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メカジキ発見
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軍庁舎前の広場では、群衆から選出された3人の総代がガブリュー大佐と話し合いを続けていた。
大佐はファントムさんを《支配》する目途が立っていないことなどおくびにも出さず主張する。
「我々も自分の身を守るためファントムさんを《支配》するしかないのだ」
大佐の主張に納得できない総代3人は厳しい言葉を浴びせかける。
「何を身勝手なことを!」「ファントムさんを《支配》するなど罰当たりめ」「《支配》など無理に決まってる」
大佐は厳しい言葉に些かもたじろがない。
「それならあなた方からファントムさんにとりなして欲しい。 軍に報復しないという保証をファントムさんから貰ってきて欲しいのだ」
総代3人のうち2人は大佐の要望に否定的だった。
「どうして我々がそんなことを」「そんなこと出来るわけがなかろう」
しかし残る1人は大佐の要望に対して前向きだった。
「大佐の要望に応じることで私たちが何かを失うわけじゃないわ。 やるだけやってみましょう」
◇
堂々巡りの問答を何度か続けたあげく、市民は大佐の要望を受け入れた。 ファントムさんの脅威に怯える体を装って主張を変えない大佐に総代たちが匙を投げたのである。 大佐の要望を受け入れたところで市民たちが何を犠牲にするわけでもないから匙も投げやすかった。
この結果はガブリュー大佐の思惑通りだった。 シバー少尉によるとサワラジリは土下座に弱い。 土下座に弱いとは下手に出られると弱いということ。 そんなサワラジリはファントムさんを崇敬する市民のとりなしを無下にできないはずだ。
そして実は、大佐はファントムさんの《支配》をまだ諦めていない。 一時的に休止するだけである。 何しろ《支配》する現場を見られさえしなければ《支配》は明るみに出ないのだ。 ガブリュー大佐は市民による調停を「《支配》の計画を練り直すための時間的猶予を得た」という程度にしか思っていなかった。
◇◆◇
メカジキ少尉を求めて北上して来たエリカは、軍庁舎前の広場の人出の多さに驚いた。 ここに来るまでの途上でも普段と違う賑わいを感じていたが、あれはこの広場に集まる人たちだったのだ。
通りすがる人たちの会話を聞くともなしに聞き、エリカは彼らが集まった理由を知った。 この群衆はアリスがベルタワーの鐘の音で集めたものだったのだ。
(そういえば鐘の音が遠くに聞こえてた。 あれはアリスちゃんが鳴らしていたのね)
人ごみの間を縫うようにして軍庁舎に近づいたエリカはガブリュー大佐の存在に気付いた。 軍庁舎の前で、メガホンを手にもつ3人の男女と話をしている。
(あっ、ガブリュー大佐!)
大佐の姿を見ただけで胸中にムクムクと不安感が沸き起こる。 《支配》がオンに戻る前兆である。 いま《支配》がオンになったらエリカは一目散に家に戻ことになる。
(落ち着きなさいエリカ。 大丈夫よ、大丈夫。 あなたの姿は誰にも見えないの。 あなたがここにいることは、いくら大佐でも分かりっこない)
そうして自分自身に言い聞かせる一方で、エリカは北の丘のイメージを頭に思い浮かべる。 北門を出たところにある小さな丘だ。 あの丘の草むらを、斜面を吹き上がる風を、そしてあの丘から眺める風景を思い浮かべるとエリカの心は安らぐ。
心を静めたエリカはガブリュー大佐の姿をまずはチラっと視野に入れ、次にマジマジと見る。 その様は、熱湯に足の先から入っていくかの如し。
(オーケー、オーケー、不安感は戻ってこない。 気持ちの準備をできてれば大佐を見ても大丈夫なのよ)
エリカは精神の安定を確認すると、大佐たちのいるほうへ近づいて行った。 大佐の後ろには部下らしき者が集まっており、シバー少尉の姿も見える。 彼らの中にメカジキ少尉もいるだろうか?
軍庁舎前へと移動するエリカ。 その彼女の目に、軍庁舎から出てくるメカジキ少尉の姿が映った。 ベルタワーで手傷を負ったメカジキ少尉が、医務室で治療を受けて回復して今ちょうど庁舎から出て来たのだ。
(メカジキ発見!)
エリカは興奮して軍庁舎のほうへ駆け出した。 メカジキ少尉にあのセリフを言わせるだけで彼女の《支配》は解けるはずなのだ。
◇◆◇
アリスはベルタワーの小部屋で追い詰められていた。 セコイヤ大尉が依頼した増援が到着したのである。
(何人おんねん!)
小部屋のドアは開け放たれているがアリスは逃げられない。 増援に寄越された兵士は全部で10人ぐらいだろうか、小部屋の入り口から下に降りる階段の中腹まで兵士がズラリと並んでいる。 アリスが通り抜けられそうな隙間など存在しなかった。
(この小部屋をすし詰めするつもり?)
小部屋をすし詰めにしてどうするのか? それはアリスには分からなかったが、すし詰めは困る。 具体的にどう困るかは不明だが、とにかく困る。
セコイヤ大尉が号令をかける。
「よし、この部屋をすし詰めにしてやれ!」
大佐はファントムさんを《支配》する目途が立っていないことなどおくびにも出さず主張する。
「我々も自分の身を守るためファントムさんを《支配》するしかないのだ」
大佐の主張に納得できない総代3人は厳しい言葉を浴びせかける。
「何を身勝手なことを!」「ファントムさんを《支配》するなど罰当たりめ」「《支配》など無理に決まってる」
大佐は厳しい言葉に些かもたじろがない。
「それならあなた方からファントムさんにとりなして欲しい。 軍に報復しないという保証をファントムさんから貰ってきて欲しいのだ」
総代3人のうち2人は大佐の要望に否定的だった。
「どうして我々がそんなことを」「そんなこと出来るわけがなかろう」
しかし残る1人は大佐の要望に対して前向きだった。
「大佐の要望に応じることで私たちが何かを失うわけじゃないわ。 やるだけやってみましょう」
◇
堂々巡りの問答を何度か続けたあげく、市民は大佐の要望を受け入れた。 ファントムさんの脅威に怯える体を装って主張を変えない大佐に総代たちが匙を投げたのである。 大佐の要望を受け入れたところで市民たちが何を犠牲にするわけでもないから匙も投げやすかった。
この結果はガブリュー大佐の思惑通りだった。 シバー少尉によるとサワラジリは土下座に弱い。 土下座に弱いとは下手に出られると弱いということ。 そんなサワラジリはファントムさんを崇敬する市民のとりなしを無下にできないはずだ。
そして実は、大佐はファントムさんの《支配》をまだ諦めていない。 一時的に休止するだけである。 何しろ《支配》する現場を見られさえしなければ《支配》は明るみに出ないのだ。 ガブリュー大佐は市民による調停を「《支配》の計画を練り直すための時間的猶予を得た」という程度にしか思っていなかった。
◇◆◇
メカジキ少尉を求めて北上して来たエリカは、軍庁舎前の広場の人出の多さに驚いた。 ここに来るまでの途上でも普段と違う賑わいを感じていたが、あれはこの広場に集まる人たちだったのだ。
通りすがる人たちの会話を聞くともなしに聞き、エリカは彼らが集まった理由を知った。 この群衆はアリスがベルタワーの鐘の音で集めたものだったのだ。
(そういえば鐘の音が遠くに聞こえてた。 あれはアリスちゃんが鳴らしていたのね)
人ごみの間を縫うようにして軍庁舎に近づいたエリカはガブリュー大佐の存在に気付いた。 軍庁舎の前で、メガホンを手にもつ3人の男女と話をしている。
(あっ、ガブリュー大佐!)
大佐の姿を見ただけで胸中にムクムクと不安感が沸き起こる。 《支配》がオンに戻る前兆である。 いま《支配》がオンになったらエリカは一目散に家に戻ことになる。
(落ち着きなさいエリカ。 大丈夫よ、大丈夫。 あなたの姿は誰にも見えないの。 あなたがここにいることは、いくら大佐でも分かりっこない)
そうして自分自身に言い聞かせる一方で、エリカは北の丘のイメージを頭に思い浮かべる。 北門を出たところにある小さな丘だ。 あの丘の草むらを、斜面を吹き上がる風を、そしてあの丘から眺める風景を思い浮かべるとエリカの心は安らぐ。
心を静めたエリカはガブリュー大佐の姿をまずはチラっと視野に入れ、次にマジマジと見る。 その様は、熱湯に足の先から入っていくかの如し。
(オーケー、オーケー、不安感は戻ってこない。 気持ちの準備をできてれば大佐を見ても大丈夫なのよ)
エリカは精神の安定を確認すると、大佐たちのいるほうへ近づいて行った。 大佐の後ろには部下らしき者が集まっており、シバー少尉の姿も見える。 彼らの中にメカジキ少尉もいるだろうか?
軍庁舎前へと移動するエリカ。 その彼女の目に、軍庁舎から出てくるメカジキ少尉の姿が映った。 ベルタワーで手傷を負ったメカジキ少尉が、医務室で治療を受けて回復して今ちょうど庁舎から出て来たのだ。
(メカジキ発見!)
エリカは興奮して軍庁舎のほうへ駆け出した。 メカジキ少尉にあのセリフを言わせるだけで彼女の《支配》は解けるはずなのだ。
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アリスはベルタワーの小部屋で追い詰められていた。 セコイヤ大尉が依頼した増援が到着したのである。
(何人おんねん!)
小部屋のドアは開け放たれているがアリスは逃げられない。 増援に寄越された兵士は全部で10人ぐらいだろうか、小部屋の入り口から下に降りる階段の中腹まで兵士がズラリと並んでいる。 アリスが通り抜けられそうな隙間など存在しなかった。
(この小部屋をすし詰めするつもり?)
小部屋をすし詰めにしてどうするのか? それはアリスには分からなかったが、すし詰めは困る。 具体的にどう困るかは不明だが、とにかく困る。
セコイヤ大尉が号令をかける。
「よし、この部屋をすし詰めにしてやれ!」
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