役の私は
ぴぴみ
恋愛
アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。
「どうしたら、お姉様のようになれるの?」
「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」
姉は優しい。でもあるとき気づいて─
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
翠月 瑠々奈
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
あなたの片想いを聞いてしまった夜
柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」
公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。
政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。
しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。
「好きな人がいる。……片想いなんだ」
名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。
駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆小説家になろう様でも、公開中◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる